三國万里子さんが書いた初のエッセイ本
『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』が
この秋、新潮社から発売されました。
三國さんはニットデザイナーですが、
この本は純粋に文学としての力を持っている本です。
なにしろ、由緒ある出版社である新潮社さんが、
「この文章はすばらしい!」と絶賛して、
トントン拍子に出版が決まったのですから。
そんな文学界の老舗、新潮社。1896年設立。
神楽坂にある社屋も歴史と伝統があって、
ものすごくかっこよくて、いろいろおもしろいんです。
いつかこの場所を紹介したいなあと思っていた
Miknits担当のほぼ日乗組員みちこが、
ある秋の日、三國万里子さんといっしょに
新潮社のあちこちを見学させていただきました。
日本を代表する文芸出版社、新潮社ってどんなところ?
- 松本
- さて、社外の施設をご案内します。
- みちこ
- お、ということは?
- 三國
- いよいよ噂の「カンヅメ部屋」ですね。
- 松本
- そうです!
- みちこ
- カンヅメ部屋っていうのは、
なかなか原稿が書けない文豪を部屋に閉じ込めて、
原稿が書けるまで出られないように監視する、
っていう場所ですよね?
- 松本
- ちょっと表現がよくないですが、
だいたいそういう感じです(笑)。
カンヅメ部屋は、正式には「新潮社クラブ」といいます。
宿泊できるような設備がひととおりそろっていて、
集中できる環境になっていますよ。
1階には開高健さんが『夏の闇』を書いた、
とされる部屋があります。
- みちこ
- おおお。
- 松本
- 2階には三島由紀夫さんがいまも居る‥‥
とか言われていますよ。
- 三國
- それは‥‥幽霊的な。
- みちこ
- それは‥‥すごいですね。
会いたいような‥‥。
でも今は真っ昼間ですからね‥‥。
- 松本
- さあ、着きましたよ。こんにちはー!
あれ? いないのかな?
じゃあ、まあ、1階から見ていきましょう。
- みちこ
- おじゃましまーす。
- 三國
- おじゃましまーす。
- みちこ
- ふーん、思ったより、物々しくない。
- 三國
- カンヅメ部屋というか、
文豪の自宅って感じですね。
- みちこ
- はい。でも、歴史を感じさせるというか。
江戸東京たてもの園に来たみたいな気分です。
囲碁の対局ができそう。
- 三國
- 本当、新宿区とは思えない雰囲気。
- みちこ
- なんだか、現代とは思えない、
ゆったりした時間が流れています。
- 松本
- たしかに、そうですね‥‥。
- やなぎ
- こんにちは、管理人のやなぎです。
- みちこ
- こんにちは!
- 三國
- よろしくお願いします。
- やなぎ
- どうぞ自由に見学してください。
- 松本
- あらためて1階の部屋を見ていきましょう。
やなぎさん、ここが開高健さんが
執筆していたという部屋ですか?
- やなぎ
- はい、そうです。
- みちこ
- うわー、そうなんですね‥‥。
あの、記念写真撮っていいですか。
- やなぎ
- もちろんどうぞ。
- みちこ
- すみません、では。
‥‥パシャ!
- 松本
- じゃあ、2階に行きましょうか。
- 三國
- 2階が三島由紀夫さんの間ですね。
- 松本
- と、言われています。
やっぱり実際にカンヅメになって書かれる作家さんは、
2階の方が机がしっかりあるので
いいとおっしゃいますね。
- みちこ
- あの、いまもちゃんと、執筆場所として
ここは使われてるんですよね?
- 松本
- そうですよ。
時期にもよりますけど、
けっこう先々まで予約で埋まってます。
- みちこ
- へえーーーー。
- 松本
- 執筆だけでなく、対談の場所として使ったり。
あと、地方にお住まいの
作家の方が東京にいらっしゃるときに、
ホテルを取るとやっぱりお金がかかるじゃないですか。
ここで泊まりながら書くぶんには、
うちの施設だから、お金がかからないので。
- みちこ
- ああ、なるほどーー。
- 松本
- 三國さんも、いつでも泊まれますよ。
- みちこ
- 著者だから?
