こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 極地での暮らしを経験すると、
ふだん、たくさんの人が
同じビジョンのもとに
暮らしていることに驚く‥‥
とのことですが。
- 村上
- ええ。
- ──
- その「同じビジョン」というのは?
- 村上
- よくあるような例を挙げるなら、
電車ひとつにしても、
時間に遅れずに来ることを疑わずに、
ぼくたち、
日常生活の計画を立てていますよね。
- ──
- はい。立ててます。
- 平日の朝は
混雑してるから早めに出るくらいで。
- 村上
- だいたい遅れず来ると思ってるから、
それこそ「分刻み」に
計画を立てられるわけですけど、
もしも、
それが当たり前じゃなかったら。 - 代替案、バックアップなど、
いろいろと準備する必要があるのに、
ふだんのぼくらは
そんなことしてませんよね。
- ──
- 時刻通りに来るかどうかわからない、
と想像するだけで、
他のルートをしらべておいたり、
連絡手段を確保したり、
考えておかなければならないことが、
ぶわーっと増えますね。
- 村上
- つまり、日本の鉄道のシステムとか、
駅員さんたちのことを
信頼しているとも言えますけど、
でも、それでも、
これだけ大勢の人たちが、
「電車は、時刻通りに来るものだ」
と無条件に思っていること自体、
極地に住んでみると、驚きなんです。
- ──
- あの、ぼくの知り合いで
葦船で太平洋を渡ろうとしてる人が
いらっしゃるんです。
- 村上
- ええ。
- ──
- 石川仁さんという方なんですが、
ジンさんは、
ある意味、閉鎖的な環境とも言える
洋上の葦船の上では、
目の前の毎日に集中することが大事、
とおっしゃってるんですね。
- 村上
- なるほど。
- ──
- 村上さんとジンさんのお話から、
電車が来ると信じて疑わない自分は、
目的地にたどり着くことに
「集中」することもなく、
電車に乗った先の目的地について、
ボンヤリ考えているくらいだよなと。 - 極地の暮らしからしてみたら、
だいぶ「のんき」な話なんですよね。
- 村上
- 葦船の上というのは、
そこで流れる「暮らしの時間軸」と、
「リスクの時間軸」が、
おそらく一致しているはずなんです。
- ──
- ええ、そうでしょうね。
暮らし全体が、リスクに晒されてる。
- 村上
- でも、ぼくたちの日常の暮らしでは、
家の中と外とでは、
極めて大きなギャップがあります。 - コロナに対処する外の現場では、
1分1秒を争うような事態や判断が
必要だったりしますが、
それを家庭内に持ち込んでしまうと、
ギスギスしまくるでしょう。
- ──
- はい、そうだと思います。
- 村上
- だから、ふだんは、家の中と外とで、
うまくバランスを取りながら、
暮らしているんですけど、
葦船の上では、
常に一定のスケールで、
物事を判断し行動していくわけです。
- ──
- つまり、非常時用のスケールで。
- 村上
- で、そっちのほうが、
シンプルだったりはするんですよね。 - つまり、極地での暮らしは、
一個一個の判断が、簡潔で速くなる。
- ──
- なるほど。
取りうる選択肢が一択だったりとか。
- 村上
- よく過酷な環境で大変ですよねって
言われるんだけど、
個人的には
過酷になればなるほど「楽」になる。 - なぜかと言うと、
安全と危険の判断ひとつにしても、
メンバーの判断のスケールが
一致してくるので、
おかしな議論が起きなくなるんです。
- ──
- はー‥‥おもしろいです。
- じゃ、家の中って、
基本的に極地と正反対な場所だから、
つまんないことで
喧嘩が起きたりとかするんですかね。
- 村上
- そうだと思いますよ。
- 奥さんが重要だと思っていることを
旦那さんは軽視してるとか、
判断のスケールの差やズレによって、
人間関係にボロが出るのかなと。
- ──
- これは自分の実感なんですけど、
ここ2ヶ月くらい、
保育園や小学校が休校になっていて、
自分と妻もリモートワークで、
基本、ずっと
家族全員が家にいる毎日なんです。
- 村上
- ええ。
- ──
- こんなに四六時中一緒にいることは、
今までなかったので、
さぞかし、
狭い家の中がギスギスするのかなと
思っていたんですけど。
- 村上
- うん。
- ──
- 仲良くなってきてる気がするんです。
最近、なんだか。 - これも、村上さんの言うような、
思考判断のスケールが一致してきた、
そのことの産物なんでしょうか。
- 村上
- そうじゃないでしょうか。
家の中や基地の中で起きる現象って、
客観的には「ひとつ」なんです。 - でも、メンバーの数、家族の数だけ、
別々の現実があるんですね。
- ──
- あー、なるほど。はい。
同じ現象の、ちがう側面を見ている。
- 村上
- これまでの家庭では、職場へ行く人、
