※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、
2020年2月26日に『CYCLE』の公演中止(延期)を決めました。
くわしくはこちらのご案内をお読みください。
そうした状況ではありますが、
この公演のために行ってきたインタビューは
本番直前の空気を伝える記録として予定通り掲載します。
延期となった『CYCLE』がいつか上演されるとき、
再び今回のインタビューを読むことをたのしみにしつつ、
この注意書きを記します。(ほぼ日・山下)

>trippenのこと

trippen(トリッペン)

trippen(トリッペン)は
靴職人のマイスター(特別技術資格者)で、
医療用矯正靴などの製作にも携わっていた
ミヒャエル・エーラーさんと、
それまでも靴や服のデザイナーとして活躍していた
アンジェラ・シュピーツさんが、2人で、
ドイツ・ベルリンで立ち上げた
シューズブランドです。

人間工学に基づいた履き心地のよさを追求、
同時に洗練されたデザインで、多数の賞を受賞、
おおぜいのひとの支持をあつめてきました。
磨耗したり不具合が起きた靴は
直営店での修理を受け付けており、
ずっと長く履くことができるのも特徴です。
靴の製造はドイツの自社工場で
ひとつひとつ手作業でつくるため、
大量生産品ではありません。

本国ドイツに
フラッグシップストアができたのは1995年。
ベルリン旧市街のHackesche Höfe
(ハッケシェ・ヘーフェ)という場所です。
日本にお店ができたのは1997年9月、原宿。
現在は原宿のほか代官山・名古屋・神戸・

熊本・京都・福岡に展開しています。
ちなみに世界規模ではケルン,ハイデルベルク、
ミュンヘン、ハンブルク、パリ、ロンドン、
テルアビブ、台北、台中、ウランバートル、
香港、ニューヨークへと進出をしています。

前へ目次ページへ次へ

第2回 中毒性が、あります。

───
『CYCLE』という作品は、
どうやら「ダイナー」が舞台になるそうですね。
中村
はい、アメリカっぽいレストランというか。
───
カウンターがあって、
ジュークボックスが置いてあるようなお店。
それを聞いたときは、どうでしたか?
中村
ちょっとびっくりしました。
「申し訳ないですけど、
うちの靴はアメリカとけっこう遠いですよ」
と言ったんですけど、
藤田さんは、さらっと、
「trippenなら耐えられるよ」(笑)。

───
「耐えられる」というのは、
さすが藤田さんの表現ですね(笑)。
でもたしかに、そう思います。
違和感はまったく感じません。
こういうムードの中に登場する、
trippenの靴がほんとにたのしみです。
斉藤
それは観客として、わたしもたのしみです。
───
今回の『CYCLE』は、
演劇未体験の方にも
ぜひ観てもらいたいんですよ。
斉藤
はい、そうですね、ぜひ。
───
おふたりは?
演劇を観る習慣は?
中村
ぼくは、なかったんです。
テレビの舞台中継を観たことがあるくらいで、
実際の舞台に触れたのは、
マームとジプシーがはじめてかもしれません。
斉藤
わたしも、
好きなタレントさんが出るからと、
友だちに連れられて
舞台を観に行ったことがあるくらいです。
ここまで演劇にはまったのは
マームとジプシーからですね。
───
それまではやはり、
演劇は敷居が高いと感じていました?
中村
正直、そう思ってました。
斉藤
そうですね。
どの劇団がおもしろいっていうことも
ぜんぜん知らなかったですし。
中村
そういえば‥‥
敷居が高い、入りづらいということで
思い出したんですが、
藤田さんがよく言ってました。
「セレクトショップに来たときみたいに
観てほしい」って。

