※本についてはこちらをどうぞ

うれしいお知らせです。
ほぼ日刊イトイ新聞の奥野武範が担当した
数々のインタビューコンテンツが
1冊の本にまとまることになりました。
本は星海社さんから出るのですが、
インタビューアーを軸にした本になるなんて、
なかなかないことだと思います。
ここは、胸を張って「本が出ます!」と
言いたいところなんですが‥‥
ま、奥野本人は言いづらいんじゃないかと。
そこで、何人かの乗組員で、
著者と本を応援する文を書くことにしました。

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担当:稲崎吾郎(ほぼ日)

おしゃべりという名の


ノンフィクション。

奥野武範さん。
同じ編集部にいる4つ年上の先輩です。
といっても、本人に向かって
「センパイ」と呼んだことは一度もなく、
ましてや「おっくん」と呼ぶこともありません。
いつも「奥野さん」と呼んでいます。

ぼくは一読者として、
奥野さんのコンテンツが好きです。
ファンと言ってもいいかもしれません。
過去7年分くらいのものなら、
ほとんど読んでいると思います。
奥野さんのインタビューを読むときは、
いつも「半分、読み手。半分、書き手」という
半々なきもちで読んでいます。
「ほぼ日刊イトイ新聞」にアップされたものを、
読者と同じように読みながら、
「じぶんだったらどうするだろう?」
「どこを削り、どこを残すだろう?」
というようなことを考えながら読んでいます。

奥野さんのインタビューは独特です。
『インタビューというより、おしゃべり』
という本のタイトルにもあるように、
情報をキレイに並べていくような
一般的なインタビューではありません。
その人の話し方、その人の口癖、
その人が考えるときの思考の順番など、
ふつうは原稿にするときに
整理してしまうような余分なものを、
あえてそのまま残しながら編集しています。

そもそもそういった編集方針は、
奥野さん独自のやり方というよりも、
文章表現のひとつの流派として、
ほぼ日編集部のなかでふんわりと共有されている
「基本哲学」でもあるわけですが、
そこにプラス、
奥野さんのものを見るときの視点、
笑いのセンス、リズム感、好きなもの苦手なものなど、
奥野武範という人間の感覚的な部分を
ごちゃまぜにしたものが「基本姿勢」となって
インタビューのなかに練りこまれています。
そのため形式的には他の人と同じように見えても、
他の人にはない「奥野節」の効いた
独特の原稿としてアウトプットされていきます。

本に収録されている13本のインタビューのうち、
ぼくがとくに好きなものは、
俳優の窪塚洋介さんにインタビューしたものです。

本に掲載されている13本のインタビューは、
どれを読んでも、どこから読んでも、
素晴らしいものばかりです。
奥野ファン納得のベスト盤だと思います。
なかでも窪塚さんへのインタビューは、
ちょっと濃いめに「奥野節」が効いていて、
そこがぼくのお気に入りポイントだったりします。

奥野さんのインタビューではときどき、
取材相手との立場が逆転してしまい、
奥野さんがじぶんの思ったことを
真っすぐに語りだす場面があります。
この窪塚さんへのインタビューでは、
第5回の終わりあたりで、
そのポイントがやってきます。

窪塚さんに映画のことや芝居のことなど、
メインで訊きたいことを訊き終え、
おしゃべりも一段落した第5回の終わり付近、
奥野さんは窪塚さんに、
じつは初対面ではないと切り出します。
その部分だけ下に引用してみました。
ページへのリンクはこちらからどうぞ。

(以下、引用部分です)

