元テレビ東京のプロデューサーで、
現在はフリーで活躍する佐久間宣行さん。
著書『ずるい仕事術』をきっかけに、
糸井重里とじっくり話していただきました。
テーマは「はたらく」について。
やりたいことをやるためには、
何を乗り越えなければならないのか。
そのためには何が必要で、何が要らないのか。
いまの若い人たちを思いながら、
かつての自分たちを思い出しながら、
ふたりの「はたらく」についての対談です。
佐久間宣行(さくまのぶゆき)
- 糸井
- 根は本当に小生意気だから、俺は。
- 佐久間
- そうなんですか。
- 糸井
- だから若い頃から
「つまんなくないよ、俺は」って
いうのはずっとあったんだけど、
あとになるとそんなものさえ
どうやって忘れられるかのほうが、
大事だったように思いますね。
- 佐久間
- 忘れる?
- 糸井
- 「俺はつまんなくないよ」とか、
「俺ならもっとおもしろくできる」とか。
- 佐久間
- それを20代で?
- 糸井
- それは無理ですね。
- 佐久間
- 無理ですよね。
- 糸井
- その頃はずっと思ってたと思います。
- 佐久間
- ずっと思ってるし、
思ってたほうがいいんじゃないですか。
- 糸井
- たぶん折り返し地点くらいまでは
思ってたほうがいいんでしょうね。
いまでもぼくの中にちょっとはあります。
奥にお土産がちょっとしまってあるみたいに。
- 佐久間
- それはなくなることはないですもんね。
- 糸井
- なくなることないです。
押入れの奥のカビの生えた饅頭みたいに、
ときどきちょっと出してみたり(笑)。
- 佐久間
- あ、出てくるんですね(笑)。
「俺のほうがおもしろい饅頭」が。
でも、それはあって然るべきですよね。
- 糸井
- と思いたいですけどね。
- 佐久間
- 奥にしまってあるのはいいんですけど、
ある程度の年齢の人が
「俺のほうがおもしろい饅頭」を
ずっと手に持ってたら、
失うもののほうが大きいと思うんです。
普段はやっぱりしまっておかないと。
押入れというか、むしろ神棚に(笑)。
- 糸井
- でも、それを最後まで徹底的に
持っていたのが立川談志さんですよね。
- 佐久間
- あぁー。
- 糸井
- ずっと饅頭持ったまま生きてた。
- 佐久間
- 亡くなるまでずっとですね。
- 糸井
- それでだいぶ得も損もしてると思う。
- 佐久間
- たしかに。
- 糸井
- ぼくはあれはやれっこないし、
やりたくもないんだけど、
でも謙虚なふりをして
得なことも別にないと思うんで。
- 佐久間
- 「特別だ」とか「特別になりたい」が
若い頃はコントロールできなかったけど、
コントロールできるようになったとて、
全部を隠す必要はないよ、と。
- 糸井
- そうですね。
- 佐久間
- そのあとになると
饅頭を押入れにしまったまま
戦おうってなるんですか?
- 糸井
- そうですね。
で、持ったままでいるには、
やっぱり入力は必要なんです。
- 佐久間
- ああーー。
- 糸井
- 入力を閉ざしてしまったら、
土産物の饅頭は存在しない。
- 佐久間
- すっごくわかります。
よくインタビューとかで
「作り手として錆びない理由は?」
みたいなことを聞かれたりするんですけど、
そもそも受け手の自分が錆びちゃうと‥‥。
- 糸井
- うん。
- 佐久間
- 作り手の自分も
同時に錆びていきますよね。
- 糸井
- そう。
- 佐久間
- まずひとりの生活者として、
ちゃんとおもしろいと思えているか。
好きなものの受け手として、
錆びてない自分を常に
確認しておかないとダメなんですよね。
そこで感動できないと、
新しいもの作るときに錆びていく気がする。
- 糸井
- そうですね。
- 佐久間
- それはすごく感じます。
- 糸井
- 自分が持ってる世界っていうのは
たぶん脳の中にあるんだけど、
その広さってある程度限られていて、
いい具合に忘れてもいく。
「忘れる」があるのはありがたいんですけどね。
- 佐久間
- なるほど。
- 糸井
- だけど世界がモコモコ動いていて、
もっと増えるってことが楽しいわけだから、
その意味では「インプットは要らない」というのは、
なんか生きてることじゃないなって。
- 佐久間
- ぼくもそう思います。
前に『大奥』を書かれた
漫画家のよしながふみ先生と対談したとき、
先生がおっしゃっていたのは、
「いまはたまたま作り手なだけで、
受け手の自分がずっといる」って。
- 糸井
- それはもう、まったくそうですね。
- 佐久間
- 「受け手の自分がずっといて、
自分が見たいもの、ないものを作る」と。
- 糸井
- 見たいんですよね。
- 佐久間
- 見たいから作る。
- 糸井
- ぼくが広告やってたときも、
自分の立ち位置を説明するときに、
そんなようなことを話したことがあります。
- 佐久間
- そうなんですか?
