こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 先生、ご無沙汰しております。
そんな気は、あんまりしませんが。
- 和田
- 初ZOOMなんですよ。
- ──
- あ、そうでしたか。
でも、お元気そうで、何よりです。
- 和田
- 元気そうに見えます?
- ──
- お召し物のお色が、お元気そうです。
ターコイズブルーですかね。
- 和田
- 正解ですね。
- ──
- すがすがしい空色が、さわやかです。
さっそく本題で恐縮ですが、
ズバリいかがですか先生、ここ最近。 - 新型コロナで、大変でしたけれども。
- 和田
- それがね、ぼく自身の毎日の生活って、
ほぼ変わってないんですよ。
漫画家って家で描いてるでしょ、基本。 - だから、生活自体は変わってなくて。
- ──
- なるほど。じゃあ、これまでどおりに、
淡々と、黙々と、
おもしろいことを考えてらっしゃった。
- 和田
- そう言われると、まあ、そうですかね。
- それに「リモート疲れ」とか言うけど、
デビューしたころから、
こっちにいるじゃないですか、松山に。
- ──
- ええ。あっ。
- 和田
- もともとリモートだったんですよ。
- ──
- ああー‥‥人生がリモートだった。
- 和田
- ただ「メールとZOOM」じゃなくて、
「電話とFAX」だけど。
- ──
- 1991年の『イキナリどうだ』で
デビューしてから30年もの間、
電話とFAXで、
リモートワークを貫いてらっしゃる。
- 和田
- やっと時代が追いついてきました。
- ──
- 先取りしすぎてますね、30年って。
ほとんど「預言者」です。 - 外出も、あまりされてないんですか。
- 和田
- ああー、外出ね。してないですねえ。
- 松山市内の方へも行ってませんしね。
近所のスーパーで買い物するのと、
たまにケンタッキーに行くくらいで。
- ──
- 先生は、ご趣味とかって‥‥。
- 和田
- 趣味ね。ないですね、趣味。
- ──
- やっぱり、そうでしたか。
先生の趣味って聞いたことないなと。
- 和田
- 昔はあったんですけど、
子どももみんな独立しちゃったんで、
いまはやってないです。
- ──
- 何をやられてたんですか、昔。趣味。
- 和田
- 釣りとかね。
- ──
- あ、へぇ。釣り。何だか意外だなあ。
- 和田
- あとは、山に登ったり下りたり。
- ──
- 下りたり(笑)。
- 和田
- うん。
- ──
- 登ったら下りないと。
- 和田
- 登山と下山はワンセットです。
- ──
- じつはアクティブ派だったんですね。
- 和田
- まあ、昔はね。でも、もうサッパリ。
- だから、奥野さんたちのほうが、
変化が大きかったんじゃないですか。
- ──
- そうですね、会社もリモートだし、
取材のスタイルもこれになりましたし。 - 3月の末くらいからでしょうか、
こういう取材、
かれこれ30回くらいやってるんです。
最初、大丈夫かなと思いましたけど。
- 和田
- そんなに。
- ──
- でも、やっているうちに、
コミュニケーションが大切、
コミュニケーションが大切というけれども、
100%、
一字一句もれなく伝わらなくたって、
「ま、いっか」と
思うようになった感はありますかね。
- 和田
- ああ、そうですか。
途中で電波が途切れたりするもんね。
- ──
- そうなんですよ。
- 和田
- そういう場合、どうしてるんですか。
- ──
- 電波が切れた場合ですか?
