ネスのソフビ(※)を作るプロジェクトが
スタートしたのは2020年1月のこと。
それから月日が経ち、2024年、
私たちが目指した「ネスのおもちゃの決定版」は、
M1号さん、チャイルド工芸さん、オビツ製作所さんの
3社の協力を得て、ついに完成しました。

その制作の過程、つまりメイキングの一部始終は、
しっかりと記録しておきたい。

そんな強い思いから、
これまでのすべての打ち合わせで
ボイスレコーダーを回していました。
そのため、手元にはたくさんの音声データが残っています。

これは、ネスのソフビの完成後に
あらためて録ったインタビュー記事ではありません。
4年半にわたる制作の記録の中から
とくに重要な箇所だけを抜き出した
制作日記のようなものです。

題して「ネスのソフビができるまで。」。
制作に携わった3社との主要なやり取りの様子を、
当時の空気感とともにお届けしていきます。

※ソフビ:PVC(ポリ塩化ビニル、通称ソフトビニール)を
金型に流し込んで成型する人形の通称。

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第6回 職人の腕の見せどころ。(2024年6月17日 オビツ製作所にて)

前回の取材からさらに約1年が経過。
ソフビで作る「ネスのおもちゃの決定版」は、
その後、成型、彩色、組み上げといった作業を経て、
ついに初回ロット分が完成しました。
そこで、最後の手作業となった
彩色と組み上げについて、後日お話を伺いました。
お相手は、オビツ製作所の専務取締役、松井静雄さん、
彩色担当スタッフさん、
組み上げ担当スタッフさんです。


△松井静雄さん △松井静雄さん

──
本日は、彩色と組み上げというふたつの工程について
お話を聞かせてください。
まずソフビに色を塗る「彩色」ですが、
これはどういった手順で行うんですか?
松井
前にM1号の西村さんに
「彩色サンプル(量産前の彩色の見本)を作ってって、
お願いしていたでしょ? 
まずそれができあがってきたんですよ。
私たちは、その西村さんが彩色してくれたサンプルを
お手本にして、まったく同じ色になるように、
1体ずつ彩色していきました。
──
彩色するときは、どんな道具を使うんですか?
彩色担当スタッフ
ソフビ用の塗料を吹くスプレーガンと、
あとはマスク(色を塗り分けるために使う型)ですね。
松井
スプレーガンのことを、
マニアの人はエアブラシって言うね。
──
たしかに、エアブラシのほうが馴染み深いです。
「マスク」というのは‥‥?
彩色担当スタッフ
ここに並べてあるのがそれです。

△ネスのマスク。 △ネスのマスク。

──
すごい数。金属製ですよね?
彩色担当スタッフ
はい。ソフビの各部位を彩色するときは、
まずこれをソフビに被せて、
その上からスプレーするんです。
そうすると塗りたい箇所にだけ
スプレーの塗料が届くので、はみ出さないんですよ。
松井
たとえばこれは、
目と前髪を塗るときに使うマスク。
ソフビの頭のパーツをこう、ぐっとはめるでしょ。

──
あ、前髪と目以外の箇所が、
完全にカバーされて隠れましたね。
松井
これで黒く塗りたい箇所だけを、彩色できるわけ。
この金属の型は、本当にそれぞれのパーツに
ぴったりの形で作ってあるからね。
でもぴったりすぎて、成型したばかりのソフビだと
マスクに入らないんですよ。
──
え、そうなんですか?
松井
ソフビは金型から抜いた途端に、収縮が始まるんです。
だから、だいたい1週間から10日のあいだはだめ。
それ以上経つと、
だんだんマスクが合うようになってくるんです。
──
じゃあ成型したあと、ある程度の時間が経ってから
彩色に取り掛かるわけですね。
松井
そう。でも逆に1ヵ月くらい経ってから
ソフビをマスクにはめると、
こんどは小さくなりすぎて、
振るとカタカタ音がしちゃうんです。
だから彩色するときは、
成型してから何日経ったソフビなのかがすごく重要なの。
──
なるほど、奥が深いんですね。
それで、この道具がスプレーガンですか?

