縫いぐるみ作家のそぼろさんがこしらえる縫いぐるみは、
「あれ? どこかで会ったことあります?」と
言いたくなってしまうほど、
親しみを感じさせる子たちばかり。
その表情は、ニコニコとしているかと思ったら、
こちらの気分が沈みがちなときは
ちょっと寂しそうになっていたり。
まるで私たちの感情に
共感してくれているかのようにも思えます。
ぬいぐるみの世界ではすでに
たくさんのファンをもつそぼろさん。
SNS上で月に1回開かれる、
「お迎え会」という縫いぐるみの販売会では、
多数のお迎え希望の声が挙がり、
毎回抽選でのお届けとなっています。
そんなそぼろさんが、ほぼ日を舞台に20体を発表し、
抽選販売をしてくださることになりました。
抽選の受付は1月13日(木)11時から。
また、TOBICHI東京では1月14日(金)~23日(日)の期間、
そぼろさんの世界観を感じていただける
「そぼろの時間」を開催します。
今回は「ほぼ日お迎え会」に向けて、
そぼろさんの縫いぐるみ制作についてお話をうかがいます。
お迎え先での縫いぐるみの過ごし方や、
展示への思いについても、たっぷりお話しいただきました。
そぼろ
1983年生まれ。
東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業、
同大学院修了。
大学卒業後から「そぼろ」としての活動を開始し、
2014年に著書「そぼろのおとぼけ縫いぐるみ」
(誠文堂新光社)を出版。
休業をはさんだのち、2017年ごろから
現在のスタイルの縫いぐるみを展開。
主にSNSやweb上で月一回、
「お迎え会」という販売会を実施中。
- ー
- そぼろさん自身は、いままでぬいぐるみと
どのような時間を過ごされてきたのでしょうか。
- そぼろ
- 私は、「大切にしているものに対する思い」が
特に強い子どもでした。
気に入っている本には指紋もつけたくないし、
大好きで集めているスタンプは
1回押すたびにきれいに洗ってから
次のインクをつける‥‥そのくらい大事にしていたんです。
ぬいぐるみも同じで、お気に入りの子たちは
雑には扱えなくって。
父親が写真を撮っていたときに、
たまたま私がぬいぐるみを逆さにした状態で
写ってしまったことがあって、
とても怒った記憶があります。
「撮るなら、この子もちゃんとまっすぐに撮って!」って。
- ー
- 大切にしているぬいぐるみは、
お友達のような存在だったんですね。
- そぼろ
- はい。当時はそんな感情だったのかもしれません。
でも、ほとんどの子どもがそうであるように、
私も時が経つうちに、自然とぬいぐるみからの距離は
離れていきました。
- ー
- また距離が縮まったのは大人になってからでしょうか。
- そぼろ
- そうですね。
そばに置いているぬいぐるみに対しする感覚を、
改めて具体的に意識するようになったのは、
自分で「縫いぐるみ」をこしらえだしてからです。
なんか‥‥。ぬいぐるみって不思議な存在なんですよね。
動きもしないし、しゃべったりもしない。
でも、うれしいこととか、楽しいこと、
腹がたつことや悲しいことを黙って受け止めて、
その場でその子の表情のまま、全て吸収してくれるんです。
そのことは、私の縫いぐるみをお迎えくださった
お迎え主さまからのメールやお手紙からも感じます。
- ー
- 吸収してくれる‥‥。
とてもよくわかります。
私も小さなころ常に一緒にいた
カエルの縫いぐるみがあるんですが、
私が楽しいときは明るい表情をしていて、
逆に悲しいことがあったときは、
元気がないように見えるんです。
- そぼろ
- そうそう。
そしてだんだんと、愛おしく思うようになります。
自分とその子との間に「共に過ごしている時間」が
重ねられていく感覚です。
- ー
- そぼろさんが、そう感じるようになったのは、
縫いぐるみをこしらえだしてからということですが、
縫いぐるみづくりはどんなきっかけで
始まったんでしょうか。
- そぼろ
- 小さなころから、手を動かして
何かをつくりだすことは大好きでした。
絵を描いたり、黙々と工作に没頭したり、
そんな「ものづくり」のひとつとして、
初めてぬいぐるみをこしらえたのは
小学校3年生ぐらいのときだったかな。
- ー
- どんなぬいぐるみだったんでしょうか?
