「やさしい医療の世界」のトークセッション、
ほぼ日で紹介する1つめは、
お医者さんと患者さんのあいだの
コミュニケーションエラーについて話をしたもの。
お医者さんと患者さんの関わり合いでは、
必要な情報を正しく伝達できないことも、
信頼関係をうまく築けないこともあります。
このトークでは、そういった具体的なエラーの
例をあげながら、問題点を探っていきます。
お医者さん側として、SNS医療のカタチの
ほむほむ先生とヤンデル先生。
患者側として、幡野広志さんと浅生鴨さんが参加。
「こんな問題があるんだ」「お医者さんはこう考えるのか」
などがわかって、読むことですこし、
コミュニケーションエラーを
防ぎやすくなるのではと思います。
「やさしい医療の世界」とは
2020年8月23日(日)に
YouTubeを使って開催された、
医療をテーマにしたオンラインイベントです。
「SNS医療のカタチ」の4人の先生たち
(おーつか先生・ほむほむ先生・けいゆう先生
・ヤンデル先生)が中心となり、
1日で7つのトークセッションを配信。
総合司会は、作家の浅生鴨さんが担当。
このようなスケジュールでおこなわれました。
8月23日(日)10〜17時
#SNS医療のカタチTV
やさしい医療の世界
※カッコ内は各セッションの参加者。敬称略。
■10時~「グランドオープニング」
(おーつか・ほむほむ・けいゆう・ヤンデル・浅生鴨)
■11時~「マスクと体重計と医療の、
やさしい入り口はどこですか」
(SHARP・タニタ・ほむほむ・浅生鴨)
■12時~「患者のホンネ、医者のホンネ」
(矢方美紀・中山祐次郎)
■13時~「カンブリアナイトから見る
センサー時代のコミュニケーションの可能性」
(新城健一・浅生鴨)
■14時~「医療と和尚の、あうんの呼吸。」
(おかざき真里・飛鷹全法・たられば・ヤンデル)
■15時~「患者のホンネ、医者のホンネ パート2」
(幡野広志・浅生鴨・ほむほむ・ヤンデル)
■16時~「やさしい医療って、なんだろう」
(糸井重里・幡野広志・おーつか・けいゆう・浅生鴨)
今回ほぼ日では、15時~と16時〜におこなわれた
2つのトークを記事としてご紹介します。
また、そのほかのセッションについては、
「SNS医療のカタチONLINE」(動画)や
「ログミーBiz」(テキスト)で
アーカイブを見ることができます。
よりくわしく知りたいときは、
「やさしい医療の世界」公式ページをどうぞ。
「SNS医療のカタチ」とは
2018年12月から活動を開始した、
一般の方たちに医療情報を
やさしく(優しく、易しく)伝えたい医師の集団。
メインメンバーは、こちらの4人の先生たち。
おーつか先生(大塚篤司/皮膚科医)
ほむほむ先生(堀向健太/小児科医)
けいゆう先生(山本健人/外科医)
ヤンデル先生(市原真/病理医)
「楽しくわかりやすく」をモットーに、
きちんと医学的に信頼できる情報を、
一般公開講座、TwitterなどのSNS、ブログ、
YouTubeなどを使って届けていらっしゃいます。
ぜひ、チェックしてみてください。
▲「SNS医療のカタチ」のロゴマーク。
たくさんの人が力をあわせて「やさしい」を作っています。
©こしのりょう
みなさんのプロフィール
今回の記事で主に登場するみなさんの
プロフィールをご紹介します。
■ おーつか先生/大塚篤司(おおつか・あつし)
1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。
2003年信州大学医学部卒業。
2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て
2017年より京都大学医学部特定准教授。
皮膚科専門医。がん治療認定医。アレルギー専門医。
がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、
AERA dot.・京都新聞「現代のことば」連載をはじめ、
コラムニストとしても活躍。
医師・患者間の橋渡し活動を行っている。
著書に『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』
(ダイヤモンド社)
『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』
(PHP研究所)
『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)
がある。
■ ほむほむ先生/堀向健太(ほりむかい・けんた)
Twitter / Instagram /
ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」
日本アレルギー学会専門医・指導医。
日本小児科学会指導医。鳥取大学医学部医学科卒業。
2014年、世界初の保湿剤による
アトピー性皮膚炎発症予防の介入研究を発表。
Yahoo!個人、Newspicks、
さまざまな医学専門サイトなどで執筆しながら、
SNSでも出典の明らかな医療情報の発信をしている。
著書に、マンガ家の青鹿ユウさんとの共著
『マンガでわかる!子どものアトピー性皮膚炎のケア』
(内外出版社)がある。
■ けいゆう先生/山本健人(やまもと・たけひと)