- 松本
- 著者だから。
- みちこ
- すごーい!
- 三國
- そのときはみちこを呼ぶよ。
- みちこ
- ええーーー、いいんですか!
いやいや、だめでしょう、家族じゃないから(笑)。
息子さんを呼んでください、息子さんを。
- 松本
- さあ、2階です。
- 三國
- すごい。畳もめっちゃきれいですね。
- 松本
- カンヅメのイメージ変わりました?
- みちこ
- はい、かなり。
- 三國
- やっぱりテレビとかはないんですね(笑)。
集中できるように。
- みちこ
- (スマホを見ながら)
ちゃんとWi-Fiも入ってる。
- 松本
- そこが執筆用の机ですね。
- 三國
- うわーー、すごいです。
いろんな作家さんが座ったわけですよね、ここに。
- 松本
- だと思います。
でも、この椅子は最近新調された気がするなあ。
せっかくなので、写真を撮りましょうよ。
じゃあ、まず、三國さん、座ってください。
せっかくだから、マスクもはずしましょう。
- 三國
- えええ、いいんですか。
それでは。
- 松本
- おお、いいですね。サマになってます。
‥‥パシャ!
- みちこ
- このなかで唯一の著者ですからね。
- 松本
- たしかに。
- 三國
- ありがとう、ありがとう。
じゃあ、松本さん、どうぞ。
- 松本
- え、ぼくはいいですよ(笑)。
- みちこ
- いえ、ぜひぜひぜひ。
こういうことはみんなでやりましょう!
- 松本
- それでは、失礼して。
‥‥パシャ!
- みちこ
- めっちゃ素敵な写真撮れました。
- 三國
- はい、みっちゃんも。わたしが撮るよ。
- みちこ
- すごい、いいんでしょうか。
私、うれしいです。
- 三國
- いい、すごくいい。
‥‥パシャ!
- みちこ
- わーい(笑)!
いやあ、素敵な場所ですねぇ。
ドラマの舞台になっちゃいそう。
- 三國
- ロケとかに使えそうですよね。
- みちこ
- こんなすてきなロケ地、なかなかないです!
- やなぎ
- お風呂もありますけど、見ますか?
- みちこ
- え、お風呂、見せてください!
- 松本
- じゃあ、お風呂も見学しましょう。
滞在する方が実際につかっているお風呂です。
1階と2階で、違う作家の方が滞在するときは、
互いに時間を決めて入ることになります。
- みちこ
- わあ、なんか、いい感じのお風呂ですよ!
- 三國
- なかなかよさそうなお風呂です。
- みちこ
- 三國さんもここに入る権利は‥‥?
- 松本
- あります(笑)!
- みちこ
- すごーい、いいなあ。
- 三國
- (笑)
- 松本
- それでは、そろそろ本社に戻りましょう。
やなぎさん、ありがとうございました。
- みちこ
- ありがとうございましたー。
- 三國
- どうもお邪魔いたしました。
ありがとうございます。
- 松本
- 見学できて、よかったです。
今日みたいに1階も2階も空いてることは
なかなかめずらしいんですよ。
- 三國
- そうなんですね。
- みちこ
- 貴重な場所を見せていただいて、
本当にありがとうございます。
- 松本
- 三國さん、カンヅメで書きたいときは、
いつでも言ってくださいね。
- 三國
- 仕事はあそこでできないと思うなぁ。
ソワソワしちゃうよ。
- 松本
- はい、着きましたー。
- みちこ
- いまさらですけど、
この本館のロビーもいい感じですよね!
- 松本
- これは初代の社長の胸像です。
島崎藤村と徳田秋声が発起人だったんですよ。
- みちこ
- え、すごーい。
- 松本
- それでは、新潮社イチの
フォトスポットともいえる
倉庫のエレベーターに乗りますよー。
はい、こちらです。
- みちこ
- うわー、すごい!
