こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 國村さんは、
新型コロナの感染拡大のさなか、
どんなことを考えていましたか。
- 國村
- 恥ずかしながらね、ぼくは、
「パンデミック」という言葉の
きちんとした意味を、
今回、はじめて知ったんです。 - 聞いたことはあったとしても、
ずっと歴史書の中、
映画の中の言葉だったんですよ。
- ──
- なるほど。
- 國村
- カミュの描いた「ペスト」だって、
もともとは
中世ヨーロッパの出来事ですし、
スペイン風邪も、
100年くらい前のことですよね。
- ──
- そうみたいですね。
- 國村
- ですから、どこか現実味のない‥‥
とらえどころのないもので、
それが、
自分の身に降りかかるだなんて、
これっぽっちも
想像していなかったんです。
- ──
- きっと、多くの人も、そうですよね。
- とくに日本のような国に住んでると、
病気が蔓延するなんて、
ちょっと、考えもしなかったですし。
- 國村
- 外に出られなくなって、仕事も中断、
こんなに、
いろんなものがストップするとはね。 - だから今回のこのコロナの問題って、
何か、どこかね、
あぶり出しみたいなところがあって。
- ──
- あぶり出し?
- 國村
- うん、この間に起こった
社会インフラの問題であったりとか、
政治の問題もそう。 - 先進国で、いろいろ
しっかりしているって思われていた
この国の「ひずみ」が、
あぶり出されてきているなというか。
- ──
- これまで、
あんまり発言してこなかった方々も、
これを機に
自分の意見を言いはじめてるような、
そんな雰囲気は、感じますね。
- 國村
- そうですね。うん、うん。
- ──
- じゃあ、いまは撮影も止まっていて。
- 國村
- そうです、そうです。止まってます。
- もう、こっちずーっと2ヶ月ぐらい、
予定していた仕事は、
みーんなストップしちゃってますね。
- ──
- では、この2ヶ月、國村さんは、
おうちで何をなさっていたんですか。
- 國村
- ええ、何をしてたんでしょうね‥‥。
いや、極端に言ったら何もしてない。 - 毎日、テレビのニュースを見ながら、
「ふぅーん」とうなったり、
「なるほど」とか思ったりしながら、
2ヶ月もの月日が、
ただただ、過ぎていったような感覚。
- ──
- 不思議な時間、でしたよね。
- 國村
- まったく現実味の薄かった
「パンデミック」というできごとが、
ドアの外では、
現実に起こっているわけですよね。
- ──
- ええ。
- 國村
- 自分たちは
まさに今その真っ只中にいるという、
世界中が当事者で、
自分も例外なく当事者であるのに、
どこかで覚めて、
客観的であったりもするわけですよ。 - 妙な、おかしな感じ‥‥でした。
- ──
- 國村さんは、
海外でのお仕事も多いと思いますが、
これまでに、
ここまで仕事がストップした経験は
ありましたか。
- 國村
- ないです。はじめてですね。
- 毎日、仕事で忙しくしてると、
あれやりたいな、これやりたいなと、
思ってたりするじゃないですか。
- ──
- そうですね、ええ。
- 國村
- ぼくもね、しばらく仕事ないのなら、
また絵でも描こうかって、
思ってたんだけど、
結局、
今日にいたるまで描いてないんです。 - どうも本気でやる気が起きなかった。
- ──
- ああ、すごくわかります。
ぼくもいくつか手を出したんですが、
結局、続きませんでした。 - 家から出られず、ひまな時間があって
「だから、何かしよう」
だと、本気では向き合えないのかなと
思ったりしました。
- 國村
- うん、そうかもしれないですね。
- ──
- お仕事のことを考えたりとかは‥‥?
