突然ですが、韓国ドラマ、見てますか?
そして見ていると、なんだかやたらと
おいしそうな食べもののシーンが
たくさん出てくる気がしませんか。
韓国料理の基本的な知識があったら、
ドラマをますますたのしく
見られるんじゃないかと、
韓国伝統料理研究家のなすんじゃさんと
アシスタントのイムチェミョンさんに
お話をうかがってみました。
せっかくなので、実際に少し作って
料理に親しんでもらうことができたらと、
簡単なキムチやナムル、
チヂミなどの作り方もご紹介します。
韓国の文化が気になるみなさん、
ぜひ、お読みになってみてください。

協力:小池花恵(and recipe)

※記事内で登場する料理の作り方は、
「ほぼ日の學校」
くわしい映像を見ることができます。

>なすんじゃさんプロフィール

な すんじゃ(羅 順子)

韓国伝統料理研究家、講師
(宮廷料理、郷土料理、家庭料理)。
韓国の歴史、文化を背景として育まれた食文化を研究。
東京・京都を中心に各地で料理教室を行う。
京都出身、在日韓国人2世。
1996年に韓国に留学し、
韓国王朝宮中飲食伝授期間 宮中飲食研究院にて
宮廷料理の第一人者である
ファンヘソン氏に師事。
東京・麻布十番にあった韓国料理店
「文家(moon-ga)」元料理長。
著書に
『なすんじゃさんのキムチ・ナムルとおかずの教室』(アノニマ・スタジオ)、
『こんなに使える手作りコチュヂャン』
『干し野菜のラクうまレシピ』
(ともに家の光協会)がある。

前へ目次ページへ次へ

1_韓国料理って、どんなもの?

──
今日はよろしくおねがいいたします。
まずは自己紹介をお願いできますか?
すんじゃ
はい、なすんじゃと申します。
よろしくおねがいいたします。

すんじゃ
私は京都生まれの在日二世で、
若い頃にお料理の専門学校で、
京都の家庭料理のようなものを学びました。
そこから韓国料理ができると思われて、
23歳くらいのとき、若い在日の青年の団体から
「韓国料理の講習会をやってくれないか」
と依頼されたのが、
料理を教えるようになったきっかけです。
当時の日本はいまみたいに
韓国の料理本なんて出ていないので、
領事館が出している広報向けの
韓国語まじりの料理のレシピを
自分で起こすところからはじめたんですね。
──
そこからいろいろと学ばれて。
すんじゃ
ええ。40代後半までは
「韓国料理が少しはできる人」
くらいの感じで教えておりました。
でもあるとき、自分がいままで教えてきた
韓国料理がいったい本当なのか、
どこまで近いのかを見極めたくなって、
思い切って49歳で韓国に留学したんです。
延世大学のオハッタン
(語学堂/留学生が韓国語を学ぶ場所)で、
語学と歴史と政治を専攻して。
それで留学をはじめて3か月ほど経った頃、
ある人のご紹介で
ファンへソン(黄慧性)先生の
宮中飲食研究所にお邪魔したんです。
そのときに先生が以前、いまの京都女子大学に
留学していたことを知ったんですね。
そこで先生が、流暢できれいな日本語で、
まだしどろもどろの韓国語の私に、
「とりあえず引き受けるからいらっしゃい」
と言ってくださったんです。

すんじゃ
そこからは学校が終わると
すぐに先生の研究所に向かうという、
大学と研究所を
飛んで跳ねて行き来する日々を過ごしました。
当時、先生の研究所で
宮廷料理を全部「習得」するには
13年間通う必要があったんです。
だけど私の場合は
「これだけのレシピを全部こなせば
『終了』になる」というかたちで、
2年間で学ばせていただいたんですね。
先生には個人的にも
非常によくしていただきました。
──
ファンへソン先生というのは、
韓国では有名な方なのでしょうか。
すんじゃ
宮廷料理の第一人者で、
日本でいうなら重要無形文化財の
保持者のような方ですね。
先生はもともと大学で家政科の先生を
されていたんですが、
日本人の先生から言われたという
「韓国人のあなたが
韓国の伝統料理をやらなければ」
という言葉で宮廷料理の道に進み、
研究所を作っていかれた方です。
とっても気さくで、
まったく偉ぶらない方なんですけど。
ただ、当時はまだ
「チャングム」(※)のブームが
来てなかったんですね。
──
あぁ、「チャングム」!

