ヘアメイクという仕事を通じ、
俳優やモデルなど、表現をなりわいとする人たちに
長くふれてきた岡田いずみさんは、
その人の魅力について
深く考える瞬間がたびたびあるといいます。
人の魅力って何だろう?
表現という仕事に就く人の特別さって?
なぜ、あの人は輝いて見えるのだろう?
その話をするならぜひ、と、
岡田さんが会いたかったのが、
AMUSEで新人発掘を担当し、
多くの俳優を見いだしてきた大橋良行さんでした。
大橋さんは、街をあるく彼らの、
いったい何を見てきたのか、
どこに魅かれて声をかけるのか。
そして、魅力とはいったい何なのか。
全5回、たっぷりおたのしみください。

>大橋良行さんのプロフィール

大橋良行(おおはし・よしゆき)

株式会社AMUSEの新人開発担当マネジャー。
発掘(スカウト)から、俳優の育成を担当する。
自ら経営をしていた株式会社ウィルの時代から、
上野樹里、吉高由里子、佐藤健、
三吉彩花、甲斐翔真などを育てててきた。

twitter

前へ目次ページへ次へ

その1 清潔感、大胆さ、集中力、そして。

岡田
大橋さん、
今日はありがとうございます。
よろしくお願いします。
大橋
こちらこそ、よろしくお願いします。
これが「シンクー」なんですね。
どういうコンセプトでおつくりになったんですか?
岡田
名前の中にコンセプトが隠れていまして、
ひとつは「真紅」──「紅い」っていう意味です。
「紅」って、美容の中でほんとに本質的な色なんですね。
そういう本質的な美容をしたいっていうこと。
それから「新しい空」と書いて「新空」、
空を見上げるときのあのワクワクするような
あらたな気持ちを大事にしたいな、と思っているんです。
パッケージを見たときにも、
空を──「新しい空」を見たときのように、
パッと何かを感じていただけるような、
そういうパッケージを志しています。
大橋
なるほど、すごいですね!

岡田
そもそも実家が資生堂の化粧品店でして。
子供の頃から「美容」というものを見ていたんです。
私たちの仕事である「美容」って、フォルム、
つまり表面的なことをやってると思われがちなんですけど、
実はすごく内面も大事なんです。
では、美しさに通底しているものは何だろう、と、
ずっと考えてきて、それは
「ごきげんでいること」だと思いました。
美しさはごきげんなときに表れることが多いと思うんです。
ですから「ごきげん美容」、
これを改めてかたちにしていきたいと。
大橋
素晴らしいヘアメイクさんって、
共通しているところがあるんですよね。
清原果耶ちゃんが、朝の連続テレビ小説で
お世話になったヘアメイクさんもそうで、
岡田さんもそうだと感じているんですが。
岡田
え、それは、なんですか?
大橋
「母性」です。
岡田
ああ!
大橋
はい。強い信頼感があるんですよ。
若い女の子たちが頼りにするもの。
「味方だな」っていうイメージです。
岡田
メイクルームにいるときに、
ここは安心、安全で、
信頼できる場所にしてあげることは大事ですね。
カメラの前に立つまで、気持ちよく、
全力を出せるようにするのが
私たちの仕事だと思っています。
ヘアメイクって、スキルももちろんなんですけど、
もうひとつ、スタッフとして求められてるなぁと思うのは、
その人が全力を出せる場をつくること。
大橋
ヘアメイクの方って、
小声でお話しになるんですよね。
「今日どうだった?」とか、
「今日寒いね」とか言いながら、
リラックスさせることも大事ですよね。
素晴らしいです。
岡田
そうなんですよ。
それが一番大事だという気がしています。
まさに今日は、そういうお話をしようと
思っていたんですけれど、もう、今。
ご名答! みたいな。
大橋
はははは。
先に喋っちゃいました(笑)?
岡田
ほんとにそういうお話をしたくって。
実はシンクーのこの商品たちも、
そういうスタッフをイメージしているんです。
安心、安全で、信頼できるっていうところを目指して、
この子たちが、私たちを、私をきれいにしてくれる
スタッフみたいなイメージでつくっています。
アベンジャーズみたいな気分で、って言ったんですよ。
「それぞれが主役だ」、
「それぞれがあなたの味方になってくれる」
っていうところがコンセプトなんです。
シンクーを使うことで、
その人の、それぞれの個性みたいなところが
パッと出るといいなと。
大橋
ん~! なるほど!
岡田
「魅力的なもの」をつくろうとしたときに、
改めて「魅力」ってなんだろうなって
すごく考えたんです。
というのも、私、ヘアメイクになってすぐに、
「魅力」について迷ったことがあるんです。
私は、メイクって「きれいにするもの」
だと思っていたんですね。
でも、あるときカメラマンに怒られました。
「キレイすぎて、彼女の良さが出ない!」って。
そういうことがあって、
「キレイ“すぎる”って何?」
「魅力って何だろう?」と。
大橋
ええ。
岡田
あるとき、男性のスタイリストさんが、
女性のモデルさんに、
どう考えてもマッチしない靴を持ってきたんです。
シュッとした靴ならパシッと合うところを、
敢えてちょっとブカブカの靴を履かせた。
それはモデルさん自身も若干気になっているようで、
私も「なぜ、これなんだろう?」と
あまりにも気になって、
仲の良い人だったし、聞いてみたんです。
「何でこの靴にしたんですか?」って。
そうしたら、スタイリストさんが言うには、
「彼女はブカブカの靴を履いて、
ちょっとダサい感じのほうが“萌える”んですよ」と。
私は「え~~っ?!」って思いました。
大橋
はい。
岡田
女の子ってピークを目指すんですよね、
美しさのピークを。
それで思ったんですが、
グラビアの撮影でよくあるのが、
カメラマンさんが、
私たち女性スタッフがみんな
「今、撮って、今!」って思う瞬間じゃなく、
その前後を撮る、ということ。
カメラマンさんが言うには、
「抜け方とか、ピークに行くまでの顔が好きだ」。
これって、スタイリストさんの意見とも共通しますよね。
それで私は「魅力って何?」って考えてしまったんです。
それは私たちが思う「完成品」みたいなことではない? 
じゃあ、それは何だろうって。
大橋
ああ、なるほど。
岡田
それから桃井かおりさんが
テレビか何かのインタビューで
「完璧にしない」とおっしゃっていたのを、
面白いなって思ったんです。
役づくりにあたり、
自分を完璧にそこまで持っていかない、
どこか隙をもたせる、と。なぜなら、
「(演出家が)ちょっと手を入れたくなるでしょ?」
っておっしゃっていて、
私は、そんな価値観、知らなかったなぁって。
大橋
それはかなりの技術、ですね。
岡田
そうですよね。
1回完成した後にこそ、出てくる技術なのかな? 
とも思ったんですけれど。
大橋
さすが桃井さんですね。
演出家は演出をつけたがりますから、
役者に完璧にやられても困るんですよ。
ちょっと抜いて、余白が残してあげたほうがいい。
そういうことをおっしゃっているんだと思います。
岡田
さっきの「靴がダサいと萌える」
っていうスタイリストさんの話には続きがあって、
「靴を完璧にするのは簡単なのに、
なんでこれを選んできたの? って思うと、
見る人の想像が止まらなくなる」って言うんですよね。
大橋
あぁ、面白いですね。
岡田
もう気になってしょうがなくなって、
その子に夢中になってしまうって。

