糸井重里のことばを集めてつくる本、
「小さいことば」シリーズの最新作ができました。
タイトルは『生まれちゃった。』。
カバーの写真、すごくかわいいでしょう?
いま国内外で大人気のアーティスト、
田島享央己さんの作品なんですが、
なんと、この木彫のパンダとさるとタヌキ、
本のために田島さんが彫ってくださったんです。
去年の夏、作品の製作にあたって、
田島さんと糸井がはじめて会って
話し合ったときのようすをお届けします。
田島享央己(たじま・たかおき)
gallery UG 専属
2000年 愛知県立芸術大学美術学部彫刻科卒業
アウトローな気質をそなえ、
彫刻だけでなく絵画領域にフィールドを広げ、幅広く活動している。
2頭身の立体作品は、ニュートラルな立ち姿で観る者に
様々な想像力を掻き立て、人気に火をつけた。
また、木彫作品からも伺える色彩感覚と
空間構成のセンスが平面にも発揮されている。
シンプルに且つ大胆に構成され、
隣り合った色と色の関係性が際立った背景の中に描かれた
キャラクターは何とも不思議な表情や動きで描かれている。
2020年にはNYで個展が開催されるなど、
日本に留まらず、海外でも人気も上昇。
2022年は、世の風潮に逆らうように制作し続けたロック魂がスパークし、
自身の半生をコミカルに描いた初のリトグラフ作品
「LIFE」シリーズを発表する。
ペシミスティックな題材をアチャラカに表現する
高度なセンスが高い評価を得ており、田島革命が実を結びつつある。
2023年3月にはアートフェア東京にソロで発表することが決定している。
著書:「シドロモドロ工作所のはじめてのお彫刻教室」河出書房新社
第4回
よろこんでほしいから。
- 糸井
- 作品を彫っているときって、
下書きとか設計をしたものから
変わっていくものなんですか?
- 田島
- はい。もう、ぜんぜん、違います。
- 糸井
- ああ、そうですか。
それは、つくりながら動いていくんですか?
- 田島
- そうですね。
まず、木に直接こうやって書くんですね。
どこからどこまでを切るかっていう感じで。
- 糸井
- うん。
- 田島
- たとえばイカをつくるんだったら、
こうやって三角にして。
それで大まかに切っていくんですけど、
そうしてるあいだに、たとえば、
木のウロとか、節が出てくる場合がありますよね。
それはもう、木ですから、しょうがない。
そうすると、それを落としちゃうんですよ。
で、落とすと、フォルムが変わりますよね。
- 糸井
- ああ、そうですね。
- 田島
- そしたら、もう、極端な場合は、
イカにならなくなっちゃうんだけども、
じゃあ、そこからなににしようかと言って、
こう、ぐあぐあ変わっていくと。
だから、最初、木取りして、
「こういうものをつくりたい」と思ったものと、
まったく別のものができるっていうのが、
すごくたのしくて。
- 糸井
- ああ、そうでしょうね(笑)。
- 田島
- だからちゃんとした設計図は一切、書かないですね。
おもしろくないんですよ、そうやっても。
- 糸井
- じゃあ、いまある作品たちも、
違うものをつくろうとする過程で
できたものかもしれない。
- 田島
- はい、むしろそういうほうが多いかなぁ。
あと、わざとそういうふうに
仕向けてるんです、私。
- 糸井
- ああ、それは技法ともいえる。
- 田島
- そうですね。逆に、
具象的な女性とかを彫るときは、
もうガッチガチに決めて、
もう、しっかり! デッサンして!
- 糸井
- こういうものですね。
- 田島
- はい、もう、しっかり準備してっていう。
そうじゃないと、人間の体というのは、
誰が見ても狂いがわかるじゃないですか。
だからもうダメなんですよね。
言い訳が聞かないというか。
- 糸井
- そうか、つまり、人体については
社会がもう決めてるところがあるんですね。
- 田島
- そうです。だから、人体は、誰が見ても
「あ、ここ、ちょっとおかしい」
って言われちゃうんですよ。
どんなに彫刻を知らない人でも、
「これ、ちょっと変だな」とか。
- 糸井
- 田島さんは、もともとは、こういう、
ガチガチの人体のほうを、
おもにつくっていたわけですか。
- 田島
- 大学時代はそうでしたね。
ヌードモデルが使えるのって、
大学の4年間だけだろうなと
私は思っていたんです。お金もないし。
だから大学のときは、
それだけをひたすらやっていました。
その4年間は自分の作品なんて
つくろうとさえ思わなかった。
そのときしか勉強はできないと思ってたから、
「4年間は絶対に外さない!」と決めて、
ヌードモデルという自然の形を先生にして、
ひたすら研究していましたね。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- 田島
- だから、大学を出てからです、
自由にやりはじめたのは。
というか、自由になるにはやっぱり、
ちゃんとしたものがないとできないです。
- 糸井
- よくわかります。
自由になってからの田島さん作品は
とことん追求された女性像とは
一見、ずいぶん違うように思えますけど、
そういうつながりがしっかりあるんですね。
だから、あの、なんだろう、
相手がよろこびそうなことをやるのって、
純粋に芸術を追求する人からすると
歪んでると思うのかもしれないけど、
田島さんの作品は、作家とお客さんが
いっしょにつくっているような感覚が
すごく感じられるんです。
- 田島
- ああ、それは思ってます。
ただの自己満足だけじゃなくて、
「世に出たあとそれをちゃんと見てくれた人が、
いい気持ちになってくれないと」
というのを絶対に思っています。
- 糸井
- それはたぶん、仏像なんかもそうですよね。
それを見ている側の思いがいないと
意味ないですよね。
- 田島
- はい、そう思います。
- 糸井
- それがいいんですよ。
田島さんの作品が気持ちいいのは、
そういうことなんだなぁ。
- 田島
- いま、なにかすると、リアクションとか、
SNSですぐわかるじゃないですか。
そういうのはすごく参考にします。
だからといって完全に
おもねるわけではないけれども、
意見はちゃんと聞くようにして。
プロの意見よりも、ふつうの人の意見が
やっぱり大切だと思うので。
なにより「これが好きだ」っていう声って、
いちばんだと思うんです。
- 糸井
- そうですね。
田島さんの作品がそういう声で
支えられているのは、
なんか、伝わってきます。
- 田島
- うん。やっぱり、よろこんでほしいから。
- 糸井
- ぼくも、総じて、「おもしろい」
っていうのが好きなんですよねぇ。
いいな、きれいだなっていうのも、
「おもしろい」の中にあるものだと思うんです。
「おもしろい」って、新鮮さもあるし、
はじめてだよ、っていうのもあるし、
誰がやったの!? みたいなものもあるし、
それがいちばんやりたいことなんじゃないかな。
だから「できちゃったよ!」っていうのが
みんなにとっておもしろければ、
それがいちばんいいんですけどね。
- 田島
- ああ、ほんとにそうですね。
(つづきます)
作品の撮影:幡野広志
協力:ブラインドライターズ
2023-02-16-THU