ぼくは作曲家になりますと言った
高校2年生が、
のちの「大橋トリオ」になった。
ひとりの青年が、
音楽家として歩みはじめるときの、
一瞬だけど、強烈なできごと。
大きな会場を満員にする現在から、
「はじまりの物語」までを、
遡るように、逆再生するように、
お話くださいました。
大橋トリオさんの創作論、音楽観。
大橋トリオを生んだひとつの言葉。
担当は「ほぼ日」奥野です。
写真:金壮龍
協力:Rainy Day Bookstore & Cafe
大橋トリオ
大橋トリオとして2007年にデビュー。
もうひとつの顔として、
テレビドラマやCM・映画音楽の作家としても活動。
代表作に、映画『余命1 ヶ月の花嫁』(09)、
『雷桜』(10)、『P とJK』(17)など。
最近では、
NHK Eテレ子供向け番組『にゃんぼー』の音楽や、
TBS 番組『世界遺産』のテーマ曲も担当。
2017年にデビュー10 周年を迎え、
2019 年2 月13 日に最新アルバム
「THUNDERBIRD」をリリース。
2019 年全国ホールツアー
『ohashiTrio HALL TOUR 2019 ~TUNDERBIRD ~』
を開催中。
大橋トリオさんの公式サイトは、こちら。
- ──
- 自分には、あこがれの職業が3つあって、
画家と写真家と音楽家なんです。
- 大橋
- ああ、そうなんですか。
- ──
- なので、画家のかたと写真家のかたには、
わりと取材しているのですが、
音楽家、ミュージシャンについては、
あんまりインタビューできてないんです。
- 大橋
- どうしてですか。
- ──
- もちろん、そう簡単じゃないことは
重々承知のうえで‥‥ですが、
画家が絵を描く方法は理解できるし、
写真家が写真を撮ることも、
まあ、想像できる範囲といいますか、
頭では理解できるんです。
- 大橋
- ええ。
- ──
- でも、音楽家が、どうやって
音楽をつくっているのかについては、
あまりにも、わからなくて。
- 大橋
- なるほど。
- ──
- なので
「どうやって、つくっているんですか。
音楽というものを」
というところから、
まずは、お聞きしたいなと思いました。
- 大橋
- んー‥‥あらためて、そう聞かれると、
あんまり考えたことないですね。 - まあ、少なくとも自分の場合、
いわゆる「降ってくる」とかいうのは
一切ないので、つくるとなったら、
ピアノなりギターなり、
楽器に真っ正面から向き合って、
パソコンを立ち上げて‥‥という感じ。
- ──
- つくるぞと思って、つくっている。
- 大橋
- で、弾いて、歌って、聴いて、
「あ、今のいいかも、録音しておこう」
って感じで録って、
また弾いて、歌って、聴いて、
「ここは、こんな感じがいいかなあ」
とかやったりしながら、
なんとかBメロまでたどりついて‥‥。
- ──
- けっこう「一歩ずつ」なんですね。
- 大橋
- めちゃくちゃ「一歩ずつ」ですよ。
- 録ってはみたけど
聴いてみて「ダメだ」と思ったものも、
アイディアの欠片として、
捨てずに残しておくんですけどね。
- ──
- ええ。
- 大橋
- アルバムを1枚つくり終えるころには、
そういうアイディアのファイルが
100とか、150とか、たまってるから。
- ──
- それらの「欠片」は、
いつの日か、日の目を見ることも‥‥。
- 大橋
- まあ‥‥あるにはあるんですけど、
めんどくさいんです、
そういうファイルいちいち開くの。
- ──
- そう思います、知らないながら。
- 大橋
- なんか、こんな感じなのあったな、
みたいに、
ぼんやり覚えていたフレーズが、
あとで復活することはありますが。
- ──
- 後ろを振り返らないタイプ。
- 大橋
- 何なんでしょうね。残してるくせにね。
- 過去の自分よりも、
そのときの自分のほうが経験も積んで、
新しい音楽にも出会っているから、
過去より絶対、
いいフレーズを思いつくはずと信じて、
まあ、やってる感じです。
- ──
- 音楽って、もっとパーンと勢いよく、
あるいは流れるようにスラスラと
生まれてくるものなんじゃないかと、
思っていたのですが。 - 朝、起きたら「イエスタデイ」が
頭のなかでなっていた‥‥みたいな。
- 大橋
- あ、一気にできちゃう曲は、
かなり信用できますね。
- ──
- おお、そうですか。
- 大橋
- ピアノ、ギター、ベース、ピアノ‥‥
各楽器が綺麗にバランスして、
AメロもBメロもサビもうまくいって、
イントロも、
いっぺんにワーッとできちゃった曲は、
かなり、信用できます。 - 音質も、ばちっと決まったりして。
- ──
- 音の質も大事ですか。
- 大橋
- そこから見えてくるメロディとか、
思いつくアイディアが、
ぜんぜん、変わってきちゃうんで。
- ──
- 音質いかんで。
- 大橋
- 僕、できた曲は、
とにかく何回も聴くんですよ、爆音で。
- ──
- 爆音で?
