元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
- 糸井
- この本に真面目なタイトルを付けるなら、
さっき言った「父から子へ」なんだけど、
もうひとつあるとしたら
「大人になる方法」だと思うんです。
- 佐久間
- あー。
- 糸井
- 「大人になると失われるものがある」
という神話がありますよね。
- 佐久間
- あります、はい。
- 糸井
- みんながそれを失って
この大人の社会ができてるとしたら、
社会って「失ったやつの集まり」じゃないですか。
- 佐久間
- はい。
- 糸井
- そんなところにいてうれしいはずがない。
大人になってできることが
たくさん増えたからおもしろいわけで。
- 佐久間
- それは、ぼく、本当にそう思います。
- 糸井
- 若いときから歯を食いしばって、
やせ我慢して、見栄を張って、
みんなで突っ張り合うのが大人だとしたら、
そんな社会誰も住めないよと。
大人になって「あ、ネクタイね」って
パッと締めて「あいよ」って出ていくから、
いろんなことができるわけで。
この本にはそういうことが
全部書いてるなと思いましたね。
- 佐久間
- あと、若いときの
コントロールできない部分も大事だけど、
それを守るための武器は
いくつか持っとかないといけない。
さっき糸井さんがおっしゃった
「俺のほうがおもしろい」気持ちって、
それは持ってたほうがいいけど、
それだけの服を着てる人がいたら、
ほぼすべての場所でドレスコードに
引っ掛かるみたいなことになりますよね。
- 糸井
- だから、佐久間さんもぼくも、
あるところでものすごいハードパンチを
食らった時代があると思うんですけど。
- 佐久間
- はい。
- 糸井
- そのものすごいハードパンチって、
ぼくにとってはマンガとかアニメとか小説とか、
いろいろあったわけだけど、
やっぱり一番ノックアウトされたのは、
「お笑い」じゃないかと思うんです。
- 佐久間
- そうなんですか?
- 糸井
- 平然と勉強しなかったやつらが、
ボカボカにパンチ入れてくる世界ですよね。
- 佐久間
- そうですね。
- 糸井
- そういう意味では
マンガもアニメも手加減はしてくれた。
- 佐久間
- ああ。
- 糸井
- でもお笑いって手加減なしで、
「お前らより俺のほうがおもしろい」
というのをどんどんぶつけ合います。
路上で喧嘩するみたいに。
あれで絶えず生きてる人たちがいるって、
これはもう異常な世界だなと。
- 佐久間
- それはたしかに‥‥。
ぼくなんか10代の多感な時期に、
ダウンタウンさんが出てきたから。
- 糸井
- あぁー。
- 佐久間
- ちょうどぼくみたいな40代が
一番直撃した世代なんです、ダウンタウンさんに。
だから、いい意味でその影響下にある人と、
その呪いから解けない人がいます。
- 糸井
- うん。
- 佐久間
- その両方で苦しむ人たちが多い中、
ぼくはたまたまテレビ東京にいたので、
はじめっからダウンタウンさんとは
仕事ができなかったので、
その呪いが早めに解けました。
- 糸井
- そっか、ダウンタウンはテレビ東京に。
- 佐久間
- 出てないんです。
そのおかげで呪いが早めに解けた。
だからぼくはまだこれからという、
バナナマンとかおぎやはぎとか、
劇団ひとり、東京03、バカリズムといった
関東芸人に出会うことができて、
自分なりの家を建てることができたんです。
- 糸井
- そうか、そうか。
- 佐久間
- 他の局にいた人たちは、
たぶんその呪いが解けないまま
キャリアを終えた人もいると思います。
- 糸井
- やっぱりダウンタウンの登場は、
とんでもないものでしたよね。
- 佐久間
- 糸井さんから見てもそうですか?
- 糸井
- ぼくは「とんでもない」は知ってたけど、
その「とんでもない」の影響するエリアに
限界があると思ってたんです。
- 佐久間
- あー、お笑いの中だけだと。
- 糸井
- そのエリアがどんなに広くなっても、
それは全体のカルチャーそのものを
動かすようなものにはならなくて、
なんとなく棲み分けられると思ってた。
- 佐久間
- それぞれの分野に影響は及ぼすけど、
全体を揺るがすほどまでは来ないだろうと。
それをダウンタウンさんは‥‥。
- 糸井
- ダウンタウンというか、
ダウンタウン以後のムーブメントですね。
結局お笑いの人が全部持っていく。
どんないいこと言おうが、
何かためになること言おうが、
結局お笑いの人が全部持っていっちゃう。
そのくらい彼らは人の心を
全面的にとらえちゃうんですよね。
- 佐久間
- ダウンタウン以後のお笑いに関して、
糸井さんがそう思われてるって知らなかったです。
- 糸井
- 右脳だの左脳だの、
論理だの感情だの言ってるけど、
お笑いの原型っていうのは
すごく論理のところに入ってきてるし、
同時に音楽のように感情を動かす。
まあ、音楽っていうのも、
また別にひとつあるんですけどね。
- 佐久間
- 「ずるいよ!」ってやつですね。
- 糸井
- 音楽はさらってっちゃうから。
- 佐久間
- わかります。そうなんですよね。
- 糸井
- でも、我に返ったときに、
みんなが音楽を演奏する人の後ろを、
ハーメルンの笛吹き男の話みたいに
付いていくかっていったら、
「いけね、俺やることあるから」
って帰るやつもいるけど、
お笑いの人は笑わせながら笛吹いたら、
そのままみんなついて行っちゃうと思う。
- 佐久間
- うーん。
- 糸井
- そんな力って、恐ろしくない?
- 佐久間
- いや、恐ろしいと思います。
お笑いの感情コントロールを
完璧にマスターできたら
大衆を動かすこともできそうですよね。
- 糸井
- ねぇ。
-
20年以上のサラリーマン生活で学んだ
佐久間さんの「仕事術」をまとめた本です。
タイトルに「ずるい」とありますが、
楽に仕事をするための「ずるさ」ではありません。
自分を消耗させず、無駄な戦いはせず、
まわりに疎まれることなく
やりたいことをやるにはどうしたらいいか。
若かりし頃の佐久間さんが悩み苦しみ
必死になって身につけた「62の方法」が、
出し惜しみされることなく詰め込まれています。
はたらく勇気がじわじわ湧いてくる一冊です。Amazonでのご購入はこちらをどうぞ。