ぼくは作曲家になりますと言った
高校2年生が、
のちの「大橋トリオ」になった。
ひとりの青年が、
音楽家として歩みはじめるときの、
一瞬だけど、強烈なできごと。
大きな会場を満員にする現在から、
「はじまりの物語」までを、
遡るように、逆再生するように、
お話くださいました。
大橋トリオさんの創作論、音楽観。
大橋トリオを生んだひとつの言葉。
担当は「ほぼ日」奥野です。
写真:金壮龍
協力:Rainy Day Bookstore & Cafe
大橋トリオ
大橋トリオとして2007年にデビュー。
もうひとつの顔として、
テレビドラマやCM・映画音楽の作家としても活動。
代表作に、映画『余命1 ヶ月の花嫁』(09)、
『雷桜』(10)、『P とJK』(17)など。
最近では、
NHK Eテレ子供向け番組『にゃんぼー』の音楽や、
TBS 番組『世界遺産』のテーマ曲も担当。
2017年にデビュー10 周年を迎え、
2019 年2 月13 日に最新アルバム
「THUNDERBIRD」をリリース。
2019 年全国ホールツアー
『ohashiTrio HALL TOUR 2019 ~TUNDERBIRD ~』
を開催中。
大橋トリオさんの公式サイトは、こちら。
- ──
- 音楽家の道を志そうと思ったのは、
いつごろですか。
- 大橋
- はっきり意識したのは、
高校になってから‥‥高2くらい。 - それくらいになると、
将来とか、進路をどうするかって、
考えるじゃないですか。
- ──
- 大学へ行くのかどうか、とか。
- 大橋
- うん、大学進学については、
まったく頭になかったんですよね。 - なんか受験勉強すんのもイヤだし、
ふつうに大学を出て、
会社づとめをするって感じも‥‥
ぼく、電車が苦手で、
一回失神しちゃったことがあって。
- ──
- え、そこまでお嫌いですか。
- 大橋
- あ、失神っていっても、貧血です。
- 満員電車に乗るのが本当に無理で、
座れないと厳しいんです。
- ──
- その意味では、
自分も失神したことあります一回。
- 大橋
- あ、あります?
- ──
- あります。満員の急行電車でした。
- 田園都市線のニコタマを出たのが
最後の記憶で、
気づいたら三軒茶屋の駅で
非常停止ボタンがピーピー鳴ってて、
「大丈夫ですかァーーー!」と、
女性に肩を揺すぶられていました。
- 大橋
- それ、俺とまったく同じだ。
- ──
- あ、本当ですか。路線も?
- 大橋
- ぼくは、鷺沼から急行に乗ったら
満員電車で、
ニコタマに着いたときに
「これちょっとヤバいかもしれない、
降りようかな」
って一瞬、迷ったんだけど、
なんか、かんばっちゃったんです。
- ──
- ああー‥‥。
- 大橋
- 直後にスポーンと落ちて、
三茶で、正気を取り戻したんです。 - で、降りたはいいんだけど
まだちょっと千鳥足っぽい感じで、
ホームをフワフワ歩いてて
線路に落ちそうになったところを、
素敵な初老の紳士に、
ガっと腕をつかまれて、助かって。
- ──
- 紳士、命の恩人!
- 大橋
- そうそう、本当にそうなんですよ。
- だから今後も、ニコタマ三茶間は、
気をつけていきましょう、お互い。
- ──
- あの急行の区間はけっこう長いし、
途中で、
車両が地上から地下へ入るとき、
急に暗くなったりとかしますしね。
- 大橋
- わかる。視覚的なストレスがある。
- ──
- ‥‥何の話ですかね?
- 大橋
- ホントですね(笑)。
- ──
- つまり、そんなこんなで
毎朝、満員電車に乗るお仕事には、
就きたくないなあ‥‥と。
- 大橋
- そう、そんなこと思ってた時期に
うちの父親が、
「洗足学園という音楽の大学に、
ジャズコースができて、
ピアニストの山下洋輔さんが
教授に就任する」
という新聞記事を持ってきて、
「ここ、行ったらどうや?」って。
- ──
- へえ、お父さんが、大橋さんに。
- 中学とか高校では、
バンドとか、やってたんですか。
- 大橋
- 中学のときにドラムを習ってて、
部活は吹奏楽部でした。 - 高校生のときには、
ロックバンドを組んでましたね。
- ──
- で、山下洋輔さんもお好きで。
- 大橋
- もうね、かっこよかったんです。
- 山下さんの影響で、
ジャズピアノにも憧れましたし、
親父のコレクションで、
よくジャズも聴いていたんです。
- ──
- そんな感じで、
音楽大学で、ジャズを勉強して。
- 大橋
- いちおうね。でも結局は
ジャズピアノはあまり練習せず、
作曲ばっかりしてました。
- ──
- 曲をつくるほうが、楽しかった?
