ひとつの教室に、昆虫博士がいて、
魚釣り名人がいて、
鷹匠までいる高校があるんです。
群馬県立尾瀬高校、
自然環境科3年生のクラスです。
みんながみんな、それぞれに、
好きなことをやっていて、
たがいのことを尊敬している。
偏差値とかとはちがうところで、
じつにのびのびと
才能を発揮している高校生たちに、
あこがれさえ感じました。
大きな自然を前にして、
先生と生徒が一緒に学ぶ関係性に、
あこがれたのかもしれません。
みんなこの3月に卒業、
それぞれの道を歩きだすその前に、
ギリギリ間に合いました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。
- ──
- 星野先生は、
尾瀬高校では何年目なんですか。
- 星野先生
- まだ2年なんです。
- 谷島
- すごく知識のある先生なんです。
- 星野先生
- いやいや、そんなことないです。
- 谷島
- いや、本当に何でも知っていて。
- ──
- 何でも‥‥というと。
- 谷島
- 爬虫類も両生類も動物も植物も。
だいだいイケますよね。
- 星野先生
- いやいや、ウソはやめてください。
- この学校では、
フィールドの勉強をしてるんですが、
わたしなどは、ゼロから
生徒たちに教えてもらっていますし。
- ──
- 先生からごらんになって、
ここ、尾瀬高校の生徒さんたちって、
やっぱり個性がある?
- 星野先生
- まあ、昆虫が大好きだとか、
鷹を飼ってるだとかは、
わかりやすいところですけれど、
そもそも「自然」に
強く興味をもった高校生が
これだけ集まっているところが、
一般的ではないですよね。 - この学校では、当たり前だけど。
- ──
- なるほど。
- 星野先生
- 高校生が、友だちどうしで
お休みの日に虫捕り網を手に持って
楽しそうに虫を捕ってたり、
釣りざおを肩にかついだ男の子が、
ニコニコしながら
チャリンコで坂道を上がっていくとか。 - 他校では、そういう姿を、
日常的に目にすることはちょっとない。
- ──
- ええ、ええ。
- 星野先生
- カラオケとか、映画館だとか、
ファーストフードのお店に行くとか、
まあ、
そういう楽しみもあるんでしょうが、
それと同じくらいの比率で、
野山での活動を楽しんでいるんです。
- ──
- 自然環境科というのは、
いつごろにできたクラスなんですか。
- 星野先生
- はい、今の1年生が24期生だから、
24年前なんですけど、
そのあたりの詳しい経緯については、
わたしよりも
詳しい先生がいらっしゃいますので。
- ──
- 生き字引のような先生が。
- 星野先生
- いや、もう10年以上、
ここ尾瀬学校で教鞭を執られている、
何ていうか、ロックな‥‥。
- ──
- ロック。
- 谷島
- 正しいです。貫いてます。
- 星野先生
- ものすごくスラッとした足をしてて、
顔がちっちゃくて‥‥
ルパン三世みたいな体型の先生です。
- ──
- ロックでルパン。
- 星野先生
- 化学の先生なんですが、
授業で野外活動をやっているんです。 - その先生が引率する実習なんか‥‥。
- 谷島
- 締まりますよね。
- 星野先生
- そうなんです、ピシッと締まります。
- 小川
- 畑を耕すときなんかも
上半身全裸で、ムキムキなんですよ。
- ──
- 気になるなあ(笑)。
- 星野先生
- この学校で教えていると、
一般的な高校の教員をやっていたら
経験できないことが、
日々、たくさん起こるんですね。 - ですから、普通高校の教員とは、
少しちがう感覚、感性、教員観とか、
そういうものが、
身についていくだろうなと思います。
- ──
- この高校に赴任すると言われたとき、
先生は、どう思いましたか。
- 星野先生
- 「あ、うれしい」ですね。
- 谷島
- ほんとー?
最初は地獄のような顔してましたよ。
- 星野先生
- いやいや、そんなことないよ(笑)。
- でも、自分は生物の教員ですが、
今でこそ、
あの木はブナだとかカラマツだとか
パッと見てわかりますけど、
赴任直後は、
みんなこの子たちに教わってました。
- ──
- ここでのキャリアは、
生徒のほうが長かったりしてるから。
- 星野先生
- 結局、自分が専門にやってきたのは
細胞中のDNAがどうという、
顕微鏡のなかの世界だったんです。 - このあたりの植生とか
具体的な植物や木の名前については、
生徒に教えてもらいながら、
自分自身、勉強しているところです。
- ──
- 先生も日々、自然に学んでいる。
- 星野先生
- でも、そうやって
自然の中で身につけた感覚って、
この先、この子たちが
どんな仕事に就いたとしても、
きっと活きてくると思うんです。
- ──
- ここが、他の高校と
いちばんちがうところはどこですか。
- 星野先生
- そうですね‥‥何だろう。
- でも、たぶん、自分たちと教員とを
明確に線引きしないで、
接してくれるという部分でしょうか。
- ──
- それは、生徒さんのほうから。
- 谷島
- そうです、めっちゃ仲いいです。
- 星野先生
- そうだね(笑)。
- 谷島
- 実習で雪でビショビショになったら
「みんなで銭湯でも行くか」とか。
- ──
- 裸のおつきあい!
- 星野先生
- 前の学校のときにも、
3年間、部活動を見ていた子たちと
親密になることはありましたが、
ここでは、1年くらいで
そういう関係になっちゃうんですね。 - それは「指導する」というよりは
実習で一緒に山を歩いたり、
虫捕りに連れて行ってもらったり、
そういう経験をしているから‥‥。
- ──
- 大自然の前では、生徒も先生も、
なんか、平等になっちゃうみたいな。
- 小川
- そうです。
- 星野先生
- いやいや、そんなカッコいいことは。
- 谷島
- 先生、カッコよくいっときましょう。
ここは(笑)。
(つづきます)
2020-03-17-TUE