人生の冴えないワンシーンを絵に描いて、
日々、Twitterに
アップしている人がいます。
イラストレーターの大伴亮介さんです。
いくつかの作品に共感し、
インタビューしにうかがいました。
桜の季節の井の頭公園という
居心地最高のシチュエーションもあって、
インタビューというより、
ただのおしゃべりになってしまいました。
春の陽気と、初対面の大伴さんと、
その日の自分の波長が、
なんだか妙に合ってしまったんですよね。
どうぞのんびり、お付き合いください。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- ふだんは、どういう生活なんですか。
- 大伴
- 自宅が事務所兼なんで、
ふつうに生活している時間のなかに、
仕事の場面があります。
- ──
- ふとした瞬間にチーズがちぎれたり。
- 大伴
- そうですね。本当に、
ただ生活してるだけな感じがします。 - これは自分の悪いところなんですが、
何かを「吸収」しに行ったり、
勉強したりというのが苦手なんです。
- ──
- 勉強だと思ったらイヤになる気持ち、
わかりますよ。
- 大伴
- インプットが嫌いなんです、すごく。
- ──
- インプット嫌い。
- 大伴
- ダメだなあって思ってるんですけど。
- インプットするより、
ひたすらアウトプットしたいんです。
- ──
- あ、だったらいいじゃない。
- 大伴
- でも、アウトプットには、
インプットが必要だと言いますよね。 - でも、目的のないインプットこそ、
ぼくには、ちょっと、できなくって。
- ──
- 大伴さんは、美術系の大学ですか。
- 大伴
- そうです。
- ──
- 美大なんて、勉強はもちろんですが、
かなり努力しなければ、
合格できないんじゃないでしょうか。 - ああ、大学に入る目的があったから
インプットできたのか。
- 大伴
- まあ、そうですかね。
- ──
- 何大ですか。
- 大伴
- 東京藝術大学です。
- ──
- めちゃくちゃ優秀じゃないですか。
美的に。
- 大伴
- いやいや。
- ──
- 何科ですか。
- 大伴
- デザイン科です。
- ──
- 人数とか少ないんじゃないですか。
- 大伴
- 自分のときは45人ぐらいでした。
- ──
- たった、それだけ?
- きっと、えらい入試倍率ですよね。
藝大では、何をしていたんですか。
- 大伴
- 何を学んだんだろう‥‥。
- ──
- たしかに、何らかの目的がない場合、
インプットしてても、
インプットしてる「つもり」だけで、
何にも身についてないことって、
もう、しょっちゅう、ありますよね。 - 目的や動機がなく、
「ただ読まなきゃならない本」を、
死んだ魚のような目をして
読んでたりしますからね、ぼくら。
- 大伴
- 目的があると、勉強するんですよね。
- 以前DNA螺旋構造の「ゲノム」を、
イラストにする仕事があったんです。
- ──
- ゲノムですか。ええ。
- 大伴
- それまでの人生において、
ゲノムに触れたことがなかったんで、
いろいろ調べたんですよ。 - ヘンなこと描けないじゃないですか。
- ──
- 科学的に間違ったことを描いたら、
マズいですもんね。
- 大伴
- だから、そういうときなんかは、
アウトプットするために、
めちゃくちゃインプットしましたね。 - これはゲノム的にはOKな表現だな、
この部分は、
ゲノム的には絶対にNGだな、とか。
- ──
- そうやって注文を受けて、
自分のやりたい仕事にとらえ直して、
絵を描く場合って‥‥。
- 大伴
- ええ。
- ──
- 気持ちにドライブをかけるために、
何か工夫をしたりするんですか。
- 大伴
- 説明に添えるイラストだったので、
まずは正しいことが重要でした。 - でも、正しいだけじゃ窮屈なので、
自分も読者も
楽しい気分になれるように‥‥と、
ゲノムに顔を描きました。
- ──
- 顔。
- 大伴
