こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 岡本敏子賞、おめでとうございます。
- 根本
- ありがとうございます(笑)。
- ──
- ニュースで、わあ、根本さんだって。
- 根本
- はい。自分でも、ビックリしました。
- ──
- 岡本太郎さん、敏子さんのお名前が
冠された賞って、すごいですよね。
- 根本
- 芸術を志す人ならみんな知ってるし、
自分でも、あこがれていた賞です。 - 野良犬の作品を出していたんですが、
いいニュースを、
家族や友人に知らせることができて、
うれしかったです。
- ──
- 作品は、ネットで拝見してました。
前から取り組んでましたもんね、犬。
- 根本
- あの、今回の取材のお話をいただいて、
2週間くらい経ちますけど、
その間、何を話したらいいかなあって、
ずーっと考えてたんですね。
- ──
- あ、ほんとに。恐縮です、なんだか。
- 根本
- でも、いまって、社会の情勢が、
ほんの2~3日で変わっちゃいますし、
そのなかで、
わたしの「いま、考えていること」も、
どんどん変化していく気がして。
- ──
- そうですよね。1日2日という単位で。
- 根本
- だから、この時期に取材を受けるのは
恐ろしいことだと思ったんですけど、
よく考えたら、
作品を発表することと一緒だなと思いました。
- ──
- ああ‥‥そうですか。
- 根本
- はい、一生の答えにたどりつきたくて
作品を発表してるわけじゃなくて、
そのときの感覚や思いみたいなものを、
信じてやっているので。
- ──
- じゃ、今日は「今日、思ってること」を、
どうぞ自由に、聞かせてください。
- 根本
- はい。ひとつには、これまで
ずっと作品を通して考えてきたことが、
新型コロナの感染拡大で、
具現化してしまった、ということです。 - わたしは、作品を通して、
見えないものやわからないものに対する
恐怖と集団意識、
みたいなことをずっと考えてたんです。
- ──
- 分子を象った陶芸作品もありましたね。
- 根本
- はい、あれは、
見えないものや、わからないものでも、
無闇に恐れる必要はないよって、
お守りのような意味を込めて、
あんなふうに立体化したんですけれど。
- ──
- ええ、言ってましたよね。
- 根本
- これは書かなくてもいいんですけれど、
やっぱり、どうしても、
放射性物質にたいする恐怖感と、
コロナの初期のころの、
「それが何者かわからない恐怖」とが、
すごく似ていて。わたしの中で。
- ──
- 震災後の福島に住んでいる根本さんが、
そう感じるのは変じゃないですよ。
- 根本
- 精神にかかるストレスが、似てました。
- 今回、岡本敏子賞をいただいた
「野良犬」って一連の作品のテーマも、
見えないものや、
わからないものにたいする「恐怖」と
「グループ性」だったんです。
- ──
- はー‥‥「恐怖」と「グループ性」。
異質な感じの犬の群れ、ですものね。
- 根本
- それに、川崎市の岡本太郎美術館に
展示されていたのが、
1月後半から4月の頭だったんです。 - ちょうど、ウィルスが拡大していく、
そのまっただなかだったので、
どうしようもなく、
自分の作品テーマとコロナとを、
関連して考えてしまうようになって。
- ──
- でも、見えないものや、
わからないものにたいする不安って、
かなり本質的ですよね。 - 怖いという感情の構成要素の中でも。
- 根本
- そうですね、そうだと思う。
何者なのかわからないから、怖い。 - 新型コロナウィルスにも、
そういう恐怖を感じていたんです。
- ──
- なるほど。
- 根本
- それと、もうひとつ不安だったのは、
こうしてリモート環境だけで
人と接していると、
ただでさえ「分断」されていたのに、
いよいよみんな、
バラバラになっちゃうのかなあって。
- ──
- そのことにたいする、不安。
- 根本
- みんな思ってることでしょうけど、
パソコンの画面越しに
お話しすることが多くなってきて、
やっぱりそれだと足りなくて。 - 相手の感情を推し量ったりすること、
難しいじゃないですか。
- ──
- その場の空気が伝えてくるものって、
ありますもんね、やっぱり。
- 根本
- このまま、どんどん進んでいったら、
「足りない」だけならまだしも、
本来、自由だった思考も、
不自由にされるような気もしていて。
- ──
- どういう意味ですか。
- 根本
- いまのこのインタビューについても、
わたしと、奥野さんと、
もうひとり、
この場を見ている存在がいて、
その人が、
いま、ここで交わされている言葉を、
忘れてくれない気がするというか。
- ──
- ああ、なるほど。
- ネットワークの目‥‥というような。
実際、この会話は録画してないけど。
- 根本
- でも、そんなふうに想像するだけで、
意外と人って、
思考や発言を左右されちゃったりも
するのかなあと思うんです。 - 目の前にいるのは奥野さんですけど、
そこに、同時に、
別の目の存在を感じると、なんだか。
- ──
