※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、
2020年2月26日に『CYCLE』の公演中止(延期)を決めました。
くわしくはこちらのご案内をお読みください。
そうした状況ではありますが、
この公演のために行ってきたインタビューは
本番直前の空気を伝える記録として予定通り掲載します。
延期となった『CYCLE』がいつか上演されるとき、
再び今回のインタビューを読むことをたのしみにしつつ、
この注意書きを記します。(ほぼ日・山下)
穂村 弘(ほむら ひろし)
歌人。1962年札幌市生まれ。
1985年より短歌の創作をはじめる。
2008年『短歌の友人』で伊藤整文学賞を受賞。
2017年『鳥肌が』で講談社エッセイ賞を受賞。
2014年にコラボレーションした演目
『穂村弘さん(歌人)とジプシー』を
2017年には
『ぬいぐるみたちがなんだか
変だよと囁いている引っ越しの夜』を発表。
最新歌集『水中翼船炎上中』(ブックデザイン・名久井直子、講談社)で若山牧水賞を受賞。
名久井 直子(なくい なおこ)
ブックデザイナー。1976年岩手県生まれ。
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、
広告代理店に入社。2005年に独立し、
ブックデザインをはじめ、紙まわりの仕事に携わる。
第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。
マームとジプシーとは、
2014年にコラボレーションした演目
『名久井直子さん(ブックデザイナー)とジプシー』を
2017年には
『ぬいぐるみたちがなんだか
変だよと囁いている引っ越しの夜』を発表。
また、2015年からは宣伝美術に携わる。
近著に『100』(福音館書店)、
『水中翼船炎上中』(著者・穂村弘、講談社)がある。
- ───
- 「ほぼ日曜日」では、
今回のマームとジプシーをお招きして、
はじめて演劇の公演を行います。
なので、演劇をはじめて観る方にも、
ぜひ来ていただきたいと思っていて。
- 名久井
- それはとても、ぜひですよね。
『CYCLE』は、たぶんほかの演目よりも
敷居が低いんじゃないかな、と思います。
『BEACH』『BOOTS』のシリーズは
物語性があるし、藤田さんの場面の切り刻み具合が、
比較的ゆるやかな感じがします。
- ───
- シリーズであることは気にしなくてもいい。
- 名久井
- はい。シリーズものではあるけれど、
つづきで観ないと
おもしろくないわけじゃないです。
- 穂村
- このシリーズは続いているというよりも、
ゆるやかな連続性があるようなイメージかと。
そのクロスオーバーに気がついたら、
より気持ちがいいとは思いますが。
- ───
- 単体で観てもおもしろいし、
連続性に気がついたら、より気持ちいい。
- 穂村
- そうですね。
このシリーズは群像劇なので、
近い年代の人がばらばらに動いて、
ばらばらに傷ついて、ばらばらによろこびますよね。
それって、いま生きているわれわれの現実と
同じなのですが、
舞台として観るとすごく切ないというか‥‥。
好きな人同士でも、
会話がどうしても噛み合わない感じとか。
- ───
- はい、わかります。
- 穂村
- 同じ場所にいても、
ある人は焚火を見ていて、
ある人はおしゃべりをしていて、
ある人は波打ち際に足を浸している。
そういうことが、
とてもいい感じに思えますよね。
- ───
- はい。
それと個人的に好みなのは、
「笑い」に対する姿勢というか‥‥。
「ここ、笑うところです」みたいな、
観客におしつけるようなことが
まったくないと思いました。
- 穂村
- そこは徹底してますよね。
劇中に「笑い」や「泣き」があると、
ある意味とてもわかりやすいと思います。
ぼくはそういうものって
定量化できるような気がしているんです。
どれだけ大きく笑わせるとか、
どれだけたくさんの人を泣かせるみたいなものって、
コンテンツとして価値を感じやすいと思うんですよ。
でも、藤田さんは
定量化できないところにこそ、
価値をつくりだしている感じがあります。
- ───
- ああ‥‥そうですね。
- 穂村
- そして、それを伝えられるのが
彼のすごいところだと思います。
いまの観客の意識は
伏線回収とか、ネタバレとかに極めて敏感で。
藤田さんは、そうではないゾーンを
強く提示できる人ですよね。
- 名久井
- マームとジプシーの演目には
ネタバレとかないですから。
- 穂村
- そういうふうに、
価値をつくってはいないのでしょう。
- ───
- 曖昧なことも含めて
おもしろいよって、言えますよね。
- 名久井
- ‥‥とはいえ、難しいですね(笑)、
言葉で魅力を伝えるのって。
- ───
- はい(笑)。
- 名久井
- むずかしいです。
どうしたらみんな来てくれるんだろう?
