渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で、
不定期に行う対談の最初のゲストに、
糸井重里がお呼びしたのは、小泉今日子さんでした。
この対談の会の通しテーマは
「わたしの、中の人。」です。
わたしたちがテレビの画面や舞台でふれる
トップスターの小泉今日子さんの中に、
もうひとりの本当の小泉さんがいます。
知らなかったその人が、赤い椅子に腰かけて、
お話ししてくれました。
小泉さんのまわりにいつもいた、
光る星のような、遠くなく近くない、
あたたかくクールな人びとがたくさん登場します。
写真 小川拓洋
最終回
あそこに街灯つけとこう。
- 糸井
- いま、会社を設立して、
プロデューサーという立場になった小泉さんは、
けっこうしっかり語っているように見えます。
- 小泉
- そうですね、はい。それはね、もう。
- 糸井
- 裏方にまわると、
語ることがいっぱい出てくる?
- 小泉
- プロデューサーという立場で、
客観的に話せるということもあります。
まわりの演劇をやってる方たちの
代弁者的な役回りも、ときにはあると感じています。
だから、自分を語るときよりも
「仕事、好きですねぇ」という感覚が
出ちゃうのかもしれない。
- 糸井
- ちょっとニュアンスがちがう
「好きですねぇ」が。
- 小泉
- そう。それはやっぱり
プロデューサーとしてというよりも
「大人」として、
後ろから歩いてくる人たちの道が
少しでも明るいほうがいいな、という思いを、
何をやってても持ってしまうから。
- 糸井
- ああ‥‥。
- 小泉
- 何か変えられるかもしれないし、
「あそこに街灯つけとこう」みたいな感覚で
しゃべろうと思う、ってことかな。
- 糸井
- ‥‥また名セリフが出てきてしまって。
- 小泉
- そうですか(笑)?
- 糸井
- 「プロデューサーとしてというよりも大人として」
「あそこに街灯つけとこう」という言葉を話す。
そこには大人のたのしさと本気が入っています。
- 小泉
- うん。どっちかといえばもう、そんな感じですね。
- 糸井
- カッ……こいいなぁ(笑)。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- そういうことを言う人なんだねって、
もう、感心しちゃう。
ぼくはときどき本を読んでて、
「あぁ、この人は!」と感心するんだけど、
会話でそれがふつうにポンと出てくるということは、
小泉さんの考えはそうとう練れてるんですね。
- 小泉
- 練れてないと思います。
- 糸井
- でも、考えたことがあるんだね、きっと。
考えてないことは言えないから。
- 小泉
- うん、たぶんそうですね。
自分はこれまで仕事に恵まれて生きてきて、
運命がこうなっているんだろうな、
と思うことがありました。
時代のおかげもあったと思います。
けれどいまは、好きで役者さんやってても
アルバイトしなきゃ食べていけないとか、
劇場の運営も厳しくて、
いろんな困難があります。
どんな世界でもそういう現象は
どうしても起きちゃうけれども、
ちょっとでも一歩前に進めるようなことを
考えられないかなぁといつも思います。
だって、役者さんがいま家を買おうと思ったら、
テレビドラマに主演したり、
コマーシャルに出ないといけないですよね。
- 糸井
- そうですね、無理ですね。
- 小泉
- なんかねぇ‥‥。
- 糸井
- 昔は作家が家を持ってた時代だったけど、
そういうことはいまの現実には
あんまりないですよね。
どちらかといえばいまは、
勤め人以外の選択肢がなくなってきた時代です。
こんな時代に希望を持って、
勤め人じゃない自分の生き方を
どんどんやっていこうと思ったら、
アンドの「何か」が必要になりますよね。
- 小泉
- でも、わたしは変わらず好きなんですよ。
テレビや映画やお芝居を観ることが。
- 糸井
- 受け手として好きなのね。
- 小泉
- 受け手として信じてるし、好きなんです。
小さい頃から読んできたもの、観てきたものが
わたしを育ててくれてるということが、
実感としてすごくあるから、
その世界がもっとおもしろいといいなと思います。
- 糸井
- 昔、小泉さんはぼくに、
「自分がたくさんのいい大人にお世話になって、
かわいがってもらったおかげで自分がいる。
果たして自分は
そういう大人になれるんだろうかと思う」
という話をしてくれたことがあるんです。
- 小泉
- うん、しました。
- 糸井
- そのときに、
みんながそう思ってたらいいだろうな、
と思ったんだけど、
小泉さんは本当にその道を歩みはじめてますね。
- 小泉
- はい。
個人的に近くにいる人たちにも
そういう関わりを持ちたいし、
作品を観て何か感じたりしてくれる人が
増えたらいいなと思います。
去年から満島ひかりさん、坂元裕二さんと
「詠む詠む」というツアーで
全国を回ってるんですけど、
観にきたお客さんのなかで
「生まれて初めて広島に来ました」なんていう方も
いらっしゃいました。
わたしたちのやってることを通じて、
そうやってドアを開けてくれる人がいるの。
自分の人生のドアを。
こういうことが実感として
いちばんうれしいのかもしれない。
あと、年末に小っちゃな劇場で
お芝居つくったんですけど、
そこにうちの80何歳の母が来て、
はじめて小劇場の客席に座る、とかね。
「おもしろかった。こういうところもいいね」
みたいに帰っていくようなことが、
もっともっとあればいいなと思う。
- 糸井
- いいねぇ。
それってさ、若いときの自分が
そうしていたからだよね。
小暮さんのご夫妻もそうだし、
親もお姉ちゃんも、厚木の友達も、
本も、映画も、テレビも。
小泉さんがそうしてきたから。
- 小泉
- そうですね。
- 糸井
- そうやって、みんながドアを開けて
宝探しができるように、
街灯をちょっとずつつけていく。
おもしろいね。
- 小泉
- わたしたちができることって、
それだけなんだと思います。
きっかけをつくったり、ドアを開けたりすることが、
芸能の仕事だと思うんですよ。
それをいろんなかたちでいろんな人とやりたい。
- 糸井
- 芸能という言葉の重みとたのしみが
どっかしら商業とセットになりすぎちゃって、
価値が制限されてるところがあるのかな。
- 小泉
- つくる人たちと使われる人たちの間でできたルールが
いつのまにか大きくなっちゃったのかもしれない。
- 糸井
- かもね。
- 小泉
- それが芸能という社会になっちゃった。
それに対して我々が、
どうにか動かないと変わらないんだろうな、
という気がします。
社会にあるどんな構造も、一回、ね、
どっかまでいったら壊すしかないから。
いまちょっとずつみんなで壊してて、
またたのしくなるのかな、
というふうにわたしには見えます。
- 糸井
- そのあたりもおもしろいなぁ。
今日のテーマじゃないときにも
しゃべってみたいね。
- 小泉
- 「中の人」じゃないときにね。
あ、もう9時だ。
- 糸井
- おもしろかったね。
- 小泉
- おもしろかったね(笑)。
- 糸井
- ぼくね、小泉さんが芝居やってるのと
同じような意味で、学校をやりはじめたんだよ。
「ほぼ日の学校」っていうの。
- 小泉
- へぇー。
- 糸井
- いまは古典をやろうといって、
シェイクスピアや万葉集で
講座やってるんですよ。
- 小泉
- 生徒になりたいなぁ。
- 糸井
- すごくおもしろいよ。
また、遊びにきてください。
では、このへんでね。
どうもありがとうございました。
- 小泉
- ありがとうございました。
- 糸井
- 小泉今日子さんです!
(拍手)
(おしまいです、ありがとうございました)
2020-06-16-TUE