突然ですが、韓国ドラマ、見てますか?
そして見ていると、なんだかやたらと
おいしそうな食べもののシーンが
たくさん出てくる気がしませんか。
韓国料理の基本的な知識があったら、
ドラマをますますたのしく
見られるんじゃないかと、
韓国伝統料理研究家のなすんじゃさんと
アシスタントのイムチェミョンさんに
お話をうかがってみました。
せっかくなので、実際に少し作って
料理に親しんでもらうことができたらと、
簡単なキムチやナムル、
チヂミなどの作り方もご紹介します。
韓国の文化が気になるみなさん、
ぜひ、お読みになってみてください。

協力:小池花恵(and recipe)

※記事内で登場する料理の作り方は、
「ほぼ日の學校」
くわしい映像を見ることができます。

>なすんじゃさんプロフィール

な すんじゃ(羅 順子)

韓国伝統料理研究家、講師
(宮廷料理、郷土料理、家庭料理)。
韓国の歴史、文化を背景として育まれた食文化を研究。
東京・京都を中心に各地で料理教室を行う。
京都出身、在日韓国人2世。
1996年に韓国に留学し、
韓国王朝宮中飲食伝授期間 宮中飲食研究院にて
宮廷料理の第一人者である
ファンヘソン氏に師事。
東京・麻布十番にあった韓国料理店
「文家(moon-ga)」元料理長。
著書に
『なすんじゃさんのキムチ・ナムルとおかずの教室』(アノニマ・スタジオ)、
『こんなに使える手作りコチュヂャン』
『干し野菜のラクうまレシピ』
(ともに家の光協会)がある。

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11_韓国ドラマと料理の話。

──
最後にせっかくなので、ドラマの話も
お聞きできたらと思っていますが、
すんじゃさんも韓国ドラマを
けっこう観たりしますか?
すんじゃ
もともと見てたんですが、
いまはコロナ禍で韓国に行けないので、
余計にずっと観るようになってしまいました(笑)。

全員
(笑)
すんじゃ
韓国のドラマを観てると、
ほんとに食べるシーンが多いんですね。
欧米のドラマだとコーヒーは飲んでも、
ほとんど食べるシーンがなくて、
パンにピーナッツバターを塗って
かじるくらいだったりしますけど。
韓国ドラマでは、なじみのある料理を
見かけることも多いですし、
食べものなしには語れないシーンが
いっぱいあって。
食べることが非常にうまく
溶け込んでいるなと感じますね。
──
たしかに。
すんじゃ
日本でも大ヒットした
『愛の不時着』や『梨泰院クラス』も、
いろんな料理が出てくるんです。
『愛の不時着』は半分舞台が北朝鮮なので、
「こんな料理ほんまかしら」
と思いながら、とてもたのしく観ました。

『愛の不時着』(2019)

パラグライダーの事故で
北朝鮮に緊急着陸した財閥の跡取り娘と、
北朝鮮の将校のラブストーリー。

すんじゃ
いちばんすごいなと思ったのは、
主人公の男性が女性に
とうもろこし麺を作ってあげるんですけど、
家に立派な押し出し式の機械があるんですよ。
「う~ん、北朝鮮で、この自家製の
押し出しの機械を持っているのか」
「北で偉い人やさかいに、
こんな道具を持ってんやな」
「この機械あったら、私も欲しいな」
というような、思わんでも
ええようなことを思いながら(笑)。
非常に素朴な料理ひとつとっても、
盛りつけがあまりにもきれいで感動したり。
主人公が「スンニュン」と呼ばれる
おこげを食べて喜ぶ場面も
印象的でしたね。
「ああ、お金持ちのお嬢様だとたしかに
おこげを食べる機会はないか」と思ったり。
鉄釜で炊いたおこげを、
そのままお菓子のように食べたり、
お湯をさしておかゆにしたりして食べる
庶民の食べものがあるんですけど、
そういうものが登場するんです。
あとはそれこそ北朝鮮から来た兵隊が、
南の韓国のチキン屋さんのチキンに憧れるとか。
「韓国で象徴的なチキン屋さんが、
ここにも出てきたか」と思ったり(笑)。