──
じつは、
はじめて窪塚さんとお会いしたのは、
もう15年くらい前の、
ファッション誌の撮影現場なんです。
窪塚
え、そうだったんだ。
──
はい、窪塚さんが、
でっかいジープみたいな車に乗って、
ひとりで現れまして。
窪塚
あー、チェロキーかな。
──
すでにいろいろな賞に輝いていて
大人気だったのに、
ふらっと
おひとりでスタジオに来たことに、
まずは、びっくりしました。
窪塚
そんな感じだったなあ。
──
カメラマンさんはじめスタッフに
挨拶しながらスタジオに入ってきて、
ぽんっと椅子に座ったら、
あたりが、
ぱあっと明るくなった気がしました。
自然に人がまわりを囲んで、
真ん中に向日葵が咲いてるみたいな。
窪塚
へえ。
──
スターと呼ばれる人って、
本当にいるんだなあと思ったんです。
窪塚
いやいや。
──
自分は当時、その現場では、
いちばん下っ端の雑用係だったんです。
で、部屋の端っこの方にいる自分にも、
わざわざ来て、明るく挨拶をしてくれて。
そのことに、すごい人だなと思った覚えがあります。
窪塚
役者だからえらいわけじゃ当然ないし、
監督だからえらいわけでもないし、
いつもフラットでいたいと思ってます。
そのへんは、
昔から大事にしてることかもしれない。
──
だから今日、窪塚さんと話して
「この人が話す、この言葉なんだなあ」
と思いました。
窪塚
ああ、なんでしょうかね。
それは、ありがとうございます。

(引用部分、ここまで)

窪塚さんのインタビューは全7回ありますが、
ぼく個人としてはこの第5回で終わってもいいくらい、
中盤のクライマックス的な場所でした。

たとえ現場でこういう会話があったとしても、
そこを原稿に残すかどうかは書き手の判断です。
むしろインタビュアーの感想ですから、
それは主観なわけで、そこを残すというのは、
けっこう勇気がいることだったりします。
それでも、ここをあえて残したところに、
奥野さんの何かしらの意図があるように思ったのです。

本人に直接確認したわけではないので、
ここからはぼくの勝手な解釈になります。

先ほどの引用部分をはじめて読んだとき、
おそらく奥野さんは窪塚さんに
こうして取材することを、
どこか目標にしていたんじゃないかと思ったんです。
目標というと大げさかもしれませんが、
憧れの人というか、気になるというか、
ちょっと特別な存在として見ていた。

「下っ端の雑用係だった」という表現は、
奥野さんの謙遜から出たことばだと思いますが、
それでもまだ何をするべきか
模索しつづけていたであろう若き日の奥野さんが、
15年という決して短くない紆余曲折な時間を経て、
世界で活躍する窪塚さんに臆することもなく、
こうしてたくさんの人に読まれる
素晴らしいインタビュー記事を書いている。
そういうバックストーリーを
会話のニュアンスから勝手に読み取って、
思わずグッとなっているじぶんがいるわけです。

あ、もう一度言っておきますけど、
これはぼくなりの解釈ですからね。
ただの個人的な深読みなので、
奥野さんはぜんぜん違うよと言うかもしれません。
でも、そういう読み方をしている人って、
きっとぼく以外にもいると思うんですよね。

と、いまこうして書きながら気づいたのですが、
たぶんぼくは、奥野さんの書くものを、
インタビューというより、おしゃべりというより、
奥野さんの「ノンフィクションもの」として、
たのしんでいるところがあるのかもしれません。
インタビューという手法をつかった、ノンフィクション。
おしゃべりという名の、ノンフィクション。
そりゃあ、他の人にはマネできないわけですよ。

‥‥ついつい長くなってしまいました。
そろそろ終わりにします。
最後にこんなことを言うのもなんですが、
これはぼくのたのしみ方ですので、
みなさんはみなさんの好きな方法で、
奥野さんのインタビューを
自由にたのしんでいただければと思います。
というか、この本をど真ん中において、
そういう読書会のようなものを開いたら、
ちょっとおもしろそうですね。

最後に、編集部の後輩として、
本の出版をまちわびていたファンとして、
奥野さんへのメッセージです。
いつも素敵な記事をありがとうございます。
そして本のご出版、ほんとうにおめでとうございます。

たくさんの方の手にわたっていきますように。

(ほぼ日 稲崎吾郎)

(次の乗組員につづきます。)

2020-05-01-FRI

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  • <本について>

    『インタビューというより、おしゃべり。
    担当は「ほぼ日」奥野です。』
    奥野武範

    星海社
    ISBN: 4065199425
    2020年4月26日発売
    ※更新時27日と記していましたが、ただしくは26日です。
    訂正してお詫びいたします。(2020年4月22日追記)
    1,980円(税込)

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