彩色担当スタッフ
はい。空気圧と塗料を吹き付ける量を、
それぞれ調整しながら使います。
たとえばグラデーションをかけたいときなどは、
塗料を吹き付ける量を少なくすると薄めになります。
──
距離感も重要そうですね。
彩色担当スタッフ
そうですね。吹き付ける量が少なければ、
距離が近くてもそこまでベチャッとなりません。
その辺りのさじ加減は、
職人の腕の見せどころです。
──
ちなみに、塗る順番というのは?
彩色担当スタッフ
基本的には、薄い色から塗っていきます。
ボーダーのTシャツの場合、
まず黄色を全体に塗ってからマスクをして、
つぎに青い部分を塗っています。
今回は4人の塗装職人で、
それぞれがどのパーツを担当するのかを決めて、
順番に彩色していきました。

──
彩色が終わったあとは‥‥。
松井
ソフビの関節部分にある
余分なバリをカッターで切って、
きれいにしたら組み上げていきます。
彼女が実演しますからね。
組み上げ担当スタッフ
よろしくお願いします。
──
よろしくお願いします。
この組み上げの作業は、
ひとりでやるものなんですか?
組み上げ担当スタッフ
今日はひとりでやりますが、
2人で分担して組み立てました。
私の担当は、腕と脚。
隣にいたもう1人の方が、頭とリュックでした。
──
それらを胴のパーツに組んでいくという。
組み上げ担当スタッフ
そうです。まず、胴のパーツはこのまま、
つまり硬いままで、
そのほかのパーツは少し温めてやわらかくします。
指でつまんだときに、ぐにゃっとするくらい。

──
この箱の中に入れておくと、温まるんですね。
組み上げ担当スタッフ
はい。ネスの場合は彩色されているので、
温めすぎると塗料がベタっとしたり、はげたり、
テカってしまったりするんです。
だから、どれくらい温めるかは感覚で。
──
感覚で。
なぜ胴は硬いままがいいんですか?
組み上げ担当スタッフ
首や手脚についているかん着(ジョイント)は、
やわらかくしたほうが組みやすいんです。
でも受け側の胴まで温めちゃうと、
どっちもぐにゃっとなりますし、
かん着が変形したままになりやすいんですよ。
それがそのまま冷えて硬くなると、取れやすくなります。
──
なるほど。それで、どこから組み始めるんですか?
組み上げ担当スタッフ
まず脚ですね。こうやって‥‥。

──
あ、もう組めてしまった?
組み上げ担当スタッフ
はい(笑)。温まっていれば、早いですよ。
ネスは肉厚で、ふつうのソフビより頑丈なので
組むのにちょっとコツがいりますけど‥‥
こういう感じで。

──
あ、腕はペンチも使うんですね。
組み上げ担当スタッフ
はい。でも腕と脚を組んだ段階で、
胴のパーツに熱が伝わっちゃうんですよ。
だからリュックと頭を組むのは、
一度完全に冷ましてから。
ここでちゃんと冷やさないと、さっき言った
変形や塗装のはがれが起きてしまいますので。

──
あっという間に組み上がりましたね。
これまでにさまざまなソフビを
組み上げてきたと思うんですけど、
それらと比べてネスはどうでしたか?
組み上げ担当スタッフ
組みやすかったですよ。
でも組んだときに彩色欠けが起こることもあったので、
その場合は組みながら直したりもしました。

──
組み上げをしながら修正もしていくんですね。
組み上げ担当スタッフ
はい。私、じつは『MOTHER2』が大好きなんです。
この腕のぷっくり具合を
最初に見たときに「ネスだ!」と思いました。
だからうれしくて(笑)。
──
職人さんの中にもそんな方がいらっしゃったなんて。
ありがとうございます。これで、全行程が終了ですね。
松井
はい。このあとM1号さんが全商品を検品して、
チェックを通ったものがみなさんの手に届きます。
——
長い期間、本当にありがとうございました。
最後に、ネスのソフビで
長く遊ぶための秘訣があれば教えてください。
松井
ソフビっていうのはね、
どうしてもいじっているうちに
関節がやわらかくなってきちゃう。
それに、擦れて関節付近の
塗装がはげてきちゃうこともあります。
だから、本当はあまり動かさないほうがいいんだけど、
それじゃ本末転倒でしょ(笑)。
遊ぶときは、腕や脚を少しだけ外側に
ぐっと持ち上げて開くような感じで、
関節部分を浮かせながら回すといいですよ。
そうすると、擦れる部分が少なくなって、
塗装もはげにくくなりますからね。
──
なるほど。アドバイスありがとうございました。

△最後にオビツ製作所の代表取締役社長、牧有里子さんと記念撮影! △最後にオビツ製作所の代表取締役社長、牧有里子さんと記念撮影!

(最後までお読みいただきありがとうございました)

2024-09-25-WED

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  • ソフビ(フルアクション)MOTHER2 ネス
    29,700円(税込)

     

     

     

     

     

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