──
『梨泰院クラス』は、それこそ
食べものがたくさん出てきますよね。
すんじゃ
そう、『梨泰院クラス』は
食の世界が舞台なので、
実は外食産業の料理ということでは、
そこまで強烈な印象がないんですね。

『梨泰院クラス』(2020)

ソウルの梨泰院地区を舞台に、
飲食業界での成功を目指して
仲間とともに奮闘する若者たちの物語。

すんじゃ
でも一番はじめ、
主人公の男性が高校生のときに、
お父さんに朝ごはんを作るシーンがあるんです。
それは「ポックンパッ」という
韓国式のチャーハンで、
上に目玉焼きをのっけたものですけど。
それをテーブルに持っていくとき、見ていたら、
お膳に並んでいるおかずの数が、
キムチ、もやしのスープのほかに、
やはり3品だったんですね。
「こんなとこでも3品のおかずなんやな」と。
すごく質素な食事のシーンですけど、
その様子がとてもきれいで、
主人公の精神の清らかさを
象徴しているように私には思えたんですね。
まあ『梨泰院クラス』は、
それからドロドロ、ドロドロ、
いろんなドラマがあるわけですけど(笑)。
すごくおもしろいドラマなんですね。
あと、最後に主人公が敵対する人に
自分の作ったスンドゥブチゲを
食べさせる場面があるんです。
そのとき相手が「この味は‥‥」って
言うんですけど、
それは主人公がお父さんの作り方を
そばで見てて覚えたものなんですね。
そしてそれが、私たちがお教えしている
スンドゥブの作り方と同じなんです。
言葉で「こんな料理ですよ」とかの
説明はしないけれど、
どんなものを入れたかは映像からわかって。
最近よくあるタデギを使った作り方じゃなくて、
唐辛子に火を入れて油を作った唐辛子油を、
お豆腐を煮たお鍋の上にかけたものなんです。
だから
「あ、本式のスンドゥブを作ってるな」と。
昔からやってる典型的な辛い
スンドゥブを出していて
「ああ、いいなぁ」と思ったんです。

すんじゃ
最近はスンドゥブチゲって
「お豆腐にいろんな野菜を入れて
辛くすればいい」みたいな感覚で
作る人も多いんですね。
さらに「キムチが入ったスンドゥブチゲ」
とか言われると、私なんかは
「う~ん、ちょっと違うな」って思うんですけど。
だからあのシーンは、
なんだか料理をやってる私が
「ありがとう」って言いたくなるくらい、
スンドゥブチゲの本当のおいしさを
表現してるシーンで、
すごくええなあと思いました。
──
ほかにも食べものが
印象的だったドラマってありますか?
すんじゃ
たくさんありますけど、最近のものだと
いまぱっと思い出したのは
『気象庁の人々』ですね。
「どんぐりのムッ(どんぐり豆腐)」
という料理を作るシーンがあったんですよ。

『気象庁の人々 社内恋愛は予測不能?!』(2022)

気象庁を舞台に、気象予報官たちの
複雑な社内恋愛が描かれる
ロマンティック・コメディ。

すんじゃ
それは亡くなったお父さんの好物で、
命日が近づいてきたからということで、
お母さんが「これを作らなくちゃ」と
料理するという場面だったんですけど。
私も大好きなんですけど、これは
チュンチョンド(忠清道)のほうの
伝統的な料理なんですね。
どんぐりの粉を沈殿させてアクを抜いて、
それを固めてちょっと太めの麺のように切って、
スープの中に入れて食べるものですけど。
見た目はすごく質素なんですけど、
実はけっこう手間ひまがかかるんです。
どんぐり自体を固めるのは
どうともないんですけど、
牛のすね肉を時間をかけて煮込むので、
スープにものすごい時間とお金がかかるんですね。
そういうのが出てきて
「ああ、いい食べものを紹介してるなあ」
と思いましたね(笑)。
──
食べものと関係なく、
大好きなドラマってありますか?
すんじゃ
韓国に留学したきっかけのひとつは
『砂時計』ですね。
最初に観たときに、
「このドラマをどうしても自分の耳で
本当に理解したい」と思ったんです。