───
セレクトショップのように、演劇を。
中村
ええ。
気になるものを、自由に見てほしい。
いろいろな商品を眺めながら歩くくらいの、
それくらいの気軽さで演劇も観てほしい、
ということかと。
───
なるほど‥‥。
いいですね、
セレクトショップに来たときみたいに。
中村
なによりもまずは、
出かけて体験してみるのが大切なんですよね。
斉藤
ほんとにそう思います。
演劇にご縁がなかったわたしですけど、
はじめてマームとジプシーを観てから、
そのあとの(マームとジプシーの)公演は
ほぼぜんぶ観てるんですよ。
───
わかります。
ちょっと中毒性がありますよね。
斉藤: 
あります、あります。
観たくなるんです。
なぜ中毒性があるかはわからないんですけど。
中村
リフレインは、やっぱり衝撃でした。
───
リフレイン。
斉藤
繰り返しのセリフが気持ちよくて。
───
そう、気持ちいいんですよ。
マームとジプシーをすすめるときには、
「気持ちいいですよ」
というのは言えますね。
中村
はい、それはまちがいなく。
斉藤
気持ちいいです。
───
さて、
公演まで2週間を切りました。
(この取材は2/17に行いました)
実際に役者さんたちが履く靴は、
そろっているのでしょうか。
斉藤
そろいました!
数日前に。
役者さんの足にフィットするように
これから最終的な調整が必要ですが、
とりあえずそろって
ホッとしているところです。

中村
ドイツのデザイナーたちも
マームとジプシーとの取り組みを
とてもよろこんでいるんです。
オーダーとしては、
今回の内容がいままでで
いちばん複雑だったんですけれど、
しっかり対応してくれました。
───
あ、そうか‥‥そうですよね、
ドイツにオーダーが必要なんですね。
中村
ええ。
───
そのやりとりだけでもたいへんそうです‥‥。
ドイツの方々が
日本チームを信頼している
そのご関係がすばらしいと思います。
中村
trippenのデザイナーは昔、
ふだん履けないような
実験的な靴を作品としてつくっていた人で、
舞台制作とか美術制作で、
お手伝いをしていたこともあったらしくて。
斉藤
ブランドの、ほんとに初期のころの話です。
───
そうなんですね、
それで演劇への理解が‥‥。
日本という外国の演劇で、
こんなに密なコラボレーションが
実現しているのは、
デザイナーさんとしては
きっと愉快だし、うれしいことなのでしょうね。
中村
よろこんでくれていると思います。
可能性が広がることなので。
マームとジプシーの人たちとも
よく話しているんですが、
靴の世界って、クラシックな文化なんですよ。
1800年代から長くつづいてるもの、
伝統が引き継がれているのが、
「よき」とされている文化なんですね。
───
革の靴、ですから。
クラシックを重んじる世界だと思います。
中村
でも、ぼくたちは、
trippenという言葉から
靴が思い浮かばなくても
いいような気がしているんです。
───
おお‥‥。
それはたとえば、
「trippenって、演劇の?」
と思ってもらってもかまわない。
中村
そうです。
履くための靴とは、ぜんぜん別のところで、
trippenという存在があってもいいのかなと。
そういう靴屋さんって、
ほとんどないんじゃないかと思うんです。
───
‥‥ない、ですね。たぶん。
いま考えて、
思いつく靴屋さんがありません。
中村
だからぼくらのやってることも、
一種の文化になり得るのかなって‥‥。
───
それはもう、なり得るどころか。
少なくとも、
マームとジプシーと取り組んでいるこの作品は、
事実としてはっきりと、文化です。
中村
ありがとうございます。
ぼくらもそう思いながら取り組んでいます。
───
‥‥靴と演劇のコラボレーション。
あらためて、おもしろいです。
こんなにぜいたくなかたちで、
靴を見ることってほかにないですよね?
衣装や小道具ではなく、
ちゃんと靴にも光が当たりながら、
物語と共に感じることができるという‥‥。
斉藤
ないですよね。
───
ないと思います。
『CYCLE』で靴を見るのが、
どんどんたのしみになっています。

斉藤
ありがとうございます。
わたしたちもたのしみです。
───
いやー‥‥本番がもうすぐですねぇ!
斉藤
ねぇ!
───
今日はありがとうございました。
また会場で!
中村
はい、お会いしましょう!
斉藤
ありがとうございました!

(trippenへのインタビューは終了です)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

以上で、
すべてのインタビューが終わりました。

わたしたちの「おすすめする気もち」が
すこしでも伝わることを願いながら、
「マームとジプシーのすすめ。」という
この特集を終えます。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

好奇心がすこしでも動いたなら、
どうぞ劇場(ほぼ日曜日)へ、お越しください。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(おわります)

2020-02-28-FRI

前へ目次ページへ次へ