厚塗りの絵の具で人の顔を
ぐちゃぐちゃに塗りたくったような絵。
豪快なストロークや絵具の質感に
瞬間的な美しさを感じたのも束の間、
近くで見るとそれはただの錯覚で、
事実はそのすべてを緻密に描写した
完全にフラットなポートレイト作品でした。
2016年、当時37歳の無名の画家が、
突然この絵を引っさげ美術界にデビューしました。
その人こそ、世界も注目する武田鉄平さん。
彗星のように現れた孤高の画家は、
なぜこのシリーズを描くに至ったのか。
武田さんのアトリエでお話をうかがいました。
担当は「ほぼ日」稲崎です。
武田鉄平(たけだ・てっぺい)
画家、アーティスト。
1978年山形県生まれ。
2001年武蔵野美術大学
視覚伝達デザイン学科を卒業後、
サイトウマコトデザイン室に入社、同氏に師事。
試行錯誤のうえ山形に戻り家業を手伝う傍、
約10年の間ほとんど社会と接することなく
自らのアートを追求し続ける。
2013年より現在の手法で制作を開始。
2016年に山形の多目的アートスペースで行われた
初めて個展がSNSなどで大きな注目を集める。
2019年に作品集『PAINTINGS OF PAINTING』
(ユナイテッドヴァガボンズ)出版
(装丁をファビアン・バロンが担当)。
同年、東京での初個展が反響を呼ぶ。
- ──
- 東京のデザイン事務所を辞めたあとは、
山形に戻られるんですよね。
- 武田
- そこからは、まあ、家業を手伝いつつ。
山形にある小さなホテルなんですけど。
それを手伝いながら。
だいたいホテルに夕方から勤務して、
次の日の朝まで仕事をするって感じで。
そのあと家に帰って、
昼間に制作をしてみたいな生活です。
- ──
- さっきから寝る時間が全然ない(笑)。
- 武田
- はははは。
- ──
- その頃は画家仲間みたいな、
そういう付き合いってありましたか。
- 武田
- そういうのは何もなかったですね。
大学もデザイン系でしたので、
そっちの世界にはいましたけど、
画家の知り合いっていうのは少なかったですね。
- ──
- そうなると、
けっこう孤独な生活ですよね。
仕事して、絵を描いての繰り返しで。
ずっと、昼夜逆転の生活ですし‥‥。
- 武田
- ですね。
- ──
- 辛かったとかは?
- 武田
- うーん、でも楽しかった(笑)。
- ──
- あぁー、なるほど。
じゃないと続かないですよね。
- 武田
- うん。
- ──
- そういう生活がずっと続いて、
で、どこかのタイミングで、
いまの絵を描きはじめるわけですよね。
- 武田
- まあ、そうですね。
ずっと作って、作って、作って‥‥。
そのまんまのノリではあると思いますが。
- ──
- ずっと作り続けていて、
気がついたらデビューしていたみたいな。
- 武田
- はい。
- ──
- 世の中的には、
37歳で突然デビューしたように見えますけど、
ご本人からしてみたら、
じつはそれまでに
長い長い試行錯誤の期間があったと。
- 武田
- そうですね。
もういろいろやりました。
ずーっと、ずーっと描いてましたから。
- ──
- どのくらい試行錯誤されていたんですか。
- 武田
- 簡単に言うと「ものすごく」ですね。
- ──
- ものすごく‥‥。
- 武田
- ものすごくたくさんやりました。
- ──
- その頃の作品って
残っていたりするんですか。
- 武田
- いまの絵の前のやつは、
ほぼ全部捨てちゃったんですよね。
というか燃やした(笑)。
- ──
- えっ?!
- 武田
- 高校生のときから、
なんかそういう習慣がついちゃって。
- ──
- 燃やす習慣ですか?
