渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で開催中の
「はじめての、牛腸茂雄。」の案内人として、
このたび、
漫画家の和田ラヂヲ先生が就任されました。
そこで、「はじめての人代表」として、
牛腸茂雄さんの作品を見て
何を感じて、どう思ったか‥‥を聞きました。
そしたら先生、牛腸さんの写真と
ご自身の漫画との間に共通する何かを
感じ取っておられる‥‥!?
全4回の連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

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第4回 何かを言いたくなっちゃう写真。

──
最後、具体的な作品について
おうかがいしていきたいと思うのですが、
冒頭で少し聞きましたが、
先生的に
気になった作品って他にまだありますか。
和田
この男の子とか。夏休みの小学生かなあ。
この時代の少年少女って、
みんな汗かいているイメージだよね。
屋外を駆けまわって遊んでる感じがする。
まだテレビゲームとかも
普及してないころだからか目が良さそう。

──
目が良さそう(笑)。
写真作品の「評」としては斬新ですよね。
和田
この作品も気になってました。

──
ああ、これは「牛腸さんといえば」的な、
代表的な感じで
扱われることの多い作品だと思います。
和田
これ、どういう状況なんだろうね。
なぜか『漂流教室』を思い出しましたが。
──
ああ、なるほど。
霧の中に消えていく子どもたち‥‥だし。
ぼくの好きな写真を言ってもいいですか。
和田
どうぞ。
──
えーっ‥‥と、これです、これこれ。
和田
ああ、これね。ぼくも気になってました。
1枚の中にいろんな要素が入ってるよね。

──
はい、かわいらしい子ども、
このカバンは道端で売られているのかな、
落とし物じゃないですよね。
警察官もいるし‥‥登場人物が多いです。
和田
この真ん中のポールは‥‥看板なのかな。
奥野さんは、この写真が「いい」んだ。
──
はい。買うならこれかなと思ってました。
和田
なるほど。「買うなら」目線ね。
じゃあ、ぼくが買うなら、この写真です。

──
壁に向き合う‥‥コートの紳士。
和田
何やってんのか、めちゃくちゃ気になる。
新聞を読んでるっぽい感じがするけどね。
格好からすると、競馬新聞が似合うけど。
ただ、どうして壁の方を向いているのか。
──
先生のマンガのコマにありそうですね。
和田
サラリーマンの人で、
辞表を握って思いつめてるのかなあとか。
いまから叩きつけに行く前かも、とかね。
──
部長に。
和田
それか、事件を捜査中の刑事だったり。
「ここじゃないのか‥‥」って(笑)。
──
手がかりの住所を、たどって来たけども。
和田
「壁じゃねえか」と(笑)。
──
ふふふ。こっちの写真も不思議ですよね。

和田
飛行機の前で‥‥大きな花束を持ってる。
最後のフライトなのかなあ。
──
定年退職するキャプテン‥‥ってこと?
和田
で、そのときのフライトがこの写真です。

