渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で、
不定期に行う対談の最初のゲストに、
糸井重里がお呼びしたのは、小泉今日子さんでした。
この対談の会の通しテーマは
「わたしの、中の人。」です。
わたしたちがテレビの画面や舞台でふれる
トップスターの小泉今日子さんの中に、
もうひとりの本当の小泉さんがいます。
知らなかったその人が、赤い椅子に腰かけて、
お話ししてくれました。
小泉さんのまわりにいつもいた、
光る星のような、遠くなく近くない、
あたたかくクールな人びとがたくさん登場します。

写真 小川拓洋

>小泉今日子さんのプロフィール

小泉今日子 プロフィール画像 photo ©︎今井裕治

小泉今日子(こいずみ きょうこ)

1966年生まれ。
1982年歌手としてデビュー。
同時に映画やテレビドラマなどで女優業も開始。
エッセイや書評など執筆家としても活動している。
2015年には自らが代表を務める
「株式会社明後日」を設立。
プロデューサーとして舞台演劇や音楽イベントなどの
企画、制作に従事。
また、映画制作プロダクション
新世界合同会社」のメンバーとして
2020年晩夏に公開予定の外山文治監督「ソワレ」に
アソシエイトプロデューサーとして参加している。

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第2回

見たことのない女の子。

糸井
デビューして1年、
17歳で「もう逃げられない」と思ったあと、
人が見ている像に合わせて
生きる人生になったんですか? 
小泉
そういうことです。
それこそ「中の人」のわたしが
プロデュースしはじめました。
糸井
その年で!

小泉
そう。
「どうせもう逃げられないんだったら、
見たことない女の子像を
つくり出してやろうじゃねぇか」
みたいな気になって(笑)、
「自分がスカッとする女の子をつくろう」
そう思って。
糸井
カッコいいな、それ。
小泉
(笑)そうなんです。
なので、うん、そっからですね。
糸井
そのときは、まだ髪は長かったですか?
小泉
しばらくは長かったです。

「私の16才」

「私の16才」

糸井
17歳くらいで逃げ道がないことに気づいて、
しばらく経って‥‥。
小泉
美容院に行きました。
糸井
ぼく、そのときの小泉さんを
知ってます。
小泉
そうですよね。
糸井
髪の長い、アイドルの
小泉今日子さんという人の存在は
もちろんすでに知ってました。
ある日、事務所の社長さんに呼ばれて行ったわけ。
「ウチの小泉今日子はこれからおもしろいから、
なんかやりたいんですよね。
いるから、ちょっと呼ぶよ」
なんていって、社長さんは呼んだ。
そこにバチーンと髪切った、小泉今日子が立ってた。
なんだろう、あの「髪を切った」ってことの
強烈な印象は。
小泉
ね、急に(笑)。
糸井
驚いたよ。
小泉
どうして髪を切ったかというとね、
わたしの中でその前の1年が、
「空白の1年間」だったからなんです。
空白の1年が過ぎて、ある日パッと目覚めた感じ。
そのとき「みんなおんなじ髪型してる!」と
びっくりしたんです。
「わたし、なんでこんな髪型してるんだっけ?!」
「誰かに操られた?」
本当に、まるで1年間記憶がなくなって
体を誰かに乗っ取られたような‥‥。
糸井
うわぁ、そうなんだ。
小泉
当時、ジョジ後藤さんが
ショートカットで自転車に乗ってる、
清涼飲料水のコマーシャルがありました。
それをすごくかわいいなと思ってて、
「そうだよ、これがしたいんじゃなかったのか?」
と思い、いちおう会社に言おうと思って、社長さんに
「髪の毛を切りたいんですけど、いいですか?」
と言って、
「ああ、いいよ」
糸井
事務所の人、そのときよく思い切ったね。
小泉
タイミングとか、すごくいい感じだったんです。
あっちで何かしてるときにこっちで言う、みたいな。
糸井
うまいこと言えたんだ(笑)。
小泉
そう(笑)。
会社のお父さん、みたいな存在だったんで、
「お金持ってるの?」
と言われて、
「あ、持ってます」
「いちおう美容院終わったら戻ってきてね」
なんて言われながら事務所を出ました。
そして美容院で
「もうバッサリいってください」と。
糸井
最高ですね(笑)。
小泉
美容院の人も
「え、いいの? いいの?」
なんて言うから、
「うん。切っていいって言ったから大丈夫」

糸井
まさかそこまでとは誰も思ってませんよね。
小泉
バチーンと切って、事務所に戻りました。
そのときにね、
人って、驚いたときは本当に腰を抜かすんだ、
と知りました。
会場
(笑)
糸井
いや、いや(泣笑)、
そうだと思う。

小泉
社長さんが「おかえり~」って
ちょっと立ちあがりかけて、
腰をガクッとさせてよろめいてました。
糸井
すごいことだったんだよね、きっと。
小泉
きっとね。
糸井
じゃあ、あれは社長が
「こういう路線で」と指示したんじゃなくて、
自分でやったんだね。
小泉
そうなんです。
でも、子どもだったから計画性がなくってね。
切っちゃったものの、
次の新曲の衣装なんかは、もう
できあがってるわけです。
めちゃくちゃフリフリのお花が
いっぱいついてる衣装で、
髪とぜんぜん合ってない(笑)。
だけどしょうがないから、
その一曲はそのままがんばって。
会場
(笑)
小泉
「分かってるんですよ、わたしも。
合ってないっていうのは分かっています」
というムードで歌ってました(笑)。
ちょうどそのとき、
レコード会社のディレクターさんが
変わったタイミングだったんです。
そのわたしの行動を見て、
「合った曲を作ってあげよう」
と思ってくれて、
『まっ赤な女の子』という曲ができました。

「まっ赤な女の子」 「まっ赤な女の子」

糸井
なるほど。
小泉
子どもがやったことの後始末を
みなさん一生懸命してくれた。
糸井
それは後始末というより、
「先に本人がリードしちゃった」ということだよね。
小泉さんは、まわりよりも先に
走っていったんです。

(明日につづきます)

2020-06-07-SUN

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