こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第23回 壁の論理で奪い合い、屋根の論理で、わかちあう。[村上祐資さん(極地建築家)] 後編

──
極地での暮らしを経験すると、
ふだん、たくさんの人が
同じビジョンのもとに
暮らしていることに驚く‥‥
とのことですが。
村上
ええ。
──
その「同じビジョン」というのは?
村上
よくあるような例を挙げるなら、
電車ひとつにしても、
時間に遅れずに来ることを疑わずに、
ぼくたち、
日常生活の計画を立てていますよね。
──
はい。立ててます。
平日の朝は
混雑してるから早めに出るくらいで。
村上
だいたい遅れず来ると思ってるから、
それこそ「分刻み」に
計画を立てられるわけですけど、
もしも、
それが当たり前じゃなかったら。
代替案、バックアップなど、
いろいろと準備する必要があるのに、
ふだんのぼくらは
そんなことしてませんよね。
──
時刻通りに来るかどうかわからない、
と想像するだけで、
他のルートをしらべておいたり、
連絡手段を確保したり、
考えておかなければならないことが、
ぶわーっと増えますね。
村上
つまり、日本の鉄道のシステムとか、
駅員さんたちのことを
信頼しているとも言えますけど、
でも、それでも、
これだけ大勢の人たちが、
「電車は、時刻通りに来るものだ」
と無条件に思っていること自体、
極地に住んでみると、驚きなんです。

南極でのようす 南極でのようす

──
あの、ぼくの知り合いで
葦船で太平洋を渡ろうとしてる人が
いらっしゃるんです。
村上
ええ。
──
石川仁さんという方なんですが、
ジンさんは、
ある意味、閉鎖的な環境とも言える
洋上の葦船の上では、
目の前の毎日に集中することが大事、
とおっしゃってるんですね。
村上
なるほど。
──
村上さんとジンさんのお話から、
電車が来ると信じて疑わない自分は、
目的地にたどり着くことに
「集中」することもなく、
電車に乗った先の目的地について、
ボンヤリ考えているくらいだよなと。
極地の暮らしからしてみたら、
だいぶ「のんき」な話なんですよね。
村上
葦船の上というのは、
そこで流れる「暮らしの時間軸」と、
「リスクの時間軸」が、
おそらく一致しているはずなんです。
──
ええ、そうでしょうね。
暮らし全体が、リスクに晒されてる。
村上
でも、ぼくたちの日常の暮らしでは、
家の中と外とでは、
極めて大きなギャップがあります。
コロナに対処する外の現場では、
1分1秒を争うような事態や判断が
必要だったりしますが、
それを家庭内に持ち込んでしまうと、
ギスギスしまくるでしょう。
──
はい、そうだと思います。
村上
だから、ふだんは、家の中と外とで、
うまくバランスを取りながら、
暮らしているんですけど、
葦船の上では、
常に一定のスケールで、
物事を判断し行動していくわけです。
──
つまり、非常時用のスケールで。
村上
で、そっちのほうが、
シンプルだったりはするんですよね。
つまり、極地での暮らしは、
一個一個の判断が、簡潔で速くなる。
──
なるほど。
取りうる選択肢が一択だったりとか。
村上
よく過酷な環境で大変ですよねって
言われるんだけど、
個人的には
過酷になればなるほど「楽」になる。
なぜかと言うと、
安全と危険の判断ひとつにしても、
メンバーの判断のスケールが
一致してくるので、
おかしな議論が起きなくなるんです。
──
はー‥‥おもしろいです。
じゃ、家の中って、
基本的に極地と正反対な場所だから、
つまんないことで
喧嘩が起きたりとかするんですかね。
村上
そうだと思いますよ。
奥さんが重要だと思っていることを
旦那さんは軽視してるとか、
判断のスケールの差やズレによって、
人間関係にボロが出るのかなと。