- そぼろ
- 小学校の給食の先生が引退されるときに、
皆それぞれプレゼントを用意することになって、
私は両手にナイフとフォークをもった、
エプロン姿の女の子のぬいぐるみをつくったんです。
- ー
- 素敵なプレゼントですね。
当時から手芸が得意だったんですか?
- そぼろ
- いえ、まったく‥‥。むしろ下手なくらいでした。
でも、母が裁縫をよくする人で、
「手芸」というものは身近にありました。
母がコットンでぬいぐるみを作ってくれたことがあって、
それで私も挑戦したくなったんです。
ただ、そこからぬいぐるみづくりが
趣味になったかというとそうでもなく‥‥。
- ー
- では、またどこかに「縫いぐるみ作家」となるきっかけが?
- そぼろ
- 次にぬいぐるみをつくったのは、大学院生のころです。
私は芸術大学に通っていたんですが、
その修了制作の作品に、
ぬいぐるみを使おうとひらめいたんです。
インスタレーションでたくさんのぬいぐるみをこしらえて、
会場に吊るしました。
そこから、大学院を卒業してからも
遊ぶようにぬいぐるみをこしらえるようになりました。
- ー
- 遊ぶように。
- そぼろ
- 本当に遊びの延長で。
当時は手作りのぬいぐるみや、
コアラをモチーフにしたものは、
今ほど世の中にあふれていませんでした。
私はその両者に対して、
「なんだかヘンテコでかわいいのに」と感じていたから、
コアラのぬいぐるみを遊ぶようにこしらえて
面白がっていたんです。
- ー
- そうだったんですね!
- そぼろ
- その後、ある方の紹介で山口デザイン事務所の
山口信博さん山口美登利さん夫妻に
縫いぐるみを見ていただくチャンスがありました。
まだ私は全く無名のころでしたが、展示をしたいと相談したら、
「じゃあやる?」と言ってくださって。
そこで初めて、
自分の作品を売るということを経験しました。
今でもそのことを、信じられないような経験をしたなと
振り返ることがよくあります。
- ー
- どんなぬいぐるみを展示されたんですか?
- そぼろ
- やっぱり、コアラがメインでしたが、
いまのように毛羽だった縫いぐるみではなく、
着古したお洋服とかセーターを、
ジョキジョキ切ってつくるスタイルでした。
- ー
- そこから徐々にいまのスタイルになっていったんですね。
- そぼろ
- はい。
途中にすこしお休みした期間があって、
改めてスタートしたときに、
現在のスタイルの、
目がしょぼしょぼしている表情の縫いぐるみを
つくるようになりました。
- ー
- しょぼしょぼした表情、本当に愛らしいです。
- そぼろ
- このスタイルが確立したばかりのころは、
アルバイトをしながら作家活動をしていましたが、
あるとき、アルバイトの合間に
縫いぐるみのオーダーを受けてみようと思ったんです。
メールで受け付けを開始した瞬間に、
予想以上の数のお申込みをいただいて、
慌ててすぐに締め切らせてもらったんです。
それで‥‥。
注文をくださった方に、精一杯の思いを込めて
縫いぐるみをこしらえたいという一心で、
次の日にはアルバイトを辞めさせてほしいと
上司に相談しました。
どこまでやれるか予想はつきませんでしたが、
自分の時間を全て掛けて向き合うためにはそれしかないと、
私にとっては当然とも言える決心でした。
- ー
- それから定期的に、
そぼろさんはSNS上で「お迎え会」という
縫いぐるみの販売会をなさっていますよね。
「お迎え会」のために誕生した縫いぐるみのなかで、
特にお気に入りの子はご自身の家に置いておこうと
思われることもあるんじゃないでしょうか。
- そぼろ
- 正直、そう思ったことも結構ありますね。
でも‥‥。全員お迎え会に出しています。
- ー
- そうなんですね!
- そぼろ
- そんなふうに思える子こそ、
どこかのお家で役にたってくれるんじゃないか、
たってほしいなって思うんです。
お迎え主さまの元で、どんな形でもかまわないから、
それぞれの「時間」を重ねてくれることを願っています。
「そぼろさんの縫いぐるみ、ほぼ日お迎え会。」は、
2022年1月13日AM11時からスタートします。
くわしくはぜひこちらをご覧ください。
(つづきます。)
2022-01-07-FRI