- 國村
- それも、あんまり。
- 起きて、食べて、寝て、また起きて、
境目のない時間が
ずーっとつながっている感覚で、
「あ、また1日が終わってしまった」
「あ、また1日が終わってしまった」
その繰り返しでした。
- ──
- いずれ撮影も再開すると思いますが、
セリフを覚えたりとか‥‥。
- 國村
- 最初、
デッサンぐらいのぼんやりとした描写を、
徐々にクリアな線にしていく、
そういう作業を、
台本を通じて繰り返すんですけどね。
- ──
- ええ。
- 國村
- 何ていうのかな、不思議なことにね、
その過程で、
セリフは自然に入っていくんですよ。
- ──
- おお。
- 國村
- もちろん
難しい固有名詞や数字なんかは別で、
覚えるべくして覚えないと、
覚えられないんですけれど(笑)、
ストーリーの大まかな展開、
自分の心のありようや移り変わりは、
きちんと覚えたり、
ガッチリ固めたりはしないんです。
- ──
- ようするに、セリフというのものは、
「わざわざ覚える」というのとは、
ちょっとちがう感覚なんでしょうか。
- 國村
- ええ、その役柄を生きるわけだから。
- ──
- 昔から、そんな感じだったんですか。
- 國村
- いや‥‥どうだろう、
若いころは、たぶん正反対でしたね。 - 一生懸命になって、躍起になって、
現場に
完成品を持っていこうとしてました。
- ──
- 完成品。
- 國村
- それを、懐にかくし持っていないと、
不安で不安で仕方なかった。 - ところがね、現場で監督が、
そっちじゃなくてこっち来てよって、
言ったりするんですよ。
- ──
- ええ。「完成」してるのに。
- 國村
- そうそう、だからね、
自分の中でガチガチに完成してると、
急にそんなこと言われても、
対応できないことに気づきまして。
- ──
- つまり、ある程度の「幅」がないと。
あそび‥‥というか。
- 國村
- 物語というものは、
監督、キャメラマンをはじめとして、
いろんな人と
一緒になってつくるものですからね。 - 勝手に「こうだろ」と固めたものを
現場に持っていっても、
使い物にならないわけです、それは。
- ──
- なるほど。
- 國村
- たぶん、そういう経験を経たうえで、
いつのまにか、
いまのような感じになったんですよ。
- ──
- いま、とくに若手の役者さんたちが、
ネットのビデオ会議ツールで、
リモート演劇をしてらっしゃいます。 - 國村さんは、ああいった取り組みを、
どんなふうに見てらっしゃいますか。
- 國村
- とても意義のある活動だと思います。
- 家に籠もらざるを得ず、
気持ちがふさぎ込んでしまうときに、
エンターテインメントを
生業にしているぼくらができること、
だと思いますから。
- ──
- ええ。
- 國村
- で、そのことを踏まえて‥‥ですが、
ひとつ、
リモートのドラマを見たんですけど、
あの作品を見た限りで言うならば、
「あ、これは簡単じゃないな」
とは、率直に言って、思いましたね。
- ──
- そうですか。
- 國村
- 制約の中でやっているという部分が、
どうしても、
まだね、見えてしまっていると思う。
- ──
- なるほど。
- 國村
- リモートという状況を
おもしろがってやっているんですが、
「こうしなければならない」
という制約が透けて見えてしまうと、
見ている側も、
グッと入り込んでいけないんですよ。
- ──
- リモートでやる、積極的な意味‥‥。
- 國村
- リモートでなければできないことや、
リモートでやるからおもしろい、
今後は、脚本も含めて、
そこを見つけていけたらいいなぁと。
- ──
- 一昨年でしたか、
國村さんの朗読劇をふたつ観劇して、
すごくおもしろかったんです。 - ひとつは、まさかの「犬役」の
イッセー尾形さんと共演された戦争のお話、
もうひとつは、
死刑囚の話を聞く教誨師さんのお話。
- 國村
- ええ。
- ──
- 身体的な動きは、ほぼないんですが、
脚本と、俳優さんの声と、
効果的な音楽で、
物語の情景が、ありありと浮かんで。
- 國村
- ええ、何だか、そうみたいですよね。
見てくださった人に聞くと。 - ぼく自身は「朗読劇」というものを、
観客として観たことはなくて、
ラジオドラマの延長のような気分でいました。
- ──
- あれを観ていたものですから、
リモートの表現も、
國村さんのおっしゃる点を
突き詰めていくことができたら、
不自由を逆手に、
新しい表現の形になっていくのかも、
と思いました。
- 國村
- うん、うん。そうですね。
- ──
- あの、これは、できれば聞きたいと
思っていたのですが、
ジョニー・デップさんと共演された
「MINAMATA」という作品、
日本での公開は、まだ先でしたよね。
- 國村
- ええ、日本公開についての
インフォメーションは来てないです。 - ベルリン映画祭に出てましたけどね。
- ──
- あ、そうですか。
- 國村
- たしか、映画祭の会場には、
ジョニーの他に真田(広之)さんと、
美波ちゃんがいたはずです。
- ──
- いや、ものすごく楽しみなんですが、
どうでしたか、やってみて。
- 國村
- これは前も言ったかもしれないけど、
同じ時代に生きているんですから、
一緒にやってみたい役者さんが数人、
いるんですけどね、ぼくには。
- ──
- ええ。
- 國村
- そのなかのひとりが、
ジョニー・デップだったんですよね。 - だからね、うれしかったです(笑)。
- ──
- 絡むシーンもあるんですか。
- 國村
- ぼくが演じた人物、
ほぼ、ジョニー・デップとだけなんですよ。
- ──
- あ、そうなんですか!
