こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第25回 船の調査航海も、いまはストップ。早く仲間とビールが飲みたいです。[江口暢久さん(JAMSTEC)]

──
江口さんと藤倉克則さんにうかがった
2年前の「深海。」
という連載が、とっても好評でして。
江口
ああ、そうですか。うれしいです。
──
いまもアーカイブから掘り出されては、
読まれているみたいです。
画面越しに拝見すると、
江口さんは、お変わりなさそうですね。

東京都港区←ZOOM→神奈川県横須賀市 東京都港区←ZOOM→神奈川県横須賀市

江口
前回のインタビューのときから、
ぼく自身の仕事は変わったんですけど。
──
あ、ほんとですか。
江口
前回2018年のときは、
地球深部探査船の「ちきゅう」だけを
担当していたんですが、
昨年度から
JAMSTECの「すべての船」を
見ることになりまして。
──
え、すべての‥‥って、
いったい、何隻くらいあるんですか。
江口
船が「ちきゅう」を含めて「7隻」に
有人潜水調査船の「しんかい6500」、
さらにいろんなロボット、
それらぜんぶのオペレーションですね。
──
わー。めちゃくちゃ忙しそうです。

観測作業中の海洋地球研究船「みらい」。 観測作業中の海洋地球研究船「みらい」。

江口
初年度だった昨年は、まあ、ホントに。
「ちきゅう」以外の船は、
オペレーションを勉強しながらですし。
で、ようやく落ち着いてきたところで、
今回のこの騒ぎです。
──
新型コロナの感染拡大。
江口
だからいま、JAMSTEC全体では
やれることが限られてるけど、
仕事としては減ってないし、
むしろ増えてるんじゃないかと(笑)。
そんな毎日でございます。
──
テレワークになると、
はたらきすぎる人もいるってニュース、
最近、やってました。
江口
そうですね、日によっては
朝から晩までビデオ会議が入ってたり。
──
疲れますよね、ふつうの会議より。
江口
うん。たまに会議を2つかけもちして、
あっち行ったりこっち行ったり。
──
「小室哲哉状態」じゃないですか(笑)。
江口
ハハハ(笑)。
──
でも、7隻も担当されている調査船は、
いまは、どうなってるんですか。
江口
この期間の研究航海は、
ぜんぶ中止や延期です。
でも、止めたら止めたで今度は、
止めたものを、
どうやって動かすかが問題なんです。
──
いったん止めると、動かすのが難しい。
江口
何をトリガーにしたらいいかですよね。
止めるときは
「危ないから止める」でいいんだけど、
動かすときは、
新型コロナのウイルスを
根絶しない限り動かせないかというと、
そこまで待つわけにもいかないし。
──
なるほど。
江口
もちろん、万全な対策を講じることが、
前提なんですけど。

桜が咲く頃から緊急停船中の調査船。 桜が咲く頃から緊急停船中の調査船。

──
どこでどう、タイミングを見極めるか。
他の国では、どうしてるんでしょうね。
江口
各国の研究者とかオペレーターとも
連絡を取り合ってるんですが、
世界中、研究船は止まってますよね。
──
いまは、じゃあ、
世界の海も「外出自粛中」であると。
江口
話を聞いてると、
どこも「どうやって再開するか」が、
やっぱり、大きな問題みたいです。
ボチボチ再開しそうなのは、
オーストラリアとニュージーランド。
ヨーロッパでも、国によっては
陸から近いところの航海から、
そろそろはじめようかと言ってたり。
──
研究船って、それぞれに
使命や目的があると思いますが‥‥。
江口
ええ。海水を調べたり、
海底にパイプを刺して土を採ったり、
ドレッジと言って、
デッカいカゴみたいのを引っ張って、
海底の岩石を採取したり。
もちろん生物の研究や、
最近だと
マイクロプラスチックの研究なども
ありますね。