Twitter / note / ウェブサイト「外科医の視点」
2010年、京都大学医学部卒業。
外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、
感染症専門医、がん治療認定医など。
複数の市中病院勤務を経て、
現在京都大学大学院医学研究科博士課程、消化管外科。
医療情報サイト「外科医の視点」は
開設3年で1000万ページビューを超える。
Yahoo!ニュース個人、時事メディカルなどの
ウェブメディアで定期連載をおこなっているほか、
全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。
著書に『患者の心得~高齢者とその家族が
病院に行く前に知っておくこと』(時事通信社)
『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』
(KADOKAWA)
『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎新書)
『もったいない患者対応』(じほう)ほか。
■ ヤンデル先生/市原真(いちはら・しん)
Twitter / note / ブログ「脳だけが旅をする」 /
Podcast番組「いんよう!」
1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒、
国立がんセンター中央病院
(現国立がん研究センター中央病院)で研修ののち、
札幌厚生病院病理診断科。
現在は同科主任部長。医学博士。
病理専門医・研修指導医、臨床検査管理医、
細胞診専門医。日本病理学会学術評議員
(日本病理学会「社会への情報発信委員会」委員)。
多数の著書があり、一般書としては、
『いち病理医の「リアル」』
『Dr. ヤンデルの病院選び ~ヤムリエの作法~』
(ともに丸善出版)
『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと』
(大和書房)
『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)など。
そのほか、医学専門書も数多く手がける。
■ 浅生鴨(あそう・かも)
作家、映像ディレクター。
今回「SNS医療のカタチ」では実行部分のリーダーと、
総合司会をおこなう。
NHK職員時代の2009年に開設した広報局ツイッターが、
公式アカウントらしからぬ「ユルい」ツイートで
人気を呼び、中の人1号として大きな話題に。
2014年にNHKを退職し、現在は執筆活動を中心に
広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手がける。
『中の人などいない』(新潮社)、
『伴走者』(講談社)、
『どこでもない場所』(左右社)
『だから僕は、ググらない。』(大和出版)
『異人と同人』『雨は五分後にやんで: 異人と同人II』
(ともにネコノス)など著書多数。
■ 幡野広志(はたの・ひろし)
写真家。1983年東京生まれ。
2017年に多発性骨髄腫を発病し、自身でも
がん治療に関して積極的に発信されていることから、
「やさしい医療のカタチ」にゲストとして参加。
また、さまざまな問題に対して、現実的な視点から、
正直に意見を伝える姿勢にファンも多い。
cakesでの人生相談の連載
『幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。』
など、書かれる文章にも人気がある。
著書・作品集に
『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』
(PHP研究所)
『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』
(ポプラ社)
『なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)
『写真集』(ほぼ日)がある。
- 浅生
- 幡野さんはドクターから言われて、
腹が立った言葉ってありますか?
「それ言うかなぁ」みたいな。
- 幡野
- うーん、どうでしょう。
自分が腹立ったわけじゃないですけど、
ぼくは病気になって最初、整形外科に行ったんです。
血液内科の病気だけど、胸部の骨に腫瘍があったから、
はじめは整形外科の処置だったんですね。
そしたらその先生が、
ちょっとパーティーピーポー感がある人で。
- 浅生
- パーティーピーポー感(笑)。
- 幡野
- この前、病院のレストランでばったり会ったときに
「元気そうだね!」って言われて、
「いやいや、病人だから(笑)」と思いました。 - ぼくは腹立ってないし、そういう人も好きですけど、
なかには怒る人もいると思います。 - ぼく自身はお医者さんとか医療者全般において、
あんまり怒ることはないですね。
- 浅生
- そうね。腹を立てても意味がない。
- 幡野
- 病院で腹立ててる人はよく見かけますけど。
- 浅生
- 怒ってる人、いるよねぇ。
- 幡野
- 怒ってる人多い。元気だなあと思いながら。
- 浅生
- ものすごく怒ってる人が外来で入ってきたら、
先生は嫌ですよね?