──
これは自分の実感なんですけど、
ここ2ヶ月くらい、
保育園や小学校が休校になっていて、
自分と妻もリモートワークで、
基本、ずっと
家族全員が家にいる毎日なんです。
村上
ええ。
──
こんなに四六時中一緒にいることは、
今までなかったので、
さぞかし、
狭い家の中がギスギスするのかなと
思っていたんですけど。
村上
うん。
──
仲良くなってきてる気がするんです。
最近、なんだか。
これも、村上さんの言うような、
思考判断のスケールが一致してきた、
そのことの産物なんでしょうか。
村上
そうじゃないでしょうか。
家の中や基地の中で起きる現象って、
客観的には「ひとつ」なんです。
でも、メンバーの数、家族の数だけ、
別々の現実があるんですね。
──
あー、なるほど。はい。
同じ現象の、ちがう側面を見ている。
村上
これまでの家庭では、職場へ行く人、
学校へ行く人、家にいる人、
それぞれのペースで動いているから、
家庭内では、
同じ現象を共有してはいるものの、
別々の現実として捉えていたんです。
──
その認知の「ちがい」について、
議論はしないけど、実は別々だった。
村上
でも、生活のペースが同じになると、
判断のスケールの差が、
徐々に埋まってくるんだと思います。
判断のズレによって生じていた
コンフリクト‥‥つまり「紛争」が、
これまで、
大なり小なりあったはずなんですよ。
──
なるほど。同じ時間を過ごすことで、
ひとつの現象の、
同じ部分を見るようになってきてる。
村上
逆に、外出自粛で
喧嘩が多くなっちゃったりする場合、
今まで、
おたがいに目を逸らしてきた現象を、
イヤでも
見なきゃならなくなってくる。
そういう理由もあるんだと思います。
──
お聞きしていると、
村上さんが「暮らし」と言う場合、
他と孤絶した単独生活ではなく、
「誰かと暮らす」というケースに、
着目してるんですね。
チームでの生活‥‥と言いますか。
村上
そうですね。結局、
「家って何のためにあるんだろう」
と考えたときに、
ぼくは、そこに住むチーム、
家族なら家族、
観測のメンバーならその人たちを、
健全にしていくものだと思ってて。
──
ああ‥‥なるほど。
村上
そのためには、できあがった家に
「はい、どうぞ」じゃなくて、
家をつくるプロセスも、
メンバーの健全化に
貢献できるはずだと思うんですよ。
──
ああ、チームがよくなる家、ですか。
いま、村上さんの肩書のなかに
「建築家」という部分があることに、
「ピン!」ときました。

村上
人間の行動を見つめていると、
「屋根」というものの下にいる場合、
「わかちあう」んです。
でも、そこに「壁」を立てちゃうと、
「嘘をつき合う」傾向があって。
──
へええ!
村上
アパートを借りようと思ったときに
不動産屋に行っても、
「間取り図」って平面図だから、
「壁」しか見てないんです、ぼくら。
──
何LDKだとかですよね。たしかに。
何部屋あるかばっかり見てる。
村上
つまり「わかちあう」前提では、
ぼくら、家を選んでいないんですよ。
他のメンバーとどう距離を取るか‥‥
極端に言えば、
「どう嘘をつくか」みたいな部分で
物件を選んでいるとも言える。
──
物件‥‥つまり「暮らし」を。
村上
そこに、どれだけ「屋根」の存在を、
つまり「わかちあう」ことを、
意識できるかが重要だと思ってます。
壁の家だと、1本のペットボトルを、
どれだけ公平に、
1ミリリットルも差が出ないように
どう配分するか‥‥ということに、
みんなの意識が向かっていくんです。
──
あわよくば、自分だけ‥‥みたいな、
そういう気持ちもうまれそうな。
村上
それが、壁の論理。
逆に、同じ屋根の下にいるんだから
「わかちあおう」
という意識がみんなにあれば、
ペットボトルが1本しかなくても、
まわし飲みでいいよ、
今日はやつのほうがはたらいたから
俺は少なくていいか‥‥って、
関西の人の言う
「遠慮のかたまり」みたいなものが
生まれたりもするんですね。
──
お皿に残った、
最後の唐揚げ一個みたいなやつ。
村上
極地生活の「遠慮のかたまり」って、
リソースの無駄なんです。
貴重な水なのに「残す」わけだから。
──
ええ。そうでしょうね。
村上
でも、それを「奪い合う」ことなく、
遠慮のかたまりとして「残る」のは、
チームとしては最高の状態なんです。
──
なるほど、そうか。
屋根の論理が機能してるんですね。
村上
最後の一滴を、奪い合うように
厳密に配分しろと言っているのは、
壁の論理に支配されたチーム。
ふだんの暮らしの中でも、
もういちど「屋根」を取り戻すには
どうしたらいいのかって、
家にいなきゃならないいまはとくに、
考えたりしていますね。
──
いやあ、おもしろいです。
ちょっと予想できないところにまで、
話が広がっていきました。
村上
こういうことばっかり、考えてます。
──
ぜひ、あらためて、
対面でじっくりお話させてください。
村上
はい、もちろんです。
──
ちなみに、その背景、どちらですか?
村上
北極の火星基地、ですね。
──
そこに住んでいたときに撮った写真。
村上
そうです。
──
じゃあ、その丸い窓の外は‥‥火星。
村上
はい(笑)。
火星に降り立った設定の実験なので、
火星‥‥っぽい風景が広がってます。

(次回、インテリアスタイリストの窪川勝哉さんに続きます)

2020-05-26-TUE

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