渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で開催中の
「はじめての、牛腸茂雄。」の案内人として、
このたび、
漫画家の和田ラヂヲ先生が就任されました。
そこで、「はじめての人代表」として、
牛腸茂雄さんの作品を見て
何を感じて、どう思ったか‥‥を聞きました。
そしたら先生、牛腸さんの写真と
ご自身の漫画との間に共通する何かを
感じ取っておられる‥‥!?
全4回の連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

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第3回 どんなふうに、観てもいい。

──
自分はこれまでに2度ほど、
牛腸さんの展覧会を拝見していますが、
デザイン系っぽい若い人が
ちらほらいるなあと思っていたんです。
何となく。
そしたら、実際そうらしいんですよね。
デザインを学んでいるような若者が、
牛腸さんの写真を好んで見に来るって。
和田
牛腸さんご自身も、
最初はデザイナーになりたかったから、
何か通じるものがあるのかな。
──
そうかもしれません。
同じニオイというか。
和田
ニオイね。ぼくたちギャグの世界でも、
やっぱり
ヘンな人が集まってくるからね(笑)。
──
ニオイをたどって(笑)。
和田
そうそう(笑)。
ニオイというのは本能的なものだから、
呼び寄せちゃうのかもしれない。
たまにやるサイン会とかで
「和田さんなら
わかってもらえると思って」と言って
「こんなん描いてるんです」って、
見せてくれる人がいるんだけど、
ぼくから見たら、ヘンなんだよ(笑)。
──
ちょっと違うのでは、と(笑)。
和田
自分では自分とは違うと思うんだけど、
「わかってもらえそうなニオイ」を、
やっぱり出しているんだろうなあ、と。
──
なるほど。牛腸さんの写真に惹かれる
デザイン系の若い人たちも、
構図や被写体とかに、
デザインへの共通点を感じてるのかな。
和田
そうなのかねえ。

──
ちなみに先生は、「写真」については、
いわゆる
「造詣」が深くてらっしゃるんですか。
和田
浅いです。
──
造詣が浅い。好きな写真とかって‥‥。
和田
あんまり意識したことなかったですが、
今回「案内人」ということで、
いつもと違った気持ちで
牛腸さんの写真を見ようとしたけど、
やっぱり、どうしても
ギャグの目線になっちゃうんですよね。
なので、その目で見たときに
おもしろいと思える写真が好きですね。
──
先生の「その目」は、この写真を
どうにかできないかって思うんですか。
和田
そうですね。
決めゴマみたいな写真に出会ったら、
4ページくらい、
漫画を描けそうな気がしますからね。
──
おお、4ページくらいっていうのが、
めちゃくちゃリアルです。
和田
3ページめくらいの真ん中に
ドカーンと来るような絵が見えたら、
あとはもうできた、
みたいなところあったりするんです。
その絵さえ出てきたら、
もう、こっちのものみたいな感じで。
──
わかりやすいところで言いますと、
決めゴマというのは、たとえば、
かの有名な
「寿司屋のGLAYのテル」さんとか。
和田
まあ(笑)、あれは
もともとテルさんがやってたポーズで、
極端な例ですけど、
まあまあ、そういうことだと思います。
決めゴマさえ出てくれば、
あとはもう、どうにでもなる感じです。
──
その「決めゴマ」を、牛腸作品に見た。
和田
映画のなかの記憶に残るシーンとかと、
同じような感覚だと思う。
──
あー‥‥それって、具体的には?
和田
黒澤明の『用心棒』で、
強風の中を三船敏郎が歩いてくるけど、
たとえば、ああいうの。
つまり、そのシーンだけで、
あの映画をぜんぶ観たくらいな感じに
なってしまうっていうか。
──
なるほど、それが「決めゴマ」ですか。
強く印象に残るイメージ、ですね。
いまのお話と同じようなことを、
画家の山口晃さんが言っていました。
和田
あ、そうですか。
──
ビビッと来たイメージを思いつけば、
あとは、そのイメージを
キャンバスに落としていくという
辻褄合わせのような作業を
えんえん、続けるのみです‥‥って。
和田
ああ、はいはい。わかるなあ。
ぼくらの4コマ漫画のつくりかたも、
決めゴマがあって、
あとは付け足しみたいなもんだから。
──
山口さんの場合は、
自分の頭の中に浮かんだイメージを
できるだけそのまま再現しようと、
辻褄合わせ的に
キャンバスに落とし込んでいくうち、
どうしても、
最初のイメージが、
どんどん変質していってしまう、と。
で、今度はその変質したイメージが、
山口さんに「語りかけてくる」、と。
和田
ああ。
──
そして、頭の中にうまれたイメージと、
キャンバスに描かれるイメージが、
相互に影響し合って、
最終的な作品となっているのです、と。
和田
なるほどねえ。画家の人って、
基本1枚しか描かないじゃないですか。
つまり、
それぞれが「決めゴマ」なんですかね。
──
ああー(笑)、おもしろいなあ。
ゴッホの自画像も‥‥あの一枚一枚が。
和田
決めゴマ。
──
たしかに油絵は短時間で描けないし、
「捨てゴマ」の気持ちでは、
なかなか難しいような気もしますね。
和田
織田信長の肖像画とかあるじゃない。
教科書に出てるような、有名なやつ。
──
狩野派の人が描いた的なのですかね。
和田
あれとかも、
決めゴマの気持ちで描いてると思う。