- 大橋
- うん、そうですね、
なんか曲がつくりたいなぁと‥‥
ああ、そうだ。 - 音楽でいくって決めた高2のとき、
吉川忠英さんって、
日本のアコースティックギターの
第一人者がいるんですけど。
- ──
- はい、大御所ですよね。
- 知り合いの音楽家でも、
心酔されてる人が、何人もいます。
- 大橋
- その吉川さんのレコーディングを
見学させてもらったんです。 - 高2のとき、
父親の仕事の関係で、何か特別に。
- ──
- おお。
- 大橋
- あれはどこだったんだろう‥‥
とにかく、都内の、
立派なレコーディングスタジオで、
吉川さんが
ギターを弾いてるんですけど、
もう、むちゃくちゃかっこよくて。
- ──
- 高校生がプロを見てるんですよね。
それは、まぶしいですね。
- 大橋
- 吉川さんの出す音、生み出す音楽、
ミュージシャンという仕事、
さらには、
レコーディングスタジオそのもの。 - その丸ごと全部、かっこよかった。
- ──
- 大橋少年、目を輝かせて。
- 大橋
- 音楽家の仕事場、って感じがして、
外国製の機材がズラッと並んでて、
大きなスピーカーからは
ものすごく「いい音」が
爆音で出てるし、
ライティングも雰囲気あるし‥‥。
- ──
- あこがれちゃったんですね。
- 大橋
- もう、めちゃくちゃに。
- ──
- おおー。
- 大橋
- 自分は将来、絶対に
こういうところではたらくんだ、
音楽でいくんだ‥‥って。 - そのときに、そう決めたんです。
- ──
- そういう、きっかけが‥‥。
- 大橋
- で、吉川さんのギター演奏を聴いて、
レコーディング作業も、
いろいろ見学させていただいて。
- ──
- ええ。
- 大橋
- 帰りがけにCDをくださったんです。
- サインをしてもらったんですが‥‥
そのとき吉川さんに、言っちゃって。
- ──
- なんと?
- 大橋
- ぼくは、作曲家になります‥‥って、
なぜか、言っちゃったんです。
- ──
- 急に?
- 大橋
- はい。
- ──
- 宣言しちゃった?
- 大橋
- そう。
- ──
- 高校2年生が、作曲家宣言。
- 大橋
- そうなんです。
ただの高校生がギターの第一人者に。
- ──
- 明確に「作曲家」と言ったんですか。
- 大橋
- はい。なぜかは、わからないけど。
- ──
- 唐突に、口をついて出たんですかね。
- 大橋
- んー、わからない(笑)。
- ──
- それまで作曲家になりたい、とは?
- 大橋
- どうだったんだろうなあ。
- ──
- 作曲は?
- 大橋
- してないです、別に。
- ──
- はー。
- 大橋
- そしたら、吉川さんが、
「好規くん」って、
あ、ぼく、好規っていうんですけど、
「好規くん、作曲がんばれ」
って、CDに書いてくれたんですよ。 - それが、いまも大事な宝物なんです。
- ──
- まだ作曲をはじめる前の
「ぼくは作曲家になります」宣言から、
はじまってるんですか。 - 大橋トリオというプロジェクトは。
- 大橋
- そうですねえ、思い返せば。
- ──
- 大橋トリオを生んだのは、
「ぼくは作曲家になります」という、
高校生の言葉だった。
- 大橋
- いま目の前にいる吉川さんみたいな、
「作曲家」という、
よくわかんないけど、かっこいい人。
- ──
- ええ。
- 大橋
- こういう人になるんだって、
決めたんだと思います。そのときに。
(おわります)
2019-05-24-FRI
-
大橋トリオさんの音楽や歌声を聴くと、
ここちよさを感じます。
気持ちのおきどころ、せつなさ、
シャツ1枚でちょうどいい風みたいな
温度感など、ぜんぶがここちよい。
おしゃれな音楽と評されることが、
多いと思いますが、
実際、おしゃれだと思いますが、
ふいに心臓をつかまれる瞬間もあって、
油断なりません。
最新アルバムは『THUNDER BIRD』。
才能あふれる人なんだろうなあと
あこがれていたんですけど、
実際にお話したら、
じつに気さくで、たのしい人でした。
こういう人が、
ああいう音楽をつくってるのかあと。
日程も残りの席も
限られてしまっているとは思いますが、
レコ発ツアーも開催中です。
詳しくは、大橋さんの公式サイトで。