大橋
分かります、分かります。
岡田
大橋さん、分かります?
大橋
分かります。すっご~く、よく、分かります。
岡田
それが面白いなって思います。
魅力って、ピークをつくることだって、
思ってしまいがちなんだけれども、
実は外していったりとか、素の部分だったり、
そういうところも魅力なんだなっていうことが。
大橋
そうですね。「不完全な完全」といいますか、
アーティストが最後まで描かないとか、
小説でも未完のまま終わり、
そこからは見る人や読者の想像力に任せるのがいい、
というのは、かなり、高度な表現技術ですよね。
でもすごく分かりやすい。
岡田
その「抜く」っていうのをあえてするのは、
女優さんでもごく稀な人というか、
よっぽどの人じゃないとできないような‥‥。
簡単には手が出せるものじゃない気がしますね。
大橋さんは、完成形ではない、
原石のような方たちを見つけることがお仕事ですよね。
いったい、その人のどんなところを見ているんでしょうか。
大橋
ああ! 
やっぱり「清潔感」ですね。
まず最初に「清潔感」です。
岡田
「清潔感」なんですね。
大橋
はい。そして次に「大胆さ」です。
岡田
「大胆さ」。
大橋
はい。
僕みたいな年の離れた男性にも平気で対面してくる。
中学生の、低学年だとしても、しっかり、
正面きって答えてくるその「大胆さ」。
そしてもうひとつは「集中力」です。
岡田
「集中力」。
大橋
この3つ、僕は大事にしてます。
岡田
清潔感、大胆さ、集中力。
最初に会ったときにわかるものですか。
会って、その後、話していくうちに?
大橋
話してる最中に、ですね。
最初に目につくものって‥‥。
大橋
それが「清潔感」ですね。
岡田
それは私たちがちゃんとお風呂に入ったりとか、
そういう清潔さ、とは違うんですよね。
大橋
「あ、いいな」と思った子は、
「はみ出すような清潔感」があります。
体から。
人はそれを「オーラ」って言いますね。
自信みたいなものだったり、
影みたいなものであったり。
そうだ、その3つとともに、
僕が大事にしてるのは「欠点」です。
岡田
「欠点」ですか‥‥?!
大橋
そうですね。
たとえば、
車のデザインでも有名な
イタリアの工業デザイナーが言っていたのは、
わざと1つ欠点をつくるんですって。
ちょっと、外す。
それが長く愛される理由だっていうんです。
さきほどの話でいうと、
ブカブカの靴を履かせると、
そこにアンバランスがうまれますよね。
アンバランスのバランスっていうのが、
究極の芸術じゃないかということですね。
メイクも、完璧にしてしまうと、
ほとんどの人が、まぁ、
似通ってしまうわけですよね。
岡田
そうですね。はい。
大橋
だから、その人の個性にあわせて、
ちょっと眉毛を太く描くとか、
岡田さんも、されるでしょう?
岡田
そうですね。ちょっとこう、
トゥーマッチなところを、
ひとつ、つくったり。
大橋
そうですよね。
たとえば佐藤健くんは、
ものすごく「かわいい子」だったんです。
岡田
ええ。
大橋
でも、「完璧にきれいな顔」だったわけじゃない。
岡田
あぁ!
大橋
彼が生まれて初めて原宿に来たというとき、
僕は彼を10メートル、15メートルぐらいの
距離で見かけて、声をかけたんですよ。
面白いですよね(笑)。
岡田
大橋さんは、どんなふうに声をかけられるんですか?
大橋
僕は、相手があまりにも素晴らしいと、
知らないうちに喋ってます。
岡田
えっ。
大橋
ほんとに、ほんとに。
吉高由里子ちゃんもそうでしたね。
彼女が、中学3年生ぐらいのときかな、
お店でアクセサリーを選んでいた彼女に気づき、
僕がじぃ~っと見ていたら、
こっちを見てニコッと笑ったんですよ。
道を隔てて向こう側なんですけど。
岡田
道を隔てた向こう側から? えぇ~?

