渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で、
不定期に行う対談の最初のゲストに、
糸井重里がお呼びしたのは、小泉今日子さんでした。
この対談の会の通しテーマは
「わたしの、中の人。」です。
わたしたちがテレビの画面や舞台でふれる
トップスターの小泉今日子さんの中に、
もうひとりの本当の小泉さんがいます。
知らなかったその人が、赤い椅子に腰かけて、
お話ししてくれました。
小泉さんのまわりにいつもいた、
光る星のような、遠くなく近くない、
あたたかくクールな人びとがたくさん登場します。
写真 小川拓洋
第9回
遠くなく、近くない、友達。
- 糸井
- 離婚するときには、
まずは人はひとりなんだということを、
心から分かる必要があります。
- 小泉
- 家族ってね、血がつながっていれば、
誰が悪いことしても、
何があってもホントに大丈夫じゃん、
というところがあるでしょう。
- 糸井
- そうね。
- 小泉
- 血のつながってない人と
家族をつくろうとしたところで、
想像もしないいろんなことが、
お互いにあるわけですよ。
すごく傷つけたりとか、
どのくらいバット振って──なんで急に
バットの例えが出てきたのか分かんないけど(笑)、
どのくらいバットを振っていいのか
分からない状態でも、振るじゃない?
- 糸井
- それはね、振るよ。
振るしかないから。
- 小泉
- 小っちゃいときから一緒にいる家族であれば、
「このぐらいだね」ということは
お互いに分かってるけど、
分かんないまま振っちゃった。
痛い思いさせちゃっただろうし、
自分にも「そこないよ」というようなバットが
当たったりしてるわけで(笑)。
- 糸井
- あるよね。
バットが出てくるのがおかしいけどさ(笑)、うん。
- 小泉
- そういう感覚をはじめて他人と
交わすことができた。
結婚は、よかったです。
- 糸井
- すごいことだよね。
それはなんていうか、簡単に
「愛があれば」とか言えるような話じゃないよね。
- 小泉
- そうですね。
- 糸井
- 「そこでバット振るんだあ」
- 小泉
- 「ウッソでしょ?」
- 糸井
- 「ウッソでしょ?」は、
向こうも思ってるんだよね(笑)。
同じことなのに相手はこう感じるんだ、
という驚きを
「ものめずらしい」と言えるのは、
他人の間柄のときです。
「ものめずらしい」じゃすまないことは
山ほどある。
- 小泉
- そうです。
- 糸井
- そんなにも勉強させてくれる場所は、ないよね。
- 小泉
- そうでしたね。
ずっと一緒にいられたら、
もっともっと賢くなれたのかなとも思うけれども、
わたしには必要な経験だったんだろうなぁと
思います。
- 糸井
- 長くいたらいたで、
きっと、またいろいろあったろうね。
- 小泉
- そうですね。
- 糸井
- ぼくはふたりとも、両方好きな人なんで、
よく分かるんだけど、
ふたりで話してるところも、
とてもおもしろかったです。
- 小泉
- そうでしたっけ。
- 糸井
- 男って女で、女って男だし、
セットでいると、すごくおもしろく見えた。
「結婚してよかったな」って、
ぼくから見たらそう見えたし、
別れたときも「そうだろうな」と思った。
- 小泉
- それまでわたしはわりと
ワガママに仕事させてもらってたと思います。
でもそれでも、
「会社の中にいる人として」やっていたんです。
でも、彼とやることはそうじゃない。
夫婦だから、ふたりでいっしょに
何かをつくるのも不自然じゃなかったし、
その経験もよかったなと思います。
いまやってるプロデュースの仕事も、
あのときの経験があったからかもしれない。
- 糸井
- お互いにないものを持ってましたよね。
小泉さんは「会社」という
空飛ぶ円盤を持ってた。
- 小泉
- うん、うん。
- 糸井
- 結婚生活を送ったり、
いっしょに仕事をたちあげていったおかげで、
いまの自分の会社をスタートさせる勉強は
自然にできちゃったわけだ。
- 小泉
- あのときにね。
- 糸井
- 小泉さんは若いときから
あんがい醒めた目を持ってて、
世間に同調しすぎないということを
きちんと守ってきた。
仕事をものすごく一所懸命やってきたという事実は、
「外の人」も分かっていたわけです。
そんな小泉さんが、いまの仕事にシフトした。
そこにつながるジョイントって
どこにあったんだろうと、ぼくは思ってたんですよ。
- 小泉
- そうですよね。
- 糸井
- ふつうに考えると「一回疲れてやめた」ということが
あると思うんです。
だって、あそこで生きてたらヘトヘトになるよ。
いつも人の目玉の中で泳いでるわけだから。
- 小泉
- それはもう、そうです。
- 糸井
- でも、そうじゃなくて、
結婚と離婚が節目にあったということか。
すばらしい話です。
- 小泉
- そうですかねぇ。
- 糸井
- 結婚もそうだけど、
小泉さんは、あいだあいだに、
距離が遠くなくて近くない友達や先輩が、
なんだかキラ星のようにいるでしょう。
- 小泉
- そうそう。
30代はよく親友と長電話したりね。
- 糸井
- いいね。
- 小泉
- わたしは外の人としてがんばっているようで、
すごく怠けてた時期があるんです。
その親友としたのはこういう電話。
「何してる?」
「3日間、誰ともしゃべってない。
外にも出てないし、
ごめんなさい、お風呂も入ってない」
「あら奇遇、わたしもよ」
- 会場
- (笑)
- 小泉
- 「じゃあ、ちょっと勇気を出して、
いまからせーのでお風呂に入って、
5時に待ち合わせましょう」
そういうことしてました。
- 糸井
- それはふたりとも境遇が似てたのかしら。
- 小泉
- たぶん似てると思う。
- 糸井
- くたびれはてた女たち?
- 小泉
- なんて言えばいいんだろう(笑)、
えっとね、オタク的なところがあるから、
3日間ずっと、
本読んだりビデオ観てたりするってこと。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- 小泉
- あとは
「ホントに人に会いたくない」
みたいなときってあるからね。
その3日間は自分を、もう、許す。
- 糸井
- 動物のようにバランス取ってきたんだね。
- 小泉
- そうなんです。
動物って具合悪いと一切出てこなくて、
ずっと寝てるでしょう。
それは感覚なんですよね。
だから「もう3日声も出してなかった」ということが
起こりえます。
電話が鳴って、ンンッ(咳払い)、
「声って、どうやって出すんだっけ?」
(明日につづきます)
2020-06-14-SUN