- ほむほむ
- それは嫌ですよね(笑)。
サッカーで10点差をつけられたところから
勝負がはじまる感じですかね。
- 幡野
- やっぱりそうですよね。
「なんでそこまで怒るのかな?」
とちょっと不思議だけどな。 - 怒る患者さんがいると、お医者さんも看護師さんも
医療事務や受付の人もみんな
「怒られるんじゃないか」って萎縮しちゃうでしょ。 - それが原因でコミュニケーションが
消極的になりやすくなるわけで、
ぼくなんかは
「患者と医者のコミュニケーションエラーって、
最初は患者側に問題があるんじゃないか」
とか思ったりするんですけど。
- 浅生
- なるほど。
- 幡野
- 前に病院で、ドクターと看護師さんと
3人で喋ってたんです。
みんな年齢も近くて、けっこう
「宴もたけなわ」な感じで笑ってたんだけど(笑)。
- 幡野
- そのとき80歳ぐらいのおじいちゃんに
すっごい怒鳴られたんです。
「うるせえぞ、おまえら。
どこだと思ってんだ!」みたいに。
そのとき3人でそのおじいちゃんに謝ったんですよ。 - そのあと、ぼくがきっかけで喋ってたから、
お医者さんと看護師さんに謝ったんです。
そしたら「いやいや慣れてますから」って。
だけど「こんなの慣れちゃダメだろう」と思いました。 - 結局そういうのがあるから
コミュニケーションが消極的になって、
「医者が冷たい」「看護師が冷たい」とか言う
患者さんが増えるんだろうと思うんです。 - だから「怒るのはあんまりよくない」ってのは
あると思います。
怒る患者って、ちょっと意味がわからないです。
- 浅生
- 病理医の場合は、怒る患者と会うことって
あまりないわけですよね。
- ヤンデル
- 怒る患者とは会わないです。
怒る医者とは会うことがあります。
- 浅生
- 怒る医者はどういう医者ですか。
- ヤンデル
- たとえば自分の予想した診断があって、
それを確実なものにするために、
なんらかの方法で患者さんから細胞を採ってきて、
病理診断をぼくらに依頼する。 - ぼくがそれに対して
「これはあなたの思う病気じゃないです」
と伝えると、電話をかけてきて
「どういうことですか!」と言う。
そのときちょっと怒っていますね。
- ヤンデル
- たぶん医者のなかでもストーリーがあるんです。
それと現実のズレとが出たときに、
怒りで元に戻そうとするタイプの人は
いるんじゃないかと。
- 浅生
- 検査結果というのは、
明白なエビデンス(科学的根拠)なわけですよね?
- ヤンデル
- いや、うーん、難しいと思いますよ。
すべてわかりやすくA・B・Cって
書いてあるものでもないので。
読解方法って、やっぱり
人によって変わるじゃないですか。 - 医療者にもナラティブ(自分のなかの物語)って
あるんですよ。 - たとえば
「そこにこういう細胞が出てるとしたら、
きっとこの患者さんには今後治療が必要だろう」
というストーリーに落としたい人と、
「まだ待てる。ここは治療するにはちょっと早い」
って考える人の平行線っぷりって、
実はすごいんですよね。
- ヤンデル
- 「この細胞はこういう見た目をしている」は、
ある程度科学的に述べることができますけど、
「そのあとどう解釈するか・どう落とし込むか」は
わりと個人個人でストーリーがあるので、
科学の場所にいるからみんな納得できる・
理詰めで働けるってこともないと思うんです。
実際には医者は、もっと感情的なんですよ。
- ほむほむ
- ただ昔って、いまよりも怒ってるドクターが
すごく多かった気がするんです。 - 「エビデンス」という話が出はじめたあと、
互いに科学的な言葉で喋れるように
なったように思います。
- ほむほむ
- それで共通の言語で話ができるようになって、
立場的・年度的に下のドクターから
上のドクターにもいろんな話をするようになったし、
逆に年度が上のドクターからも普通に
「最近そこのエビデンスはどうなの?」とか
若い先生に聞くようになった。 - そういった科学的な言葉ができて、
感情的になる人はすごく減った感じはしてますね。 - ですので、ちょっと話が
変わってきたところはありますけど、
いまのヤンデル先生の話を聞いて
「そうならないように」とは思いました。
※「エビデンス」という言葉については、
「SNS医療のカタチONLINE」の動画
『今さら人には聞けない「エビデンスって何?」』
もどうぞ(講演はおーつか先生です)。
(つづきます)
前回、浅生鴨さんの話をきっかけに
「やさしい医療の世界」のトークセッションが
登場しましたが、今日もひとつご紹介します。
こちらはイベントのなかで
「医療と和尚の、あうんの呼吸。」
というタイトルでおこなわれたもの。
出演は、高野山の飛鷹全法和尚、
最澄と空海の物語『阿・吽』を連載中の
マンガ家・おかざき真里さん、
Twitterでも大活躍の編集者たらればさん、
そしてSNS医療のカタチのヤンデル先生。
この4方で「医療」と「生老病死」、
なかでも「死」について話をしていったもの。
■ 医療と和尚の、あうんの呼吸。
テキストアーカイブ(ログミーBiz)
第1回 第2回 第3回 第4回
このセッションでは編集者のたらればさんが
司会進行を担当。
お坊さんである飛鷹和尚の「死」の捉え方、
作家のおかざき先生の「死」の描き方、
病理医のヤンデル先生が考える
医療者目線での「死」への考え方などを聞きながら、
「医療」と「死」について
みんなで考えを深めていきました。
決して簡単ではないテーマですが、
先生たちの「SNS医療のカタチ」という活動が、
医療と切り離せない
「死」「苦しみ」「慈悲」といったところまで
含めて考えていきたいという思いが
伝わってくるセッションでした。
ヤンデル先生の
「病理医は死体と向き合っているけれども、
死そのものとは向き合っていないかもしれない」
というお話など、発見の多い一時間。
よければぜひ、テキストや動画で
アーカイブを見てみてください。
(次回につづきます)
2020-10-19-MON
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やさしい医療の世界[ロゴ]©こしのりょう
背景[イラスト]©おかざき真里