- 「ビッグ・ブラザー」じゃないけど、
濃淡はあれ、
同じようなことはぼくも感じますよ。
- 根本
- で‥‥何が言いたいのかって言うと、
つまり、取材の前に
2週間の時間をもらっていて、
その間、そんなふうに、
ネガティブなことばっかり
考えていた‥‥はずなんですけどね。
- ──
- ええ。
- 根本
- 最終的には、なんだか、
幸せな感じになっちゃったんですよ。
- ──
- なんでですか(笑)。
- 根本
- それはたぶん、
この取材もそうなんですけど、
わたしに話を聞こうと思ってくれる人が
いたからです。
- ──
- ああ、なるほど。はい。
- 根本
- じつは、いま、
美術批評家の井上幸治さんが、
わたしの作品にたいして、
文章を書いてくださってるんですね。
- ──
- ええ。
- 根本
- そのときの井上さんの目線は、
監視するように見る目線じゃなくて、
あなたの本質を見ようとしているよ、
とか、
あなたの作品のことを考えているよ、
という‥‥。
- ──
- 目線というよりまなざし、みたいな。
- 根本
- そうやって、わたしの作品を
見ていてくれる人がいるってことに、
力をもらえるんだなあ、って。 - 今日のインタビューでも、わたしに、
「いま、何を考えていますか」
って聞いてくださるじゃないですか。
それってうれしいことだなあと、
幸せな気持ちになっちゃったんです。
- ──
- ネガティブだったのに(笑)。
- 根本
- なんかもう、ぐだぐだ考えたくせに、
そういう、
シンプルなところに着地した(笑)。 - 2週間も時間があったわりには、
ぜんぜんおもしろくない話でしたね。
- ──
- この連載って、
もう30人くらい取材してますけど、
いまの状況って、
全員が全員はじめての体験だからか、
一人ひとりが
「こころの中で考えていること」が、
かなりオリジナルなんですよ。 - つまりはそこが、おもしろいんです。
だから、根本さんの話も、
誰の話とも似てなくて、おもしろい。
- 根本
- あー、その言葉は、救いになります。
- こういう状況で、
いちばんイヤだなあと思ってたのは、
情報のシャワーのなかで、
みんなが、
同じことを言い出すことだったんで。
- ──
- うん‥‥ま、そろっている部分もね、
あるにはあるんですけど、
思考の真芯に近い部分では、
その人そのものになっていくんです。
- 根本
- なるほど。その人?
- ──
- 昆虫学者は虫や自然のことを、
お醤油屋さんは発酵のことを、
歌手は歌のことを、
葦船冒険家は海や船のことを、
やっぱり、考えてるんです。 - で、その虫とか発酵とか歌とかが、
ぼくには、
その人そのものに思えるんですよ。
- 根本
- あっ、そういうことで言うならば、
わたしも、
創作活動に助けられていました。 - みんな同じことを言っててヤだな、
でも、
自分だって同じこと言ってるよな、
そう思って
暗い気持ちになってしまったとき、
創作に向かうことで、
自分自身が癒やされていたんです。
- ──
- こういう時期に戻っていくところ。
そこが、その人自身なのかも。
- 根本
- そうかもしれないですね。
- その時間だけは自分の時間になる。
まわりの情報とか状況とか数字に、
流されない、奪われない。
わたしにとって、創作の時間って、
そういうものだったってわかった。
- ──
- なるほど。
- 根本
- 目線に余裕が生まれるっていうか。
- ──
- 余裕?
- 根本
- そう、わからないものを、
ただ「わからない」っていうだけで
排除しない態度というか‥‥
つまり、
いまって「わからないもの」と、
向き合わざるをえない日々ですよね。
- ──
- そうですね。
- 根本
- そのときにわたしはできることなら、
異質なものを、
異質だからって排除してしまわずに、
わからないものを、
わからないまんま、
ポワンと、
あたまの斜め上あたりに、
浮かべたままにしておきたいんです。
- ──
- なるほど。
- 根本
- そのために、そうするために、
わたしは
「相手は自分かもしれないぞ方式」
を使って、わからない相手のことを、
異質じゃないんだ、
自分と同じプールに入ってる相手だと、
考えるようにしてきたんです。
- ──
- はあ‥‥異質で怖いんだけど
だからといって排除しないために、
「同じプールの仲間だ」と。
- 根本
- ずーっとそうやってきたんですけど、
でも、いまは、
わからないものがたくさんあるので、
「自分」がたくさん増えちゃう。 - そこで、今度は逆に
「個を守ろう」としたんですよ。
- ──
- その「守るすべ」が「創作」だった。
- 根本
- そうです。陶芸だったんです。
土に向かうことで個を保てたんです。
- ──
- 複雑で、めずらしい、おもしろい話。
- 根本
- だから、いまの話を聞けてよかった。
- 他の人たちも、いまのこの時期、
自分の大事なものに向き合うことで、
個を守ってる、
自分を大事にしているんだと思うと。
- ──
- はい。
- 根本
- 幸せな気持ちになる、勝手に。
(つづきます)
2020-05-30-SAT