- 國村
- あの水俣の「チッソ」という会社の
何代目かの社長、それがぼくで、
ジョニーは、水俣を世界に紹介した
ライフ誌の専属キャメラマンの
ユージン・スミスって、実在の人物。
- ──
- じゃ、つまり向かい合ったんですね。
ジョニー・デップさんと。
- 國村
- ぼくは、ユージン・スミスを、
一生懸命に懐柔しようとするような、
そういう役回りでしたから。
- ──
- どうでした、ジョニー・デップさん。
共演されてみての、ご感想は。
- 國村
- イメージしていた通りの人、でした。
- 社交的でないわけではないし、
周囲に対しても紳士的なんだけども。
- ──
- ええ。
- 國村
- たぶんこの人、ほんとうは、
自分の世界に、
ずっと籠もっていたいんだろうなあ、
という感じの人でした。
- ──
- へえ‥‥。
- 國村
- でね、ぼくはあなたの映画のなかで、
『シザーハンズ』が大好きで、
あなたの演じた人造人間エドワード、
彼のことが大好きなんだ‥‥って。
- ──
- おお、お伝えしたんですか。
- 國村
- そしたら、すっごくうれしかったみたいで、
「はじめて、あの脚本を読んだとき、
ボロボロ泣いたんだ」って言ってた。
- ──
- わあ。
- 國村
- そういう感性を持ってる人なんです。
- あのエドワードって稀有なキャラクターは、
この人じゃなければ、
演じられないだろうなと思いました。
- ──
- 國村さん、ハリウッドにも韓国にも、
海外へたくさん呼ばれて、
どうですか、
そういう実感って、何かありますか。
- 國村
- いや、もともと映画って、
そういうメディアじゃないですか。 - とくにぼくの場合は、
デビュー作の『ガキ帝国』の次が、
リドリー・スコットの
『ブラック・レイン』でしたから。
- ──
- ああー‥‥なるほど(笑)。
- そのあとも、
ジョン・ウー監督に呼ばれて香港、
Q・タランティーノ監督に呼ばれて
ハリウッドの『キル・ビル』、
ナ・ホンジン監督に呼ばれて
韓国の『コクソン/哭声』‥‥と。
- 國村
- そう、だからね、映画っていうのは、
どの国の誰とでもやるもんやって、
そう思ってるんです。
- ──
- 映画というものに対して
はじめから
国境みたいなものを感じてなかった。
- 國村
- そうそう。ま、たまたまですけどね。
- 日本の中だけでやるもんだ‥‥とは
思ってないし、
いまはアジア人のポン・ジュノが、
アカデミー賞を獲るような時代だし。
- ──
- ああ、そうですね。『パラサイト』。
- 國村
- より、実感できるようになりました。
映画で、どこへでも行ける‥‥って。
- ──
- 映画の翼に乗って。いいなあ。
- じゃ、いまは、撮影が再開する日を
静かに、待ってらっしゃる。
- 國村
- はい、そうですね。
徐々に日常へ還っていこうかな、と。
- ──
- 久しぶりにお話しできて、
とっても楽しく、うれしかったです。 - ありがとうございました。
- 國村
- こちらこそです。
- ──
- 最後、パソコンの画面越しに、
写真を撮らせてもらってるんですが。
- 國村
- ええ。
- ──
- 國村さんも、撮影させていただいて
大丈夫でしょうか。
- 國村
- もちろん。どうぞ。
(この連載は、今日でおしまい。長らくのご愛読、ありがとうございました。)
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