渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で、
不定期に行う対談の最初のゲストに、
糸井重里がお呼びしたのは、小泉今日子さんでした。
この対談の会の通しテーマは
「わたしの、中の人。」です。
わたしたちがテレビの画面や舞台でふれる
トップスターの小泉今日子さんの中に、
もうひとりの本当の小泉さんがいます。
知らなかったその人が、赤い椅子に腰かけて、
お話ししてくれました。
小泉さんのまわりにいつもいた、
光る星のような、遠くなく近くない、
あたたかくクールな人びとがたくさん登場します。
写真 小川拓洋
第1回
もう逃げられないんだな。
- 糸井
- さて、
とにかくはじめてみますけれども。
- 小泉
- はい。
- 糸井
- ようこそいらっしゃいました。
- 小泉
- 本当にね。
- 糸井
- コロナウイルスのことがあるので、
今日はドアを開けて、
空気の入れ替えをしながら行おうと思います。
(この対談は2020年2月26日に
渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で収録しました)
- 小泉
- はい、そうですね。
- 糸井
- 今後、ここ渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で、
対談のシリーズをやっていこうと思っています。
そのトップバッターに、
「小泉今日子さんに出てもらいたい」
と言ったのは、ぼくです。
- 小泉
- ありがとうございます。
- 糸井
- それには理由がちょっとあって。
このトークイベントのテーマは
「わたしの、中の人。」といいます。
- 小泉
- はい、そうですね。
- 糸井
- 「中の人」って言葉、
知ってました?
ぼくは2〜3年前くらいからかな。
- 小泉
- はい。わたしも2〜3年前に
「ああ、そういうことなんだ」って
知りました。
- 糸井
- 『中の人などいない』という
タイトルの本を
書いた人もいらっしゃいます。
- 小泉
- あ、そうなんですね。
- 糸井
- NHK_PR1号さんという、
NHKの広報的なTwitterを担当していらした方が
書かれた本です。
「中の人はいったい誰なんですか?」という問いに、
「そんな人はいません」という建前で
答えていらっしゃいました。
でも、どんな人にもきっといるよね、中の人。
- 小泉
- うん、います。
- 糸井
- 仮に、テレビの『情熱大陸』みたいな
ドキュメンタリー番組で、
どんなに追っかけてもらったとしても、
中の人は「別」にいるよね。
- 小泉
- そうだと思います。
- 糸井
- となると、
中の人としゃべる機会って、
ぼくら、ほとんどないことになっちゃう。
- 小泉
- うん、うん。
- 糸井
- でも、ぼくのイメージでは‥‥、
小泉さんとぼくは、
「中の人」としてしゃべったつもりが、
ところどころあるんですよ。
- 小泉
- ありますね(笑)。
- 糸井
- あるんです。
これを憶えてたんで、
この対談、お声がけしてみました。
でね、さっそくひとつ、中の人について、
質問をさせていただきたいのですが。
- 小泉
- おぉ?
- 糸井
- 「何歳の人を自分の年上だと思ってて、
何歳の人を自分の年下だと思ってるか?」
- 小泉
- ああー。
- 糸井
- たとえば、甲子園で高校野球をしてる
18歳くらいの人のことを、
若いときは「おにいさん」だと思ってましたよね?
- 小泉
- はい。
- 糸井
- しかし自分がハタチぐらいになってもまだ、
「高校野球の人はおにいさん」と
思ってるケースがあります。
- 小泉
- うん、ありますね。
- 糸井
- つまり、この質問は、
中の人に対して
「あなたはいま、いくつですか?」
と訊いていることになります。
- 小泉
- ふふふ、そっか、
中の人がいくつか‥‥ですね、
わたし、たぶん47歳ぐらいでしょうか。
- 糸井
- はぁあ、そうですか。
その人は毎年、年をとるんですか?
- 小泉
- えっと、
一気にドンって、
47歳になった感じがあって。
- 糸井
- えっ、ホント(笑)?
その直前は?
- 小泉
- それまでは33歳ぐらいだったかな。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- はぁあ、なるほど。
- 小泉
- でも、そのときどきで変わって、
68歳くらいになることもある。
対象によって、
コロッと自分の年齢が変わります。
- 糸井
- ああ、それこそが
「中の人」っていうやつだね。
- 小泉
- そうかもしれないですね。
- 糸井
- でも小泉さんは、
デビューがそうとう早かったですよね。
自分の名前が
「たくさんの人が知っている名前」になったのって、
実年齢で何歳くらいからですか。
- 小泉
- ええっとね、17歳ぐらいから
「あ、もう逃げられない」
という感じでした。
- 糸井
- 逃げられない?
- 小泉
- 15で事務所に入って、
16でデビュー曲を出したんですけど、
そのときはまだ、起こっていることに
自分の心の中が追いついていませんでした。
なんか、雲の上の話みたいで。
- 糸井
- 自分でやってるんだけど、
現実感がないわけか。
- 小泉
- うん、全くなかったです。
それが15、6まで。
そこから1年ぐらい仕事して、
「あ、無理だな、これ」
- 糸井
- 逃げられない、と。
- 小泉
- そうです。
「もう逃げられないんだな」
そんな感覚になりました。
- 糸井
- でも、15歳のときから
人にワーッと見られるような仕事は、
すでにしていたわけだよね。
そのときにはまだ、
「逃げられる」気があったんですか。
- 小泉
- 学校を休むみたいに、
仕事も休めるんじゃないかと思ってました。
- 糸井
- そうかぁ、
そのときは学校にも行ってるわけだよね?
- 小泉
- 学校は、やめちゃったんですけどね。
学校、小っちゃいときから
あんまり好きじゃなかったから、
よくサボってました。
だからあんな気分で
「フッ」と通れる逃げ道があるのかなと思ってた。
「これ、ないんだなぁ」と思いはじめるのは、
デビューして1年経ってから。
「もう消せないんだろうな、この1年は」
と思ったんです。
(明日につづきます)
2020-06-06-SAT