『砂時計』(1995)

1970年代から1990年代までの激動の韓国現代史を、
3人の主人公を通して描いた社会派ドラマ。
1980年代の韓国で実際に起きた
民主化運動を背景に描かれている。

すんじゃ
最初は、大学の先生をしてる友人から
「いまこういうドラマが
流行ってんねんけど観てくれへん?」
と言われたんです。
それで
「言葉がほとんどわからないけど大丈夫?」
と聞いたら、
「いや、とりあえず観て、印象を聞かせて。
大学の授業で使うかどうか考えてんねん」
と言われて、それで観はじめたんです。
そうすると、言葉はわからないのに、
すーっと引き込まれたんですね。
それで
「わぁ、このいま言った言葉は
何の意味やろう?」
「ああ、本当の意味や感覚を知りたい!」
と思えて、それが留学する
きっかけになったんです。

すんじゃ
当時はビデオの時代だったので、
留学自体にもそのドラマの
ビデオカセットを持って行ったんですね。
それで言葉がわかるにつれて、
ちょっとずつ聞き取って
「ああ、こういう言葉だったのか」
ということを理解して。
そのドラマは私にすごく影響を与えてますね。
『砂時計』は韓国の現代史における
非常に重要なことが
いっぱい出てくるドラマやったんで、
日本に戻ったあと、このドラマをもとに
時代背景を説明する講座をやりました(笑)。
──
最近のものだとどうでしょう?
すんじゃ
最近見て大好きだったのは
『ミスター・サンシャイン』ですね。
これはNetflixで観られます。

『ミスター・サンシャイン』(2018)

20世紀初頭の朝鮮半島を舞台に、
幼い頃にアメリカに渡り、将校となった男が、
朝鮮に戻り体験する出来事を描いたドラマ。

すんじゃ
朝鮮時代末期、孤児でアメリカに渡った韓国人が、
アメリカ人になって韓国に戻って
‥‥というものですけど、
多様な人が出てくるんですね。
アメリカから戻った韓国人、
韓国に住んでいる日本人、
韓国でヤンバン(両班)のお嬢様として
育てられてきた女性とか。
いろんな人が出てきて、非常におもしろいんです。
特にすごいのが、
韓国の美しい風景と、衣装。
衣装の美しさが際立っていて、
貧しい人のものまで本当に美しいんです。
時代考証がすごくて、
食べものも、鶏をまるまる
一匹炊いたものが出てきたり、
韓国に初めてビールが入ってきて
飲んでるシーンがあったり。
「この時代はこうやったんやな」
がわかって、すごくおもしろいですね。
当時の乗りものなども登場するんですけど。
だから長いのに、2回観ちゃった(笑)。
1回目はストーリーを追っていて
どうしても見逃すところがありますから。

──
すんじゃさん、今日はいろいろと
ありがとうございました。
すんじゃ
こちらこそ。
みなさん、たのしんでいただけていたら
いいなと思いながら。
振り返ると、ずいぶんたくさんのものを
作ったなと思います。
キムチにはじまり、
ナムルがピビンパに行き着き、
もやしのナムルからはスープもできて、
ヂョンまで幅広く。
とはいえ、どれも手軽に
作っていただけるものばかりですので、
ぜひ躊躇せずお作りいただいて
「韓国料理って私でも作れるんだ」
と感じていただけたら
とてもうれしいなと思います。
そしてドラマなどを見ながら
ここで出てきた料理を見かけたら、
「あ、これはなすんじゃさんが
言っていたものだな」などと親しんで、
どんどん興味の幅を広げていただけたらなと
思います。
どうもありがとうございました。

撮影終わりに、この日のスタッフみんなで。 撮影終わりに、この日のスタッフみんなで。

(おしまいです。お読みいただきありがとうございました)

2022-12-26-MON

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  • 「ほぼ日の學校」の映像バージョンも、ぜひどうぞ。

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