海水の塩分、水温、圧力を計測する。 海水の塩分、水温、圧力を計測する。

──
どれくらいの人が、
ひとつの船に乗っているんですか。
江口
たとえば「ちきゅう」クラスの船は、
研究者も入れると、
トータルで「180人」くらいです。
ちいさい船だと船員さんが30名弱、
研究者が十数名とか、それくらい。
──
その人数の人たちを乗せて、
何日もかけて航海してるんですよね。
江口
はい。長い航海だと、
途中どこかの港へ寄港するにしても、
数ヶ月をかけて、
世界をぐるっと一周してきたりとか。
最近では、昨年10月に日本を出て、
この3月に帰ってきた船があります。
──
ということは、万が一、
ダイヤモンド・プリンセスみたいな
ああいう事態が起こったら‥‥。
江口
大変です。まずは起こらないように、
対策を講じる必要があります。
船でインフルエンザが流行ることも
あるんですけど、
検査薬も治療薬も船に載せてるんで、
対処はできるんです。
──
でも、新型コロナの場合は、
決定的に有効な治療薬もまだないし。
江口
だから各国、慎重になってるんです。
海でケガなどの緊急事態が起きても、
ヘリコプターの届く範囲まで、
船を寄せなきゃならないんですが、
そこまで移動するのに、
何日間もかかっちゃったりするので。
──
そうか‥‥船の上って、あらためて
陸の常識が通じない場所なんですね。
江口
そうなんです。ですから、
緊急事態宣言が解除になったからと、
すぐに、今までと同じように、
船を動かせるかっていうと、
そういうわけにもいかないんですよ。
──
なるほど。
江口
船員さんたちにも、船から降りずに、
乗りっぱなしでいてもらったりとか。
──
つまり、陸で感染しないように。
江口
人が、船に出たり入ったりするのが、
いちばん危ないんです。
いちど乗ったら、ある程度の期間は
船から降りずにいてもらったり、
交替人員も、
在宅で何週間か過ごしてもらった後、
できるだけ
公共交通機関を使わずに
船まで来てもらって‥‥という感じ。
──
そこまで徹底して。
江口
それでも「何かが起きる可能性」って、
つねに存在するので、
どこまで想像しておくことができるか、
どれだけ
対応策を準備しておけるか、ですよね。
──
なるほど。

深海に潜って調査する「しんかい6500」。 深海に潜って調査する「しんかい6500」。

江口
いま、ほんとうならば、
ヨーロッパのオペレーターと共同で
海外の海洋研究者を10人以上載せて、
調査航海をやってたはずなんです。
──
そんなこともあるんですか。
江口
過去の地震の履歴を調べるという調査。
日本海溝の40箇所くらいで、
40メートルくらいある「パイプ」に
数トンのおもりをつけて、
船から落として、
海底に突き刺して堆積物を採ってくる。
──
話のスケールが半端ないです(笑)。
江口
もともとの提案を出したのは、
オーストリアの研究者でした。
その案を、イギリスのオペレーターが
担当することになったんだけど、
JAMSTECの船を使えないかって。
──
国を横断するプロジェクトなんですね。
江口
ぼくも、提案者と仲いいんですけど、
案が出たときから、
なんとか、JAMSTECの船で
実現させたいねって、
5~6年あたためてきたんですよね。
だから、けっこう残念だったんです。

──
JAMSTECさんみたいな
すごく大きなものを動かしている組織が
各国にあるわけですけど、
お話を聞いてると、
中にいる人どうしのつながりで、
いろんなことをやってたりするところが、
おもしろいなあと思います。
江口
やっぱりね、結局「人」だと思いますよ。
──
そうですか。
江口
このインタビューだってそうですけど、
いちどでも会って話していると、
意思の疎通がスムーズで、
やっぱり、話がはやかったりするから。
ほんとうに「仕事の話だけ」だったら、
ビデオ会議でも、
メールでもできなくないんだけど、
仕事って、それだけじゃないですよね。
──
たしかに「人の部分」は大きいです。
江口
いま、海外の仲間と話しているのは、
「次、いつビール飲めるかなあ」だし。
──
いいですねえ(笑)。
江口
おたがいの人となりがわかって、
はじめて物事が進むようなところが
あるじゃないですか、仕事って。
相手のことを信頼できてはじめて、
「アイツが言うんなら」
みたいな気持ちにもなりますよね。
──
しかも、江口さんたちの場合は、
「海が好き」という、
利害対立を越えたところで
わかりあえる気持ちがあるから、
気心を知るのも早そうです。
江口
それは、ありますね。
──
海に関わる人たちって、
とくに「信頼」を大切にしそうだし。

江口
アメリカのノートルダム大学教授で、
海洋掘削の研究者もであり、
NASAで月の研究もしてる仲間と、
何だか気が合うんですよ。
──
ええ。
江口
おたがい「兄弟」と呼び合っていて、
会えば飲んだくれてるんですが、
この騒ぎの間も、
ちょこちょこ連絡を取り合っていて。
──
はい。
江口
彼がメールの中でこう言ってました。
Stay strong and follow the science -
the only way to beat COVID-19!
──
おお。
江口
強くいような。
大事なのはサイエンスに従うことで、
それが、
新型コロナに打ち勝つ唯一の方法だ。
‥‥って。
──
そんな海の仲間たちと、
いつかまた「乾杯!」できますよね。
江口
はい、その日がくるのを待ってます。
楽しみに。

(つづきます)

2020-05-28-THU

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