まるでジオラマのように風景を撮る、
本城直季さん。その作品、
どこかできっと、見たことあるはず。
「本城さん風」に加工できる
写真のアプリも登場するなど
一世を風靡したデビュー作以来、
この撮影絵方法で、
たんたんと世界を見つめてきました。
世界を見下ろすように撮るだなんて、
神さまになったような気持ち?
いえいえ、そこにあるのは、
「怖さ」「寂しさ」
という感情なんだそうです‥‥意外。
いったい、どうして?
静かに、語ってくださいました。
全5回、担当は「ほぼ日」奥野です。
本城直季(ほんじょうなおき)
1978年、東京都出身。東京工芸大学院芸術研究科メディアアート修了。2007年に実在の風景を独特のジオラマ写真のように撮影した写真集『small planet(2006年リトルモア刊)で木村伊兵衛写真賞を受賞。近年は、作品制作を続ける傍ら、ANAの機内誌『翼の王国』で連載するなど、幅広く活躍。主な展覧会に「plastic nature」nap gallery(東京, 2015)、「東京 l Tokyo」キャノンギャラリーS(東京 , 2016)など。主なパブリックコレクションに、東京都写真美術館(東京)、ヒューストン美術館(テキサス , アメリカ)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク , アメリカ)など。
第5回
何かが来るのを待っている。
- ──
- 本城さんが「街を見る」といった動機で
作品を撮ってらっしゃったこと、
自分は今日、はじめて知ったんですけど、
なるほどと合点がいきました。 - ヘリから撮る東京のビル群も、
真夜中に歩き回って撮る路地裏の風景も、
たしかに、
どちらも「街」を撮ってますものね。
- 本城
- 自分のなかでは「リアリティのない世界」
というイメージが、
街というものに対しては、ずっとあって。
- ──
- 街に、リアリティを感じていない?
- 本城
- 自分たちの住んでいる世界に、
なんとなくの疑問を感じているところが、
昔からあるんです。 - 街や都市に対して‥‥何なんだろうって。
- ──
- それは、具体的にはどういうことですか。
- 本城
- そうですね、たとえば、
つくられた世界に生きているというのは、
どういうことなんだろう‥‥とか。 - さっき話に出た山内悠さんが、
つくられた世界、都市、街の「外側」へ、
飛び出していくタイプとだすれば。
- ──
- はい。山内さん、
いつか宇宙にまで飛んでっちゃいそう。
- 本城
- ぼくは、逆に、その中から抜け出せずに、
飛び出せずに、
ずっとうごめいてるような感覚があって。
- ──
- じゃあ、ヘリで空から撮っているときも、
本城さんの意識は、街の中にある?
- 本城
- そうですね。
- ──
- 仲間に入りたくて寂しがってるんだけど、
意識は、街の「内側」にある。
- 本城
- そんな感じです。
ぼくは自分を納得させるために撮ってる、
それが、いちばんの動機なんです。
ずっと自分が抱いてきた疑問‥‥
街というものについて
「なんだか、不思議なところにいるなあ」
とか
「この街、これからどうなってくのかな」
とか、
その答えを見つけたいと思って、
いろいろ表現してるような気がしてます。
- ──
- 街かあ‥‥。
本城さんって、東京の生まれですか?
- 本城
- はい、目白ですね。住宅街で育ちました。
- でも、ちょっと行くと池袋で、
いきなり風景がガラッと変わるんですよ。
急に都会になる、世界が変わる。
そのことが、子ども心に本当に不思議で。
- ──
- 街に対して疑問や興味を抱いていたのは、
じゃ、それくらいのころからですか。
- 本城
- そうですね、思い返せば。
- ──
- いまも、その気持ちで街に向き合ってる。
- 本城
- はい。
- ──
- 自分はド田舎の生まれ育ちなんですけど、
小学校への道とかをいま歩くと、
すごくちっちゃく、狭く感じるんですね。 - 近所の川も、大きな流れに見えてたけど、
大人になって行ったら小川なんです。
それだけ、子どものころって、
まわりの世界が大きかったんだなあって。
- 本城
- ああ、なるほど。そうですね。
- ──
- 風景のサイズ感が現在と昔ではちがう。
- 本城さんの写真じゃないですけど、
心象風景的には、
ジオラマの中に住んでいたような感じ。
- 本城
- ぼくの場合、中学2年のときに
母が亡くなったことが、大きいんです。 - あのとき、夜中に、
ひとりで街をプラプラしてたんですね。
- ──
- そうなんですか。
- 本城
- はい、家にいると辛くなってしまって。
コンビニで立ち読みをするでも
何でもよかったんです。
とにかく家から街へ出て行きたかった。 - で、そのときに見る夜の風景の中では、
本当に、世界から、この街から、
自分が取り残されたように感じました。
- ──
- それって、不安な感情ですよね。
- 本城
- そう。そうですね。
- ──
- 寂しさ。街の中の。
- 本城
- そうです。
- ──
- むやみに、心臓がドキドキするような?
