こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- TOBIさん、おめでとうございます。
- このたびは「BAR諸行無常」という
バーを開店したそうで。
- TOBI
- はい、ありがとうございます。
- ──
- そこは、お店ですね?
- TOBI
- 店ですね。
- ──
- じゃ、開店前ですか。
- TOBI
- 開店前です。
- ──
- すみません、お花もお贈りしませんで。
- TOBI
- お気になさらないでください。
- サイバー空間の中の店なので、
リアルなお花を贈っていただいても、
置き場がどこにもありません。
- ──
- その背景‥‥入居は「居抜き」ですか。
- TOBI
- 「フリー素材」です。
- ──
- ようするに「オンライン・バー」的な?
- TOBI
- わたしの店に見える「お客さん」たちは、
一般的には「リスナー」と呼ばれ、
わたしは、みなさんに、
カクテル1杯300円で提供しています。 - なんでも、お好きなものがございますよ。
- ──
- 飲み放題。お好きなドリンクを。
ただし、ご自宅の冷蔵庫にあるものなら。
- TOBI
- そうです。
- 600円くらいにしようかと思ったけど、
それじゃ、ちょっと高いかなと思って。
- ──
- 利用したことはないんですけど、
いま「オンラインスナック」みたいなの、
あるじゃないですか。 - スナックのママ役みたいな女の人と、
画面越しにおしゃべりできる‥‥という。
- TOBI
- あれとは、ちょっとシステムがちがって。
- うちの店は「一方通行」で、
マスターが30分以上しゃべり続けます。
- ──
- わはは、お客に一切しゃべらせないバー!
インタラクティブのイの字もない。 - 念のためですが、マスターとは、あなた。
- TOBI
- わたしです。
- ──
- それがすなわち、
リスナーと「ほどよい距離を保つ」バー、
ソーシャルディスタンスBAR諸行無常、
ということですね。
- TOBI
- 毎週土曜日の夜10時に、
新しいカクテルを1杯「配信」してます。
- ──
- カクテルの「お味」は、どのような?
- TOBI
- ラジオなどでは少々しづらい話題とかを、
「ここだけの話」的にね。 - 昔、実際にバーテンをやっていたときに、
怖そうなお兄さんがご来店し、
いろんな社会の仕組みを勉強した件とか。
- ──
- あの「ひどい目」でも披露されなかった、
ある意味、
媒体を厳しく選ぶようなトークですね。
- TOBI
- おつとめが長くてらっしゃる方の中には、
けっこうな割合で、
アルコールがダメって人がいて。
- ──
- それは「中」では出ないから?
- TOBI
- そう、だから、みなさん、
ただの「牛乳」を注文したりするんです。 - ものすごい「怖モテ」の人が「牛乳」を。
- ──
- お酒が飲めなくても、
そういうお店には行きたいんでしょうか。
- TOBI
- まあ、ある意味で「仕事場」っていうか、
消しゴムを平べったくしたような
「ちいさい石鹸」を、
信じられないお値段で販売しにきてたり。
- ──
- あ、ああー‥‥。
- TOBI
- 銭湯で10円で売ってるようなやつです。
ぼくが見たのは「3万円」の値札でした。
- ──
- 牛乳代は置いていかれるんですか、一応。
- TOBI
- ええ。そこはね、キッチリと。
- だからバーで牛乳を飲んでる人を見ると、
「あっ!」と思って、
いまだに身構えてしてしまうんですよね。
- ──
- もう、ウン十年まえのお話ですよね一応。
昭和とは言わないけど。
- TOBI
- ですね。はるか昔の大昔です。
- そうだ、15回ほど「中」と「外」を
出たり入ったりしていた方もいらして、
その方は、ほどなくして、
再び「中」へ戻っていかれたんですが。
- ──
- ええ。
- OBI
- もし、また俺がなにかの罪で捕まって、
この店に俺の仲間が来たら、
「差し入れ屋」を通じて
差し入れをするよう伝えてほしい‥‥と
伝言を残して行ったんです。
- ──
- 差し入れ屋‥‥さん?
- TOBI
- つまり、拘置されてらっしゃる御仁に、
お仲間たちが、
差し入れしたい場合に利用するんです。 - 自分たちで差し入れにいったら、
一網打尽に捕まってしまいますからね。
- ──
- なる‥‥ほど‥‥。
- TOBI
- そういったおそれのあるかたは、
差し入れ屋さんに匿名で注文するんです。 - 一種の「デリバリー業」ですね。
- ──
- はああ‥‥「デリバリー」という言葉が、
これほど定着する何十年も前から。 - いつの時代でも、人は、仕事を創るなあ。
- TOBI
- もともと「差し入れ屋」は、
あちらでの暮らしを長く経験したお方が、
はじめる場合も多いらしくて。
- ──
- なるほど、ようするに
「あったらいいな」から、うまれた仕事。
- TOBI
- 個人でも差し入れはできるそうですが、
差し入れ可能なモノかどうか
厳しい「審査」があるらしいんですよ。 - エッチな本もアブノーマルすぎたらダメ、
とか、よくわかんないけど。
- ──
- ええ、ええ。へぇ~。
- TOBI
- その点「差し入れ屋」では、
「OK商品」しか取り扱っていないので、
注文主のほうに、
それほど知識がなくても大丈夫みたい。
- ──
- 確かな「経験」に裏打ちされている、と。
後継者が育ちにくそうですね、それじゃ。
- TOBI
- 余談ですけど
「中」にいらっしゃる方々の中には、
すごい才能を開花させる人がいるんですよ。 - ぼく、ゴシップ記事の週刊誌の編集部で、
小間使いしていたことがあって。
- ──
- ええ、チラッと聞いたことがあります。
- TOBI
- ときどき「中」の方々が制作した作品の
展示即売会があって、
取材に行ったことがあるんですが、
場所によって特色があって、
千葉刑務所って「長い人」が多いために、
出品物が「桐たんす」とか、
「一枚板のテーブル」とか「神輿」とか。
- ──
- お神輿!? 売ってるんですか!?
