渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で開催中の
「はじめての、牛腸茂雄。」の案内人として、
このたび、
漫画家の和田ラヂヲ先生が就任されました。
そこで、「はじめての人代表」として、
牛腸茂雄さんの作品を見て
何を感じて、どう思ったか‥‥を聞きました。
そしたら先生、牛腸さんの写真と
ご自身の漫画との間に共通する何かを
感じ取っておられる‥‥!?
全4回の連載、担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- 本日は、何をしに来たかといいますと。
- 和田
- はい。
- ──
- 写真家の牛腸茂雄さんの写真展
「はじめての、牛腸茂雄」を
渋谷パルコの8階の「ほぼ日曜日」で
開催するにあたり、
今回「案内人」の大役を
快く引き受けてくださった先生に‥‥。
- 和田
- 案内人て。大役て。
わたしも「はじめて」なんですが。
- ──
- これまで
手塚治虫さんや赤塚不二夫さんの
歴史的名作に対する
リスペクトに満ちたトリビュートを
あまた手掛けてきた先生に、
牛腸茂雄さんを
トリビュートしていただいたら‥‥
というワクワク感に加えて。
- 和田
- ええ。
- ──
- 先生に「はじめての人」の代表として
「案内人」をお願いすることで、
牛腸さんのことを知らないみなさんの
写真展へのハードルを、
ガクーンと下げようという目論見です。
- 和田
- ガクーンとね。失礼な(笑)。
わかりました。
- ──
- おさないころ難しい病気をわずらって、
36歳でお亡くなりになった
牛腸茂雄さんの作品と人生に関しては、
学生時代からのご友人で、
いまは
牛腸さんの作品のプリンターとしても
活動している
写真家の三浦和人さんに
何年か前に取材をしておりましたので、
そちらを読んでいただければ‥‥。
- 和田
- 読みました。
- ──
- あ、ほんとですか。
- 和田
- 案内人として。
- ──
- いかがでしたか?
- 和田
- ぼくの漫画に、近いものがあるかも。
- ──
- うええっ、マジですか!
- 和田
- とくに『日々』というシリーズの写真。
シンプルな構図に親近感を感じました。 - ぼくも極力背景を描かないタイプだし。
- ──
- ああー‥‥壁にコンセントだけとか。
- 和田
- 引き算しているような感じがよかった。
ごちゃごちゃしてないというか。
- ──
- 他人とは思えなかったと。
- そのご意見は的確なんだと思います。
牛腸さんが注目されはじめた当時、
そんなふうに言われたそうなんです。
さすがは案内人。はじめてとはいえ。
- 和田
- 専門家じゃないんで、
トンチンカンだったらすいません。
- ──
- 気になった作品とかってありますか。
- 和田
- えーとね、この写真とか。
- 柔道か空手かわかんないんですけど、
いったいどういう状況なんだと。
- ──
- 地下道の出口みたいなところを、
2名のファイターが闊歩してますね。
- 和田
- 決闘のコロシアムへ向かうのか、
それとも
決闘のあとに仲直りをしたのか。 - 柔道なのか空手なのか、
それとも、こういう普段着なのか。
あの‥‥すいません、
どうしても、
ギャグの目線で見ちゃうんですよ。
- ──
- 職業病ですね。
- 和田
- とにかくそういう「ストーリー」を
感じさせる写真だと思いました。 - 4コマ漫画の中の1コマ、
みたいな感じが、すごくするんです。
それも「決めゴマ」的な。
- ──
- えええっ! このあと、まさしく
そのオファーをしようとしてました。 - 牛腸さんの作品を
4コマ漫画の1コマに使った作品を、
というオファーを‥‥!
- 和田
- ああ、そうですか。
- ぼくの場合、
まずひとつ「決めゴマ」が浮かんで、
そこに
いろいろくっつけていくんですよね。
だから、この空手家の写真で
4コマを描いてくれって言われたら、
何か描けそうな気がしますよ。
- ──
- 素晴らしい‥‥!
- 和田
- 勝手にストーリーつくれそうな感じ。
- ギャグを仕事にしてるから、
どうしても、
ネタっぽく見ちゃってすみませんが。
- ──
- いやあ、その視点はなかったです。
- 前後の物語が浮かんでくる写真だと。
おもしろいなあ。
- 和田
- カラーの写真もありますが、
ぼくはモノクロのほうがグッと来て、
ストーリーも浮かびました。
- ──
- 先生の4コマも基本モノクロですし、
そのことも関係してるんですかね。
- 和田
- なぜかカラー作品の方は、
前後のストーリーが、見えてこない。
物語が発生してこないんです。 - きっと、牛腸さんも、
そういう撮り方をしてるんですよね。
それまでの「決めゴマ」的じゃなく、
何気ない日の街の中、という感じで。
- ──
- 先生の切れ味が、いつになく鋭い。
- そうかもしれません。
カラーの作品が掲載されているのは
『見慣れた街の中で』という
最後のシリーズで、
おっしゃるように決めゴマ的でなく、
街の雑踏のスナップという感じです。
- 和田
- あと、ポートレートっぽい写真集。
これもシンプルでわかりやすいね。
- ──
- 『SELF AND OTHERS』ですね。
- 和田
- 空間を多めにとっているところも
ぼくの漫画に似てるんだけど、
写っている人が、
ぼくの漫画に、
出てきそうな感じがあるんですよ。
- ──
- 登場人物まで!?
