こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第22回 極地に「暮らす」ことで、日常が奇跡の連続だと知る。[村上祐資さん(極地建築家)] 前編

──
もう、何年前になるでしょうか。
写真家の石川直樹さんの個展で、
石川さんのご紹介で、
ご挨拶させていただいたのって。
村上
7~8年、経ちますかね。
──
それ以来なので、
ほぼ「はじめまして」状態ですけど、
よろしくお願いします。
ほぼ日刊イトイ新聞の奥野武範です。
村上
村上祐資です。
こちらこそ、よろしくお願いします。

東京都世田谷区←ZOOM→日本のどこか 東京都世田谷区←ZOOM→日本のどこか

──
新型コロナウィルスが感染拡大して、
知り合いのみなさんが、
どんなことを考えているのかを
知りたくて、
この取材をはじめたんですけれども。
村上
ええ。
──
今回は、ぼく自身も
はじめて村上さんのお話を聞くので、
村上さんご自身のことから、
おうかがいしても、よいでしょうか。
村上
はい。大丈夫です。
──
まず、肩書きの「極地建築家」って、
他で聞いたことないです。
村上
誰も言ってないので(笑)。
──
じゃ、同業者ゼロのお仕事。
村上
そうですね。
──
南極・北極・エベレストなど、
地球上の極地に派遣されるクルーに
アサインされて、
現地で、
さまざまな科学的調査をされている、
という認識なのですが。
村上
ええ、だいたいあってます。
ただ、ぼくは極地に行ってますけど、
南極にせよ、模擬火星の実験にせよ、
自分の目的は
「そこで暮らす」というだけなので。
──
暮らす。
村上
はい。
──
ただ生きていく‥‥ということを、
「わざわざ」と言ったら何ですが、
極地にまで行って、やっていると。
村上
たとえば冒険家の人たちは
「点」を目指して移動しますよね。
エベレストの頂上だとか。
──
ええ。北極点とか。
村上
そうですね。ともかく、
ある種の「サミット」を目指して、
移動するのが冒険家なわけですが、
ぼくの場合は、
ひたすら「住む」のが目的ですね。

北極での模擬火星実験生活のようす 北極での模擬火星実験生活のようす

──
そうすることで、
村上さんは何を知りたいんですか。
村上
ぼくは建築をやってきたんですが、
住む、ということが何なのか、
いまだに、よくわからないんです。
とにかく、それが知りたいんです。
──
住む、とは何か。
村上
そうです。
「住む、とは何か」を知るために、
「住む」が剥きだしの状態にある極地に、
「住みに行ってる」んです。
──
南極に「住む」ためだけに
南極へ行くことってできないから、
何らかの観測隊に応募して、
選ばれて、現地では
与えられた任務をこなしながら、
「住むって何?」を考えていると。
村上
雇い主がぼくを雇った目的と、
ぼくの個人的な目的は、ちがうんですよ。
ぼくは、あくまで極地の暮らしを見たい。
──
で、そこで「住む」にあたって、
観測などの仕事を請け負っている‥‥と。
村上
そうですね。ほかの大部分のメンバーは、
観測そのもの、
あるいは、極地へ冒険することが目的で
クルーに応募するわけですが、
ぼくは「極地は手段にすぎない」んです。
──
なるほど‥‥。
村上
それも、ひとり暮らしの生活じゃなくて、
数名の人間が一緒に暮らしながら、
どう土地に根を下ろす‥‥のか、
知りたいというか、見届けたいんですよ。
──
見届けるためにすること‥‥とかって、
何かあるんですか。
南極なら南極という「極地の現場」で。
村上
ないです。
できるかぎり「村上祐資」にならない。
ただ、それだけです。
──
それって、つまり‥‥。
村上
ぼくが「冒険家」みたいに、
名前のある「アスリート」になったら、
「ぼくが住めればいい」
というだけに、なってしまいますから。
──
なるほど。経験が一般化できなくなる。
村上
自分はあくまでモルモット、被験者です。
どこまで、「ふつうの人」として
極地で暮らしていけるか。
極地で「ふつうの人」が経験したことを、
将来の人間の暮らしに生かしたいんです。
──
そういう村上さんの「興味関心」って、
どこから来てるんですか。
そんなことをしている人は、
他には誰もいないわけじゃないですか。
村上
縄文人も、平安の貴族も、現代の人も、
人間は、時代を問わず
「住む、暮らす」ことをしてきました。
昔からそのことに興味があって、
小さいころは、
考古学者になりたかったんです。
──
ええ、なるほど。
村上
でも、大学では建築学科に進みました。
でも、そこで学んだのは、
建築基準法という法律だったり、
デザインや意匠のことが主なんですよ。
──
はい。
村上
ぼくは、人が暮らすということの根本、
つまり、日本じゃなく、
宇宙だったらどうなんだろうとか、
現代じゃなく、
古代だったらどうなんだろうとか、
そういうことを知りたかったんですね。
でも、何をどうしていいかわからずに、
モヤモヤしてたんです。
──
人が暮らす‥‥ということの「根本」。
それは、既存の学問というか、
少なくとも、
建築学のカバーできるような領域では、
なかったということですか。
村上
そうですね。
でも、あるときに
極地の暮らしを知る機会がありまして、
ここに住むことができれば、
自分の知りたいことがわかりそうだと。
──
ええと、ようするに、
本来、村上さんの知りたかったことに対して、
極地での暮らしが、
ヒントを与えてくれるってことですか。
村上
そうです。
──
具体的には、どういうことですか。
村上
結局、ぼくらの日常生活って、
自宅、職場、学校、遊び場‥‥などを、
つねに「移動」して、
いろんな人と関わり合いますよね。
でも、極地では、限られた空間の中で、
同じメンバーと、
毎日、同じ暮らしをしていくんです。
──
ええ、ええ。