- 大橋
- で、踊るんです。
- ──
- 踊る!
- 大橋
- はい。
- ──
- なぜ、踊る‥‥。
- 大橋
- 踊りたくなったら「正解」なんです。
たとえダンスチューンじゃなくても。
- ──
- バラードでも。
- 大橋
- そう、自然に身体が動いちゃうような。
- で、いっぺんにできちゃった曲って、
ほぼ例外なく「踊りたくなる」んです。
- ──
- 踊りたくなる自分を、信用している。
- 大橋
- そうですね。だいぶ、そうです。
- ──
- その「いっぺんにできる」というのは、
時間にすると、どれくらいですか。
- 大橋
- んー‥‥速いときは1時間くらい。
- ──
- 速!
- 大橋
- いや、「ワンコーラス」だけですよ。
そこが決まれば全体像が見えるので。
- ──
- ワンコーラスで「わかる」んですね。
- 大橋
- わかります‥‥し、完成させるには、
やっぱり、
もっともっと時間がかかるんです。 - でも、そのワンコーラスを軸にして、
このあと
どういうふうに展開しようかって
いろいろ試しながら、
ギターソロとか考えていくんですが、
そのときは、もう、
完全に「遊んでる」感じになってる。
- ──
- 楽しそう。
- 大橋
- 楽しいですよ。
- ──
- 生みの苦しみ、みたいな場面は‥‥。
- 大橋
- あります、あります。もちろんある。
パッとできないときがほとんどで、
だからつまり、ずっと苦しいですよ。 - ワンコーラスを完成させるまでには、
かなり悶絶してますね。
- ──
- なるほど‥‥。
- 大橋
- これで正解かどうか、
すぐにはわかんないことも多いしね。
- ──
- そういうときは、どうするんですか。
- 大橋
- まぁ、しばらく‥‥置いておきます。
で、とりあえず、次の曲へいく。 - でも、次の曲の作業をしながら、
前の曲が頭の中で鳴ってるんですよ。
うすーく、ずっと、底のほうで。
- ──
- で、行ったり来たりしながら。
あっちとこっちを。
- 大橋
- そんなふうにして、つくってますね。
- ──
- でも、音楽家がすごいなと思うのは、
世のなかにこれだけ曲があると‥‥。 - つまりオリジナリティのことですが。
- 大橋
- ぶっちゃけ言っちゃいますと、
いわゆるふつうのJ-POPの場合には
こういうふうに展開するよな‥‥
という方向には、
まあ、自分は行きたくないんです。 - そうなってたら自分的にはアウトで。
- ──
- 定石を打ちたくない。
- 大橋
- もちろん、ぜんぶがぜんぶ、
うまくいってるわけじゃないけど、
少なくとも、
常に、そう思いながらやってます。 - やっぱり、音楽をやる以上、
唯一無二のものをつくりたいから。
- ──
- ええ、そうでしょうね。
- 大橋
- でも、そう思わない人もいるのかな。
- 世間の「J-POP」を聴いてると、
そういうふうに思うことが多いです。
- ──
- なるほど。
- 大橋
- もちろん、そういう曲が売れてるし、
大きなビジネスにもなってるから、
否定はしないけど、
「ぼくは、やりませんよ」って感じ。
- ──
- J-POPという枠組のなかで、
他の人とは違うアプローチをしたい。
- 大橋
- なんなんでしょうね。
天邪鬼なんですかね。
- ──
- アーティストなんじゃないですかね。
- 大橋
- そうですかね。
(つづきます)
2019-05-20-MON
-
大橋トリオさんの音楽や歌声を聴くと、
ここちよさを感じます。
気持ちのおきどころ、せつなさ、
シャツ1枚でちょうどいい風みたいな
温度感など、ぜんぶがここちよい。
おしゃれな音楽と評されることが、
多いと思いますが、
実際、おしゃれだと思いますが、
ふいに心臓をつかまれる瞬間もあって、
油断なりません。
最新アルバムは『THUNDER BIRD』。
才能あふれる人なんだろうなあと
あこがれていたんですけど、
実際にお話したら、
じつに気さくで、たのしい人でした。
こういう人が、
ああいう音楽をつくってるのかあと。
日程も残りの席も
限られてしまっているとは思いますが、
レコ発ツアーも開催中です。
詳しくは、大橋さんの公式サイトで。