大橋
7、8メートルくらい離れていました。
こっちをじっと見て、
手にしていたイヤリングを耳元で
キラキラッと振って、
ニコッと笑ったんです。
「この子どうしてこんな大胆なの?!」
と思いまして(笑)。
岡田
大橋さんの視線を感じての
吉高さんのリアクションが、
イヤリング、キラキラってことですか?
大橋
そう、こっちを見て。
岡田
さすがですね。
そういう印象的なことが、
その瞬間にできる人なんですね。
大橋
そう、将来、人気者になっていく人っていうのは、
何か出すものがあるんですね、やっぱり。
僕の仕事は、それを見つけられるかどうかだけで。
目がどうか、鼻がどうかとか、
基礎的なところはありますけど、そうじゃなくて、
やっぱり「清潔感」と「大胆さ」ですね。
岡田
知らない人に見つめられてたら、
なかなかそれはできないなと思いますよね。
でもテレビの、モニターの向こう側から、
訴えかけてくるものがある人って、
やっぱりそういう
「大胆さ」みたいなものがあるんでしょうか。
大橋
そうですね。
上野樹里さんもそうです。
ほんとにすごかったです。
最初の映画が、犬童一心さんが監督された
『ジョゼと虎と魚たち』でした。
岡田
はい、拝見しました。
大橋
リハーサルで助監督の顔を叩くなって言われてるのに、
パーン! って、何回もいっちゃうんです。
集中しちゃって自分が見えなくなっちゃう。
妻夫木聡さんに馬乗りになっていったり。
それはやっぱり「大胆さ」というか、
「集中力」といったらいいのかな。
そういうものって、デビューから何年かぐらい、
その子の女優人生とか、
アーティストとしての人生が決まってくる期間、
そういうときに顕著に出ますね。
岡田
そうやって大胆にできるのは、
その人のタレント性みたいなことなんですか。
大橋
清原果耶ちゃんもそうですけど、
どんなにすごい俳優や大監督でも、
「ここ、こう思うんです」ってちゃんと言いますね。
僕らはどうしても遠慮しちゃいますが。
岡田
デビューの頃っていうと、
10代とか、20代前半の人が多いじゃないですか。
でも、そういう人って、大御所に向かって
「待って」と止めても、
生意気だとか、うるさいとかって
思われたりしないんですよね。
私も、そういう瞬間をそばで見たことがあって。
大橋
スタッフの皆さんも頭がいいので、
新人でも、才能のある子に対しては、
「この子の言ってることは分かる」
っていう雰囲気をつくりますよね。
あれがやっぱりすごいなぁと思います。
名監督、素晴らしいシナリオライター、
照明さん、それから音声さん、
みなさん、すべて「見て」らっしゃって、
この子の言うことは、
ちゃんと聞いてあげなきゃいけないな
っていう雰囲気を醸し出すんです。
岡田
なるほど。
大橋
それが大きなアートを生み出します。
映画だけではなくて音楽でもそうですよ。
年齢ではない、名声ではない。
この子の、このアーティストが、
何を言わんとしているかっていうのを
見抜く力があるんですね。
岡田
そうですね。
大橋
それがスタッフの素晴らしさなんですよ。
もちろんヘアメイクさんもそうです。
よく見てらっしゃる。
現場からメイク室に帰ってきたときの対応も、
素晴らしいじゃないですか。
岡田
そういうところが求められるんですよね。

(つづきます)

2022-03-28-MON

前へ目次ページへ次へ
  • Shin;Kuu