渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で、
不定期に行う対談の最初のゲストに、
糸井重里がお呼びしたのは、小泉今日子さんでした。
この対談の会の通しテーマは
「わたしの、中の人。」です。
わたしたちがテレビの画面や舞台でふれる
トップスターの小泉今日子さんの中に、
もうひとりの本当の小泉さんがいます。
知らなかったその人が、赤い椅子に腰かけて、
お話ししてくれました。
小泉さんのまわりにいつもいた、
光る星のような、遠くなく近くない、
あたたかくクールな人びとがたくさん登場します。
写真 小川拓洋
第10回
いろんなことに、気が晴れた。
- 糸井
- 30代までは、そんなふうに
怠けてたこともあったんだ、と。
- 小泉
- そう。結婚して離婚するまでは、
わたしはたぶんそうとうな面倒くさがり屋で、
もっともっとダラダラしていたかったんです。
テレビ局でトイレに入ったときに、
ちょうどトイレットペーパーが終わってて
芯だけのとき、あるでしょ(笑)。
「なんで前の人がやってくんないのかな?!」
そんなことすら、すごく面倒くさいと感じてました。
でもいま、そういう状況だったら、
「ハイッ、わたしがやっときます、次の方のために」
みたいな気分になれます。
- 糸井
- はい、はい(笑)。
- 小泉
- 細かく言うとそういうことなんだけど、
いろんなことに対して気が晴れた、というか。
- 糸井
- 何かと何かのつながりがすごく
なめらかになったってこと?
- 小泉
- そうかもしれない。
- 糸井
- やっぱり、若いときって
ギクシャクしてますよね。
- 小泉
- そうですよね。
「腹立つな」みたいなことも、
いまよりずっとあったし。
物を投げたりとか蹴ったりとか、
きっとしてたと思うんですけど(笑)、
いまはもう、ぜんぜんないですもんね。
- 糸井
- うん、ぜんぜんないですよね(笑)。
若いときはそういうもんだし、
小泉さんの場合はかなりの重みがかかってた。
それは他人のほうが知ってるよ。
- 小泉
- そうかな。
- 糸井
- マネージャーさんだけじゃない、
みんながすごい子だと思ってました。
- 小泉
- そうなんですか。
- 糸井
- うん。
だって、笑ってたもん。
ウソの、バレる笑いじゃない。
本当に笑ってた。
そりゃあトイレットペーパーに腹立つよ。
- 小泉
- あの芯にもね、腹が立って。
- 糸井
- 芯に。
- 小泉
- 「なんでこんな面倒くさい構造なんだろう」
- 糸井
- 「なんなのよ」
- 小泉
- いまのトイレットペーパーは、
カシャッと押したら入るけど、
昔のって、外してこうやってこうやって、
穴の小っちゃいとこにさして、ずれて、
なっかなかカシャンってならないの。
- 糸井
- 押してるあいだに落として
コロコロいっちゃったりね。
- 小泉
- そうそう。
ホント腹が立ってたんですけど、
いまもうぜんぜん(笑)。
- 糸井
- それはもういまじゃ、
「あ、トイレットペーパー!
いっけない、わたしが!」
みたいな境地にね(笑)。
- 小泉
- 「ああ、替えられて気持ちいい」
という感じでできるようになりました。
- 糸井
- 大人になって、いろんなことになめらかになれば、
今度は「自分がやっててたのしいこと」と、
「そうじゃないこと」が
もっと見えてきませんか。
- 小泉
- うーん、そうかなぁ。
- 糸井
- 若いときは選択肢はそんなにないわけでしょう。
芸能の中で
「あなたはこれをやってほしいんですよね」
ということが絶えずやってくる。
でも、大人になったらそうじゃなくなります。
「わたし、これがやりたい」という仕事のほうが、
優先的になっていくんじゃないでしょうか。
- 小泉
- でもわたしは基本的に、
「わたし、これがやりたい」が薄いタイプです。
- 糸井
- あ、そこはあいわらずなんですか。
- 小泉
- 女優の仕事とかでは、あいかわらずそんな感じ。
いまは「これがやりたい」というよりも、
「どうせつくるんだったらここまで関わりたい」
「どうせならカッコよくしたいな」
という欲が高まったのかもしれないです。
- 糸井
- それはまさしくプロデューサーですね。
- 小泉
- そうかもしれないですね。
- 糸井
- お芝居や歌のような、
「自分が出る」ということに関しては、
同じようにずーっと温度が一定なんですか?
- 小泉
- そうですね、あまり変わらないです。
- 糸井
- 仕事を語るときにありがちなんだけど、
「好きなんですね、わたしは」って、
言うでしょ?
あれ、じつはちょっとだけ疑わしいと思ってるんだ。
- 小泉
- うん、わかる。そうですね。
- 糸井
- 「好きなんですね」と言わないと
もたない何かがそこにはある。
- 小泉
- 「好きと信じていたい」ということは、
あると思います。
そう信じていないと
倒れちゃう感じは分かるけど‥‥。
- 糸井
- 本当にホントのことを
平気で言える年になったりすると、
それが変わってくるよね。
意志とか情熱を告げなきゃなんないのは、
やっぱり半端な気がします。
他人の言葉でしゃべってるというか‥‥。
- 小泉
- うん、うん。
- 糸井
- その意味では、小泉さんは若いときから
「一所懸命やります」というのを
だいたい同じ笑顔で言ってた。
- 小泉
- だいたいね(笑)。
- 糸井
- まなじりを決してなかった。
ずーっと(笑)。
- 小泉
- まさに。
(明日の最終回につづきます)
2020-06-15-MON