- 和田
- たとえば、このふたりとか‥‥
絶対、ぼくの漫画に出てくると思う。 - 絶対ってことはないけど(笑)。
- ──
- 雰囲気的に「アベック」と呼びたい、
そんな感じのおふたりですが‥‥
たしかに、出てきてもおかしくない。 - ちなみに学生時代の友人だそうです。
で、こちらはお母さまとのことです。
- 和田
- あ、そうなんですか。お母さん。
牛腸さんに似てんのかな、やっぱり。 - 子どもを撮った写真も多いんだよね。
それって、何か理由があるのかなあ。
- ──
- わかりません。
- 和田
- わかりませんか。
- ──
- わかりません。
先生的には、どう思われますか。
- 和田
- 何でしょうね、
威圧感のない人だったんですかねえ。 - 子どもの中に入ってけるってことは。
- ──
- ご病気のため身長が140センチ台と、
ちいさかったそうなので、
実際、
同じくらいの目線だったのかな、と。
- 和田
- なるほど。
- ──
- 写真評論家の飯沢耕太郎さんも、
牛腸さんって、
子どもとコミュニケーションをとることが
上手だったのではと言っていました。 - ただ‥‥有名な双子の女の子の写真、
先生にも
イラストを描いていただきましたが。
- 和田
- ええ。
- ──
- 牛腸さんが亡くなったあとに
ドキュメンタリー映画がつくられて、
そこで、
彼女らにインタビューしていまして。
- 和田
- あ、ふたりが大きくなってから?
- ──
- はい。そしたら、この写真のことを、
「嫌いだった」‥‥って。 - 自分たちのお顔が、
ちょっとしかめっ面になってるから。
- 和田
- ああ、そう。イラストにするのにも、
なかなか難しい表情してるんですよ。 - どうしても、キューブリック監督の
『シャイニング』を
連想するじゃないですか、これ。
どっちが「先」、だったんですかね。
- ──
- キューブリックは77年ですから、
牛腸さんの写真のほうが数年前です。 - ただ、60年代の後半に
ダイアン・アーバスという写真家が、
双子の女の子を撮った
有名な写真があるので、
もしかしたら
そっちが念頭にあったのかもですが、
ぜんぜん、なかったかもしれません。
- 和田
- ほうほう。
- ──
- ともあれ、ご友人の三浦和人さんは、
双子のふたりが、
しかめっ面をしていた理由は、
ご病気で、身体的に
特徴のあった牛腸さんに
自分たちとの「ちがい」を感じて、
緊張していたんじゃないか‥‥って。
- 和田
- どこか警戒してる感じだもんね。
- ──
- そういうこともあって、
牛腸さんの作品が語られるときには
「距離感」という言葉が、
わりと使われる傾向があるようです。
- 和田
- 距離感。独特なんですか。距離感。
- ──
- 詳しいことはわからないのですが、
そう言われているみたいです。 - さっきのお母さんの写真は、
めちゃくちゃ「寄って」ますけど、
そんな写真はあまりなくて、
どちらかと言うと「引き気味」で。
- 和田
- ああ、たしかに。
- ──
- どこか
「被写体を触らないようにしている」
ところがあると、
どなたか‥‥忘れてしまいましたが、
有名などなたかが、
おっしゃっていたような気がします。
- 和田
- 触らないように、ね。なるほどね。
(つづきます)
2022-10-07-FRI
-
ラヂヲ先生が「はじめての人」代表として
「案内人」をつとめる
写真展「はじめての、牛腸茂雄。」が
渋谷PARCO8階にある
「ほぼ日曜日」で開催されています。
牛腸さんが遺した
4つのシリーズからの作品を展示するほか
愛読書、日記、詩を綴ったノート、
年賀状、担任の先生からのコメントなど、
牛腸さんの私物も公開します!
入場者にはもれなく、
案内人(=ラヂヲ先生)全面協力による
特別な会場案内を差し上げます。
なんと牛腸さんの写真を1コマに使った、
ラヂヲ先生の4コマ4本が載ってます!
たまらん出来栄えです。ぜひとも。