「宮廷女官 チャングムの誓い」(2003)

アジア中で大ヒットした超人気歴史ドラマ。
厳しい身分制度の時代に
不幸な家庭環境に生まれたチャングムが、
宮廷料理人として、また女医として
活躍していく様子を描く。

すんじゃ
だから先生もよく
「宮廷料理の本を作っても売れないのよ」
と言ってはったんです。
それが「チャングム」の大ブレイクで、
宮廷料理飲食研究所の価値が
一気に見直されて。
いろんな人が「自分たちの国には
宮廷料理というものが存在して、
伝承している人がいるんだ」
と注目するようになったんです。
それで先生、やっと日の目を見たという。
──
ではなすんじゃさんは、
そのファンヘソン先生の流れを受け継いだ
韓国料理を教えていらっしゃるという。
すんじゃ
そうですね。
韓国の宮廷料理および、
郷土料理、家庭料理をお教えしています。
みなさんが耳にしたことがあるものから、
まったく見たことがないものまで、
いろんな教室を開いています。

──
今日は韓国料理の基本を
教えていただけたらと思うのですが、
まず最初に韓国料理って、
どんな特徴があるのでしょうか?
すんじゃ
材料的には
「日本とよく似たものやなぁ」って
気もするんですけどね。
韓国にも春夏秋冬の四季がありますし。
ただ朝鮮半島は三方が海、
一方が大陸につながっているんですね。
そこからきた肉食の文化は、
日本と大きく違うところかなと思います。
韓国も長い歴史の中では仏教国になって、
公には「肉は食べたらあかん」という
時期もあったんです。
けれどもずーっと肉を食べ続けてきた
DNAがありますから。
時代が変わて、儒教の朝鮮時代になったとき、
お肉という食文化が
あらためて花開いた感じがあるんですね。
──
たしかにおいしい肉料理が
たくさんあるイメージがあります。
すんじゃ
また日本だと調味料と香辛料って別で、
おしょうゆ、塩、みりんなどで
味つけをしますよね。
ですが韓国では調味料と香辛料を
組み合わせて使うんです。
しょうゆ、唐辛子、こしょう、にんにく、
ショウガなどを混ぜ合わせた
「ヤンニョン(薬念)」というもので
調理します。
そこはもう明確に違うところですね。
このヤンニョンという言葉には、
「薬のように体によいもの」であり、
同時に「念じる」という意味も
こめられているんですけど。

──
へぇー。
すんじゃ
また陰陽五行からくる
「五味五色」の考え方がベースにあるところも
かなり違うなと思います。
「5つの味に5つの色」と
食べものを区分けして、
料理をそこから組み立てていくんです。
そのほか「全体食」という、
素材をまるごといただく考え方も
韓国の料理に特徴的なものですね。
「部分だけでなく全体を食べるのが望ましい」
という考え方で、
鶏もまるまる1匹を調理しますし、
魚も切り身でなく、
サバ1匹をそのまま焼いたり。
野菜は葉も茎も根もぜんぶ食べるし、
野草のタンポポなら葉っぱも根も食べる。
そういう感覚がありますね。

(つづきます)

2022-12-16-FRI

前へ目次ページへ次へ
  • 「ほぼ日の學校」の映像バージョンも、ぜひどうぞ。

    韓国ドラマがますますたのしくなる韓国料理入門。1.食文化と調理道具のこと

    韓国ドラマがますますたのしくなる韓国料理入門。2.よく使う調味料とキムチの話

    韓国ドラマがますますたのしくなる韓国料理入門。3.ナムルからピビンパを作る

    韓国ドラマがますますたのしくなる韓国料理入門。4.ヂョン(チヂミ)の焼き方