──
「どうだ!」と。なるほど(笑)。
和田
あと、いま話してて気づいたんだけど、
牛腸さんの写真って、
見てると、
タイトルをつけたくなってくるんです。
こう言ったらちょっとあれなんだけど、
「写真でひとこと」みたいな、
ああいうのをやりたくなっちゃう感じ。
──
何かを想像させる作品なんでしょうね、
やっぱり。そのシーンの「前後」を。
和田
そう。ぼくの場合は、
どうしてもギャグ目線になっちゃって、
笑いの方向で
前後をイメージしてしまうんですけど。
──
でもそれが
牛腸作品の懐の深さ、ということかも
しれないですね。
ギャグの目線さえも、ゆるしてしまう。
和田
実際、シリアスな気持ちでばかり、
撮ってたかどうかわかんないですよね。
実はすごいギャグセンスのあった人で、
「おもしろいでしょ?」
みたいな気持ちで撮った作品も、
絶対ないとは、言い切れないわけだし。
──
その発想はなかったけど‥‥なるほど。
そうですよね、たしかに。
三浦和人さんによれば、牛腸さんって、
「もともとの性格が、
明るくて前向きだったと思う」って。
街でかわいい女の子を見かけると、
ぴゅーって口笛を吹いたりされたとか。
そんな一面も、あったそうです。
和田
空手のふたりの写真とかも。たとえば。
──
これまでの牛腸茂雄さんのイメージは、
ご病気やハンディキャップ、
はやくに亡くなられたことがあるので、
シリアスな感じが多いと思うのですが。
和田
でしょうね。
──
でも、ご本人としてみたら、
ギャグが好きだったかも知れないぞと。
和田
もしかしたらね。
──
いやあ、今日の先生のお話を聞いて、
写真って、あらためて、
どう見てもいいんだなと思いました。
和田
うん、自由ですよね。
同じ写真で感動する人もいれば、
笑っている人もいるかもしれないし。
──
はい。
和田
そこは、自由でいいと思うんですよ。
見る人の側の、自由で。
──
写真とか写真集、写真展とかって、
ちょっと難しいみたいな先入観が
まだあるような気がしますが、
もっと気楽に、
好きなように見ればいいんですね。
和田
そうだと思います。
──
先生の4コマを、味わうように‥‥。
和田
日本人って、おとなしく観ますよね。
海外の美術館に行くと、
お客さんけっこうガヤガヤしていて
びっくりしたんだけど。
──
はい、まさしく先生と行った
オランダのクレラー・ミュラーでは、
子どもたちの集団が来てました。
で、みんな、ゴッホの名画のまえで、
めっちゃおしゃべりしてました。
和田
そうそう。ああいうふうに、
ああでもないこうでもない‥‥と、
おしゃべりしながら鑑賞しても
OKな日があってもいいですよね。
もうあるのかもしれないけど。
──
この人は空手家だ、いや柔道家だ、
いや休日のサラリーマンだ‥‥と。
和田
うん。
──
そういう「おしゃべり」から
ハッと気づくこともあるだろうし、
そこから、写真やアートに
興味が出ることもあるでしょうし。
和田
やっぱり牛腸さんの写真なんかでも、
「正しいものを観ている」
なんて態度で向き合っちゃうと、
かえって
何かを間違ってしまう気もするよね。
──
なるほど。たしかにです。
和田
牛腸さんの人生のことを考えると、
作品自体も
重くとらえてしまいがちだけど、
見る側としては、
あくまで気軽に観たって
いいんじゃないかなと思いました。
──
ギャグ好きだったかもしれないし。
和田
そうそう。

(つづきます)

2022-10-09-SUN

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  • ラヂヲ先生が案内人をつとめる 「はじめての、牛腸茂雄。」

    ラヂヲ先生が「はじめての人」代表として
    「案内人」をつとめる
    写真展「はじめての、牛腸茂雄。」が
    渋谷PARCO8階にある
    「ほぼ日曜日」で開催されています。
    牛腸さんが遺した
    4つのシリーズからの作品を展示するほか
    愛読書、日記、詩を綴ったノート、
    年賀状、担任の先生からのコメントなど、
    牛腸さんの私物も公開します!
    入場者にはもれなく、
    案内人(=ラヂヲ先生)全面協力による
    特別な会場案内を差し上げます。
    なんと牛腸さんの写真を1コマに使った、
    ラヂヲ先生の4コマ4本が載ってます!
    たまらん出来栄えです。ぜひとも。

    写真展 はじめての、牛腸茂雄。

    牛腸茂雄を見つめる目。