「レンタルなんもしない人」を知ってますか?
ひとりの男性がTwitterを使ってはじめた活動で、
ごく簡単なうけこたえ以外
「なんもしない」自分を貸し出すサービスです。
なんもしないのに依頼が舞い込み、
一躍、話題の人になりました。
書籍になり、ドキュメンタリー番組になり、
増田貴久さん主演のドラマにまでなっています。
社会のルールや会社での評価に嫌気が差して、
逃げるようにして辿りついた道のりを、
「レンタルさん」こと森本祥司さんが語ります。
お話を訊いたのは「ほぼ日」の平野です。
レンタルなんもしない人
1983年生まれ。既婚、一男あり。
理系大学院卒業後、数学の教材執筆や編集などの
仕事をしつつ、コピーライターを目指すも
方向性の違いに気づき、いずれからも撤退。
「働くことが向いていない」と判明した現在は
「レンタルなんもしない人」のサービスに専従。
著書に『レンタルなんもしない人の
なんもしなかった話』
『レンタルなんもしない人の
“もっと”なんもしなかった話』(晶文社)、
『〈レンタルなんもしない人〉という
サービスをはじめます。
スペックゼロでお金と仕事と人間関係を
めぐって考えたこと』(河出書房新社)、
企画原案に『レンタルなんもしない人』
(第1巻、講談社・モーニングコミックス、
作画:プクプク)など多数。
- ーー
- 「レンタルなんもしない人」をはじめる前は、
会社員として働いていたんですよね。
お仕事をされていた頃と現在とで、
気持ちの変化はありましたか。
- レンタル
- 仕事をしていれば当たり前のことですけど、
成果を求められるとか期待をされるとか
評価が伴うとか、そういうのに馴染めなくて。
人事査定が怖かった、というのが
仕事を辞めることにした理由のひとつ。
いちいち評価されるのが怖かったんです。
- ーー
- 厳しい査定をされていたとかでもなく、
ただ見られることがイヤだった?
- レンタル
- 20代の自分が、かなり甘々だったんです。
本来なら、大失敗でもなければ
順当に行っていたはずなんですが、
全然貢献していないのに持ち上げられたりとか、
励まされたりする評価を気持ち悪く感じて。
他人の評価に左右されて
自分の行動指針を変えていく感じが、
よくないって本能的にわかっていたんです。
- ーー
- ということは、
学校の通信簿も嫌でした?
- レンタル
- 嫌でした。
わりと優等生タイプだったので、
いい成績はもらっていたんです。
でも、通信簿の「10」というのが嫌で。
- ーー
- えっ。
通信簿の「10」は最高評価ですよね?
- レンタル
- 「自分はあの問題を間違えたじゃないか」
と思ってしまうんです。
試験で80点台を出したのに
通信簿に「10」がついていて、
その相対評価が嫌だったんです。
いっそ、自分で自分の評価させてくれって。
- ーー
- そういう気持ちだったんですね。
もしも「レンタルなんもしない人」を
自分がレンタルできるとしたら、
どんなことをお願いしたいですか。
というよりまず、レンタルはしますか。
- レンタル
- 僕はあんまり人を信用できないので、
自分のフィルターを通り抜けた
ごく限られた人としか会わないと思うんです。
でも、自分みたいな人がもうひとりいたら
頼むことは何かあると思います。
たとえば、ゲームセンターのエアホッケーとか。
- ーー
- あ、意外です。
なぜエアホッケーを。
- レンタル
- あれ、なかなかやりづらいんですよ。
友だちとゲーセンに一緒に行くと、
ハイテクなものをみんなやりたがるんです。
その中でアナログなエアホッケーを
やりたいだなんて言いづらくて。
かと言って、エアホッケーだけのために
友だちを呼ぶのも気が引けちゃうので。
- ーー
- 身内でも誘いにくいですか。
- レンタル
- 身内でもちょっと誘いづらいですね。
「エアホッケーが好きなやつ」って
見られるのもちょっと嫌なんで。
あと考えられるのは、
単純に、人に言えない話を聞いてほしい。
- ーー
- いつもはレンタルさんが
依頼者の聞き役になっていますよね。
人に言えない話は、
活動しながら溜まっていくものですか。
- レンタル
