たくさんの人が憧れる
グラフィックデザイナー祖父江慎さんと、
糸井重里が久しぶりに会い、話しました。
ソブエさんのブックデザインはいつも斬新ですが、
なんだか世界になじんでいく「変さ」なのです。
ソブエさんのアイデアはどんなふうに生まれ、
実行され、形になっていくのでしょう。
糸井がひとつずつ手順を追うようにうかがいました。
ソブエさんのデザインからにじみ出るうれしいこと、
その源泉をじっくりおたのしみください。
この対談は「生活のたのしみ展2023」
ほぼ日の學校トークイベントとして開催されました。
祖父江慎（そぶえ しん）
1959年愛知県生まれ。
グラフィックデザイナー。コズフィッシュ代表。
多摩美術大学在学中に工作舎でアルバイトをはじめる。
1990年コズフィッシュ設立。
書籍の装丁やデザインを幅広く手がけ、
吉田戦車『伝染るんです。』や
ほぼ日ブックス『言いまつがい』、
夏目漱石『心』（刊行百年記念版）をはじめとする、
それまでの常識を覆すブックデザインで、
つねに注目を集めつづける。
展覧会のアートディレクションを手がけることも多い。
X：@sobsin
- 糸井
- まあ、とりあえず座りましょう。
- 祖父江
- 座ります。
- 糸井
- ソブエさんとお会いするのは、
どのくらいぶりでしたっけ。
- 祖父江
- うーん、10年以内のあいだに、
きっと一度くらいはお会いしたと思いますね。
- 糸井
- となると、たぶん、まだ青山墓地のそばに
ソブエさんの事務所があったころですかな。
- 祖父江
- そうですね。
すると、やはり８年くらいぶりかしら。
- 糸井
- あのころ、青山墓地のあたりで、
ほぼ日の編集担当者が、
朝方にうろうろしていました。
何してたのかというと、
ソブエさんの事務所で
デザインができあがるのを待っていて、朝方になって
「今日も無理だった」って諦めて、
トボトボと帰っているところだった、という（笑）。
- 祖父江
- いや、申し訳ない。
ぼくは墓地が好きで、
墓地のそばに事務所をかまえていました。
だから、編集の方々はみなさん、
墓地の横を通ってうちにお越しになって、
朝方に、ボチボチと帰られてました。
- 糸井
- 墓地墓地と‥‥（笑）。
そういうことは、今もまだ、
ソブエさんの事務所で繰り返されているんですか。
- 会場
- （笑）
- 祖父江
- 今はねえ、あんまりないですね。
特に、コロナが流行ってからは
なくなりました。
- 糸井
- どうして、コロナによって、
なくなったんでしょうか？
- 祖父江
- ある意味で、
自由になったからじゃないでしょうか、
みんなが、全体的に。
あと、進行が遅れても「しょうがないな」って
思ってくれる人が増えてきた気がします。
- 糸井
- ああ、なんとなく、わかります。
しかし、当時、ああやって何組もの編集者たちが、
ソブエさんのお仕事ができあがる順番を待っていた
っていうのは、いやはや、すごいことですよねえ。
- 祖父江
- ねえ‥‥。
- 会場
- （笑）
- 糸井
- そういう「順番待ち」の状況になったのは、
編集の方たちが、
「運が良ければ自分のところのデザインが
早くできあがるかもしれない」
という希望を持って待っていた、
ということなんでしょうか。
- 祖父江
- うーん‥‥。
たぶん、僕としては、
「編集の方がいらっしゃるときには
デザインをお渡しできる」と思って、
数日前に締切の約束をしてたんでしょうね。
で、まあ、その約束の時間が来るとともに
「無理だな」と思い、
かといって、できている可能性はあった自分を
みなさんが待ってくださってしまった‥‥という、
そんな申し訳なさがありました。
- 糸井
- そうこうするうちに、
次に約束していた人が来るわけですよね。
- 祖父江
- そうです。
次の方にも「まだできてないです」と
連絡すればいいだけだったんですよね。
そうできなかったせいで、
なんか事務所が待合室みたいになっちゃって。
- 糸井
- そうですね（笑）。
- 祖父江
- 僕を待っていた人どうしで、
みなさんよくお話なさっていたんです。
「そちらは、なにを待ってます？」って。
- 糸井
- いやあ、今から見たら、
「ブラック」と言われてしまいそうな
くらいのことを‥‥。
- 祖父江
- そうですね、
なんらかの罪になりそうなことが多いです。
ほんとうに申し訳ないです。
- 会場
- （笑）
- 糸井
- そんなことになっていた理由は、
いったいなんでなのか‥‥。
- 祖父江
- それがわかれば、きっと、そういうことには
あんまりならなかったかもしれないですよね。
なぜか、そうなっちゃうんですよ。
- 糸井
- 今、そういう状況がなくなったのは、
みんなが全体的に自由になったから、と。
- 祖父江
- それもありますし、きっと今は、もう、
「そういう人だ」と思われてるから
かもしれないです。
- 糸井
- そうか（笑）。
編集のほうも、
「今日渡してもらえる」と思って行かないなら、
待たなくていいわけですもんね。
- 祖父江
- そうなんですよ。
- 糸井
- ちなみに、いまだに何年も何年も
手つかずになっているお仕事って、
どのくらいあるんですか？
- 祖父江
- たぶん‥‥10個くらい。
- 会場
- （笑）
（つづきます）
2023-12-21-THU
