※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、
2020年2月26日に『CYCLE』の公演中止(延期)を決めました。
くわしくはこちらのご案内をお読みください。
そうした状況ではありますが、
この公演のために行ってきたインタビューは
本番直前の空気を伝える記録として予定通り掲載します。
延期となった『CYCLE』がいつか上演されるとき、
再び今回のインタビューを読むことをたのしみにしつつ、
この注意書きを記します。(ほぼ日・山下)
藤田貴大(ふじた たかひろ)
マームとジプシー主宰/演劇作家。1985年北海道生まれ。
桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。
2007年マームとジプシーを旗揚げ。以降全作品の作・演出を担当する。
作品を象徴するシーンを幾度も繰り返す「リフレイン」の手法で注目を集める。
11年6月-8月にかけて発表した三連作
「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で
第56回岸田國士戯曲賞を26歳で受賞。
以降、様々な分野の作家との共作を積極的に行うと同時に、
演劇経験を問わず様々な年代との創作にも意欲的に取り組む。
13年、15年に太平洋戦争末期の沖縄戦に動員された少女たちに
着想を得て創作された今日マチ子の漫画「cocoon」を舞台化。
同作で2016年第23回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。
演劇作品以外でもエッセイや小説、共作漫画の発表など活動は多岐に渡る。
- ───
- 今回の作品『CYCLE』も
trippen とのコラボレーションですよね。
- 藤田
- はい。
- ───
- 以前『BEACH』と『BOOTS』を拝見したとき、
trippen の靴が
ほんとうにさりげなく演劇に取り込まれていて、
いいなぁ、きれいだなぁと思って観ていました。
- 藤田
- それはうれしいです。
- ───
- そういうポップな面もあるんですけど、
「これは前衛だ」とも思ったんですよ。
- 藤田
- どのあたりでそれを?
- ───
- 『BEACH』の終盤での‥‥たしか、
「ここはビーチではない」というセリフです。
あれはびっくりしました。
ビーチでの物語をあんなに見せておいて(笑)。
- 藤田
- (笑)。
作り物の時間を見ているつもりになっていたのに、
いきなりフィクションを
放り投げるようなセリフですよね。
- ───
- はい、寺山 修司さんのような手法だなぁと。
- 藤田
- そうですね。
寺山さんの多くの作品でも、
そうしたギミックが使われています。 - 舞台上ではどんなにビーチを描いたとしても、
公演しているこの場所は
劇場でしかないんですよね。
来ていただいた
「LUMINE0」があるのは新宿です。
どんなに真夏のビーチを描いたとしても、
公演が終わったあと、観客のみなさんは
冬の新宿に放たれるだけですよね。
- ───
- ポーンと放り投げられる感じが、
すごくおもしろかったです。
「あ、ここは劇場だ」って思うんですよね。 - それと、もう、いろいろなところで
語られているとは思うのですが、
「リフレイン」という手法を
お使いになるじゃないですか。
- 藤田
- はい。
- ───
- 同じシーンが何度も繰り返されることが、
とても心地よく感じました。
- 藤田
- 同じシーンの繰り返しは
マームとジプシー立ち上げ当初から
やっているので、
もう、12年くらいになるのかな。
- ───
- 12年。
- 藤田
- リフレインということばは、
いまは演劇用語のようになっていますが、
自分たちがそう呼んでいただけなんです。
演劇界で語られている
「繰り返し」という意味で使われている
「リピート」ということばに、
ぼくも役者もピンとこなくて。
- ───
- 単純にリピートしているわけではないですしね。
繰り返されることでそのシーンが鮮明になるし、
感情も高まっていくような。
- 藤田
- そうなんです。
そういう全体のムードから、
自然発生的に生まれたことばがリフレインでした。
これがひとつの技法のように
感じられているようですけど、
ぼくとしては技法として
リフレインをやっているわけではなくて。
- ───
- 技法ではない。
- 藤田
- リフレインは、そうですね‥‥
「脈」みたいなものというか‥‥。
- ───
- 脈。
- 藤田
- ここは繰り返したほうが気持ちいい、
自分の生理感覚にしたがっているような。
- ───
- 藤田さんが感じているリズム。
- 藤田
- 繰り返さないと本当に伝えたい部分に
届かない気がするんですよね。
- ───
- 今回の『CYCLE』にも、リフレインは‥‥。
- 藤田
- 出てくると思います。
- ───
- たのしみです。
あの心地よさを体験してもらえるんですね。 - ‥‥と、たのしみに思う一方で、
マームとジプシーの演目は、
「起承転結があって最後に犯人がわかる」とか
「たくさんの伏線を回収してスカッとする」とか、
そういう物語の進め方ではないですよね。
- 藤田
- そうですね。
- ───
- わかりやすいわけではないんだけど、心地よい。
ぼくは、曲を聴く感じに近いのかもと思いました。
- 藤田
- ああ、そうかもしれません。
- ───
- たまたま聴いた曲を「いいな」と思ったら、
何度も聴きたくなる。
そのミュージシャンの
ちがう楽曲も聴いてみたくなります。
「またマームを観たい」と思ったのは、
そういう気持ちに近い気がします。
- 藤田
- 音楽ってリフレインと関係性が深いんですよ。
歌詞も、メロディーも、
それを繰り返していないポップスって
ほとんどないじゃないですか。
- ───
- ああー。
- 藤田
- そう考えていくと、
戯曲は大きな歌のようなものなのかもしれません。
だから繰り返したってぜんぜん変じゃない。
- ───
- なるほど、おもしろいです。
‥‥おもしろくて話が尽きないのですが、
ぼちぼち、お時間ですよね。
- 藤田
- あ、そうですね、次の予定が‥‥。
- ───
- 最後にひとつだけ!