- 武田
- 山形って河原で芋煮するのご存知ですか。
- ──
- いえ、知らないです。
- 武田
- 里芋を使った芋煮なんですけど。
秋頃になると河原で焚火して、
みんなで鍋を囲んだりするんです。
- ──
- へぇーー。
- 武田
- 山形ってそういうことをやるので、
河原で火を焚くことがけっこう身近にあって。
なので高校生のときは美術部員だったので、
みんなで河原に行って、
自分たちの作品をそこで燃やす(笑)。
- ──
- なんで燃やすんですか(笑)。
- 武田
- なんでって言われても、ずーっとそれ。
何年に一度ずつそれをやるんです。
だから昔の作品が何も残ってなくて。
受験のときのデッサンとかも全部。
- ──
- 燃やしちゃった‥‥。
- 武田
- 珍しいとは思いましたけどね。
だから、過去作ってほとんど残ってないんです。
- ──
- 取っておこうとは思わなかったんですか。
うまくいった作品もあるわけじゃないですか。
- 武田
- いや、うまくいったのがなかったんでしょうね。
納得できるものがなかった。
当時のものがひとつもないのは、
自分でもちょっと残念なんですけどね。
- ──
- 山形で絵を描いていたときも、
定期的に自分の作品を処分されて‥‥。
- 武田
- そうですね、河原に行って(笑)。
- ──
- ということは、
いま描いてるこのシリーズの絵も、
そうなる可能性はあったってことですか?
破って捨てるような可能性というのは。
- 武田
- いや、これはもう「これだ!」っていう感じが
あったんですね、ぼくの中で。
- ──
- それまでと違う確信が。
- 武田
- ありましたね。
- ──
- そのあたり、すごく興味があります。
- 武田
- そのときはちょうど、
小さい作品を作ってたんですよ、当時。
そこの壁に飾ってあるような。
- ──
- ああ、はい。
- 武田
- ただ、これだとちょっと小さくて
作品にはならないかなあと。
そしたらある日突然、
「ああ、この小さいのを絵で描いてみよう」
と思いついたんです。
- ──
- 「絵を、絵で描いてみよう」と。
- 武田
- はい。
- ──
- それはもう、閃きですか。
- 武田
- 閃きですね、最初は。はい。
- ──
- で、描いてみたら手応えがあった?
- 武田
- ありました。
もしかしたらこれは行けるんじゃないかと。
- ──
- それまで作ったものとは、
何がどう違ったんでしょうか。
- 武田
- うーん、なんでしょうね‥‥。
最初はたぶん、
自分が満足しているかどうかなんでしょうね。
- ──
- 自分の中でオーケーかどうか。
- 武田
- その次に他の人を満足させられるか。
満足というか、魅了できるものになっているか。
- ──
- そういうのを客観的に見て、
この絵にはそのどっちもがあるぞと。
- 武田
- はい。
- ──
- それ、めちゃくちゃうれしいですよね。
それが見えた瞬間って。
- 武田
- とってもうれしかったです。
そういう感覚になったのって、
これまで絵を描いてて初めてだったので。
- ──
- 初めての感覚‥‥。
- 武田
- うん、だから長かったですよね。
その感覚が手に入るまでが。
-
武田鉄平さんの個展、
8月27日(土)より都内で開催!2019年以来3年ぶり、
武田鉄平さんの東京での個展が開催されます。
今年5月に開催された
国際的なアートフェア
「アートバーゼル香港」で発表した
近作8点と、本展のために新たに
描き下ろした新作1点を含む、
計9点のポートレイト作品が展示されます。会期中は、武田さんの作品集
『PAINTINGS OF PAINTINGS』と
ポスター販売のイベントも予定されています。
事前抽選による予約制とのこと。
詳細はギャラリーHPをご確認ください。『武田鉄平 近作展』
会期:2022年8月27日(土) – 9月24日(土)
会場時間:12:00-19:00
休廊日:日・月・祝日
会場:MAHO KUBOTA GALLERY武田さんの作品集
『PAINTINGS OF PAINTING』 の
詳細についてはコチラのページからどうぞ。