写実的な表現を得意とする
画家の永瀬武志さんに、
新しく描きはじめる絵の制作過程を
連載していただくことになりました。
画家はどんなことを考えながら、
絵に命をふきこんでいくのでしょうか。
完成までの約3ヶ月間、
永瀬さんの視点を借りながら、
画家の世界をのぞいてみたいと思います。
毎週木曜日に更新します。

>永瀬武志さんプロフィール

永瀬武志(ながせ・たけし)

画家。
2004年3月、多摩美術大学大学院
美術研究科絵画専攻修了。
2005年以降、国内外で個展やグループ展を多数開催。
2020年、第3回ホキ美術館大賞入選。
油彩による写実絵画を得意とする。
作品のテーマは、光、生命。

ホームページ
ツイッター
絵画教室アトリエことりえ

前へ目次ページへ次へ

#00 プロローグ

 
はじめまして。
永瀬武志と申します。
ぼくは2005年に、
画家として独立しました。
いまは、ほぼ毎日絵を描きながら、
週2日ほど絵画教室の先生をしています。
最近は油絵の具を使い、
主に写実的な人物画を描いています。

『光と記憶』 2020年制作 油彩/綿布・パネル 22.0×27.3㎝ 『光と記憶』 2020年制作 油彩/綿布・パネル 22.0×27.3㎝

 
このコンテンツでは、
これから3か月くらいかけて、
1枚の絵が完成するまでのようすを
週1回のペースでお伝えしようと思います。
アトリエに遊びに来るような感覚で、
気楽に見ていただけますとうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
新しい絵を描きはじめる前に、
まずは自己紹介をさせてください。
小学生の頃から絵を描くのが好きで、
よく当時の漫画(ドラゴンボール)を
マネして描いていました。
図鑑などにある動物や虫など、
写真そっくりに描かれたイラストにも
強く心を惹かれたのを覚えています。
「これ絵なの? 写真なの?」と、
何度も本に目を近づけて見ていました。
いま思えば、これが写実的な絵との
最初の出会いだったようにも思います。
絵画を本格的に学びはじめたのは、
美大受験の高校3年生の頃で、
それから25年近く絵を描きつづけてきました。

高校3年生のとき、美術の授業で描いた油絵 高校3年生のとき、美術の授業で描いた油絵

初個展 gallery b.tokyo(京橋) 2005年 初個展 gallery b.tokyo(京橋) 2005年

 
はじめて個展をひらいたのは、
学生生活も終わりをむかえた2005年でした。
そこから「絵を描いて生きていく」という、
画家としての生活が手探りではじまりました。
絵がようやく売れてよろこんだり、
おせわになっていた画廊がつぶれてしまったり。
作品づくりと並行して絵画教室もはじめました。
いろいろ紆余曲折しながら、
でも、じぶんの真ん中にある
「絵を描きつづける」というきもちだけは、
ずっとキープしてきました。

『世界に一つだけの花』 2003年制作 アクリル絵具/キャンバス 116.7×116.7㎝ 『世界に一つだけの花』 2003年制作 アクリル絵具/キャンバス 116.7×116.7㎝

『Daydream』 2016年制作 アクリル絵具/綿布・パネル 19.0×27.3㎝ 『Daydream』 2016年制作 アクリル絵具/綿布・パネル 19.0×27.3㎝

『社』 2012-2013年制作 アクリル絵具/綿布・パネル 89.4×130.3㎝ 『社』 2012-2013年制作 アクリル絵具/綿布・パネル 89.4×130.3㎝

 
画家として模索するなかで、
描くモチーフや使う道具も変化しました。
近年は油絵の具を使って、
写実的な人物画を描いています。
写実的な絵を描くために、
画家はある程度秩序だった、
じぶんなりの制作工程を
もっているのがほとんどです。
ぼくの場合、写実的な絵の描き方は
いろいろな人から学んだり、
じぶんで試行錯誤しながら、
長い年月をかけていまのスタイルになりました。
もちろんまだ発展途中なので、
1枚ごとにいろんなトライをしながら、
失敗したり、うまくいったり、
毎回ちがった驚きや喜びがあります。
 
 
写実絵画は「写真」のようでありながら、
写真とはちがう魅力があるように思います。
よくいわれるのは、
写真がある場面を「瞬間的」に
切りとる側面があるのに対して、
写実絵画は、画家が画面と向き合った
「長い時間」を含んでいることかもしれません。
人が「写実絵画を観る」というのは、
モチーフがリアルに
描かれていることをたのしむのと同時に、
画家がモチーフと画面の間で、
長い時間、思考しつづけた
痕跡としての絵具の積み重なりを、
目の当たりにすることなんだと思います。
そのことは、作品の説得力や魅力に、
大きく影響しているとぼくは思っています。
だからこそ写真に比べて、どこかいびつで、
けっして完璧ではない写実的な絵を
描いてしまう人がいる、見てしまう人がいる、
ということが、
いまもつづいているのだと思います。

『揺れ』 2020年制作 油彩/綿布・パネル 22.0×27.3㎝ 『揺れ』 2020年制作 油彩/綿布・パネル 22.0×27.3㎝

 
次回から新しい絵の制作過程を、
このページでお伝えしていこうと思います。
数ヶ月かかるであろう、
ある程度の道のりはイメージできていますが、
きっとまた何かうまくいかないことや、
思いがけないうれしい発見をしながら、
すこしずつ進んでいくんだと思います。
1枚の絵の、はじまりから終わりまで。
どうぞ、のんびりとお付き合いください。
 
永瀬武志

(次回につづきます)

2021-02-18-THU

前へ目次ページへ次へ