- 僕もいろんな経験をするんで、
自分自身の話も溜まっていきます。
僕をレンタルしてくれている人も、
僕自身の話を聞きたいって
言ってくれる人もいるのですが、
そこでは言いたくないんです。
自分に興味を持って聞いてくる人には
言いたくない話があるので。
僕に何も興味を持ってない、
犬みたいな人になら言いたいですけど。
ただ話を聞いてくれればいいっていう
需要が僕にもあって、
依頼されているんだと思いますね。
- ーー
- 犬みたいな役割。
- レンタル
- 僕、犬っぽいって
たとえられることがあるんです。
Twitterのダイレクトメッセージに
ただただ自分の悩みを書き出して、
それに対して「大変でしたね」とだけ
返事してくださいっていう依頼もあるんですけど、
犬に「お手」をさせる感じに似てると思います。
犬が飼い主に忠実に従ってくれると、
満足感があるんだなって。
- ーー
- 答えを求めているわけではなくて、
言葉にしたり、発散したりすることで
すっきりできるんでしょうかね。
こういうレンタルをされたいな、
と考えていることってありますか。
- レンタル
- 「こういう依頼がいい」っていうのは、
言わないほうがいいかなと思ってます。
おもしろい依頼内容ばかり
ツイートしていた時があるんですが、
だんだんハードルが上がっていくんですよ。
それはやっぱり違うなという気がしています。
- ーー
- お話を聞いているうちに、
レンタルさんのやっている活動は
バックパッカーに似ている気がしてきたんです。
世界のいろんな地域を旅して、
その場で巻き込まれながら生きていく。
日本にいながら、
バックパッカーしていません?
- レンタル
- そういう喩えをしてくれる人もいます。
「なんか、新手のヒッチハイクだね」
とか言ってくれる人もいて、
そういう面もたぶんあると思います。
- ーー
- 初めてお会いしてみて、
こう言っては失礼かもしれませんが、
「なんもしない人」だから、
もっとドライな人なんだと思っていました。
これがレンタルの依頼だったら、
もっと「なんもしない人」になるんですか。
- レンタル
- 相手にもよりますね。
依頼の内容によっては、
ただいっしょにいるだけで、
あまり助言をしないでほしいという人もいます。
そういう時は依頼内容を
頭にちゃんと入れてから行くので、
自然とドライな感じになりますね。
- ーー
- いつも不安に思っている人もいれば、
逃げたい気持ちになっている人が、
増えていると思うんですよ。
そういった人がレンタルさんを知って、
あたらしい「じょうずな逃げ方」が
次々に生まれたらおもしろいです。
- レンタル
- 世の中には「仕事はこうあるべきだ」
「家族はこうあるべきだ」っていう、
支配的な価値観があるじゃないですか。
その支配的な価値観じゃないところで
生きざるを得ない人っていうのもいて、
僕もそのひとりなんです。
そういう人は支配的な価値観によって
道から外れたような発言を封じられていて、
結構つらい思いをしてるんじゃないかな。
- ーー
- 不安を抱えている時に、
勇気が出てくるようなお話でした。
今日はありがとうございました。
- レンタル
- こちらこそ、
ありがとうございました。
(おわります)
2020-05-09-SAT
-
レンタルさんの新刊が出ました。
「レンタルなんもしない人」の最新刊、
『レンタルなんもしない人の
“もっと”なんもしなかった話(晶文社)』
が4月に発売になりました。
増田貴久さんが主演するTVドラマの原作本
『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』の
続編で、2019年2月から2020年1月までの
約1年間に起こった出来事を時系列で紹介。
「においをかいでほしい」
「作ったご飯を食べてほしい」
「人に話せない自慢を聞いてほしい」
「アンドロイドの練習に付き合ってほしい」
「仏像になりたいので見守ってほしい」
「呪いの人形と一晩過ごしてほしい」
などなど、レンタルさんに届いた依頼内容を
読めるノンフィクション・エッセイです。全国の書店やAmazonなどで販売中です。