「レンタルなんもしない人」を知ってますか?
ひとりの男性がTwitterを使ってはじめた活動で、
ごく簡単なうけこたえ以外
「なんもしない」自分を貸し出すサービスです。
なんもしないのに依頼が舞い込み、
一躍、話題の人になりました。
書籍になり、ドキュメンタリー番組になり、
増田貴久さん主演のドラマにまでなっています。
社会のルールや会社での評価に嫌気が差して、
逃げるようにして辿りついた道のりを、
「レンタルさん」こと森本祥司さんが語ります。
お話を訊いたのは「ほぼ日」の平野です。
レンタルなんもしない人
1983年生まれ。既婚、一男あり。
理系大学院卒業後、数学の教材執筆や編集などの
仕事をしつつ、コピーライターを目指すも
方向性の違いに気づき、いずれからも撤退。
「働くことが向いていない」と判明した現在は
「レンタルなんもしない人」のサービスに専従。
著書に『レンタルなんもしない人の
なんもしなかった話』
『レンタルなんもしない人の
“もっと”なんもしなかった話』(晶文社)、
『〈レンタルなんもしない人〉という
サービスをはじめます。
スペックゼロでお金と仕事と人間関係を
めぐって考えたこと』(河出書房新社)、
企画原案に『レンタルなんもしない人』
(第1巻、講談社・モーニングコミックス、
作画:プクプク)など多数。
- ーー
- 「レンタルなんもしない人」の活動を
2018年にはじめてすぐに、
一躍話題の人になりました。
本が出たり、テレビで取り上げられたり。
まわりからの反応は変わりましたか?
- レンタル
- 反応は変わりましたね。
でも、狙いとか計算を入れずに、
まわりの動きにとりあえず乗っかるという、
僕のスタンスはずっと変わってないです。
ただ、「乗っかるもの」の規模が大きくなると、
まわりにいた人からも驚かれるんですよ。
「すげえ! なんもしないでここまできたか!」
と驚かれることがあります。
何かに取り上げられて名前が知られだすと
なぜか人間性が求められるようになって、
「格の高い人だ」と思われがちなんですよね。
Twitterのフォロワーが急激に増えたかと思ったら、
ちょっとでもボロを出すとがっかりされる。
このくり返しです。
- ーー
- 活動をはじめた時には
「国分寺からの交通費」のみでしたが、
2019年の9月から有料になって
「どんな依頼でも1件10,000円と交通費」
という金額を設定しましたよね。
依頼内容に変化はありましたか。
- レンタル
- 依頼の数はガクンと減りましたよ。
ただ、もともとの依頼の数が
僕には多すぎたのもあって、
断わる依頼の量が圧倒的に多かったんです。
申し訳ないなと思いながら断ることが
ストレスでもあったので、
ちょうどいい具合にはなりました。
- ーー
- 有料だとわかっていれば、
冗談半分みたいな
依頼はしなくなりますよね。
- レンタル
- ただ、意外なことに
「お金が発生したほうが頼みやすい」
という人もいましたね。
無料なら無料で、依頼する側に
クリエイティブが求められていると
感じる人もいたようです。
自分なんかが依頼をしていいのかなって
遠慮してしまっていた人が、
金額の設定をしたことで内容を気にせずに
依頼できるようになったそうです。
- ーー
- 「お客さん」と「サービスの提供者」の
関係に変わることについては
気になりませんでしたか。
- レンタル
- 料金を設定しはじめて間もない頃は、
いままでと違ってやりにくい雰囲気はありました。
ドタキャンしづらいなとか、断りづらいなとか。
お金をいただくようになって、
気合いの入れ具合が違ってきましたね。
でも、少しずつその状況にも慣れてきて
2週間ぐらい経った頃には、
自分が1万円をもらっているという
気持ちが薄れてきていました。
- ーー
- ひとつの仕事としてとらえると、
サービスのあるべき姿になりましたよね。
- レンタル
- 家族や、お金の心配をしてくれる人に対して
説明しやすくなったのは確かですけど、
すごく儲けている印象を持たれ過ぎてしまったら
考え直そうかなと思ってます。
お金を稼ぐことが目的ではないので。
- ーー
- 「なんもしない」ままで、
どうして続けられているんでしょうか。
1年間以上、報酬なしだったわけですよね。
- レンタル
- 「なんもしない」こと自体が
僕にとっては報酬になっていたんです。
それはお金じゃなくて、
何もしないことの中にいろいろ含まれていて、
経験すること全部が報酬として感じられた
ということに尽きるんじゃないですかね。
- ーー
- いつまで活動を続けよう、
という期限は設けていたんですか。
- レンタル
- そういう設定はしないで、