- 三國
- クラシックなエレベーター!
- 松本
- なにしろこのエレベーター、
シャッターが手動なんです。
じぶんの手で閉めなければいけません。
あ、お願いしますー。
‥‥ガシャン!
- みちこ
- かなり古いエレベーターですね。
- 松本
- そうですね。
ですから2週間に1度くらいのペースで
保守点検して、大事に使っています。
- みちこ
- この写真映えしそうなエレベーターで
撮影してもいいですか?
- 松本
- どうぞ、どうぞ。
じゃあ、おふたりで、交代で。
はい、撮りますよー!
‥‥パシャ! パシャ!
- みちこ
- ありがとうございます!
時代を感じるエレベーター、満喫しました。
- 松本
- それでは、本日最後の取材場所、
新潮社の社食に参りましょう。
- みちこ
- やったー。今日はカレーなんですよね!
たのしみです。
- 三國
- 入り口からのぞいたことはあるんです。
広くてすごくいい感じの社食ですよね。
- みちこ
- 泊まれる場所もあって、社食もあって、
古いエレベーターもお風呂もあって、
おもしろいですねぇ、新潮社。
社内になんでもある。
- 三國
- これはもう、街だね、街。
- みちこ
- うん、街です。
- 松本
- はい、こちらが社食ですー。
- 三國
- 松本さんはこの社食に
どのくらいの頻度で来られるんですか。
- 松本
- ぼくはもう基本毎日。
- みちこ
- えーー、いいなあ(笑)。
- 松本
- うちの社食は、炭水化物が多めで、
グラタンにライスがついてきたりします。
ですから、ここに通って
ぼくみたいに大盛りばかり食べていると、
すぐに体型に表れます(笑)。
- みちこ
- たしかに、おいしそうですし、
盛りもたっぷりですし、
バッチリ働けそうな感じがします。
- 三國
- うん、量がすごい。
- 松本
- はい、それでは記念撮影ですよー。
はい、チーズ! パシャ!
- みちこ
- それでは、いただきまーす。
- 三國
- いただきます。
- みちこ
- 三國さん、どうでしたか。
自分の本を出版してくれた
新潮社さんのあちこちをめぐってきて。
- 三國
- うーーーん、そうだねえ‥‥。
いま、いろんな新しいメディアが
たくさん出てきたこの時代に、
本というもので勝負してるって
やっぱりすごいことだなあと思います。
ウェブとか、オーディオとか、写真とか、
情報を取り入れやすくするための
工夫や仕掛けがいっぱいあるじゃない?
そのなかで、こんなに丁寧に、
本をつくっているなんて。
- みちこ
- うん、うん、そうですね。
- 三國
- 文章を書いて本を作るって、
いとおしいことだなあ…と感じました。
- 松本
- ああ、そう言っていただけると。
- みちこ
- なんか今日お会いしてきた新潮社の皆さんが
本を大切に思ってる感じが
ひしひしと伝わってきましたね。
- 三國
- そう、そう。
- 松本
- みんな、ほんとに本が好きなんだと思うんですよね。
- みちこ
- そう思います。
本に直接関わっている装幀部や校閲部、
松本さんのいる編集部だけでなく、
受付の方も、新潮社クラブの方も、食堂の方も、
みんな本を大切にしているような。
- 松本
- それぞれにみんな本が好きで、
そのうえでちゃんと
自分の仕事をしていると思うんです。
- みちこ
- すごくわかります。
- 松本
- そして、全員がものすごく、
書き手の方を尊敬している。
- 三國
- そうなの。だから、優しいんだよね、みんな。
- みちこ
- 今日は、お忙しいなか、たっぷりと
新潮社をご案内してくださって
ほんとうにありがとうございました!
- 松本
- いえいえ、こちらこそ、
取材してくださって、ありがとうございます。
- 三國
- おもしろかったね。
- みちこ
- はい、とっても!
- 松本
- またいつでも遊びに来てくださいね。
ありがとうございました!
(おわります!)
2022-11-27-SUN