- 和田
- あとから「いま電波が」とか言うの、
面倒くさくないですか。
- ──
- 大事そうな部分の場合は聞き返して、
そうでもなさそうな場合は、
なるほど的な顔をしたりしています。
- 和田
- ああ、こんなもんでいいか、って。
- でも、人と話すのがかなり久しぶりで、
懐かしい感じさえあるなあ。
こんなに人と話さないのは、
人生で、はじめての経験かもしれない。
- ──
- 2ヶ月、とかですもんね。
- 和田
- ここ最近、奥さんとしか、話してない。
- もともと社交的なほうじゃないけど、
週に1回、
ラジオ番組の収録をしてたんですけど、
いま、それも一時中断なんで。
- ──
- ラジオですから「口数」としては、
けっこうな数、あったわけですもんね。 - 一週間にいちどでも、まとめて一気に。
- 和田
- だから、あれがないだけで、
かなり生活リズムは変わってますよね。 - そう思うと、人としゃべるのって、
やっぱり大事だったのかなあ、とかね。
- ──
- うん、うん。それは実感しますね。
- そう言えば、先生の最新刊であり、
漫画の神様・手塚治虫さん原作の
『和田ラヂヲの火の鳥』、
めちゃくちゃおもしろかったです。
- 和田
- あれは「火の鳥」の力ですよ。
- ──
- いつにもまして、
物語世界がブッ飛んでいるなあと。 - 先生の思考回路としては、
まずは「火の鳥」という鳥がいて、
それにたいして、
あのように、
さまざまな物語を発想されている。
- 和田
- えぇと、まあ、そうですね。
- 火の鳥が先にくるときもありますし、
「ペット編」みたいに、
キャットフードの
「CIAOちゅ~る」みたいなのを、
火の鳥が
ガツガツ食べてたらおもしろいなあ、
みたいなところから
広げていったパターンもありますし。
- ──
- はああ‥‥なるほど。
- 和田
- でも、自分の本をあらためて読むと、
あっという間に読めてビックリする。
- ──
- 1時間あれば、という感じですよね。
今回の「火の鳥」にしても。
- 和田
- あれ、1年半の連載だったんですよ。
- それを、読者の人に
「あっという間に読み終わりました」
とか言われると、
「そりゃあ、そうだよな」と思って、
悲しくなったりするんですよ。
- ──
- いやいや、でも、満足度高いですよ。
- 和田
- そう?
- ──
- 本って、最後まで読みとおすことで、
満足感が高まることもあるし。
- 和田
- ああ、なるほど。読んだぞ、と。
- ──
- もちろん、読みとおせるってことは、
内容がおもしろいわけですけど、
そういう意味で、先生の本って、
すぐに読めるし、いつでも読めるし、
スキマ時間でも読めるし、
いつまででも読めるし、
すぐ読み終わるし、
何度でも読めるし、
いろんな意味で満足感が高いですよ。
- 和田
- でも、なんだろう、
「感想を言え」とか言われた場合は、
言いにくいでしょ。
- ──
- あぁ、感想‥‥まあ、
たしかに小難しい感想はないですね。
- 和田
- ほら。
- 考えさせるものが特に何もないから、
感想が残らないんですよ。
- ──
- 読んでよかった気持ちが残りますよ。
そして、その気持ちは忘れないです。 - 小難しい感想はないけど。
- 和田
- 休憩時間みたいなものなのかなあ。
- ──
- ああ、そうかもしれません。休憩。
- でも先生、
人生には休憩時間が必要ですよね。
- 和田
- まあ、もともと「ギャグ漫画」って、
そういうものなんでしょうけど。 - お弁当のオカズでいえば、
はしやすめのタクアンみたいな感じ。
- ──
- いやいや、さすがにそれはないです。
先生の作品は、
どんなにひかえめに言っても、
ナゲット感はありますよ。
- 和田
- ナゲット感て(笑)。
- ──
- いわば、おたのしみのオカズです。
弁当の中のメインキャラの一角です。
- 和田
- でも、漫画雑誌の編集者からすると、
あくまで「メイン」は、
ストーリーものの作品なんだよね。
- ──
- そうなんですか。
