
人生の冴えないワンシーンを絵に描いて、
日々、Twitterに
アップしている人がいます。
イラストレーターの大伴亮介さんです。
いくつかの作品に共感し、
インタビューしにうかがいました。
桜の季節の井の頭公園という
居心地最高のシチュエーションもあって、
インタビューというより、
ただのおしゃべりになってしまいました。
春の陽気と、初対面の大伴さんと、
その日の自分の波長が、
なんだか妙に合ってしまったんですよね。
どうぞのんびり、お付き合いください。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- 大伴さんのワンシーン画って、
思いついたら、
いきなりパソコンで作画するんですか。
- 大伴
- 生意気にもラフは描いてます。鉛筆で。
- でも、ラフがかたまってしまえば、
そこから先は数分で、
きっとイラレ(パソコンのソフト)を
使える人ならわかると思いますが、
超簡単なんです、あんなの描くのって。
- ──
- 丸とか三角とか四角を置いて‥‥。
- 大伴
- ある人に「パワポでも描けそうですね」
と言われたことがあって。
- ──
- パワポ‥‥パワーポイントって、
プレゼン資料の作成なんかに使われる。 - アーティストに対して、
少々、失礼な感想ではないでしょうか。
- 大伴
- ぼく自身はパワポは使わないんですが、
うれしい褒め言葉でした。
- ──
- うれしかったんですか。
- 大伴
- はい、うれしかったんです。
- だってパワポでも描けそう‥‥って、
「誰でも使えるツールで
どうおもしろくできるか」という、
自分は、
その挑戦をしてると思っているので。
- ──
- 制作は、どのくらいのペースで?
- 大伴
- ほぼ毎日です。
- ──
- ライフワークじゃないですか。
- 大伴
- そうですね、すっかり。
ひとつ、お聞きしたいことがあって。
- ──
- なんですか。
- 大伴
- 「ああっ、カブトムシがいたー!」
とよろこんだのも束の間、
「頭だけ」ってことありませんか。
「カブトムシ見つけたと思ったら頭だけだったシーン」
- ──
- んー‥‥‥‥‥‥あったような。
- 大伴
- ぼくは人生で何回もあるんです。
- なぜカブトムシは
死んだら「頭だけ」になるのか。
- ──
- たしかに「胴だけ」ってシーンは、
見覚えないかもしれない。
- 大伴
- これは仮説なんですが、
お亡くなりになったカブトムシを
アリが食べるとき、
頭の部分って「カブト」だから
メッチャ固くて食べられなくて、
その場に置いてくのかなあ‥‥と。
- ──
- つまり「食べ残し」ですか、頭は。
- 大伴
- たぶん、そうだと思うんですよね。
- 他方で「セミの羽根」の部分は、
アリたち、
絶対に有効活用してると思います。
セミの羽根だけ
運ばれていくシーンを見ますので。
「羽だけのセミがアリに運ばれていくシーン」
- ──
- じつは、今のに限らず、
あんまりピンとこなかった作品も、
正直、いくつかあったんです。 - たとえば、ゴミ袋の作品ですとか。
「袋のピロピロした部分がゴミをガードするシーン」
- 大伴
- はいはい。
- ──
- 自分はゴミを投げ捨てるとき、
あんなとこに当たったことなくて。
- 大伴
- 自分は、
ゴミ袋のあのピロピロした部分に、
しょっちゅう、
投げたゴミをブロックされてます。
- ──
- あそこに当たっちゃうんですか。
- 大伴
- はい。
- ──
- あの部分は、ゴミ出しのときに
しばったりなんかして、
便利に活用してるんですけど、
大伴さんは、
まったく同じあの部分に対して、
悔しい思いをしている。
- 大伴
- コントロールが悪いのかなあ。
- ──
- それか良すぎるかどっちかですね。
- あんなところに、
わざわざ当ててくるわけですから。
- 大伴
- うーん。
- ──
- 人によって経験の違いがあるから、
共感するかどうかには、
きっと、濃淡があるんでしょうね。 - 暮らしの中のちょっとした違和感、
という意味では、
自転車のサドルの作品も好きです。
- 大伴
- あ、ありがとうございます。
- ──
- 本当に微妙なんだけど、
気になる人は、気になりますよね。
「サドルをキツく締めたあとで少しナナメなことに気づいたシーン」
- 大伴
- たしかに「いいね!」は多かったです。
- ──
- 明日から、大伴さんになったつもりで
生活してみようかなあ。 - いまの違和感は何なんだろう‥‥って、
いちいち立ち止まってみる。
- 大伴
- そこには必ず、「シーン」があるはず。
- ──
- 格言っぽく言った。
- 大伴
- これなんか、ほとんどの場合、
ハサミがないと開けられないですよね。
「こういうシールがぜんぜん取れないシーン」
- ──
- ええ、このシールを見ると、
ちょっと「あー」と思いますもんね。
このタイプできたか、と。 - でも、これ、中身は描いてないんだ。
- 大伴
- ええ。
- ──
- そこは、イメージしてもらおうと。
- 大伴
- 自分的にはバナナのつもりでしたが。
- ──
- 揚げドーナツかなあ。
- 大伴
- ああー、それも正解な気がしますね。
あとは「パンの耳」とか。
- ──
- こうやって、無責任に
ダラダラしゃべれるっていうところが、
ワンシーン画のいいところですね。 - 想像させる余地があることもそうだし、
権威がまったくないから、
好き勝手なことを言えるといいますか。
- 大伴
- ハハハ。「権威がまったくない」って。
- ──
- バナナだって、揚げドーナツだって、
無料でもらえるパンの耳だって、
結局、
なんだっていいわけじゃないですか。
- 大伴
- ですね。目線が低いので。
- ──
- でも、知性を感じる瞬間もあります。
- 大伴
- え、ほんとですか。
- ──
- これだと決めつけない、
おもしろがり方を相手に委ねるのは、
やっぱり、知的ですよ。
- 大伴
- 共感するかどうかはさておき、
最低限、誰にでもわかるという点は、
大切にしています。
- ──
- なるほど。
- 大伴
- たとえば、
こうしてタバコの吸殻が回るシーン。
「エスカレーターの終点で吸殻が回りつづけているシーン」
- ──
- あー、知ってる。
でもこのシーンは見ないです、今や。
- 大伴
- でも、ちょっと前まで見ましたよね。
エスカレーターの終点でクルクルと。
- ──
- ええ。見ました。
- 大伴
- 失われていく平成のワンシーンです。
- 令和の時代の子どもたちには、
きっと、伝わらないシーンですよね。
- ──
- つまり、そういうシーンは、
わかる人が限られてくるはずだから、
いずれ描かれなくなる‥‥と。 - ただ、これなんかは、
令和に残る昭和的なシーンですよね。
「内開きのドアがスリッパをかき寄せるシーン」
- 大伴
- たしかに「いいね!」も多かったし、
みなさん、
旅館とかで見たことあるんでしょう。
- ──
- 修学旅行なんかで行く、
ロビーにゲームセンターがついてる、
昔ながらの旅館かなんかで。
- 大伴
- ただ、コースターは、
どんな時代でもくっついてくると
思うんですけどね。
- ──
- コップに結露あるかぎり。
- 大伴
- はい。
「コースターがくっついてきたシーン」
ど れ く ら い、身 に 覚 え あ り ま す ?
日替わり!ワンシーン画 SLIDE SHOW
005
(つづきます)
2019-08-09-FRI
-
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