いまなお、世界中で多くのファンに
愛されている『MOTHER』シリーズ。
全3作品のことばをすべて収録した本、
「MOTHERのことば。」も発売されました。
本の発売をきっかけに、ファンの人たちに
『MOTHER』のなかで思い出に残っている
ことばはなんですか? とうかがったところ、
たくさんの方が回答してくださいました。
そのなかから印象深い7つのことばについて、
『MOTHER』の作者、糸井重里に取材しました。
最初は「ちゃんと憶えてるかなぁ?」と
言っていた糸井重里でしたが‥‥。
『MOTHER』ファンの代表として
聞き手を務めるのは、ほぼ日の永田です。
写真:東 京祐
- ──
- 最後のことばは、
『MOTHER2』のどせいさんのことばです。
これ、むかしから、ぼくが個人的に糸井さんに
訊いてみたかったことばなんですけど。
- 糸井
- ほぅ。
- ──
- どせいさんと言えば、
「ぐんまけん」とか「ぽえーん」とか
「ぽてんしゃる!」もありますが、
今日、選んだのは、これです。
なんか むつかしいことを
かんがえよう。
これからのぼくは。
- 糸井
- ああーー。
- ──
- これをどう解釈するのかは、
人によってぜんぜんちがうと思いますし、
はっきりと答えがあるような
ことでもないとも思いますが、
せっかくだから具体的に聞いてみます。
ここでいう、どせいさんにとっての
「むつかしいこと」ってなんなんでしょう?
- 糸井
- これは、答えを言うと、
つまんないかもしれないけど‥‥。
これはね、まったくの冗談です。
- ──
- 冗談。
- 糸井
- つまり、どせいさんは、
なんにもむつかしいことを考えてないんです。
- ──
- んんー?
- 糸井
- どせいさんからすると、みんなは、どうも、
むつかしいことを考えてるな、と。
それがわかるんで、
「ぼくも、これからは、
むつかしいことをかんがえてみよう」って。
いってみれば、3歳児が
おとなに向かって言うようなことばなんです。
- ──
- ああーーー、そうですか‥‥。
つまり、おとなのやってることを、
「ごっこ」みたいにして、
やってみよう、というような?
- 糸井
- そうそうそう、つまり、そういう無垢なんです。
- ──
- はーーー。
- 糸井
- だから、きみたちに、
「いまなにか考えてる?」って訊いたら、
「はい!」って言うかもしれない。
「いろいろ考えてます!」って。
でも、それ、ほんとに考えてるのかな?
わかんないけど、どせいさんは、
みんな、あれこれと考えてるみたいだから、
じゃあ、ぼくもやってみよう、と。
それだけのことです。
- ──
- そうでしたか。
逆にいうと、どせいさんというのは、
その、考えてない。
- 糸井
- はい。無垢ですから。
だから、平気でつかまっちゃうでしょ?
- ──
- はいはいはい、すぐつかまります(笑)。
- 糸井
- つかまらないようにするのって、
たぶん、むつかしいんですよ。
利害が混沌としているようななかで、
いつもつかまっちゃうわけだから。
でも、そうやって簡単につかまっちゃうことが、
どせいさんのすごみを表してますよね。
- ──
- ああ、そうですね。
- 糸井
- でしょ?
- ──
- なるほどーー‥‥。
そして、いまあらためて気づきますが、
「このセリフの意味はなんだろう?」
とかって、考えてるぼくこそが、
そもそも、それだ(笑)。
- 糸井
- そうです、そうです。
だから、どせいさんからすると、その、
「いみをかんがえるやつをやってみよう」
というふうになるんだろうね。
- ──
- はぁーー。なんか、恥ずかしい(笑)。
- 糸井
- あえて言うならば、これも、
ぼくがこころの中にずーっと貯めていた
元ネタみたいなものがあって、
それは、『クマのプーさん』です。
- ──
- なるほど、なるほど。
- 糸井
- これはあくまでもイメージだから、
実際にそういうセリフがあるかどうかは
わからないんだけど、
プーさんとこぶたのピグレットが
木の切り株かなんかに腰かけて、
なんか、考えごとをしている。
それは「ぼくはかんがえた」って言いたいんだよ。
たぶん、彼らは、ほんとは考えない。
でも「かんがえた」って言いたいんだよ。
どせいさんには、そういう、
『クマのプーさん』へのオマージュが
たっぷり込められているんです。
- ──
- はぁー、これ、訊いてみてよかったです。
おもしろいなー。
- 糸井
- このセリフもみんな憶えているよね。
- ──
- はい、たくさんの人が憶えてます。
- 糸井
- ぼく自身は、けっこう忘れる人なんだけど、
そんなぼくがつくったセリフが
みんなのところに届いて、
しかも忘れられてないっていうのは、
やっぱり、ゲームというもののすごみですね。
あとになって、こんなふうに訊かれるなんて、
まったく思わずにつくったんだけど。
でも、たのしく書いたセリフですね、これは。
(次回が最終回です)
2021-02-01-MON
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MOTHERのことば。