こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第27回 見えないものが怖かったけど、創作に助けられていました。 [根本裕子さん(陶芸家)]

──
岡本敏子賞、おめでとうございます。
根本
ありがとうございます(笑)。
──
ニュースで、わあ、根本さんだって。
根本
はい。自分でも、ビックリしました。
──
岡本太郎さん、敏子さんのお名前が
冠された賞って、すごいですよね。
根本
芸術を志す人ならみんな知ってるし、
自分でも、あこがれていた賞です。
野良犬の作品を出していたんですが、
いいニュースを、
家族や友人に知らせることができて、
うれしかったです。
──
作品は、ネットで拝見してました。
前から取り組んでましたもんね、犬。

写真撮影:大槌秀樹 写真撮影:大槌秀樹

根本
あの、今回の取材のお話をいただいて、
2週間くらい経ちますけど、
その間、何を話したらいいかなあって、
ずーっと考えてたんですね。
──
あ、ほんとに。恐縮です、なんだか。
根本
でも、いまって、社会の情勢が、
ほんの2~3日で変わっちゃいますし、
そのなかで、
わたしの「いま、考えていること」も、
どんどん変化していく気がして。
──
そうですよね。1日2日という単位で。
根本
だから、この時期に取材を受けるのは
恐ろしいことだと思ったんですけど、
よく考えたら、
作品を発表することと一緒だなと思いました。
──
ああ‥‥そうですか。
根本
はい、一生の答えにたどりつきたくて
作品を発表してるわけじゃなくて、
そのときの感覚や思いみたいなものを、
信じてやっているので。
──
じゃ、今日は「今日、思ってること」を、
どうぞ自由に、聞かせてください。
根本
はい。ひとつには、これまで
ずっと作品を通して考えてきたことが、
新型コロナの感染拡大で、
具現化してしまった、ということです。
わたしは、作品を通して、
見えないものやわからないものに対する
恐怖と集団意識、
みたいなことをずっと考えてたんです。
──
分子を象った陶芸作品もありましたね。
根本
はい、あれは、
見えないものや、わからないものでも、
無闇に恐れる必要はないよって、
お守りのような意味を込めて、
あんなふうに立体化したんですけれど。
──
ええ、言ってましたよね。

アドレナリン(興奮、恐怖、不安) アドレナリン(興奮、恐怖、不安)

根本
これは書かなくてもいいんですけれど、
やっぱり、どうしても、
放射性物質にたいする恐怖感と、
コロナの初期のころの、
「それが何者かわからない恐怖」とが、
すごく似ていて。わたしの中で。
──
震災後の福島に住んでいる根本さんが、
そう感じるのは変じゃないですよ。
根本
精神にかかるストレスが、似てました。
今回、岡本敏子賞をいただいた
「野良犬」って一連の作品のテーマも、
見えないものや、
わからないものにたいする「恐怖」と
「グループ性」だったんです。

