こんにちは、ほぼ日の永田です。
もう、20年以上前から、2年に一度、
オリンピックの全種目を可能なかぎり観て、
そこに寄せられる膨大なメールに目を通し、
それらを翌朝までに編集し、読むだけでも
1時間くらいかかる長文コンテンツに仕上げて
大会期間中毎日公開する、という、
常軌を逸することをやっておりました。
しかしそれも2020東京オリンピックで一区切り。
前回の北京オリンピックからは、
毎日、観ることは観るものの(観るんですね)、
メールの編集と長文テキストの公開はやめて、
1日1本、観戦コラムを書く、という、
のんびりした姿勢でやっています。
観戦しながらのリアルタイムな感想は、
永田の旧ツイッターのアカウント
(@1101_nagata)で発信しています。
ぎゃあ、とか、うぁっ、みたいな反応は
そちらでおたのしみください。
旧ツイッターのアカウントをお持ちの方は
ハッシュタグ「#mitazo」をつけて、一緒に、
くわっ、とか、ひぃぃ、とか言いましょう。
#03
つぎつぎに負けること
- ふと時計を観ると、
あのセーヌ川の開会式から24時間しか経ってなくて、
それにしては柔道もテニスも柔道もサッカーも
あとバレーも体操も卓球もサーフィンも、
あと、なんか、もっといろいろ観戦していて、
え、一日ってことはないでしょ、と驚いている。
ここは精神と時の部屋ですか。 - あ、精神と時とオリンピックの部屋があったらいいな。
いや、やばすぎるな、そこは。 - オリンピックって、負けるんだよなあ、と思っている。
というか、ぜんぶ勝つわけないんである。
でも、ぜんぶ勝つつもりで観ちゃうんだよ、俺ら。 - 昨日一日、たくさんの競技を、たくさん応援しながら観て、
いやあ、負けた、負けた。 - 張本選手と早田選手という豪華なペアが負け、
強くてかっこいバレーボール男子チームが負け、
八村塁選手が復帰したバスケが負け、
大坂なおみ選手がストレートで負け、
橋本大輝選手が得意種目の鉄棒の着地に失敗し、
池江璃花子選手が決勝に進めず、
ああ、そして、なんといっても、
いちばんきつかったのは、
柔道、永山竜樹選手の「待て」のあとの一本負けだよ。 - というか、オリンピックに限らず、
スポーツって思い通りになるわけがない。
でも、応援する側は勝手に毎回、
どうか勝ってくれと思いながら観ている。 - でも、こうして負けが続いていくことは、
悪いことばかりじゃない、とぼくは思っている。
いや、悪いことだけどね、もちろん。 - 一昨年のFIFAサッカーワールドカップで、
日本代表チームはドイツとスペインに勝った。
死のグループ、といわれるきついブロックに勝ち抜いて、
世界のサッカーファンの予想を覆す躍進をみせた。 - このチームは強い、とにわかファンのぼくは思った。
にわかファンじゃないファンの人たちも、
今回の代表は強い、と言っていた。
決勝トーナメント、なんなら、
クロアチアのつぎはブラジルだ、くらいに思っていた。 - そしたらクロアチアにPK戦で敗れた。
またここまでなのか、とぼくは感じ、
わりとしっかりへこんだ。
ここで負けるつもりじゃなかったなあ、と、
よくわからないことをぐじぐじ考えた。
何日かの間、引きずったと思う。 - そのとき、オリンピックのことを思ったのだ。
オリンピックのときは、ここまで傷が残らない。
けっこうざっくり切れたりするけど、
妙に膿んだりせずにいつの間にか治ってしまう。
あんなに強く願いながら観ているのに。
深夜にばたばたするほど悔しがるのに。 - 考えたら、理由はすぐわかった。
オリンピックは、負けが続くのだ。
悔しがっているとすぐにつぎの
新しい悔しさがやってきて、
悔しさがどんどん上書きされていくのだ。 - これは、マゾヒズムや麻痺とは違う。
なんというか、負けながら、へこみながら、
指先にたこができるみたいに、
ぼくらは勝負に立ち会うものとして、
たぶん、それなりに強くなっていくのだ。 - オリンピックでぼくらは多くの負けを目撃する。
しかし、それは弱者がただただ負けていくだけじゃない。
もちろんぼくらは勝ち負けの当事者ではないけれど、
競技に時間を重ねていると当事者たちから伝わってくる。
オリンピックの負けは、負けることと、
切り替えていくこと、乗り越えていくことが、
セットになっている。
二重螺旋の一本ずつになっている。 - 多くの負けを経験したぼくらは、
いったいいくつの切り替えを目撃しただろう。
予選リーグでひとつ負けてもつぎを見据え、
ポイントをリードされても最後まで集中し、
4年間の努力が報われなくても4年後を目指し、
つぎのセット、つぎのトライアル、
つぎのスタートラインに向かう。 - 世界的なアスリートたちが
4年に一度集まるオリンピックという場は、
とんでもない勝負が毎日乱暴に続く。
フランスの男爵が考えたらしいけど、
ものすごいことを企てたものだなあと思う。
だって、サーフィンと馬術とレスリングが、
どうしてひとつの大会に収まるんだよ。 - でも、おかげで、乱暴にいろんなことを学べる。
負けても、負けても、つぎがある。
おまけに、ときどき、勝ったりする。 - 不条理に思える一本負けで
金メダルの望みが潰えた永山竜樹選手は、
切り替えて敗者復活戦に望み、しっかり勝った。
銅メダルがかかる3位決定戦では、
残り15秒のところで技ありを取り消されながらも、
終了間際に技ありを取り返して勝った。 - そういう強いこころが、
観るもののこころにも作用するのだとぼくは思う。
だから、今日もたくさん負けるけれども、
オリンピックをぼくは観る。
(つづきます)
2024-07-28-SUN
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