ひとつの教室に、昆虫博士がいて、
魚釣り名人がいて、
鷹匠までいる高校があるんです。
群馬県立尾瀬高校、
自然環境科3年生のクラスです。
みんながみんな、それぞれに、
好きなことをやっていて、
たがいのことを尊敬している。
偏差値とかとはちがうところで、
じつにのびのびと
才能を発揮している高校生たちに、
あこがれさえ感じました。
大きな自然を前にして、
先生と生徒が一緒に学ぶ関係性に、
あこがれたのかもしれません。
みんなこの3月に卒業、
それぞれの道を歩きだすその前に、
ギリギリ間に合いました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。
- ──
- みなさんの話を聞いた感想としては、
こういう高校生がいてくれて、
なんだかよかったなあと思いました。
- 谷島
- 安心してもらえた(笑)。
- 大竹
- でもさ、俺らががんばる時代だから。
これから先の未来は。
- ──
- そうそう、そうだよね。
すみません、お名前は。
- 大竹
- 大竹蓮です。
- ──
- 大竹くんは、何やってるんですか。
- 谷島
- 土壌生物。
- 大竹
- いやいや、ぼくは、
ここにいる、この3人みたいには、
何かひとつのことを極めたとか、
そういうことは別にないですけど。
- 廣田
- でも、この高校の歴史に詳しい。
- 大竹
- それは、ずっと子どものころから、
この地域に住んでいて、
尾瀬について調査していたら、
尾瀬高校のことも、
だんだん詳しくなってきただけで。
- ──
- どうして、この学校に来たの?
- 大竹
- 家から近かったからです(笑)。
- ──
- まあ、悪い理由じゃないよね。
ぼくも同じ理由で高校を選んだし。
- 大竹
- でも、そうやって近いって理由で
この学校に入ってみたら、
こういう人とか、こういう人とか、
ちょっと変な人たちが‥‥。
- ──
- おもしろかったわけだ。
- 大竹
- はい、おもしろかったんです。
- ──
- どうするんですか、卒業したあと。
- 大竹
- 柔道整復師、
接骨院の先生になろうと思ってて、
専門学校に。
- ──
- へええ。
- 星野先生
- 全員が全員、自然の方面とか、
研究者になるわけじゃないんです。
- ──
- そこがまた、おもしろいですよね。
- 星野先生
- あ、この尾瀬学校の歴史に詳しい、
実習助手の荒井先生です。 - 本校の歴史を話してもらえますか。
- 荒井先生
- あ、はい。こんにちは、荒井です。
- えーと、学校の歴史ですが、
平成8年度に自然環境科ができて、
その前は、
武尊高校という名前だったんです。
- ──
- ホタカ‥‥学校名がちがった。
- 荒井
- もともとは沼田高校の武尊分校で、
独立して、武尊高校。 - 普通科と商業科とあったんですが、
群馬県全体で
学びの改革を進めていたときに、
自然について学ぶ学校を、
県内につくろうと気運が高まって。
- ──
- それで、自然環境科が創設されて、
学校名も尾瀬高校に変わった。 - つくろうと言い出したのは、
どういう人たちだったんでしょう。
- 荒井
- 当時の小寺弘之さんという知事が、
尾瀬をはじめとした
自然環境の教育に力を入れたいと、
リーダーシップを執られて。
- ──
- 全国で唯一の学科なわけで、
すべて手探りだったと思いますが、
実務を担ったのは‥‥つまり
自然を学ばせるという「思い」を、
具体的なカリキュラムに
落としていったのは、
どういう人たちだったんでしょう。
- 荒井
- 当時の群馬県の生物の先生たちが、
熱心に尾瀬を研究をしたり、
フィールドワークしたりしていて。 - そういう方々‥‥つまり
現場の高校の理科系の先生たちが、
力を尽くされたんです。
- ──
- 歴代の現場の先生がたの努力で。
- 荒井
- ええ、そのときどきの教員たちが、
試行錯誤を重ねながら、
つくりあげてきたんだと思います。
- ──
- いやあ、とてもおもしろかったです。
- 来てよかったというか、
知ることができてよかったというか。
- 荒井
- ああ、ありがとうございます。
- ──
- この尾瀬高校って、
実家から1時間くらいなんですけど、
こんな高校があったなんて、
もう‥‥ぜんぜん知らなかったので。
- 荒井
- 群馬県でも知らない人は多いですよ。
- ──
- 上から下への一方通行みたいなのが
古い教育観だとすれば、
先生と生徒が、
一緒になって自然に学んでいるって、
すごく自由な感じがしました。
- 荒井
- 他から異動してきたばかりの先生が
実習に参加すると、
生徒から何かを教わるような場面も、
あったりするんです。
- ──
- 生徒さんのほうが、
尾瀬のキャリアが長いわけだから。
- 荒井
- まあ、そうは言っても、
基礎学力というのは大切ですよね。 - そこに加えて、考える力、
人と話す力、相手の話を聞く力、
創造的に考える力、
考えたことを実行する力‥‥
そういう、
社会に出たときに求められる力を、
自然や環境との対話を通じて、
やしなってもらえたらいいなあと。
- ──
- 偏差値とか勉強も大事だけれども。
- 荒井
- まあ、いろんな生徒がいますけど、
「あなたは、どう思いますか?」
って聞かれたときに、
自分の考えを言える力については、
自信を持って大丈夫と言えますね。
- ──
- すばらしいですね、それは。
- 荒井
- 自然環境科の3年生は、
自分たちが、
それまでに研究してきたテーマを、
小学生や中学生に伝える、
というプログラムがあるんです。 - 真っ白いA4の紙に、
自分のテーマや問題意識を書いて、
そのためには、
どう伝えればいいかという構成を
ぜんぶ、台本にして‥‥。
- ──
- 問題が何ひとつ書かれていない、
真っ白い答案用紙ほど、
難しいテストってないですよね。
- 荒井
- ないと思います。
でも、みんな、書けるんですよね。 - いわゆる「偏差値的なお勉強」が、
どんなにできない生徒でも、
自分の考えやテーマを
しっかり書いているのを見ると、
この学校の教育に、
たしかな手ごたえを感じるんです。
- ──
- ひとつの絶対的な答えを見つけろ、
なんて問題、
社会では出ませんもんね。 - だから、無限の選択肢の中から
「自分の決定」をしていく訓練を、
こういう年代からできるのは、
すばらしい教育だなあと思います。
- 荒井
- 「自然環境科を出て、どうするの」
とか
「環境ガイドなんて、食えないよ」
みたいなことも言われますが、
何やったっていいんですね、結局。 - 実際、卒業生のうちには
公務員もいれば、警察官もいれば、
教員、看護師、介護士もいます。
- ──
- 将来的には、昆虫博士も、鷹匠も、
建設関係も、柔道整復師も。
- 荒井
- はい、それぞれの分野で、
この学校で学び、経験したことを
活かしてほしいなと思います。
(つづきます)
2020-03-18-WED