ありきたりな質問で申し訳ないのですが、
はじめての方に向けて、
「こういうふうに観てほしい」
というのはありますでしょうか?
- 藤田
- うーん、そうですね‥‥。
やっぱり演劇の難しさって、
手元に残らないところな気がしているんですよ。
映画だったら、
DVDやブルーレイを買えたり、
配信サービスで観たりとか、できますよね。
- ───
- なにかしらで、同じものが観られます。
- 藤田
- でも演劇って、
4000円くらいのお金かけても、
ほんとうに、その時間で終わってしまう。
- ───
- はい。
- 藤田
- だからぼくは、演劇は高級品だと思っています。
来た人たち全員
チケット料金を払ってくれるわけだから、
ものすごく慎重につくらないといけない。 - ここでまた、
リフレインの話になっちゃうんですけど、
リフレインって、
劇中で繰り返されるだけじゃなくて、
お客さんが家に帰って頭の中で
再生されることもリフレインだと思っています。
- ───
- あ。そうですね。
- 藤田
- なによりもぼくは、
それがしたかったんだと思うんですよ。
ぼくも演劇がすごく好きで、
たくさん観た時期があったんですけど、
家に帰って、頭の中で再生したかったんです。
あの時間を。
- ───
- あの時間を、頭の中で再生したい。
ほんとにそうですねぇ‥‥。
- 藤田
- でも、すっかり同じものは再生されない。演劇は。
「記録」じゃなくて、
「記憶」になるんです。
- ───
- はい、はい。
- 藤田
- ですから、ひとつの演目のなかで
繰り返したフレーズとか、シーンとか、
役者たちの表情とかっていうのを、
劇場を出ていった人たちの
頭の中に残すのがぼくの仕事かなぁ、と。
- ───
- 演劇を観ることは、
「記憶をたのしむ」とも言える。
- 藤田
- そうなんです。
で、いまの時代にそれをする人って、
すごくセンスがいいと思うんです。
- ───
- センスですか。
- 藤田
- つまり、その人たちは、
記憶にお金を払っているんですよね。
ぼくはそれがすごく
センスのいいことなんじゃないかと思うんです。
ネットが普及している現代なのに。
- ───
- わざわざ足を運んで。
- 藤田
- そのチケット代があれば、
洋服が一着買えるだろうし。
- ───
- おいしいものも食べられるし、
お酒を飲みにだって行ける。
- 藤田
- なのに、それを選ばずに、
演劇を選んでくれている。 - 今回だったら、PARCOのどこかの階で
買い物するかもしれませんよね。
その前や後に、演劇を観る。
そういう時間を過ごしに来る人たちって、
すばらしいなぁって。
- ───
- すばらしいですね。
- 藤田
- なので、はじめて演劇を観にくる人たちには、
「自分が演劇という手に残らない時間に
お金を支払っていること、
その行動がどういうことなんだろう?」
と考えてほしいと思います。
- ───
- 自分が「記憶にお金を払う」ということを。
- 藤田
- はい。
こういうお金の使い方や
時間のかけ方があることを、
知っておくとまた一つ選択肢が増えて、
たのしいと思うんですよ。
- ───
- そうですね。そう思います。
- お引き止めしてすみません。
お時間のないなか、ありがとうございました!
- 藤田
- こちらこそ、ありがとうございました。
(藤田貴大さんへのインタビューは終了。 次の方へと、つづきます)
2020-02-23-SUN