学校へ行く人、家にいる人、
それぞれのペースで動いているから、
家庭内では、
同じ現象を共有してはいるものの、
別々の現実として捉えていたんです。
- ──
- その認知の「ちがい」について、
議論はしないけど、実は別々だった。
- 村上
- でも、生活のペースが同じになると、
判断のスケールの差が、
徐々に埋まってくるんだと思います。 - 判断のズレによって生じていた
コンフリクト‥‥つまり「紛争」が、
これまで、
大なり小なりあったはずなんですよ。
- ──
- なるほど。同じ時間を過ごすことで、
ひとつの現象の、
同じ部分を見るようになってきてる。
- 村上
- 逆に、外出自粛で
喧嘩が多くなっちゃったりする場合、
今まで、
おたがいに目を逸らしてきた現象を、
イヤでも
見なきゃならなくなってくる。 - そういう理由もあるんだと思います。
- ──
- お聞きしていると、
村上さんが「暮らし」と言う場合、
他と孤絶した単独生活ではなく、
「誰かと暮らす」というケースに、
着目してるんですね。 - チームでの生活‥‥と言いますか。
- 村上
- そうですね。結局、
「家って何のためにあるんだろう」
と考えたときに、
ぼくは、そこに住むチーム、
家族なら家族、
観測のメンバーならその人たちを、
健全にしていくものだと思ってて。
- ──
- ああ‥‥なるほど。
- 村上
- そのためには、できあがった家に
「はい、どうぞ」じゃなくて、
家をつくるプロセスも、
メンバーの健全化に
貢献できるはずだと思うんですよ。
- ──
- ああ、チームがよくなる家、ですか。
- いま、村上さんの肩書のなかに
「建築家」という部分があることに、
「ピン!」ときました。
- 村上
- 人間の行動を見つめていると、
「屋根」というものの下にいる場合、
「わかちあう」んです。 - でも、そこに「壁」を立てちゃうと、
「嘘をつき合う」傾向があって。
- ──
- へええ!
- 村上
- アパートを借りようと思ったときに
不動産屋に行っても、
「間取り図」って平面図だから、
「壁」しか見てないんです、ぼくら。
- ──
- 何LDKだとかですよね。たしかに。
何部屋あるかばっかり見てる。
- 村上
- つまり「わかちあう」前提では、
ぼくら、家を選んでいないんですよ。 - 他のメンバーとどう距離を取るか‥‥
極端に言えば、
「どう嘘をつくか」みたいな部分で
物件を選んでいるとも言える。
- ──
- 物件‥‥つまり「暮らし」を。
- 村上
- そこに、どれだけ「屋根」の存在を、
つまり「わかちあう」ことを、
意識できるかが重要だと思ってます。 - 壁の家だと、1本のペットボトルを、
どれだけ公平に、
1ミリリットルも差が出ないように
どう配分するか‥‥ということに、
みんなの意識が向かっていくんです。
- ──
- あわよくば、自分だけ‥‥みたいな、
そういう気持ちもうまれそうな。
- 村上
- それが、壁の論理。
- 逆に、同じ屋根の下にいるんだから
「わかちあおう」
という意識がみんなにあれば、
ペットボトルが1本しかなくても、
まわし飲みでいいよ、
今日はやつのほうがはたらいたから
俺は少なくていいか‥‥って、
関西の人の言う
「遠慮のかたまり」みたいなものが
生まれたりもするんですね。
- ──
- お皿に残った、
最後の唐揚げ一個みたいなやつ。
- 村上
- 極地生活の「遠慮のかたまり」って、
リソースの無駄なんです。 - 貴重な水なのに「残す」わけだから。
- ──
- ええ。そうでしょうね。
- 村上
- でも、それを「奪い合う」ことなく、
遠慮のかたまりとして「残る」のは、
チームとしては最高の状態なんです。
- ──
- なるほど、そうか。
屋根の論理が機能してるんですね。
- 村上
- 最後の一滴を、奪い合うように
厳密に配分しろと言っているのは、
壁の論理に支配されたチーム。 - ふだんの暮らしの中でも、
もういちど「屋根」を取り戻すには
どうしたらいいのかって、
家にいなきゃならないいまはとくに、
考えたりしていますね。
- ──
- いやあ、おもしろいです。
- ちょっと予想できないところにまで、
話が広がっていきました。
- 村上
- こういうことばっかり、考えてます。
- ──
- ぜひ、あらためて、
対面でじっくりお話させてください。
- 村上
- はい、もちろんです。
- ──
- ちなみに、その背景、どちらですか?
- 村上
- 北極の火星基地、ですね。
- ──
- そこに住んでいたときに撮った写真。
- 村上
- そうです。
- ──
- じゃあ、その丸い窓の外は‥‥火星。
- 村上
- はい(笑)。
- 火星に降り立った設定の実験なので、
火星‥‥っぽい風景が広がってます。
(次回、インテリアスタイリストの窪川勝哉さんに続きます)
2020-05-26-TUE