こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- もう、何年前になるでしょうか。
- 写真家の石川直樹さんの個展で、
石川さんのご紹介で、
ご挨拶させていただいたのって。
- 村上
- 7~8年、経ちますかね。
- ──
- それ以来なので、
ほぼ「はじめまして」状態ですけど、
よろしくお願いします。 - ほぼ日刊イトイ新聞の奥野武範です。
- 村上
- 村上祐資です。
こちらこそ、よろしくお願いします。
- ──
- 新型コロナウィルスが感染拡大して、
知り合いのみなさんが、
どんなことを考えているのかを
知りたくて、
この取材をはじめたんですけれども。
- 村上
- ええ。
- ──
- 今回は、ぼく自身も
はじめて村上さんのお話を聞くので、
村上さんご自身のことから、
おうかがいしても、よいでしょうか。
- 村上
- はい。大丈夫です。
- ──
- まず、肩書きの「極地建築家」って、
他で聞いたことないです。
- 村上
- 誰も言ってないので(笑)。
- ──
- じゃ、同業者ゼロのお仕事。
- 村上
- そうですね。
- ──
- 南極・北極・エベレストなど、
地球上の極地に派遣されるクルーに
アサインされて、
現地で、
さまざまな科学的調査をされている、
という認識なのですが。
- 村上
- ええ、だいたいあってます。
- ただ、ぼくは極地に行ってますけど、
南極にせよ、模擬火星の実験にせよ、
自分の目的は
「そこで暮らす」というだけなので。
- ──
- 暮らす。
- 村上
- はい。
- ──
- ただ生きていく‥‥ということを、
「わざわざ」と言ったら何ですが、
極地にまで行って、やっていると。
- 村上
- たとえば冒険家の人たちは
「点」を目指して移動しますよね。 - エベレストの頂上だとか。
- ──
- ええ。北極点とか。
- 村上
- そうですね。ともかく、
ある種の「サミット」を目指して、
移動するのが冒険家なわけですが、
ぼくの場合は、
ひたすら「住む」のが目的ですね。
- ──
- そうすることで、
村上さんは何を知りたいんですか。
- 村上
- ぼくは建築をやってきたんですが、
住む、ということが何なのか、
いまだに、よくわからないんです。 - とにかく、それが知りたいんです。
- ──
- 住む、とは何か。
- 村上
- そうです。
- 「住む、とは何か」を知るために、
「住む」が剥きだしの状態にある極地に、
「住みに行ってる」んです。
- ──
- 南極に「住む」ためだけに
南極へ行くことってできないから、
何らかの観測隊に応募して、
選ばれて、現地では
与えられた任務をこなしながら、
「住むって何?」を考えていると。
- 村上
- 雇い主がぼくを雇った目的と、
ぼくの個人的な目的は、ちがうんですよ。 - ぼくは、あくまで極地の暮らしを見たい。
- ──
- で、そこで「住む」にあたって、
観測などの仕事を請け負っている‥‥と。
- 村上
- そうですね。ほかの大部分のメンバーは、
観測そのもの、
あるいは、極地へ冒険することが目的で
クルーに応募するわけですが、
ぼくは「極地は手段にすぎない」んです。
- ──
- なるほど‥‥。
- 村上
- それも、ひとり暮らしの生活じゃなくて、
数名の人間が一緒に暮らしながら、
どう土地に根を下ろす‥‥のか、
知りたいというか、見届けたいんですよ。
- ──
- 見届けるためにすること‥‥とかって、
何かあるんですか。 - 南極なら南極という「極地の現場」で。
- 村上
- ないです。
- できるかぎり「村上祐資」にならない。
ただ、それだけです。
- ──
- それって、つまり‥‥。
- 村上
- ぼくが「冒険家」みたいに、
名前のある「アスリート」になったら、
「ぼくが住めればいい」
というだけに、なってしまいますから。
- ──
- なるほど。経験が一般化できなくなる。
- 村上
- 自分はあくまでモルモット、被験者です。
- どこまで、「ふつうの人」として
極地で暮らしていけるか。
極地で「ふつうの人」が経験したことを、
将来の人間の暮らしに生かしたいんです。
- ──
- そういう村上さんの「興味関心」って、
