ずるい、ひどい、よすぎる、ええーーっ! 
‥‥そんな悲鳴が聞こえてくるのは当然です。
だって、いまどき、どういうわけか、
ロサンゼルスで大谷翔平選手の試合を
観られることになったのです! ほんとごめん! 
もともとは、糸井重里がロサンゼルスに
お住まいの方とSNSを通じて知り合い、
「いらっしゃいませんか?」というお誘いに
応えて渡米することになったわけです。
で、糸井さんひとりで行くのもあれだし‥‥
という非常にぼんやりとした理由で
突然、この超幸運な任務に抜擢された
ラッキークルーが俺、ほぼ日の永田泰大です! 
ごめん、ほんとごめん! でも超うれしい! 
せめて現地で毎日書くよ、レポートを。
どうぞよろしくお願いします。ほんとごめん。

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#03

2024年の大谷翔平

朝のコーヒーを求めて
ロサンゼルスの中心地を散歩して気づいたことは、
美容室が朝の早い時間から
オープンしているということである。

歩いたのがとりわけきらびやかな通りだった
ということもあるのだろうが、
この街では目覚めのコーヒーを求めるのと同じくらい、
一日のはじまりに、
まずはおめかししなきゃという人が多いのだ。

レストランもブティックも閉まっているが、
美容室は複数の席が埋まっている。
コンビニはないが、
大きなパーキングビルがいくつもある。
そういう街だ、ロサンゼルスは。

で、また今日も書くことないんかい、
うん。ないんである。

長めの取材をひとつ無事にこなしましたが、
我ら、本日も、
大谷翔平やドジャースとはまるで関係のない、
おだやかな一日を過ごしました。
だって、大谷翔平を観るのは明日なのです。

というわけで、またここからロサンゼルスにまつわる
フリーテキスト雑談を長々と繰り広げようかと思ったが、
いやそれは違うぞ永田よ、と脳内の俺がささやいた。
ささやかれた俺はそれを聞いて
マジすか永田さん、と返した。
ふたりの上下関係が気になるところである。

「大谷翔平について」書かなきゃ、
とぼくは思ったのである。

たしかに明日はこの旅の本番ともいえる
ドジャースタジアムでの試合観戦だ。
大谷翔平をたっぷり語るのは
明日が最適かと思われる。
けれども。

明日はきっと、わちゃわちゃである。
明日の俺の舞い上がり具合が
今日の俺は恥ずかしいよといまから思うくらい、
明日の俺はおかしなことになっていると思われます。

きっとグッズも買うだろうし、
球場内の写真とかも撮りまくるだろうし、
勝ったとしても負けたとしても、
ああよかったうれしいなあ野球最高、
とか書くのだと思う、明日の俺は。
ばかだなあ、明日の俺は。

そうなると大谷翔平について
ふつうのテンションで書く機会は
今日を逃すときっとない。
というわけで、おそれ多いテーマではあるが、
大谷翔平についてちょっと書いてみようと思う。
なお、ぼくがアスリートを
呼び捨てにするのは敬意の表れである。

ただただプレイに感動するとき
客席から思わず選手の名前を大声叫ぶあの感じとともに、
ぼくは選手を呼び捨てにする。
それが「イチロー!」であり、
「羽生結弦!」であり、「大谷翔平!」である。

ことわっておくけれども、
ぼくはスポーツに関してただのファンであり、
大谷翔平について深くなにかを語れるわけではない。
知識はネットを調べてわかるようなものしかないし、
メジャーリーグに精通するわけでもない。
なにかと「ごめん」がテーマの連載である。

で、なにが書きたいかというと、
今年の大谷翔平が観られるなんて、
なんてラッキーなんだろうと、
いまぼくはしみじみ思っているのである。
いやあ、ごめん、ほんとごめん。

どうして「今年の大谷翔平」を
観られるのがうれしいのか?
話題になってる「50/50」を記録した年だから?
ホームラン王やMVPをとるすごい年だから?

