元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。

>佐久間宣行さんプロフィール

佐久間宣行(さくまのぶゆき)

テレビプロデューサー、
演出家、作家、ラジオパーソナリティ。

1975年福島県いわき市生まれ。
元テレビ東京社員。
『ゴッドタン』『あちこちオードリー』
などの人気番組を手がけるプロデューサー。
2019年4月からはニッポン放送
『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』
ラジオパーソナリティを担当。
2021年3月に独立。
YouTubeチャンネル
「佐久間宣行のNOBROCK TV」を開設。
2022年3月からNetflixオリジナル番組
『トークサバイバー!』が全世界配信中。
著書に『普通のサラリーマン、
ラジオパーソナリティになる』(扶桑社)。

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08 笑いの力は恐ろしい。

糸井
この本に真面目なタイトルを付けるなら、
さっき言った「父から子へ」なんだけど、
もうひとつあるとしたら
「大人になる方法」だと思うんです。
佐久間
あー。
糸井
「大人になると失われるものがある」
という神話がありますよね。
佐久間
あります、はい。
糸井
みんながそれを失って
この大人の社会ができてるとしたら、
社会って「失ったやつの集まり」じゃないですか。
佐久間
はい。
糸井
そんなところにいてうれしいはずがない。
大人になってできることが
たくさん増えたからおもしろいわけで。
佐久間
それは、ぼく、本当にそう思います。
糸井
若いときから歯を食いしばって、
やせ我慢して、見栄を張って、
みんなで突っ張り合うのが大人だとしたら、
そんな社会誰も住めないよと。
大人になって「あ、ネクタイね」って
パッと締めて「あいよ」って出ていくから、
いろんなことができるわけで。
この本にはそういうことが
全部書いてるなと思いましたね。

佐久間
あと、若いときの
コントロールできない部分も大事だけど、
それを守るための武器は
いくつか持っとかないといけない。
さっき糸井さんがおっしゃった
「俺のほうがおもしろい」気持ちって、
それは持ってたほうがいいけど、
それだけの服を着てる人がいたら、
ほぼすべての場所でドレスコードに
引っ掛かるみたいなことになりますよね。
糸井
だから、佐久間さんもぼくも、
あるところでものすごいハードパンチを
食らった時代があると思うんですけど。
佐久間
はい。
糸井
そのものすごいハードパンチって、
ぼくにとってはマンガとかアニメとか小説とか、
いろいろあったわけだけど、
やっぱり一番ノックアウトされたのは、
「お笑い」じゃないかと思うんです。
佐久間
そうなんですか?
糸井
平然と勉強しなかったやつらが、
ボカボカにパンチ入れてくる世界ですよね。
佐久間
そうですね。
糸井
そういう意味では
マンガもアニメも手加減はしてくれた。
佐久間
ああ。
糸井
でもお笑いって手加減なしで、
「お前らより俺のほうがおもしろい」
というのをどんどんぶつけ合います。
路上で喧嘩するみたいに。
あれで絶えず生きてる人たちがいるって、
これはもう異常な世界だなと。
佐久間
それはたしかに‥‥。
ぼくなんか10代の多感な時期に、
ダウンタウンさんが出てきたから。
糸井
あぁー。
佐久間
ちょうどぼくみたいな40代が
一番直撃した世代なんです、ダウンタウンさんに。
だから、いい意味でその影響下にある人と、
その呪いから解けない人がいます。
糸井
うん。
佐久間
その両方で苦しむ人たちが多い中、
ぼくはたまたまテレビ東京にいたので、
はじめっからダウンタウンさんとは
仕事ができなかったので、
その呪いが早めに解けました。
糸井
そっか、ダウンタウンはテレビ東京に。
佐久間
出てないんです。
そのおかげで呪いが早めに解けた。
だからぼくはまだこれからという、
バナナマンとかおぎやはぎとか、
劇団ひとり、東京03、バカリズムといった
関東芸人に出会うことができて、
自分なりの家を建てることができたんです。
糸井
そうか、そうか。
佐久間
他の局にいた人たちは、
たぶんその呪いが解けないまま
キャリアを終えた人もいると思います。

糸井
やっぱりダウンタウンの登場は、
とんでもないものでしたよね。
佐久間
糸井さんから見てもそうですか?
糸井
ぼくは「とんでもない」は知ってたけど、
その「とんでもない」の影響するエリアに
限界があると思ってたんです。
佐久間
あー、お笑いの中だけだと。
糸井
そのエリアがどんなに広くなっても、
それは全体のカルチャーそのものを
動かすようなものにはならなくて、
なんとなく棲み分けられると思ってた。
佐久間
それぞれの分野に影響は及ぼすけど、
全体を揺るがすほどまでは来ないだろうと。
それをダウンタウンさんは‥‥。
糸井
ダウンタウンというか、
ダウンタウン以後のムーブメントですね。
結局お笑いの人が全部持っていく。
どんないいこと言おうが、
何かためになること言おうが、
結局お笑いの人が全部持っていっちゃう。
そのくらい彼らは人の心を
全面的にとらえちゃうんですよね。
佐久間
ダウンタウン以後のお笑いに関して、
糸井さんがそう思われてるって知らなかったです。
糸井
右脳だの左脳だの、
論理だの感情だの言ってるけど、
お笑いの原型っていうのは
すごく論理のところに入ってきてるし、
同時に音楽のように感情を動かす。
まあ、音楽っていうのも、
また別にひとつあるんですけどね。
佐久間
「ずるいよ!」ってやつですね。
糸井
音楽はさらってっちゃうから。
佐久間
わかります。そうなんですよね。
糸井
でも、我に返ったときに、
みんなが音楽を演奏する人の後ろを、
ハーメルンの笛吹き男の話みたいに
付いていくかっていったら、
「いけね、俺やることあるから」
って帰るやつもいるけど、
お笑いの人は笑わせながら笛吹いたら、
そのままみんなついて行っちゃうと思う。
佐久間
うーん。
糸井
そんな力って、恐ろしくない?
佐久間
いや、恐ろしいと思います。
お笑いの感情コントロールを
完璧にマスターできたら
大衆を動かすこともできそうですよね。
糸井
ねぇ。

(つづきます)

写真:川村恵理

2022-06-21-TUE

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