- 糸井
- まずクライアントがいます。
それが舞台の上にいます。
正面に客席があります。
その客席の最前列にぼくが座って、
いまだとインカムを付けながら
お客さんと同じように舞台を見ながら
「あいつ、こういうこと言ってるね」って、
後ろを振り返りながら何か言うのが、
俺の広告だなと。
- 佐久間
- はーーっ。
- 糸井
- もし舞台にいる側が、
すごいつまんないダジャレを言ったら
「いまスベりましたけど、次おもしろいです」とか。
- 佐久間
- ああ(笑)。
- 糸井
- だから似てますね、カンペ出す人と。
あの人はお客さんの代理でもあるわけだから。
- 佐久間
- そうなんです。
ぼくはお客さんの代理でもあり、
番組の最初の受け手なんですよね。
- 糸井
- ですよね。
- 佐久間
- カンペを出してるってことは
もちろん芸人側のチームにいるけど、
ぼくはお客さんでもあるから
「俺が笑わないときは先行けないよ」という
最初の受け手だと思っています。
ぼくはそういう気持ちだったんですけど、
広告をやってたときの糸井さんも、
そんな感じだったってことですか?
- 糸井
- いまの話はコピーライターの仕事と同じですよ。
ぼくっていうコピーライターの。
- 佐久間
- そうですか。
- 糸井
- だから舞台側の言うことを
首を大きく動かしてずっと頷いてたら、
それはただの応援団になるし、
ただお金で雇われている人になっちゃう。
- 佐久間
- そうですよね。
- 糸井
- ここは頷けないなあって思ったときは、
やっぱり首を傾げないと。
- 佐久間
- ぼくはそういうときカンペを書きます。
「そっちは先ないんじゃない?」とか(笑)。
「こっち行ったらどう?」も出しますね。
- 糸井
- それでウケたら、
めちゃくちゃうれしいわけだから。
- 佐久間
- そこにいるぼくも
めちゃくちゃうれしいですし、
「よし、これを届けるぞ!」ってなります。
- 糸井
- だから舞台にいる人に
全幅の信頼をよせてるっていう関係を
持ちすぎちゃってもいけない。
- 佐久間
- はい。
- 糸井
- お互いに人質を持ってるというか、
仕事でいえば「俺、辞めるよ」が人質だし、
向こうも「お前要らないよ」が人質だし。
- 佐久間
- わかります。
- 糸井
- お互いにすでに判を押した
離婚届をいつも持ってるみたいな。
そういうのは必要じゃないかなと思いますね。
-
20年以上のサラリーマン生活で学んだ
佐久間さんの「仕事術」をまとめた本です。
タイトルに「ずるい」とありますが、
楽に仕事をするための「ずるさ」ではありません。
自分を消耗させず、無駄な戦いはせず、
まわりに疎まれることなく
やりたいことをやるにはどうしたらいいか。
若かりし頃の佐久間さんが悩み苦しみ
必死になって身につけた「62の方法」が、
出し惜しみされることなく詰め込まれています。
はたらく勇気がじわじわ湧いてくる一冊です。Amazonでのご購入はこちらをどうぞ。