うん、それはもちろんそうなんだけど、
ちょっと違う見方でぼくは
2024年の大谷翔平をとらえているのだ。

すごくシンプルにまとめると、
大谷翔平がこれほど多くの打席に立つシーズンは、
彼のキャリアのなかで、
もうないだろうとぼくは思っている。

昨年末、ドジャースに移籍する前に、
彼は右肘を手術した。
その影響で今季は投手をやらないということが、
あらかじめ決まっていた。
それで、大谷翔平はここまで打撃に専念し、
DHとしてほぼ全試合に出場し続けている。
もしも投手をやった場合、
投げたあとは休養日が生じるから、
これほど試合に出ることはないと思う。

また、1番バッターとして出場し続けているのも
今季の彼の大きな特長である。
シーズン開幕当初、大谷翔平は
「2番DH」として起用されていた。
ところが、トップバッターを務めていた
ムーキー・ベッツが怪我で離脱。
それを補うように大谷翔平は1番を打つことになった。
その後、ベッツは怪我から復帰したけれども、
大谷翔平の打順は変わらず、
ベッツが逆に2番を打つことになった。

いってみれば、大谷翔平は、めぐり合わせによって
1番を打ち続けることになったわけで、
たぶん、こんなことは
他のシーズンにはないだろうと思う。
1番と2番は打順でいうと
ひとつしか変わらないけれども、
年間162試合(!)をこなすと、
総合的な打席数はやっぱり変わってくる。

そういったさまざまな理由の重なりによって、
大谷翔平は2024年、彼のキャリアにおいて、
もっとも多くの打席に立つだろうとぼくは思っている。

そして、打席数が増えると、
それにともなって増える記録がいくつかある。
どれだけ調子がよくても、
そもそも打席数が多くなければ増えない記録だ。
そのいくつかの記録は、
おそらく今季が彼のキャリアハイとなる。

具体的には、安打数、得点数、出塁数、盗塁数である。
いや、これまでにいくつもの常識的な予想を
あっさりと覆してきた大谷翔平だから、
その予想をいつか軽々と超えていくかもしれないけど、
常識的には、それらのスタッツは
今季が最高となるのではないかとぼくは思う。

そしてここでちょっと違う賛辞を割り込むけれども、
大谷翔平がこれだけの打席数を重ねながら
怪我をしていないのって、ほんとすごいと思う。
一番バッターで、ほぼ全試合出場で、
たぶんメジャーリーグ全体でみても、
トップクラスに打席数の多い彼が、
つねに全力疾走で、通常シーズンであれば
余裕で盗塁王も獲得するであろう
(今季のデラクルーズの盗塁数はちょっと異次元)彼が、
ここまで怪我なくシーズンを過ごしていることに
ぼくはほんとうに感心してしまう。
ひょっとしたら、彼のいちばんすごい才能は、
全力を尽くしながらも
怪我で離脱しないことかもしれない。
いったいどういう自己管理なんだろう。

そういうこともふくめてまとめると、
2024年の大谷翔平は、
「もっともチームに存在し続けた」といえる。
チームへの貢献をなによりも重んじる彼にとって、
これはものすごく誇り高いことだと思う。

明日、ぼくが観るのは、そういう大谷翔平だ。
しかも、誇り高いシーズンを送っている大谷翔平が、
これからは、まだメジャーリーグで経験したことのない、
ポストシーズンへと進んでいく。
WBCでも明らかにそうだったように、
大谷翔平はそういった大舞台になればなるほど、
野球をたのしむ少年のように躍動する。

そんな大谷翔平を観ることができるのだから、
これはもう、ごめんと言うほかないのである。
いやあ、ごめん、ほんと、ごめん。

ていうか、まさかそうなるかも?
と思ってはいたんですが、
昨日、ドジャースがパドレスに勝っちゃったよ。
ってことは、つまり、そういうことだよ。

ぼくと糸井が観る試合で、
ドジャースが勝ったら‥‥地区優勝だよ。
うわあマジか。ごめんじゃすまされないなぁ‥‥。

明日はきっとたくさん写真を載せるので、
今日はいさぎよくテキストだけで終わります。
さあ、明日、ぼくはなにをどうここに書くのか。

(つづきます)

2024-09-27-FRI

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