──
めっちゃ蛇行してるじゃないですか。
旅客機にしては。
和田
なにしろ、ラストフライトだからね。
サービス満点で。
涙で前が見えなかった可能性もある。
──
参考までにおうかがいしますと、
先生はふだん、
写真とはどういうお付き合いなんですか。
和田
写真にはハマったことってないんですよ。
いいカメラを買って撮ろうとか、
まあ、思ったことがないですよね、一切。
──
「写欲」というものも、とくになく。
和田
いや、撮りたいなとはよく思うんだけど、
iPhoneで十分って感じかな。
カメラを買ってまで‥‥とはいかなくて。
「あ、撮りたいな」とは、
場面場面ではわりと思ってるんですけど。
──
なるほど。
和田
写真を撮る人ってどういう動機なのかな。
奥野さんは、好きなほうですよね。
──
そうですね、素人なりに。
和田
それは何、「撮りたい」と思ったものに、
カメラを向けてるんですか。
それとも何気なく撮っていく感じですか。
──
何でしょうね、ぼくも先生と同じで
「撮りたいな」と思えば撮るんですけど、
ほら、完全なアマチュアなんで‥‥。
和田
完全なアマチュア?
──
はい。いやあの、何ていうか(笑)。
和田
パーフェクト・アマチュア。
──
そうです、パーフェクト・アマチュアです。
なので人を撮れないんです。知らない人を。
「あ、このおじさん、いいな」と思っても。
和田
人にカメラを向けれない?
──
そうですね。その度胸がまったくないです。
そこで、
誰もいない空き地とか、空とか、花とか、
昼寝してる犬とか猫とか、
撮っても怒られないものばかりを撮ってる。
和田
犬だって、怒ってるかもしれないじゃない。
「勝手に撮るなよ!」って(笑)。
ピットブルとかめっちゃ激怒してたりして。
──
一回でも犬に怒られたら、
たぶん次から撮れなくなりますね(笑)。
でも‥‥だからなのかはわからないけど、
牛腸さんの作品に限らず、
やっぱり人が写ってる写真に惹かれます。
自分では撮れないぶん、よけいに。
和田
知らない人を撮るのって、
たしかに度胸とかキャリアが要るかもね。
ぼくが、たまに似顔絵の仕事するときも、
初対面の人と向き合って、
やっぱり「目」を見て描くんですけどね。
あれ、けっこう恥ずかしいんですよ。
初対面の人と
あんなに目合わせることなんてないから。
動物どうしなら、ケンカになるよ(笑)。
──
先生の似顔絵のお仕事は、
動物で言ったらメンチの切りあい(笑)。
犬が犬の似顔絵を描こうと思ったら、
それどころじゃなくなるってことですね。
和田
あのさ、「あ、撮りたい」と思ってから、
シャッターを切るまで、
状況が変わってることってあるじゃない。
──
そんなことばっかりですよ。
和田
だよね。ぼくがiPhoneで撮るときも、
「あ、撮りたい」と思ってから
iPhoneのカメラが立ち上がるまでに、
いいなと思った状況が変わっちゃう。
あれが、ちょっと悔しいんですよね。
──
梅佳代さんみたいな人って、
そこの「瞬発力」がすごいんでしょうね。
だって見てると、ものすごいはやわざで、
ぱちーんと撮ってますもんね。
和田
ああ。来そうな「気配」を感じるのかな。
──
梅さんの展覧会で
「シャッターチャンス祭り」というのが
過去にあったんですが、
まさにそのとおりなんだなあと思います。
すべてをシャッターチャンスにしちゃう。
逆に、ぼくらは
「シャッターチャンスだ!」と思っても
何秒かは
カメラをゴソゴソしちゃいますよね。
もう、そのあたりからして
「パーフェクト・アマチュア」ですよね。
和田
あと、牛腸さんの写真って、
不思議さを感じることが多いんですけど、
これ、中でも不思議じゃない?

──
ですね。どこなんでしょうね。そもそも。
和田
屋外プールなのかな、海パン姿だもんね。
それにしちゃ高いところにある感じだし。
時計が写っているから、このふたりには
完璧なアリバイがありますよ。
「そのとき、わたしは、ここにいました」
と、ハッキリ言えます。さっきの刑事に。
──
男「海パン姿で寝そべっていました」 
さっきの刑事「たしかに‥‥」
和田
こんなことばっかり言ってていいのかな。
──
いくら自由に見ていいと言っても(笑)。
和田
自由すぎるんじゃないのか。
──
大丈夫と信じて進めましょう。
和田
でもさ、やっぱり、総じて言えることは、
「いいな」と思う写真ほど、
なんか、
ひとこと言いたくなっちゃうところって、
あるんじゃないですかね。
──
おお。
和田
タイトルを付けたくなっちゃたりとかね。
牛腸さんの作品に、そのことを感じます。
で、それはやっぱり、牛腸さんの作品に
決めゴマ的な写真が多いからですよ。
──
「何か、ひとこと言いたくなる」写真。
「勝手にタイトルつけたくなる」写真。
でも、たしかにそうですよね。
何の引っ掛かりもないような写真には、
何も言いたくならないでしょうし。
和田
ひとこと言いたくなる写真が、いい写真。
──
タイトルをつけたくなるのが‥‥。
和田
いい写真。
──
これまで「いい写真とは何か」‥‥って、
いろんな人が、
いろいろ表現してきたと思うんですけど、
ここにまたひとつ、
新しい「答え」が出たような気がします。
ひとこと言いたくなる写真が、いい写真。
和田
そうじゃないかなと。
──
至言です。
和田
なぜだか、何かを、言いたくなっちゃう。
思わずタイトルつけたくなっちゃう。
牛腸さんの写真も、
そういう写真じゃないかなと思いました。

(終わります)

2022-10-10-MON

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  • ラヂヲ先生が案内人をつとめる 「はじめての、牛腸茂雄。」

    ラヂヲ先生が「はじめての人」代表として
    「案内人」をつとめる
    写真展「はじめての、牛腸茂雄。」が
    渋谷PARCO8階にある
    「ほぼ日曜日」で開催されています。
    牛腸さんが遺した
    4つのシリーズからの作品を展示するほか
    愛読書、日記、詩を綴ったノート、
    年賀状、担任の先生からのコメントなど、
    牛腸さんの私物も公開します!
    入場者にはもれなく、
    案内人(=ラヂヲ先生)全面協力による
    特別な会場案内を差し上げます。
    なんと牛腸さんの写真を1コマに使った、
    ラヂヲ先生の4コマ4本が載ってます!
    たまらん出来栄えです。ぜひとも。

    写真展 はじめての、牛腸茂雄。

    牛腸茂雄を見つめる目。