ヘアメイクという仕事を通じ、
俳優やモデルなど、表現をなりわいとする人たちに
長くふれてきた岡田いずみさんは、
その人の魅力について
深く考える瞬間がたびたびあるといいます。
人の魅力って何だろう?
表現という仕事に就く人の特別さって?
なぜ、あの人は輝いて見えるのだろう?
その話をするならぜひ、と、
岡田さんが会いたかったのが、
AMUSEで新人発掘を担当し、
多くの俳優を見いだしてきた大橋良行さんでした。
大橋さんは、街をあるく彼らの、
いったい何を見てきたのか、
どこに魅かれて声をかけるのか。
そして、魅力とはいったい何なのか。
全5回、たっぷりおたのしみください。
大橋良行(おおはし・よしゆき)
株式会社AMUSEの新人開発担当マネジャー。
発掘(スカウト)から、俳優の育成を担当する。
自ら経営をしていた株式会社ウィルの時代から、
上野樹里、吉高由里子、佐藤健、
三吉彩花、甲斐翔真などを育てててきた。
- 岡田
- 演じるというのは、何が正しいとか間違いとか、
成功とか失敗とかとはまたちょっと違った世界ですよね。
でもなにかそこにキラリとするものがある、
なにか不思議な力があるっていっつも思うんです。
その不思議な力を「魅力」というのだろうと、
いつも思うんですけれど。
- 大橋
- うんうん。
- 岡田
- なにか記憶に残ることが、
魅力のひとつになるんじゃないかなと。
大橋さんがおっしゃった、「大胆さ」とか、
「清潔感」、「集中力」、
そういうパッと心に刻める言葉、ワンワードが、
すごく大事なのかなぁと思います。
- 大橋
- 時代性もありますね。
- 岡田
- そうですねぇ、時代性。
- 大橋
- 賀来賢人くんもそうなんですけども、
何年か前だったから(スカウトが)
できたのかなと思うんです。
今だったらちょっと声をかけられていないかなっていう、
そういうことは感じます。
- 岡田
- そうですか!
- 大橋
- 佐藤健くんもそうですね、やっぱり。
彼も、あのときの時代を象徴した俳優さん。
今は大御所になりつつありますすけど。
- 岡田
- はい。
- 大橋
- そういう、時代・時代の俳優さんたちとか、
流行りの感じっていうのは、
そのときじゃないと見えないかもしれません。
- 岡田
- その「流行りの感じ」っていうのって、
どういうところでキャッチされてるんでしょうか?
- 大橋
- 人間って飽きるんですよね。やっぱりね。
で、その飽きた後に、次にくるものは何か。
人間ってほんと新しいものが好きなので、
たとえばソース顔みたいな人がグーッとくると、
次はさっぱり系が欲しくなったりっていう、
食事と一緒なんですよね。
- 岡田
- へぇ~!!
- 大橋
- 「表現力の素晴らしさ」も大切ですけど、
街で声をかけた短い時間の会話では、
なかなか見抜けないこともあるんですよね。
中にはそれを出してくれる子もいるんですが。
- 岡田
- ええ。
- 大橋
- ちょっとした会話の中でも、
聞いたことのない言葉を使ってみたりする。
あぁこの子の時代なんだなぁ、と
思うこともあるんですけれども、
‥‥なかなか難しいですね。
シアターコクーンで上演したミュージカル、
『October Sky-遠い空の向こうに-オクトーバースカイ』
っていう作品に、
甲斐翔真くんっていう子が主演してるんです。
彼もスカウトなんですけれども、
歩いてて歌の上手さとか分からないですからね。
- 岡田
- そうですよね。
- 大橋
- ところが今、彼は歌で日本のミュージカル界を
引っ張ってく人になるだろうって言われてるんです。
スカウトをするとき、なんとなく感性として、
この子は表現することに適しているんじゃないかな、
背も高いし‥‥っていうのは、あったんですけど。
でもそれ(この人が表現ができるであるとか、
歌がうまい、と見抜くこと)をちゃんと体系化して、
こうだよって説明をすることはできないです。
その時々の移ろいやすいものですよ。
- 岡田
- 演技力というのは、最初からその人にあるものですか?
- 大橋
- 演技に関してはね、最初から上手い人っているんですよ。
それは、何か、子供の時の経験で、
傷みたいなものを持ってる人です。
家庭の中で、死とか別れとか、経済状態とか、
そういう体験をしている人。
周りみんなが元気で平和でハッピーに育った人とは、
感受性が違うんだと思いますね。
- 岡田
- 西川美和監督と対談させてもらったときにも、
苦労はしたほうがいいってお話をしてました。
- 大橋
- 本(台本)の読み込み方が全く違うんですよ。
- 岡田
- そうでしょうね。
- 大橋
- 人の悲しみに対して、
行間を読みすぎるくらい読めてしまう。
台本に「‥‥」ってあるじゃないですか。
あれは、言葉に出さないけれど、
なにかしらの表現が必要とされている。
そのイメージが監督とパチッと合うんです。
- 岡田
- うんうん。
- 大橋
- それが平和に生まれ育ってきた子は
その「‥‥」がなんだかさっぱりわからない。
まあ、あくまでも、僕の考えですけれど。
- 岡田
- 大橋さんからごらんになって、
スカウトをするときのその人の「良さ」って、
どういうところに表れてくると思われますか。
- 大橋
- 俳優さんの場合はやっぱり「目」ですね。
「目の表情」ができる人。
陰(かげ)とか喜怒哀楽とか、
そういうことだと思うんですけど。
特にローティーンの場合は、
まだ自分をつくるっていうことを知らないときに
路上で見るのが一番いいんです。
飾ってないときに見るっていうのがすごく大事で。
- 岡田
- 資質が見えやすい?