とくに何も考えずにはじめました。
ただ、これまで受けていた
ライターの仕事を全部断わって、
土日も平日も関係なく24時間全部、
この活動に充てようと覚悟したんです。
平日に仕事をして土日だけ、
という未練のようなものがあったら
「なんもしない」ことに振り切れないので。
- ーー
- お休みの日というのは
設定していないんですか。
- レンタル
- たまに家族からの要望で
休みにすることはありますけど、
自発的にここを休みたいというのはないです。
自分のプライベートというものに
飽きちゃったのかもしれません。
ひとりの時間とか、好きなことをするだとか。
仕事をあまりしていなかった頃に、
ひとりで適当に街に行って、
真っ白なノートを広げて
なんか書けないかなって
時間をつぶしていた期間が長すぎて。
ひとりの時間については、
もうそこで満足しちゃいました。
- ーー
- ひとりになれる時間も、
たまには欲しくないですか。
- レンタル
- 移動中だけはひとりになって、
移動の合間にちょっと時間が空けば
時間をつぶすから、それで十分です。
といっても、その時間もTwitterを見て、
DMの返事をしているんですけど。
- ーー
- ひとりでいることに
飽きてしまったんですかね。
- レンタル
- たぶん仕事をしていない時の、
ほんとに「なんもしない人」の時期を経たから、
「レンタルなんもしない人」が
できたのかなって思うことはあります。
もう飽き飽きしたっていう気持ちが
僕の中にあったおかげかもしれません。
- ーー
- レンタルさんの現在って、
お役所的にはどんな職業になるんですか。
フリーのライターなのか、
あるいは無職になってしまう?
- レンタル
- あ、そこはライターです。
- ーー
- ライターではあるけれど
書く仕事を請け負っているわけではなく、
書籍化するならどうぞ、
ドラマ化するならどうぞ、
という働き方をされていますよね。
たとえばこれから、
自分から働きかけて
何かを書くこともあり得ますか。
- レンタル
- どんな可能性もあると思いますね。
いまはレンタルの活動をやっていますが、
僕は飽き性でもあるから、突然飽きるかもしれない。
その後どうなるかはいろんな可能性があります。
いままでの経験を文章に残すことは
当然あり得るでしょうし、
コンビニで働いたらどうなるかという
実験をしてもおもしろいかもしれませんし、
たとえば突然、塾を開くかもしれません。
- ーー
- Twitterの投稿をまとめた本は
すでに出されていますが、
全篇とおして書き下ろしたものも
読んでみたい気持ちはあります。
- レンタル
- 僕にとってストレスなく書ける量が
Twitterぐらいの文字量だったんですけど、
最近自分のなかに変化があるとしたらそこです。
最近のSNSは読者との距離が
近すぎる感じがしているんですよね。
一部を都合よく切り取って叩いたり、
勝手な解釈を加えて拡散させたり、
すごく簡単にできてしまうので。
近いうちに、本とか執筆に絞って、
お金を出して買った人が読める媒体で
書き物をしたいと思うかもしれません。
僕がライターの仕事をしていた時、
長文を書くのは向いていないと思って
断わっていたんですけど、
だんだん長文の魅力もわかってきました。
おちついて書けるのも大事なんだなと。
- ーー
- 普通のライターには経験できないぐらいの
知見を深めているとも言えますよね。
- レンタル
- 僕がライターとか、コピーライターを
目指していたということもあって、
自分の経験値がお金に変わる
可能性もあるんじゃないかというのは
感覚的にわかっています。
だからお金の心配はあまりないです。
経験が溜まっているから、
べつに何も心配することはありません。
(つづきます)
2020-05-08-FRI
-
レンタルさんの新刊が出ました。
「レンタルなんもしない人」の最新刊、
『レンタルなんもしない人の
“もっと”なんもしなかった話(晶文社)』
が4月に発売になりました。
増田貴久さんが主演するTVドラマの原作本
『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』の
続編で、2019年2月から2020年1月までの
約1年間に起こった出来事を時系列で紹介。
「においをかいでほしい」
「作ったご飯を食べてほしい」
「人に話せない自慢を聞いてほしい」
「アンドロイドの練習に付き合ってほしい」
「仏像になりたいので見守ってほしい」
「呪いの人形と一晩過ごしてほしい」
などなど、レンタルさんに届いた依頼内容を
読めるノンフィクション・エッセイです。全国の書店やAmazonなどで販売中です。