- TOBI
- いやあ‥‥もうね、圧倒的な作品でした。
- ──
- お神輿‥‥誰が買うんですか。
- TOBI
- わかりませんが、完全にアートの域です。
神々しさを湛えた、素晴らしい出来映え。 - 「20年かかってる」と言ってました。
- ──
- 20年ものの作品‥‥って、
「20年のお時間」をお持ちでなければ、
つくれない代物ですよね。
- TOBI
- その点、交通刑務所の展示即売会では、
比較的、刑期が短いからか、
「根付」や「キーホルダー」だったり。
- ──
- はああ。
- TOBI
- そうそう、そうなんですよ。
- というか、こんな無駄話をしていても、
大丈夫なんですかね。
- ──
- あ、大丈夫でしょう。いつもどおりだし。
- それより先日、お寺の本堂から、
ライブ配信されている勇姿を拝みました。
- TOBI
- ああ、築地本願寺の墓所の観音堂からね。
- ──
- 金色(こんじき)のご本尊をバックにし、
ピンクの塊ふたつが歌うという、
目が
「どっちかにしてくれ!」という感じの。 - しかも、そのライブレポートが、
お坊さんの読む雑誌に載ったそうですね。
- TOBI
- はい、創刊45年もの『月刊住職』に。
- 時節柄、
「オンライン法要」の特集をやっていて、
そのトップに掲載されたんです。
でもホントこんな脱線ばかりで大丈夫?
- ──
- ええ、どこが「本線」かもわからないし、
こちらは大丈夫です。
- TOBI
- じゃ、何となく諸行無常の話に戻すけど、
最近、パソコン見すぎの「眼精疲労」と
あふれる無料コンテンツの
「リサーチ疲れ」に、さいなまれていて。
- ──
- あー、わかります。
- TOBI
- 有料の音声コンテンツをやりたいなあと、
思い立ったんですよ。
- ──
- おお‥‥それで「諸行無常」がうまれた。
でも、やるといっても、誰かお仲間が?
- TOBI
- マネージャーのフクモトくんとふたりで、
はじめたことなんですが、
はじめは、マスターも客も流しの歌手も、
ぼくひとりで演じてたんです。
- ──
- はぁー‥‥それは、忙しそうです。
- TOBI
- 冒頭、マスターの1人しゃべりがあって、
本日のカクテル紹介があって、
カランカランって
アナーキーな珍客が次々来店してきて、
そのうち「流しの歌手」も来るんですが。
- ──
- それが全員、TOBIさん。
- TOBI
- 流しの歌手は「母音流し」っていって、
「母音」でしか歌を歌わないんですよ。
- ──
- ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥どういう人ですか。
- TOBI
- 母音だけで歌う玉置浩二さんとか、
母音だけで歌う美輪明宏さんとか、
母音だけで歌う前川清さん、とか。 - ウォオウエウェイアゥアゥ‥‥みたいな、
ほとんど地鳴りみたいなものです。
- ──
- ラジオ番組でいう歌のコーナーが、それ。
- TOBI
- ただ、配信を2回やってみた結果、
あまりに人手不足なので、
3人組の演劇ユニットのテニスコートの
神谷圭介くんが「バイト役」として、
玉田企画の玉田真也くんが、
構成作家として加わってくださることに
なったんですよね。
- ──
- おお、すごい。一気にパワーアップ!
- TOBI
- 2回目までは、
歌マネの流しの歌手もぼく、
妙なことを言い出す客もぼく、
それらをいなして進行するマスターもぼく、
ぜんぶ同じ人だったんで、
すぐに混乱してたんです(笑)。
- ──
- そうでしょう、それは。
- TOBI
- それにくわえて、「似てません」とか、
「本人怒ります」とか、
リスナー目線で突っ込んでくれる人が、
誰もいなかったんです。
- ──
- やりっ放しだった、と。
- TOBI
- 余りに自由度の高い配信だったんですが、
3回目以降はね、
わかりやすくなってきたと思う(笑)。
- ──
- いいですね‥‥「初期の何か」みたいで。
初期とか黎明期ってそんな感じですよね。
- TOBI
- 今後、どうなっていくかわからないけど、
今の状態は、かなり「原液」だと思う。
- ──
- しばらくは、続けていくってことですか。
- TOBI
- ライフワークにしていこうと思ってます。
- ──
- おお、そこまでの強い気持ちで。
じゃあ今度、かならず、うかがいますね。
- TOBI
- はい。お待ちしています。
みなさんも、ぜひ遊びに来てくださいね!
「カクテル1杯、300円。
今日は、メガネと絆創膏以外は裸とか、
明日は鎧と甲冑でとか、
自由な格好でお楽しみいただけます。
ぜひいちど、お立ち寄りくださいませ」
BAR諸行無常
https://note.com/barshogyo
(つづきます)
2020-05-29-FRI