いまなお、世界中で多くのファンに
愛されている『MOTHER』シリーズ。
全3作品のことばをすべて収録した本、
「MOTHERのことば。」も発売されました。
本の発売をきっかけに、ファンの人たちに
『MOTHER』のなかで思い出に残っている
ことばはなんですか? とうかがったところ、
たくさんの方が回答してくださいました。
そのなかから印象深い7つのことばについて、
『MOTHER』の作者、糸井重里に取材しました。
最初は「ちゃんと憶えてるかなぁ?」と
言っていた糸井重里でしたが‥‥。
『MOTHER』ファンの代表として
聞き手を務めるのは、ほぼ日の永田です。

写真:東 京祐

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第4回 向こうとこっちをつなぐ

──
つぎは、『MOTHER3』からのことばです。
このことば、どんなシーンか憶えてますか?

みんなには かんじのわるい
ひとだったかも しれないけど
ぼくには とても
やさしいひと だったんだ。
もう かえってこないのかなぁ。
さびしいよ。

糸井
これは、あれですよ。
ヨクバが死んだあと、
ヨクバになついてたネズミが言うことばです。
──
はい、そのとおりです。
糸井
これはね、オマージュとしてあげられる
元ネタがはっきりとあるんですよ。
──
おお。
糸井
あんまり言ってないことだと思います。
マヒナスターズって知ってますか。
「♪愛しちゃったのよ らららんらん~」
って、むかし歌ってた。
そのマヒナスターズと一緒に活動してた
松尾和子という歌手がいて、
その人が『再会』という歌をうたってます。
「逢えなくなって 初めて知った
 海より深い恋心」という歌詞でね、
まさに逢えなくなった人の歌なんですが、
その人が死んじゃったのかと思ったら大間違いで、
じつは刑務所に入った男のことを歌ってるんです。
──
な、なるほど。
糸井
歌謡曲でだよ?
刑務所に入った男のことを歌ってるの。
で、その2番の歌詞がこうです。
「みんなは悪い人だと云うが
 私にゃいつもいい人だった」
──
え、まさにネズミのセリフじゃないですか!
糸井
そうなんです。
ぼくはこの歌に強烈な思い出があってね。
小学生のときの修学旅行のバスのなかで、
バスガイドさんが歌ったんですよ。
でもね、歌うときに、
「みなさんとの再会を祈って、
 最後に1曲歌わせていただきます」
って言って、これを歌ったんだよ。
小学生だったとはいえ、
オレだってバカじゃないから、
「それは違う!」って思って。
──
ははははは、
獄中の人に会いたいという歌だから。
糸井
そう、「再会」の意味が違いすぎるぞと。
小学生の修学旅行のお別れのときに、
なぜ刑務所の歌をうたうんだよ! 
「ちっちゃな青空 監獄の壁を
 ああ・・・ 見つめつつ泣いているあなた」
そんな歌をね、小学生に向けて、
「『再会』を歌います」って。
──
(笑)
糸井
まあ、そういうことがあったんだけど、
その『再会』という歌自体はね、
すごくいい歌なんだよ。
この歌はいいコンセプトだなぁ、と、
子どもごころに憶えててね。
──
その思いがネズミのことばに。
糸井
うん。だから、あのネズミが
ヨクバのことを思いながら言うことばは、
ものすごくジーンときますよね。
──
すごいなぁ。
それ、小学生のときから思ってたことが
ここで活きたってことですよね。
糸井
そういうの、
オレは貯めてるんだよ、ずーっと。
──
ふふふふ。
『MOTHER3』からもうひとつ行きます。
いちばん最後に、ゲームのなかから
問いかけられる、このことばです。

そっちの せかいは
どんなふうだい?
こっちは なんとか
やっていけそうだけど・・・。
そっちは だいじょぶかい?

糸井
ああー。
──
『MOTHER3』のエンディングのあとの
いちばん最後のメタなセリフというか、
誰が言ってるかもわからないけれど、
プレイヤーに問いかけるような、
そういうことばなんですけど。
なんというか、いま、
世界がこういうことになって、
より、意味を感じるようなところもあって。
糸井
ああ‥‥そうだね‥‥。
これは、向こうからのセリフでもあるし、
こっちからのセリフでもあるっていう。
これをどう受け取るかは、
完全にプレイヤーに任せてるんですよ。
ゲームの世界とリアルの世界を
行ったり来たりするようなことが、
もともとぼくの好きなテーマなので、
それの大きなまとめともいえますよね。
で、やっぱり、こっちにいる身としては、
「だいじょうぶかい?」と言われて、
「だいじょうぶじゃないです、もうだめです」
って言って終わるわけにいかないじゃない?
──
うん、そうですね。
糸井
そこで、暗闇なんだけど、
なんか励まされたような気がするっていうか、
じぶんがしっかりしなきゃ、みたいに思える、
そういう仕組みのことばですよね。
たとえば、ぼくのお墓にこれが彫ってあったら、
お墓参りに来た人はこれを読むんだよ。
そういうふうにもつかえることばだと思う。
それは、逆側からも言えるんだよ。
花とお線香持ってお墓参りに来た人が、
死んじゃった人に向けて、
「こっちはなんとかやっていけそうだけど、
そっちはだいじょうぶかい?」
っていうふうに言えるセリフでもあるわけで。
そういうのは、ぼくの好きなお墓参りなんだよ。
──
糸井さんは、ここ数年の原稿のなかで、
「亡くなった人たちのことを思っていると、
ほんとうにそこにいるような感じで
彼らと話をすることができる」と
しばしば書いてらっしゃいます。
糸井
うん。そう思うんですよね。
そういうことは、ほんとうにできると思う。
──
だからこそ、あっちとこっちをつなぐような
こういうことばが、ゲームをプレイした
人のこころに残るのかもしれないですね。
糸井
そうだね。
終わったあと、ずしんと残るんだよね。

(つぎのことばにつづきます!)

2021-01-31-SUN

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