ほぼ日オフィス、引っ越します!
通いなれた「青山」を離れ、
次なる新天地「神田」に大移動です。
しかも今度の新オフィス、
これまでのはたらき方を見直し、
まったく新しい発想でつくるとか。
えっ?なにそれ?どういうこと?
というわけで、秋頃までつづく
新オフィス完成までのてんやわんやを、
不定期連載でおとどけします。
担当は「ほぼ日」稲崎です。

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06 フグはどうなる?

ほぼ日には「今日もフグは。」という
ご長寿コンテンツがあります。

ほぼ日のオフィスで飼っている
ミドリフグのようすを、
水槽に設置されたカメラを通して、
リアルタイムでたのしめるコンテンツです。
前身となった企画からかぞえると、
なんと20年以上もつづいているそうです。

これ、なかなかすごいことだと思いません?
だって、20年ってかんたんに言いますけど、
20年前がどんな世の中だったかなんて、
もうすっかり忘れちゃってますからね。

▲本日の主役、フグです。 ▲本日の主役、フグです。

20年前の日本といえば、
iPhoneなんかが生まれるもっともっと前、
まだ小さく折りたたんだ新聞を
満員電車の中で読んでいたような時代です。
なんなら世界中の人々が
ノストラダムスの大予言について、
「ひょっとしたら、ひょっとするの?!」
と思っていたような時代です。
「1999年から2000年になる瞬間、
すべてのコンピューターが誤作動を起こし
世の中が大パニックに、なるの?!」
というような騒動もあった時代です。

そんな余談はいいとして、
そういうころからいまにつづく
「今日もフグは。」という歴史あるコンテンツ。
これまでに数々の担当者がいたそうで、
誰かから誰かに委託されて、
その誰かが卒業して、次の誰かが新任となって、
というようなことが何度かあったのち、
現在の担当者はこの方に引き継がれております。

▲好きなものは、さだまさしとソフトサラダ。 ▲好きなものは、さだまさしとソフトサラダ。

はい、多田さんです。
カピバラに似ていることから
「カピバラ親分」と呼ばれたりもする
ほぼ日システム部の頼れる男です。
サッカーで言えば、献身的に走り回る
ボランチのようなポジション。
更新ページの不具合なんかも、
先回りして直してくれるありがたい存在です。

そんな多田さんにご登場いただいたのは、
ちょっとした理由がございます。
いま、水面下でどんどん進められている
神田へのお引っ越しプロジェクトですが、
ふと、こんな話を耳にしたんです。

「そう言えば、フグってどうなるの?」

あぁ、あぁ、そうです。
それ、気になってたんです。
だって、あなた、フグのお引っ越しですよ。
犬や猫とはわけがちがいます。
フグをケージに入れてタクシーで
フワーって運ぶわけにもいきません。
水槽だってなかなか重いでしょうし、
バケツをちゃぷちゃぷゆらしながら運ぶったって、
空気がぶくぶく出るやつはどうするのとか、
いろいろ考えることはあると思うんです。

それで、ちょっと調べてみたんです。
前回の引っ越しのときはどうしたんだろうって。
そしたら、ありました。
青朋ビルからいまのオフィスに引っ越しするとき、
フグの引っ越しについてのテキスト中継が。
2015年の年末に公開されたコンテンツです。

▲2015年「クリスマスの日」の引っ越しでした。 ▲2015年「クリスマスの日」の引っ越しでした。

このときはいったんTOBICHIを経由し、
新オフィスがおちついたところで
フグを移動させるという作戦だったようです。
なるほど、なるほど。
そうなると今回も同じようにして、
フグのお引っ越しをするんでしょうか?

▲フグのそばに移動して話を聞きました。 ▲フグのそばに移動して話を聞きました。

「いや、まだなにも決まってないの」

えっ、なにも?

「たぶん、配信カメラのこともあるから、
どこに置くかまだ決められないんだと思います。
そもそも昔にくらべて、
会社のセキュリティも厳しくなりましたからね。
やっぱりプランが本決まりしないと。
なので、いまフグをとりあげてもらっても、
まだ話せることはなにもないんです」

あちゃー、そうでしたか。
これは、かなりの勇み足。
というか完全にリサーチ不足でした。
どうもすみません。

ただ、なにも聞くことがないと、
ここでレポートも終わってしまいます。
せっかく多田さんもいらっしゃいますので、
今回は「お引っ越し大作戦」の番外編ということで、
ほぼ日の「ミドリフグ」について
いろいろ質問してみることにしました。

いや、というのもですね、
これを書いているわたくし(稲崎ですが)、
じつはそれほど社歴が長いわけではなく、
フグのことをあまり存じあげておりません。
たぶん、最近のほぼ日読者の中にも、
「フグって、なんのこと?」という方、
意外といらっしゃるんじゃないしょうか。

だって、みなさん、
あらためて考えてみてくださいよ。
フグですよ、フグ。
なんでまたフグなのさ?
なんでフグがオフィスにいて、
なんでそのフグをカメラでとってるの?
そもそもフグって、なんなんですか?
この子らは、いつからほぼ日にいるんですか?