- 顔です。
- 大伴
- 顔はゲノム的にオッケーなんですか。
- 大伴
- はい。オッケーだったんです、顔は。
螺旋構造に顔をつけたんですが。
- ──
- それは、絶対あり得ないことだから、
オッケーだったんでしょうね。
- 大伴
- 螺旋が1本、足りなかったりしたら、
厳しいダメ出しが来たと思いますが、
ゲノムに顔があるのは、
別にオッケーというかスルーでした。
- ──
- 完全に間違っているから、許された。
- 大伴
- はい。
- ──
- しかしまあ、すごいもんです、桜が。
- お花見のときとかにも、
ちょっとしたシーンがありそうです。 - ※この日は4月、絶好のお花見日和でした。
- 大伴
- ありますよ、きっと。たくさん。
- 桜の花びらが、
ズボン裾のロールアップに入るとか、
自分の座ったシートの下に、
木の根っこがポコッとして痛いとか。
- ──
- あー、座りづらいっていうね。
レジャーシート越しの木の根の感覚。
- 大伴
- そうそう。
- ──
- 創作の手がかりというかベースには、
大伴さんの
身体的な記憶の蓄積みたいなものが、
あるんでしょうね、きっと。
- 大伴
- 靴を脱ぐことが当然想定されるから、
そこにいる人全員が、
妙にキレイな靴下を履いてたりとか。
- ──
- 何か、人間理解の話でもありますね。
- 落ちたハミガキ粉の上だけ救うやつ、
あれ、どんな大金持ちも、
たぶんやったことあると思うんです。
- 大伴
- でしょうね。
- ──
- 自分は、そこに「人間」を感じます。
- 大伴
- そういえば、
一度、自由律俳句に似てますねって、
言われたことがあります。
- ──
- 「いれものがない、両手で受ける」
- 大伴
- 侘しさを切り取る、みたいな部分が。
- ──
- 「咳をしても一人」‥‥たしかに。
- 大伴
- あ、そこの水族園、好きなんですよ。
- ──
- へえ、入ったことないや。
- 大伴
- ぼくが好きなのは、
タガメやゲンゴロウなどの水生生物。 - 水族館といえばのペンギンですとか、
シロイルカ、クリオネなど、
人気の動物たちはまったくいません。
- ──
- そうですか。
- 大伴
- 淡水に棲む生物のコーナーって、
あんまり見てる人っていないんです。 - というか、見ていても、
どこに何がいるのかわからないです。
- ──
- ああー、たしかにそうかもしれない。
「藻」を見せられている感じ。
- 大伴
- そういうコーナーが、すごく好きで。
「あ、あるな」って感じます。
- ──
- 「ある」というのは、「シーン」が。
- 大伴
- 「何が入っているのか
まったくわからない水槽を
眺めているシーン」とか。
- ──
- 何だろうと思いながら見て、
何だったんだろうと思いながら去る。 - 哲学的ですね。
- 大伴
- 川とか池‥‥水辺っていいですよね。
- 自分は、川の段差みたいなところで
ボールがずっと回転している、
あのシーンが、妙に好きなんですよ。
- ──
- はい、自分も大伴さんの作品を見て、
これは‥‥と思いました。 - いつ見たのか、
どこで見たのかさえわからないけど、
たしかに「見た覚えがある」。
- 大伴
- そうなんですよね、あれ。誰しも。
- ──
- 人生のうち何回も見てないんだけど、
たしかに、覚えがあるんです。 - 安っぽい色のビニール製のボールが、
くるくる回ってるシーン‥‥。
- 大伴
- あんなシーンがわけもなく大好きで、
こうして、切り取り続けています。
ど れ く ら い、身 に 覚 え あ り ま す ?
日替わり!ワンシーン画 SLIDE SHOW
004
(つづきます)
2019-08-08-THU
-
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2019年8月20日(火)中に
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