元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
- 糸井
- この前、久しぶりに
ジャルジャルのライブを観たんです。
- 佐久間
- はい。
- 糸井
- そのとき見たネタのひとつが、
わざと「つまんない」という時間を作って、
「それっておもしろいよね」という
コントをやってたんです。
- 佐久間
- やりますね(笑)。
- 糸井
- それ、ひでえことやってるわけですよ。
「つまんない」をコントロールするって、
料理人に例えると「ふきのとう」を
最初に使った人みたいなことでしょ?
- 佐久間
- ハハハハハ。
- 糸井
- で、そのまんまでもダメですよね。
つまり、ずっとその芸をやってると
お客さんは増えないよっていうところもある。
でも彼らはそれをやれちゃってるんだよね。
- 佐久間
- ジャルジャルはまた一歩
違うところに行ってますね。
お笑いとアートの間の、
誰も行ってないところへ行こうとしてる。
- 糸井
- どっちの脳みそから
出たんだかわかんないっていうのも、ねぇ。
- 佐久間
- 芸人たちの間では、
「いい加減『キング・オブ・コント』取れや」
って思ってたらしいです。
「ジャルジャル毎年出てくんな」って(笑)。
- 糸井
- そうか(笑)。
- 佐久間
- たまたま賞が取れてないだけで、
ジャルジャルがチャンピオンに相応しいのは、
もう芸人みんなが知ってると。
だから「頼むから取ってくれ」って
芸人みんな思ってたみたいです。
- 糸井
- すごいね。
- 佐久間
- さっき糸井さんもおっしゃったように、
ジャルジャルさんから
テレビバラエティーのタレントまで、
「お笑い」というジャンルは
日本のカルチャーの深くに沁みましたよね。
- 糸井
- 沁みた。
- 佐久間
- いいか悪いかは置いといて、
そこまで沁みちゃったから、
逆にお笑い芸人がワイドショーの
コメンテーターまでするようになって、
それでスキャンダルに弱くなってしまった(笑)。
- 糸井
- そうだねー。
- 佐久間
- 昔はスキャンダルがあっても、
「お笑いの人だから」というのが
どこかあったじゃないですか。
- 糸井
- あった。
- 佐久間
- でも、お笑いというカルチャーが
いろんなところに沁み込んで、
存在がパブリックになってしまったゆえに、
逆に苦しんでる芸人さんもいると思います。
「自分たちは芸人だったのに、
あれ、ちゃんとしないとダメなの?」って。
- 糸井
- 仕事になっちゃうっていう
経済構造ができちゃったからね。
- 佐久間
- そうなんです。
- 糸井
- コメンテーターみたいに、
「この人に聞いてみましょう」
という存在になっちゃったんだけど、
でもその例って日本の歴史で、
すでに1回ありましたよね。
- 佐久間
- え?
- 糸井
- 茶の湯。
- 佐久間
- ああーー。
- 糸井
- 武器になっちゃった。
- 佐久間
- 武器になった‥‥。
- 糸井
- だから千利休は
最終的には殺されるんですよ。
- 佐久間
- 本当はカルチャーとしてやってたはずなのに。
- 糸井
- 日本の美を語るときに、
「茶の湯をやらずには言えない」
みたいなこと言われますよね。
でも、あれってある意味では、
全部千利休っていう人の趣味でしょう?
- 佐久間
- そうですね。
- 糸井
- いわゆるキュレーターですよね。
それを殿様が「俺も習う」と言ったから、
「こっちは美しい、こっちは美しくない」が
あんなに広がってしまった。 - 最終的に千利休は権力に
一番近いところにまで行って、
「お前、ちょっといると困るんだけど」と‥‥。
でも、茶の湯は残ったよね。
あの時代に広がったカルチャーが、
いまでもずっと日本に残ってる。
- 佐久間
- そのうちお笑いもそうなりますかね。
ゼレンスキー大統領みたいな人が
日本にも現れて。
- 糸井
- あの人はだから、
茶の湯の千利休ですよね。
- 佐久間
- 千利休ですね。
もし日本のお笑いが権力とつながって、
お笑いのカルチャーが行くところまで行って
ドンガラガッシャンになるなんてことも‥‥。
- 糸井
- かもしれない。
ゼレンスキーがコメディアンだった話と、
いまの日本のものすごいお笑いブームと、
それから二枚目のウィル・スミスが
殴った相手がコメディアンだったとか。
- 佐久間
- はいはい。
- 糸井
- そもそもあの人だって、
「それで笑えるの?」みたいな
綱渡りみたいなお笑いを作って
人気者になっていった人でしょう。
- 佐久間
- ですよね。
- 糸井
- 全部こう、笑いが
安心なエリアじゃないところで、
いまみんなが見てるっていう。
- 佐久間
- いまので思い出しましたけど、
ぼくの世代にとっては、
ダウンタウンさんが
『HEY!HEY!HEY!』でMCやって、
いままでかっこつけてたアーティストの頭を、
浜田さんがバチーンって叩いた瞬間に‥‥。
- 糸井
- ああ(笑)。
- 佐久間
- ぼくは10代とか20代前半だったんですけど、
「あれ、お笑いのほうがかっこいいかも?」って。
そのカルチャーショックは、
ぼくら世代から下は1回あったと思います。
『HEY!HEY!HEY!』ショックがあったと思う。
- 糸井
- そうだね。
- 佐久間
- そういうことの積み重ねなんでしょうね。
お笑いの文脈が複雑になりながら、
パブリック化していった理由というのは。
-
20年以上のサラリーマン生活で学んだ
佐久間さんの「仕事術」をまとめた本です。
タイトルに「ずるい」とありますが、
楽に仕事をするための「ずるさ」ではありません。
自分を消耗させず、無駄な戦いはせず、
まわりに疎まれることなく
やりたいことをやるにはどうしたらいいか。
若かりし頃の佐久間さんが悩み苦しみ
必死になって身につけた「62の方法」が、
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