ひとつでも気になった方は、つづきをどうぞ。

▲今日もフグは元気です。 ▲今日もフグは元気です。

「え、この子らがいつからいるかって?
じつは、ぼくもよく知らないんです。
そもそもぼくが入社したときにはすでにいたので、
最低でも6年以上いるってことです。
けっこう長生きなんですよね、ミドリフグ。

そもそもなぜ弊社はフグを飼っているのか。
これを話し出すと一晩‥‥いやいや、
最低でも二晩はかかるでしょうな。
それだけのロングストーリーがあります。
まあ、すべてをお話しする必要もないので、
不要なところをカットすれば、
だいたい3分くらいで済みますけどね。

じつはフグの前には、
『オタマジャクシ』を飼っていました。
その次は『金魚』を飼っていました。
そして最後にやってきたのが、
『ミドリフグ』でした。

ミドリフグが初登場したのは、
たしか2005年くらいだったと思います。
フグの寿命は平均5~6年くらいなので、
いまのフグは何代目かってことですね。
ただ、さっきも言いましたが、
いまいるフグはぼくが入社する前からなので、
6年以上生きています。
なんでもミドリフグって、
上手く育てれば10年は生きるんですって。
そう考えるとすごいよねー、ミドリフグ」

そう話しながら、
フグをやさしく見つめるカピバラさん
‥‥ではなく、多田さん。
ふだん、フグのことを話す機会がないからか、
水を得たカピバラのように、
失礼、水を得た魚のように、
こちらがとくに質問をするまでもなく、
次々とフグにまつわる話があふれだします。

「これは先人たちから聞いた話ですが、
『今日もフグは。』というコンテンツは、
じつはフグの泳ぐ姿を愛でることが、
いちばんの目的ではないそうです。
水槽のなかのいきものを通して、
その奥に見える社内の様子をこっそりのぞきみる。
そこに『今日もフグは。』の趣があります」

フグではなく、その奥をのぞき見る。
フグを見ることがメインではない、と。

「それがいちばんの動機ではないです。
だって、そもそも名前すらないんだもん。
ずっと『フグさん』ですから」

え、フグの名前ってないんですか?
水槽に2匹いますけど、
どっちも「フグさん」ですか?

「そりゃあ、あなた、
どちらも『フグさん』ですよ。
だって、社内に鈴木さんがふたりいても、
どっちも『鈴木さん』って呼びますよね。
それとまったく同じです。
2匹を『フグさん』と呼んでも、
なんら不思議なことではありません」

▲多田さん、フグを語るゾーンに入ってます。 ▲多田さん、フグを語るゾーンに入ってます。

フグの水槽が置かれている場所は、
普段あまり人が使わない通路から、
さらにもう少し奥まったところにある。
他の乗組員のはたらく気配も、
たのしく雑談する声も届かない
オフィスの中でもとりわけ静かな場所。
聞こえてくるのは
フィルターが水を吸い上げるときの
ブーーンという微かなモーターの振動音と、
その水が水槽に流れ出るときの
ちゃぷちゃぷという音だけである。

カピバラ親分と2匹のフグ。
そんなタイトルの絵本はどうだろうか。
カピバラ親分を主人公にした話で‥‥。
ああ、いかんいかん。
いまは多田さんの話に集中しなければ。

「基本的にここのフグって、
カメラに映ってないことが多いんです。
だから、たまたまページをひらいて、
フグが映っていたらラッキーなんですね。
そういう運試しのような感じで、
このコンテンツをたのしんでいる方は
けっこういらっしゃいます。

もちろん技術的には
リアルタイム動画にすることもできますが、
それはあえてしていません。
運試し要素がなくなっちゃいますからね。
読者から寄せられるメールを拝見してますと、
いまの感じはそんなに悪くない気がしてます」

なるほど、それで水槽全体が
はっきり映らないようになっているんですね。
そういうラッキー要素をあえて入れている。
勉強になります。

「いきものを扱うコンテンツなので、
やっぱり気をつかうことは多いですね。
水槽の中が汚れていたりすると、
『フグは大丈夫ですか?』とか
『水が濁ってフグが見えません』という
メールをいただくことはけっこうあります。
去年末に水質が安定しなかったときも、
みなさんにご心配をおかけしてしまいました。

もちろん読者の方のご意見はごもっとなので、
しっかり改善していきたいと思っていますが、
あんまり水を入れ替えすぎてしまうと、
今度はフンや食べ残しを分解するバクテリアが
いなくなっちゃうこともあるみたいなんです。

水質が安定さえすれば、
徐々に濁りも減っていくみたいですが、
そうなるまでに少し時間がかかることもあります。
なので、そのへんだけは、
ちょっとご理解いただけるとうれしいです。

そもそもこの水槽の中って
『汽水(海水と淡水が混じった水)』という、
ちょっと変わった環境なんですね。
そんなに難しいわけではないのですが、
掃除のしかたも人によって
いろいろやり方やこだわりがあるみたいで、
この前ネットで調べていたら‥‥」

‥‥と、ここから先はマニアックな
ミドリフグの飼育話がつづきましたので
遠慮なく割愛させていただきました。
ごめんなさい、多田さん。

まだまだ終わりそうにない
フグの飼育話に耳をかたむけつつ、
ぼくはパタパタと泳ぐフグさんの姿を
目で追っていました。

ここに来て6年以上になるというフグさん。
すでに平均寿命は超えているそうです。
犬や猫なら、老いというものを
目で見て確かめることができますが、
フグの老いというものは、
見た目でわかったりするのでしょうか?

うん、ようわからん。

「ねぇねぇ、この子らって、
あとどれくらい生きるんだろう?」

多田さんになんとなく訊いてみたところ、
ちょっとだけ妙な間があったんです。
そして少し考える素振りをみせたあと、
わかりやすい言葉を選ぶように、
ゆっくりとした口調でこう答えてくれました。
その感じがすごく多田さんらしいなと思ったので、
最後の締めとしてここに記しておきます。

「そんなに長くないんじゃないかな。
あと1年か、2年か。
どうなるかなんて誰にもわからないよ。
とりあえずいまのところは、
さいごまでお世話がしたいってことかな。
ちょっと言いにくいことだけど、
きちんとお別れはしたいからね」

今日もフグは。
本日も2匹そろって元気に営業中です。
ときどき見に来てくださいね。

(次回の更新につづきます!)

2020-08-31-MON

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