ほぼ日あっちこっち隊が、
このところ通いはじめている場所があります。
それが北海道の北東部にある
西興部(にしおこっぺ)村。
オホーツク紋別空港から車で約1時間、
人口1000人弱のちいさな村。
たっぷりと深い山あいに、
土地のおもしろさも厳しさもすべて受け止めて、
ゆかいに暮らす人たちがいます。
訪れたきっかけは、山登りをしているなかで、
エゾシカの食害問題について、
もっと知りたいと思ったこと。
実際に訪れてみると、シカの話にとどまらず、
都会とは全く異なる人々の暮らし方に、
心の奥が揺さぶられる感覚がありました。
このおもしろさを、いろんな人と共有できたら。
あっちこっち隊・西興部村編、スタートです。

写真|前田景
ヘッダーのイラスト|ワタナベケンイチ

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1)あっちこっち隊は、なぜ西興部へ?

 
こんにちは。ほぼ日のやすなです。
北海道の道東エリアにある、
西興部(にしおこっぺ)という村を
ご紹介させてください。
場所は、紋別空港から
車で西へと約1時間ほど、
オホーツク海沿いの
港町らしい風情を眺めながら走り、
そこから内陸へと進むと
面積のほとんどを森林に覆われた
西興部村に到着します。

▲オホーツク紋別空港。
撮影|ほぼ日 ▲オホーツク紋別空港。
撮影|ほぼ日

▲オホーツク海沿いの気持ちの良い道をぐんぐん走り。
撮影|ほぼ日 ▲オホーツク海沿いの気持ちの良い道をぐんぐん走り。
撮影|ほぼ日

▲美しい森を眺めながらすすむと。
撮影|前田景 ▲美しい森を眺めながらすすむと。
撮影|前田景

▲西興部村にたどりつきます。
撮影|前田景 ▲西興部村にたどりつきます。
撮影|前田景

 
酪農がさかんな村で、
なだらかで深い山あいに農村地帯が広がり、
広大な牧草地や農地が見られます。
草を食む牛たちの、のどかなこと。
左右には牧草地帯が広がります。
こんな気持ちのいい場所で育つ牛のミルクは
さぞかしおいしいのだろうと、
現地の「グラスフェッド(=牧草飼育)」
と呼ばれる牛のソフトクリームを
食べてみたら、大正解でした。

▲グラスフェッドの牛たち。
撮影|前田景 ▲グラスフェッドの牛たち。
撮影|前田景

 
さて、いろんな地域の方との関わりのなかで
おもしろいことをできたらと動いている
「ほぼ日あっちこっち隊」が、
少し前から通いはじめている場所の
ひとつが、この西興部村です。
まずは2024年の4月に、村でおこなわれている
エコツアーに参加するために、
おなじくあっちこっち隊のさなみを誘って、
はじめて訪問しました。
そこでおもしろさを感じて、また6月に再訪。
そのあと、ほぼ日のけっこう大勢の
メンバーといっしょに、9月にも訪れました。

▲9月に大勢で訪れたときの様子。
撮影|ほぼ日 ▲9月に大勢で訪れたときの様子。
撮影|ほぼ日

 
わたしたちが最初にこの村のことを知ったのは、
増え続けるエゾシカの話がきっかけでした。

▲エゾシカたち。
撮影|前田景 ▲エゾシカたち。
撮影|前田景

 
実は現在、日本の各地の自然が、
シカによる食害に悩まされています。
農業や林業が受けるダメージも、
ピーク時からは下がっているものの、
年間150億とおおきな損害。
その4割ほどがシカによるもので、
地域別では北海道が約7割を占めます。
わたしは趣味の山登りを通じて
各地を巡っていますが、
近年、高山植物のお花が年々減り、
若い木の芽や葉は食べられ、
樹木の皮ははがされと、
目にする景色の明確な変化を感じてきました。

▲食べられてしまっている樹木の皮。
撮影|前田景 ▲食べられてしまっている樹木の皮。
撮影|前田景

 
自然をたのしむひとりとして、
なにかできることはないのかと、
あれこれ調べるなかで出会ったのが、
北海道江別にある酪農学園大学の
伊吾田宏正(いごた・ひろまさ)先生でした。
狩猟管理学を研究する伊吾田先生によると、
北海道には現在、推定で
70万頭以上のエゾシカがいて、
年間約20%の勢いで増加しているのだとか。
そうやって増え続けるシカが
自然のバランスを崩す事態になっています。
食害だけではなく、都市近郊への出没や、
車とぶつかる交通事故の増加なども
各地で増え続けています。

▲山道で出会ったエゾシカ。
撮影|前田景 ▲山道で出会ったエゾシカ。
撮影|前田景

 
伊吾田先生は
「大切なのは個体数管理」とおっしゃいます。
いまは、エゾシカの数は増えすぎている状態です。
人が関わって、適切な個体数を管理することが
生物多様性の維持の観点からも、
大切であるということを教わりました。
とはいえ、個体数管理をすることは、
簡単なことではありません。
数を減らすために捕獲を急速に進めると、
シカが学習して、獲りづらくなってしまう。
また、ジビエが話題になり、需要が伸びすぎても、
動物愛護の観点などから反対意見が出て、
生物多様性の維持の議論が
置き去りになる可能性がある。
捕獲量だけが増えても、
処理施設、流通のキャパシティといった
地域ごとの事情があり、
ジビエや革の活用が難しいところもある。
各地でさまざまな被害が出ていても、
問題に向き合っているのは、
被害が実際に目に見える地域の人たちだけ。
都心に暮らす人たちにはピンとこない、
なじみの薄いテーマになってしまっていることも、
行き詰まりのひとつの要因かもと感じました。

▲伊吾田宏正先生。
撮影|ほぼ日 ▲伊吾田宏正先生。
撮影|ほぼ日

 
そんななか、伊吾田先生から、
シカの問題について、
「全国に先駆けて、美しい自然を守りながら、
豊かな暮らしも目指して、
前向きにとりくんでいるエリアがある」と
教えてもらったのが、
北海道の西興部村でした。
西興部村は、20年ほど前から
鳥獣保護管理法での「猟区」になっています。
狩猟のルールを、その区域の管理者が
独自に決めることができる場所です。
西興部村では、NPO法人が主体となって、
ガイド付きのエコツアーを実施し、
エゾシカを地域の自然資源として
積極的に管理していく試みを
スタートさせているのだとか。

▲西興部村の狩猟関連施設「ワイルドミート」。
撮影|ほぼ日 ▲西興部村の狩猟関連施設「ワイルドミート」。
撮影|ほぼ日

 
その西興部村のエコツアーに参加すると、
エゾシカのハンティングへの同行や、
解体現場の見学、問題についての講義、
ジビエ料理のバーベキュー、
革や角を活用したクラフト作りなどを
体験できるとのこと。
村で暮らす人々の、
日々の自然との関わり方について、
直接学ばせていただくことができそうです。
とはいえ、狩猟‥‥。
ちょっとハードルが高いかな、と
気になりながらも、
さなみとふたりでエコツアーに
参加させてもらうことにしました。

▲西興部村の山道。
撮影|前田景 ▲西興部村の山道。
撮影|前田景

(つづきます)

2025-01-02-THU

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