- 大橋
- 持ってるものとか着てるものとか髪型とか全てに、
その人が出ている状態だからでしょうね。
いずれこう変装していきますから、人間は。
どこかで変装していく。
- 岡田
- そうですね。
- 大橋
- だからその前に見ると、
ディスポジション‥‥資質が分かる。
なのでやっぱり、なるべく構えられたくないんです。
オーディションなんかでは、
最前列の人はみんな「変装」をしていて、
別の人間を作ってることが多いんですよ。
だから2番目か3番目の人をず~っと見ています。
- 岡田
- いちばん前じゃなくて!
- 大橋
- そうですね。
後ろにいるときは一重まぶただったのに、
前に出てくると、なぜか二重になっていたりするんです。
- 岡田
- え、どういうことだろう(笑)?!
「んっ」ってやるんでしょうか、力を入れてね。
- 大橋
- そう、「んっ」ってやって二重になって出てくる。
それが「変装」です。
だから後ろのほうを見るんですよ、いつも。
- 岡田
- まだ待ってるときの、素の状態っていうか、
それを見てらっしゃるんですね。
たくさんの俳優さんやタレントさんを手がけられて、
それこそ原石を見つけて、
ダイヤモンドみたいに磨いていく。
そこには変化していく過程っていうのが
あると思うんですけど、
どういったところが磨かれていくと思いますか?
原石が磨かれたとき、何が変わるんでしょう。
- 大橋
- 磨かれる子が伸びるんですよね。
清原果耶ちゃんなんかも、
最初の頃もかわいいんですけども、
今、ほんっとかわいくなっちゃって。
存在感っていうかなんていうのか、
そういう目でこっちが見るんでしょうね。
本人は変わってないのかもしれないですけども。
- 岡田
- 私はそういうの、肌にすごい出るなぁと思うんです。
- 大橋
- 出ますね。
いい波に乗った子に出ますね。
- 岡田
- 肌ってすごく不思議に出ますよね。
よく「恋すると肌がきれいになる」っていうように、
もちろん恋もしてるかもしれないけど、
それだけじゃなくて、
やっぱり何か乗ってきたなって思うときって。
- 大橋
- 岡田さんはお顔に触れるから、
よくわかっていらっしゃるわけですね。
- 岡田
- そうなんですよ。
「うわ、来たね!」って思う瞬間があるんですよねぇ。
肌が変わったなっていうとき。
- 大橋
- そうです、そうです。
- 岡田
- それまではやっぱり、
自分の生活のままの肌な気がするんだけど、
リフトアップとかそういうことじゃなくて、
引き締まってという感じがします。
- 大橋
- あと、目の照りみたいなものがね。
来ますよね。
- 岡田
- 目の輝きが、そうそうそうそう。
「わっ、来た!」って思う瞬間です。
私は「オーラ」の芽生えっていうか、
始まりみたいなものは、
肌と目の潤いからすごい感じます。
- 大橋
- 「なにこの来てる感じ?」みたいなね。
注目されるっていうことがあるのかもしれませんね。
やっぱり映されることによって、何かを自覚していく。
特に女子の場合は発露していく瞬間がありますよ。
僕はそれを「宇宙人の季節」って言います。
- 岡田
- 「宇宙人の季節」?
面白い!
- 大橋
- 名前を失念しましたが、
海外の小説家が、14歳から何年からを、
「宇宙人の季節」って言っているんです。
そのとき、圧倒的に美しくなるって。
でもたしかにそうですよね。
- 岡田
- 自意識みたいなものがちょうど芽生える、
思春期、そういう時代じゃないですか、14歳頃って。
初めて自分をちょっと客観視し始めたりとか、
自分を見つめる時期な気がします。
肌もそうだと思うんですけど、
あと、痩せてくるなと思うんですよね。
- 大橋
- 痩せるというか、体重は変わってないんだけど、
締まるというか、いい言葉が出ないですけど。
僕は、「宇宙人の季節」が好きで、
新人ばっかり担当しているんです(笑)。
- 岡田
- あぁ~!
そこが楽しいんですね。
- 大橋
- 羽ばたく音が聞こえるようになってくると、もうね、
有名になって、
僕より給料が多くなっていくのが嬉しい(笑)。
- 岡田
- ほんとに、羽ばたいていくときって、
タタタタタタッてすごく早くいきますよね。
そのタタタタタタタの5段階、6段階のときの、
あの変化ぶりって、すごいですよね。
- 大橋
- すごいですね、羽ばたいてく感じがね。
今ちょうど果耶ちゃんがそうですけども、
そういうものがあった人は一世代つくりますよね。
それはでも、芸能人とか表現者だけではなくって、
一般の人もそうなんじゃないかなと思うんですよ。
たとえば会社という組織にいて、
1つの大きな仕事をやり遂げた瞬間とか。
- 岡田
- そうですね。それってやっぱり、
心地いい自信っていうか、
自分が自分であっていいんだ、みたいな、
自分自身を認められた瞬間ですよね。
最初は、みんなおっかなびっくりなんですよ。
メイクルームに入っても、
「なんだか、すみません」みたいな。
何も悪いことしてないのに(笑)。
- 大橋
- ここにいていいのかな?
って思っているんですよ。
- 岡田
- あぁ、やっぱりそうですか!
- 大橋
- そうなんですよ。
新人っていうのはいつも怯えてるんです。
自信がないんです。
そこから成長を見るのが、もう面白くて。
だんだん、だんだん、
自信がついてくる感じが
僕はすごく好きなんですね。
(つづきます)
2022-03-29-TUE