- 和田
- アカデミー賞なんか見てても、
作品賞は、重厚な映画が獲るもんね。
- ──
- なんか、なんなんでしょうね、それ。
ミスター・ビーンの映画とか‥‥。
- 和田
- 獲らないでしょビーンは。
間違ってもアカデミー賞は。ビーンは。
- ──
- ビーンが獲らない代わりに、
深遠なテーマの巨編が獲りますよね。
- 和田
- SF映画で言ったら、
『2001年宇宙の旅』と言っとけば、
間違いないみたいな。
- ──
- そういう風潮ありますね。
- 和田
- やっぱり、われわれ人間というのは、
できることなら、
自分を賢く見せたいというところが、
あるんじゃないかなあ。
- ──
- ギャグ漫画って、
そういう価値観からは遠いところで
ただ笑ってるみたいな。 - そんなところが素敵だなと思います。
- 和田
- なんかペットに近いのかもね。
- ──
- なるほど。猫ちゃんみたいな。
- 和田
- ペットに深遠さって求めないでしょ。
- ──
- 求めないです。
- 和田
- それよりも、なんか
おもしろいことしてくれてるほうが、
うれしいし、
みんな幸せになれるじゃないですか。 - ただ寝てるだけ、とかでも。
- ──
- ずっと見てられますもんね。猫って。
とくに意味なく、見てられる。
- 和田
- やっぱり猫に近いのかもしれないな。
ギャグ漫画って、ホントに。
- ──
- 逆に「2001年宇宙の旅」みたいな
猫がいても、
ちょっとどうかと思いますもんね。
- 和田
- 扱いづらいわ(笑)。
- ──
- ハハハ。はぁ~‥‥あ、こんな時間。
- 先生、今日は、おもしろかったです。
ありがとうございました。
- 和田
- えっ、こんなんでいいの?
おしゃべりしかしてないじゃないか。
- ──
- 大丈夫です。
- 和田
- ほんとですか。
- ──
- はい、大丈夫です。
- 先生、最後にひとつお願いですけど、
みなさんにキメで、
パソコンの画面越しに、
お写真を撮らしてもらってるんです。
- 和田
- いいですよ。そこはアナログなんだ。
- ──
- そうですね、ハイ、撮りまーーーす。
(シャッター音)
- 和田
- こんな顔で大丈夫かな。
- ──
- もちろん大丈夫です(シャッター音)。
- ちなみに先生は、
毎日のごはんはどうされてるんですか。
お料理とか、やられるんですか。
- 和田
- いや、あんまりしないですね。
お手伝いするくらいです、奥さんの。 - パスタのゆでかげんを見たりとか。
- ──
- そろそろアルデンテかな、みたいな。
(シャッター音)
- 和田
- 家庭では
アルデンテの和田と呼ばれています。
- ──
- ご家庭なのに「和田」ですか(笑)。
スペシャリスト感あるなあ。
(シャッター音)
- 和田
- だって、ホラ、パスタっていうのは、
そこがいちばん大事ですから。
スペシャリストがチェックしないと。
- ──
- ああ‥‥そうですね、そうですよね。
- アルデンテかどうかを見極めるのは、
ダルマに目を入れる人の役目ですね。
(シャッター音)
- 和田
- そうです。
- ──
- わかりました。ありがとうございます。
(シャッター音) - じゃ、本日のこれまでのお話、
原稿にまとめてお送りしますので。
- 和田
- 中身ないですよ、やっぱり(笑)。
- ──
- あります、ありますよ。ありましたよ。
なかでもあった回だと思いますよ。
- 和田
- うそ(笑)。何にも言ってないと思う。
- ──
- ないようであるのが、中身ですよ。
- 和田
- そうかなぁ(笑)。
- また何も残らないって言われそうだよ。
俺のマンガといっしょで。
- ──
- いや、案外これ、文字にしたときには、
残ったりすると思いますよ。 - なんか、文字の「影」みたいなものが。
- 和田
- そうなの?
- ──
- はい、今日という日の先生の「気配」、
みたいなものが、きっと。
- 和田
- それなら、いいんですけどね。
(つづきます)
2020-05-31-SUN