- 本城
- ああ、はい。
- ──
- ぼく自身は、
それを都会で感じたことはないですが、
亡くなった父が経営していた工場が
いま廃墟になっていて、
そのなかにポツンと立っていると、
強烈な「取り残され感」に襲われます。
- 本城
- そうなんですか。
- ──
- 自分が子どものころは
たくさんの人が出たり入ったりしてて、
機械の音がうるさくて。 - それがいまでは誰もいないし、
機械も動いていないし、
めちゃくちゃしーんと静まり返ってて、
サーッて空気の音すら聞こえる。
- 本城
- ええ、ええ。
- ──
- そこに立つと、
時間と空間に置き去りにされたような、
強い寂しさに襲われるんです。
同じ感覚かもしれない、もしかしたら。
- 本城
- そうですね。
- ──
- 本城さんは、あれを
都会のど真ん中で感じていたんですか。 - ちょっと話が飛躍するかもなんですが、
ぼく、写真というもの一般にも、
まったく同じドキドキを感じるんです。
- 本城
- あ、そうですか。
- ──
- だから、
あの感覚を知って持ってる本城さんが、
他ならぬ写真家であることに、
何だか、おお~って感じでした、いま。 - あいまいな質問になっちゃいますけど、
本城さんにとって、
写真ってどういうものだと思いますか。
- 本城
- ぼくにとっては、
まずは、
世界を淡々と見つめるためのものです。 - たまたま、
若いころはじめたジオラマ風の方法で、
これまで。
- ──
- 撮ってきた。つまり、見つめてきた。
- 本城
- でも、同時に、写真って、
コントロールできないものでもあって。 - 自分の意図したものを表現できますが、
自分の意図していないものも、
そこに、そのまんま、写ってるんです。
- ──
- なるほど。
- 本城
- 思うように表現できる部分と
完全にはコントロールできない部分が、
混じり合っている。 - そういうところが、おもしろいです。
- ──
- ただ、コントロールできないけれども、
この作品なんかも、
奇跡的って言ったら変ですけど、
自然の緑と赤い車の
色のバランスとかコントラストとか、
神さまがセッティングしたみたいです。
- 本城
- スウェーデンの公園ですね。
- ──
- この公園を上から撮ってみたいなあと
高いところを探したわけですよね。
- 本城
- そうですね。
- ──
- で、見つけて、登って、
カメラを構えて見下ろしたときに、
ここに
真っ赤な車が停まってたのは、
もう、ただの単なる偶然なんですよね。
- 本城
- 走ってますね。
- ──
- え、走って‥‥ああ、そうなんですか!
走ってるんだ、この車。
つい‥‥ジオラマじゃないですもんね。
- 本城
- 走ってました(笑)。
- ──
- ここに「赤」があるのとないのとでは、
大ちがいですよね。すごいな‥‥。 - つまり、白でも黒でも水色でもなくて、
このとき、たまたま
「赤い車」が来たのが奇跡的ですよね。
- 本城
- 明確に赤い車を待ってはないですけど、
まあ、でも、何かは待っていました。
- ──
- 何か。
- 本城
- はい。何だかはわからないんですけど、
それが来て、
「いまだ」という瞬間になる、何かを。
- ──
- で、その「何か」がこの赤い車だった。
- この東京タワーの写真でも、
ここに「はとバス」が見えてますけど。
- 本城
- 待ってました。
- このときは、明確に、「はとバス」を。
- ──
- つまり、黄色いはとバスが、
こんもりした緑の中から姿を現すのを。
- 本城
- はい。
- ──
- つまり「待つ仕事」でもあるんですね。
- 本城
- そうですね。けっこう「待って」ます。
- ──
- 大きなカメラの後ろで
そのときが来るのを静かに待っている
本城さんの姿を想像すると、
写真の中の世界の「時間」を感じます。
- 本城
- 何だろう‥‥どの写真でも、
やっぱり、何かが来るのを待ってます。
- ──
- じゃ、このプールの作品は?
- 本城さんのなかでも有名な作品ですが、
これも、何かを待って‥‥いる?
- 本城
- このときは「この日」を待ってました。
- ──
- ああー‥‥えっと、つまり?
- 本城
- お盆休みのまんなかの晴れの日曜日で、
いちばん人出が多くなる日なんです。
- ──
- そういうことか!
- 本城
- こうやって写真に撮ると、
そんなに多く感じないじゃないですか。 - でも、下に降りると大混雑で、
人だらけでグッチャグチャなんですよ。
- ──
- へえ‥‥いやあ、飽きないなあ(笑)。
本城さんの写真。 - よく言われますよね、飽きませんって。
- 本城
- 言われますね(笑)。
- ──
- こんなにもずーっと見ていられて、
あーだこーだと
いろんなおしゃべりができる写真って、
なかなかないと思います。 - あれっ、これヒョードルじゃないかな。
- 本城
- ええっと‥‥。
- ──
- この構えと体型からして‥‥
当時のPRIDEヘビー級チャンピオンで、
「氷の拳を持つ男」と言われた
ヒョードルじゃないかな‥‥。 - いや‥‥どうだろう、ちがうかな‥‥。
- 本城
- ちょっと、おぼえてないです(笑)。
(終わります)
2022-04-22-FRI
-
東京都写真美術館で
本城直季さんの個展を開催中。本城直季さんのはじめての大規模個展が
現在、恵比寿の
東京都写真美術館で開催されています。
タイトルは
「本城直季 (un)real utopia」です。
刊行するやいなや
「ジオラマ風」の作品で一世を風靡し、
木村伊兵衛写真賞を受賞した
『small planet』からの作品をはじめ、
アフリカ・サバンナの動物たちを撮った
初公開の「kenya」シリーズ、
震災3ヶ月後の被災地を空撮した
「tohoku 311」シリーズ‥‥などなど、
見ごたえ満点の展覧会。
インタビュー中でも話していますが、
自分は、はじめて大きく引き伸ばされた
ジオラマ風作品を目の当たりにして、
本城作品のもつ力に心を動かされました。
会期は、5月15日(日)まで。
詳しいことは、公式サイトでご確認を。
ぜひぜひ、足をおはこびください。