- ───
- たとえば、名久井さんが
マームとジプシーを観たこのとない友だちに
『CYCLE』をすすめるときには、
どういうふうに説明するでしょう?
- 名久井
- いやもう、なにも言わずに、
入場料渡すから行ってきてって。
- ───
- お金を渡す!(笑)
そうしてでも観てほしい。
- 名久井
- 大切な人にほど、観てほしいです。
でもほんと、どう説明すれば‥‥。
- ───
- お金を渡す以外で。
- 名久井
- ‥‥‥‥あ。
- ───
- なんでしょう。
- 名久井
- これは話がずれるかもしれないけど‥‥。
- ───
- 聞かせてください。
- 名久井
- 最近はじめて『シャイニング』を観たんです。
- ───
- 映画の、『シャイニング』。
80年代のサイコホラーですね。
- 名久井
- こわいのが苦手で観てなかったんですが、
まわりの友だちが観たほうがいいって
すすめてくれるので観てみたんですよ。
そしたら‥‥。
- ───
- どうでした?
- 名久井
- なんにも思わなかったんです。
- ───
- え?
なんにも、というと?
- 名久井
- 感動も、こわいも、なんにも思わなかった。
この双子の女の子見たことあるなとか、
持ってるマグカップがかわいいとか、
この赤きれいとか、あの模様はこの絨毯か、とか
そういう二次的な情報は入ってくるんですけど、
まったく、心が動かなくて。
- ───
- へえーー。
- 名久井
- それってやっぱり、
そのとき、映画ができたときに
観なかったからだなと思ったんです。
- ───
- ‥‥ああー。
- 名久井
- そのときの「いま」を逃しちゃったんですよね。
演劇もたぶんそれと同じで、
その時代性で観ていないと、
あとで録画されたものを
観ることができたとしても、
どんなに「名作だから」と言われても、
いいとは思えないかもしれない。
- ───
- なるほど‥‥なるほどです!
- 名久井
- だから、いま、マームとジプシーを
観るのがおすすめですよって、わたしは思います。
「いま」を逃さないでほしい。
- ───
- 「いま」を。
- 穂村
- そうですね。
いまの時代の空気感を可視化するって、
実際には、その中にいると見えないと思うんです。
そういう中では、
レンズのようななものを通すことで、
はじめて自分の吸っている空気がわかる。
- ───
- レンズのようなもの。
- 穂村
- たとえば音楽とか。
演劇もそのひとつです。
藤田さんは時代の空気感をすごくデリケートに
表現して伝えてくれますよね。
- ───
- レンズになって、見せてくれる。
- 名久井
- そう思います。
- ───
- 観てほしいです。
渋谷PARCOで。
- 名久井
- そうそう、渋谷PARCOに行くっていうのも、
ひとつのアドベンチャーですよね。
- 穂村
- たしかに、そうですね。
- 名久井
- 演劇を観に行く場所が、
渋谷PARCOですよ?
エスカレーターで8階まで登っていく途中に、
洋服とかちらちら見たりして。たのしい。
入場と引き換えにもらえるnutsでも買い物してもらいたいです!
- ───
- 観劇の前後に、
渋谷PARCOを歩いてほしいです。
- 名久井
- ‥‥という感じで、
上手にすすめられました?(笑)
- 全員
- (笑)。
- 穂村
- なにしろまだ自分たちも
『CYCLE』を観ていないから。
- 名久井
- 「かなりの確率でいいにちがいない」
としか言えないですよね。
- 穂村
- うん、「絶対」とは言えない。
- ───
- もちろんぼくらは『CYCLE』を
とてもたのしみにしています。
できればいっしょに期待してほしいのですが‥‥。
- 名久井
- あ、それいいですね、
「いっしょに期待しましょう!」
いいです。
- ───
- 期待してお出かけするって、
それだけでたのしい気がします。
- 名久井
- はい。
- ───
- で、観終わったら感想を聞きたいですね。
- 名久井
- 聞きたいです。
すすめた責任もあるし(笑)。
- ───
- 渋谷PARCOの4階には
「ほぼ日カルチャん」というスペースがあって、
そこは「東京の文化案内所」なんです。
いまの東京にあるおもしろい展示やイベントを
おしゃべりできる場所です。
マームとジプシーを観たあとは、4階で感想を。
- 穂村
- それはいいですね。
わからなかったこともふくめて、
自分の感想ですから。
- ───
- はい。
みなさんの感想がたのしみです。 - 穂村さん、名久井さん、
本日はありがとうございました。
- 穂村、名久井
- ありがとうございました。
(穂村さんと名久井さんへのインタビューは終了。
次の方へと、つづきます)
2020-02-26-WED