村上
極地でない、
ふつうの暮らしの中で起きた問題は、
移動にともなって、なんとなく、
誤魔化せちゃうところがあるんです。
でも、極地の暮らしで起きた問題は、
なんとなくでは誤魔化せないし、
のちまで引きずっていくわけですよ。
──
日常の中に消えていかない。
村上
そうですね。
──
つねに「解決」を、求められる?
村上
自分が何かアクションを起こしたら、
すべてが、
翌日くらいに、自分に帰ってきます。
良いことも、悪いことも。
たとえば、朝ごはんを食べるという
アクションを起こしたら、
かならず「ゴミ」が出るんですよ。
──
はい、出ます。
村上
で、そのゴミは、ほかでもない、
自分たちで処理しなければならない。
──
そうか。ふつうの暮らしでは
ゴミ収集車が持ってってくれるけど。
村上
極地では、そういうことの連続です。
そうすると、ふだんの暮らしの中で、
当たり前だと思っていたことが、
どれだけ当たり前じゃなく、
奇跡の連続で成り立ってるか‥‥が、
しみじみわかるんです。
──
ふだんの毎日は、奇跡の連続だった。
村上
そうです。当たり前に享受していた
「ふつうの生活」が、
いかに緻密に組み上げられて、
どれだけ奇跡的なものだったのかが、
非常によくわかります。
逆に言えば、どれだけもろく、
危ういものかも、わかるんですけど。
──
ああ、今の生活の話につながります。
外出自粛している、今の生活に。
村上
そう。コロナウィルスの感染拡大で、
都市がロックダウンしたりすると、
これまでの「ふつうの生活」が、
音を立てて崩れていくわけですけど。
──
ええ。
村上
極地での生活を経験していると
「あ、そっちのほうが、自然だよね」
と、思えたりもするんですよね。
──
日常は「崩れる」のが、当たり前。
村上
むしろ、今までよく成立してたなと。
──
その「日常の奇跡」というものを、
村上さんは、たとえば
どういうところに感じたりしますか。
村上
よくぞ、これだけの人数の人たちが、
同じビジョンをもって
暮らしていけるな‥‥とか、ですね。
──
同じビジョン。
村上
はい。

米国ユタ州ウェイネ砂漠での実験生活のようす 米国ユタ州ウェイネ砂漠での実験生活のようす

(後編につづきます)

2020-05-25-MON

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