写真撮影:大槌秀樹 写真撮影:大槌秀樹

──
はー‥‥「恐怖」と「グループ性」。
異質な感じの犬の群れ、ですものね。
根本
それに、川崎市の岡本太郎美術館に
展示されていたのが、
1月後半から4月の頭だったんです。
ちょうど、ウィルスが拡大していく、
そのまっただなかだったので、
どうしようもなく、
自分の作品テーマとコロナとを、
関連して考えてしまうようになって。
──
でも、見えないものや、
わからないものにたいする不安って、
かなり本質的ですよね。
怖いという感情の構成要素の中でも。
根本
そうですね、そうだと思う。
何者なのかわからないから、怖い。
新型コロナウィルスにも、
そういう恐怖を感じていたんです。
──
なるほど。
根本
それと、もうひとつ不安だったのは、
こうしてリモート環境だけで
人と接していると、
ただでさえ「分断」されていたのに、
いよいよみんな、
バラバラになっちゃうのかなあって。
──
そのことにたいする、不安。
根本
みんな思ってることでしょうけど、
パソコンの画面越しに
お話しすることが多くなってきて、
やっぱりそれだと足りなくて。
相手の感情を推し量ったりすること、
難しいじゃないですか。
──
その場の空気が伝えてくるものって、
ありますもんね、やっぱり。
根本
このまま、どんどん進んでいったら、
「足りない」だけならまだしも、
本来、自由だった思考も、
不自由にされるような気もしていて。
──
どういう意味ですか。
根本
いまのこのインタビューについても、
わたしと、奥野さんと、
もうひとり、
この場を見ている存在がいて、
その人が、
いま、ここで交わされている言葉を、
忘れてくれない気がするというか。
──
ああ、なるほど。
ネットワークの目‥‥というような。
実際、この会話は録画してないけど。
根本
でも、そんなふうに想像するだけで、
意外と人って、
思考や発言を左右されちゃったりも
するのかなあと思うんです。
目の前にいるのは奥野さんですけど、
そこに、同時に、
別の目の存在を感じると、なんだか。
──
「ビッグ・ブラザー」じゃないけど、
濃淡はあれ、
同じようなことはぼくも感じますよ。
根本
で‥‥何が言いたいのかって言うと、
つまり、取材の前に
2週間の時間をもらっていて、
その間、そんなふうに、
ネガティブなことばっかり
考えていた‥‥はずなんですけどね。
──
ええ。
根本
最終的には、なんだか、
幸せな感じになっちゃったんですよ。
──
なんでですか(笑)。
根本
それはたぶん、
この取材もそうなんですけど、
わたしに話を聞こうと思ってくれる人が
いたからです。
──
ああ、なるほど。はい。
根本
じつは、いま、
美術批評家の井上幸治さんが、
わたしの作品にたいして、
文章を書いてくださってるんですね。
──
ええ。
根本
そのときの井上さんの目線は、
監視するように見る目線じゃなくて、
あなたの本質を見ようとしているよ、
とか、
あなたの作品のことを考えているよ、
という‥‥。
──
目線というよりまなざし、みたいな。
根本
そうやって、わたしの作品を
見ていてくれる人がいるってことに、
力をもらえるんだなあ、って。
今日のインタビューでも、わたしに、
「いま、何を考えていますか」
って聞いてくださるじゃないですか。
それってうれしいことだなあと、
幸せな気持ちになっちゃったんです。
──
ネガティブだったのに(笑)。
根本
なんかもう、ぐだぐだ考えたくせに、
そういう、
シンプルなところに着地した(笑)。
2週間も時間があったわりには、
ぜんぜんおもしろくない話でしたね。
──
この連載って、
もう30人くらい取材してますけど、
いまの状況って、
全員が全員はじめての体験だからか、
一人ひとりが
「こころの中で考えていること」が、
かなりオリジナルなんですよ。
つまりはそこが、おもしろいんです。
だから、根本さんの話も、
誰の話とも似てなくて、おもしろい。
根本
あー、その言葉は、救いになります。
こういう状況で、
いちばんイヤだなあと思ってたのは、
情報のシャワーのなかで、
みんなが、
同じことを言い出すことだったんで。
──
うん‥‥ま、そろっている部分もね、
あるにはあるんですけど、
思考の真芯に近い部分では、
その人そのものになっていくんです。
根本
なるほど。その人?
──
昆虫学者は虫や自然のことを、
お醤油屋さんは発酵のことを、
歌手は歌のことを、
葦船冒険家は海や船のことを、
やっぱり、考えてるんです。
で、その虫とか発酵とか歌とかが、
ぼくには、
その人そのものに思えるんですよ。
根本
あっ、そういうことで言うならば、
わたしも、
創作活動に助けられていました。
みんな同じことを言っててヤだな、
でも、
自分だって同じこと言ってるよな、
そう思って
暗い気持ちになってしまったとき、
創作に向かうことで、
自分自身が癒やされていたんです。
──
こういう時期に戻っていくところ。
そこが、その人自身なのかも。
根本
そうかもしれないですね。
その時間だけは自分の時間になる。
まわりの情報とか状況とか数字に、
流されない、奪われない。
わたしにとって、創作の時間って、
そういうものだったってわかった。
──
なるほど。
根本
目線に余裕が生まれるっていうか。
──
余裕?
根本
そう、わからないものを、
ただ「わからない」っていうだけで
排除しない態度というか‥‥
つまり、
いまって「わからないもの」と、
向き合わざるをえない日々ですよね。
──
そうですね。
根本
そのときにわたしはできることなら、
異質なものを、
異質だからって排除してしまわずに、
わからないものを、
わからないまんま、
ポワンと、
あたまの斜め上あたりに、
浮かべたままにしておきたいんです。
──
なるほど。
根本
そのために、そうするために、
わたしは
「相手は自分かもしれないぞ方式」
を使って、わからない相手のことを、
異質じゃないんだ、
自分と同じプールに入ってる相手だと、
考えるようにしてきたんです。
──
はあ‥‥異質で怖いんだけど
だからといって排除しないために、
「同じプールの仲間だ」と。
根本
ずーっとそうやってきたんですけど、
でも、いまは、
わからないものがたくさんあるので、
「自分」がたくさん増えちゃう。
そこで、今度は逆に
「個を守ろう」としたんですよ。
──
その「守るすべ」が「創作」だった。
根本
そうです。陶芸だったんです。
土に向かうことで個を保てたんです。
──
複雑で、めずらしい、おもしろい話。
根本
だから、いまの話を聞けてよかった。
他の人たちも、いまのこの時期、
自分の大事なものに向き合うことで、
個を守ってる、
自分を大事にしているんだと思うと。
──
はい。
根本
幸せな気持ちになる、勝手に。

2020年5月20日 東京都港区←ZOOM→福島県須賀川市 2020年5月20日 東京都港区←ZOOM→福島県須賀川市

SANZOKUのバケラッタカップ(現在はSOLD OUT)SANZOKUのバケラッタカップ(現在はSOLD OUT)

根本さんがつくる食器のブランド「SANZOKU」の
はじめての個展が開催されます。
ぼくも「バケラッタカップ」というカップを
愛用しているのですが、インパクトのある見た目で、
しょっちゅう「なにそれ?」と食いつかれています。
大阪の「NEW PURE +」の地下スペースで開催。
6.13(土)〜 6.28(日)まで、時間は13時〜19時。
おやすみは、水曜日。同じ時期に、
東京の「bullpen」というお店にも納品があるそう。
ぜひ、足を運んでみてください。

SANZOKUのホームページ
NEW PURE +のホームページ
bullpenのホームページ

(つづきます)

2020-05-30-SAT

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