どこから来てるんですか。 - そんなことをしている人は、
他には誰もいないわけじゃないですか。
- 村上
- 縄文人も、平安の貴族も、現代の人も、
人間は、時代を問わず
「住む、暮らす」ことをしてきました。 - 昔からそのことに興味があって、
小さいころは、
考古学者になりたかったんです。
- ──
- ええ、なるほど。
- 村上
- でも、大学では建築学科に進みました。
- でも、そこで学んだのは、
建築基準法という法律だったり、
デザインや意匠のことが主なんですよ。
- ──
- はい。
- 村上
- ぼくは、人が暮らすということの根本、
つまり、日本じゃなく、
宇宙だったらどうなんだろうとか、
現代じゃなく、
古代だったらどうなんだろうとか、
そういうことを知りたかったんですね。 - でも、何をどうしていいかわからずに、
モヤモヤしてたんです。
- ──
- 人が暮らす‥‥ということの「根本」。
- それは、既存の学問というか、
少なくとも、
建築学のカバーできるような領域では、
なかったということですか。
- 村上
- そうですね。
- でも、あるときに
極地の暮らしを知る機会がありまして、
ここに住むことができれば、
自分の知りたいことがわかりそうだと。
- ──
- ええと、ようするに、
本来、村上さんの知りたかったことに対して、
極地での暮らしが、
ヒントを与えてくれるってことですか。
- 村上
- そうです。
- ──
- 具体的には、どういうことですか。
- 村上
- 結局、ぼくらの日常生活って、
自宅、職場、学校、遊び場‥‥などを、
つねに「移動」して、
いろんな人と関わり合いますよね。 - でも、極地では、限られた空間の中で、
同じメンバーと、
毎日、同じ暮らしをしていくんです。
- ──
- ええ、ええ。
- 村上
- 極地でない、
ふつうの暮らしの中で起きた問題は、
移動にともなって、なんとなく、
誤魔化せちゃうところがあるんです。 - でも、極地の暮らしで起きた問題は、
なんとなくでは誤魔化せないし、
のちまで引きずっていくわけですよ。
- ──
- 日常の中に消えていかない。
- 村上
- そうですね。
- ──
- つねに「解決」を、求められる?
- 村上
- 自分が何かアクションを起こしたら、
すべてが、
翌日くらいに、自分に帰ってきます。
良いことも、悪いことも。 - たとえば、朝ごはんを食べるという
アクションを起こしたら、
かならず「ゴミ」が出るんですよ。
- ──
- はい、出ます。
- 村上
- で、そのゴミは、ほかでもない、
自分たちで処理しなければならない。
- ──
- そうか。ふつうの暮らしでは
ゴミ収集車が持ってってくれるけど。
- 村上
- 極地では、そういうことの連続です。
- そうすると、ふだんの暮らしの中で、
当たり前だと思っていたことが、
どれだけ当たり前じゃなく、
奇跡の連続で成り立ってるか‥‥が、
しみじみわかるんです。
- ──
- ふだんの毎日は、奇跡の連続だった。
- 村上
- そうです。当たり前に享受していた
「ふつうの生活」が、
いかに緻密に組み上げられて、
どれだけ奇跡的なものだったのかが、
非常によくわかります。 - 逆に言えば、どれだけもろく、
危ういものかも、わかるんですけど。
- ──
- ああ、今の生活の話につながります。
外出自粛している、今の生活に。
- 村上
- そう。コロナウィルスの感染拡大で、
都市がロックダウンしたりすると、
これまでの「ふつうの生活」が、
音を立てて崩れていくわけですけど。
- ──
- ええ。
- 村上
- 極地での生活を経験していると
「あ、そっちのほうが、自然だよね」
と、思えたりもするんですよね。
- ──
- 日常は「崩れる」のが、当たり前。
- 村上
- むしろ、今までよく成立してたなと。
- ──
- その「日常の奇跡」というものを、
村上さんは、たとえば
どういうところに感じたりしますか。
- 村上
- よくぞ、これだけの人数の人たちが、
同じビジョンをもって
暮らしていけるな‥‥とか、ですね。
- ──
- 同じビジョン。
- 村上
- はい。
(後編につづきます)
2020-05-25-MON