渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で、
不定期に行う対談の最初のゲストに、
糸井重里がお呼びしたのは、小泉今日子さんでした。
この対談の会の通しテーマは
「わたしの、中の人。」です。
わたしたちがテレビの画面や舞台でふれる
トップスターの小泉今日子さんの中に、
もうひとりの本当の小泉さんがいます。
知らなかったその人が、赤い椅子に腰かけて、
お話ししてくれました。
小泉さんのまわりにいつもいた、
光る星のような、遠くなく近くない、
あたたかくクールな人びとがたくさん登場します。
写真 小川拓洋
第8回
結婚して何がよかったか。
- 糸井
- いま聞いた話は全部、いわば、
「小泉今日子」が出ている画面には
映ってないことばかりですね。
- 小泉
- うん、映ってないですね。
- 糸井
- 映ってない場所で、
「中の人」はずーっと生きてた。
- 小泉
- ずっと中の人はいました。
ホント、そうなんです。
- 糸井
- 中の人は生きてたんだけど、
舞台に立ってる小泉今日子は、
そんなことはおくびにも出さずに
「それではミニミュージカルをごらんください」
とか、やってる。
- 小泉
- (笑)そうですね。
- 糸井
- 両方あるのはぼくらにも
薄々感じられながらだけど、
でも、どっちもホントなわけですよね。
- 小泉
- どっちもホントです。
例えば、若いときに道を歩いてて
「ワァ、キョンキョンだ」なんてワーッと
騒がれちゃったりするのは、
中の人は困るわけです(笑)。
だけど外の人は確実に
自分をつくっちゃってるから、
それを拒否するのもおかしな話なんだよね‥‥と、
中の人は思ってるのね。
- 糸井
- うん、うん、そうですね。
- 小泉
- だけど中の人は、
ひとりで歩いてる。
対処できないという感覚がある。
人間だし、気分がよくない場合もあるから
「ごめんなさい」とか言っちゃってることもある。
これはどう考えるべきかなぁって、
ひと晩ぐらい考えました。
- 糸井
- ほぉお。
- 小泉
- そうか、と。
「ホントにそれがイヤだというんだったら、
わたしはこの仕事をやめればいいだけだ。
やめるという解決法しかなくて、
やめないんだったら、
受け入れるしかないんだな」
ということになりました。
- 糸井
- それ、ある日突然決めたの?
- 小泉
- ある日、決めました。
やめるか、外に出ないか、
そのぐらいしか選択肢がない。
でもわたしは、街は歩きたい。
だから受け入れることに決めました。
そのかわり、ちゃんと人間同士として対応しよう。
「いまね、急いでるんです」
「ごめんなさい。いまここで騒ぎが起こると
わたしは困っちゃうんです。
あなたも助けられないでしょう、ひとりじゃ」
ということをお話しします。
- 糸井
- ハッキリ言うわけだ。
- 小泉
- そう。ちゃんと言う。
- 糸井
- さっきのパリの話でさ、
小暮さんたちに「おごらせてくれ」と
小泉さんは言ったでしょう?
あれにちょっと似てるんだけど。
- 小泉
- うん。
- 糸井
- おおげさにルールを決めるんじゃなくて、
「自分が決めることだ」という感覚が
いつもある気がする。
街を歩くって決めてることもそうだし。
- 小泉
- そうですね‥‥そうかも。
- 糸井
- 「ワーキャー」言われる質量が
並大抵じゃないのを経験すると、
どうしても答えを見つけなきゃなんなくなる。
きっといちばん素直な答えに
たどりつくことになるんだろうね。
- 小泉
- そうかもしれない。
- 糸井
- 小泉さん、街を歩きますよね、よく。
- 小泉
- 歩きますね。
もはやいまなんか、とにかくふつうに歩いてます。
- 糸井
- プロデューサーって、すごく用事が多いでしょ。
- 小泉
- そうなんですよ。
ひとりで出張にも行きます。
ネットで安い部屋を探して、
「会員だから、もっと安くなるぞ」
なんてやってます(笑)。
- 糸井
- 芸能の真っ只中にいながら、
仕事として芸能をちゃんとやろうと決めたこと、
もうひとりの「中の」自分を守ろうとしたことが、
小泉さんは矛盾せず、ずーっと来てます。
それがまた、ぼくらにもよく伝わるんですよ。
小泉さんは、自分の考える「自分」から
一回もそれずに、ここまでたどりついたんですか?
- 小泉
- どう‥‥ですかねぇ。
こんなこと言っていいか分からないんですけれども、
みなさん憶えてらっしゃるかどうか
分からないんですが、
わたし、結婚したことがあるんですよ。
- 糸井
- ありますね、知ってます。
なんとなく知ってます。
- 会場
- (笑)
- 小泉
- それで、離婚したこともあるんですよ。
- 糸井
- はい、そうですね。
それも知っています。
- 小泉
- 相手はとても素敵な、
いまも活躍しているすごくいい俳優さんですけど、
結婚したことが、本当によかったなと思っています。
結婚があったからこそ、
自分の仕事をちがう場所から見たり、
仕事よりも相手のことを考える時間があるんだ、
ということを経験できました。
つまり、自分が考えていたいろんなことのサイクルを
変えることができたんです。
そのあとに離婚しましたが、最終的に
「結婚して何がよかったことか?」と問われたら、
わたしは「離婚したことです」と答えると思います。
- 糸井
- そうか。
- 小泉
- 離婚という経験が、
自分をもうちょっとだけ、地面に着けてくれました。
足が浮いてたところを、ピッと
「あなたも人間です」みたいな感じでね。
経験でいえば、それは
「失敗」という言葉になるわけです。
でもその失敗が、
人間としての自分が未熟なところを考える
きっかけにもなりました。
人の見方もちょっと変わった。
あと「愛だ恋だ」ということを、ちゃんと一回、
終わりにできたっていうか(笑)。
- 糸井
- 愛や恋を終わりにできるものだ、ということが
分かるわけですよね。
- 小泉
- そうですね。
- 糸井
- 「結婚してよかったと思えるのは、
離婚ができたことです」
- 小泉
- はい。
- 糸井
- それは歴史に残る名セリフだね。
いや、つまり、俺には分かる(笑)。
- 会場
- (笑)
(明日につづきます)
2020-06-13-SAT